偽の酔っ払い
「ういー、ひっく」
最花は酔っ払ったふりをして私にもたれかかっていた。
私は大学の飲み会で酔い潰れた最花を駅まで送って行こうとしている。
でも実際には酔い潰れてなんていない。
私は最花といつも二人で飲んでいるから知っている。
二人のとき、最花は全然酔わない。
「もうみんないなくなったよ」
「酔う演技やめたら?」
「何言ってるんらよー」
「そんな演技するわけないりゃんか」
「うっ、うぶ」
「吐きそう……」
「我慢して」
「む、無理ぃ」
「もう歩けないよぉ」
「いーから行くよ」
私が無理やり連れて行こうとすると最花の体がズンと重くなった。
……最花が道端の塀を掴んでいる。
「どっかで休憩しないと動けなぃ〜」
休憩?
良く見ると周囲はホテルだらけだった。
池袋駅の北口に入ろうと歩いていたから、あたりは細い路地の中までそういう建物しかない。
そして今私たちは、そんな路地の一角にいる。
「じゃあ一人で休憩すればいいじゃん」
「やだ〜」
「ひとりじゃ入りにくいよ〜」
女ふたりでも入りにくいよ。
「ねっ」
「いっしょに入ってくれたらそれでいいからぁ」
「部屋まで私のこと運んだらすぐ帰っていいからさぁ」
「しつこい……」
私はさっきから最花の体をグイグイ引っ張っているのだけど一向に動きそうになかった。
最花は私よりも細いのに力がすごく強い。
「部屋まで運んだらすぐ帰るからね」
「やったぁ」
このパターンで私は一人で帰れた試しがなかった。