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エピソード8 犬派じゃない

 そんな心の中は騒がしい昼休み。

 食堂で提供される食事を各々食べればいいらしい。仲の良い友人関係も築けていないので、ボッチ飯だ。

 便所飯よりはましだから全然気にしない。


 食事は無償提供なんだって。生徒の親が毎年寄付してくるお金でこの食事が賄われているそうだ。

 父に寄付するように言っとかないとね。

 慈善活動は大事だし、寄付しとけば子供に還元されるんだもの。悪くない事業だわ。



「イ、イザベル様!」


 食堂に到着し、行列の後ろに並んだ瞬間、何かがものすごい勢いで駆け寄ってきて私の前に立った。


「周りの生徒さんたちに迷惑ですよ、アシュフィールド様」


 努めて冷静に非難してやる。

 第二王子と婚約しなくてよかったとは思っているけど、この人と婚約するってことを受け入れたくないのもまた事実。

 冷たい対応している間に勝手に嫌いになってくれたらいいのにな、と消極的な対策だ。


「お会いできて嬉しいです」

「そう」


 私は嬉しくないけどね。

 

「昼食をご一緒してもよろしいでしょうか」

「あら、ご友人と一緒ではないのですか?」


 先ほど駆け寄ってきた方向を見やれば、あきれたような表情で令息を見ている二名の男子生徒がいる。

 友情より女を取るのって、私的には無し。


「婚約者を優先することを咎めたりはしないでしょう」

「友情を大事にできない方なんて軽蔑に値します」


 冷たく言い放つと、かなり困ったように眉根を下げて、彼は友人たちと私とを見比べた。

 そして、こぶしを握りしめ、結論を口にした。


「明日は、僕と一緒に食事をしていただけませんか?」


 え、嫌だけど?

 用事があれば断れるけど、どうしようか、用事、用事、あったかな?


「約束ですよ」


 どう断ろうか悩んでいる間に、有無を言わさずといった様子で勝手に決めてしまいアシュフィールド令息は踵を返しかけ、もう一度私のほうへと振り返った。

 先ほどの情けない顔はどこへやらきりっとした顔つきになっている。


「本日、ユスティノフ家に婚約の話をしに伺います」

「え、そんな約束聞いてな――」

「先ほど、ユスティノフ公には連絡を入れて、了解を得ております」


 どうしてこの人こういう人を囲い込むような手腕に長けてるのよ。


「では、イザベル様、後ほど。あ、あと、もしよろしければ、『ルパート』とお呼びいただきたいのですが」

「それはちょっとどうかと」

「ならば『犬』でも構いません!」


 なんでそんなに犬にこだわるのよ!

 文句を口に出せずもごもご言っていれば犬令息は友人たちのもとに舞い戻っていった。

 なんか、本当にでかい犬みたいな感じだわ。


 私、猫派なんだけど!





「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ、お嬢様!」


 ずらっと並んで出迎える使用人たちの間を駆け抜けて父の執務室へと向かう。

 出迎えすんのやめろって伝えるの忘れてたわ!

 いやもう、今はそんなこうとどうだっていいんだってば。


 自宅ながら、だだっ広いお屋敷がこんなに憎たらしく思うなんて、とカツカツと足音が鳴り響くピカピカの床の上を懸命に足を運びながらも内心で舌打ちをする。

 息が切れた。つらい。遠い。

 豪邸のバカー!


 これでも領地の城に比べればまだ小ぶりな方なんだからと自分を励ましながらようやく執務室までたどり着いた。


「お父様!」

「!!」


 あ、ノックするの忘れた。

 突然飛び込んだ末娘にお父様が仰天した顔つきをして立ち上がった。


「イ、イザベル、な、ど、え? 何?」


 動転のあまり、変な声を上げているお父様へ勢いのまま駆け寄った。


「あ、あいさつ!」


 お父様の動揺が移ったのか私もなんだか言動が不審になってしまう。

 

「婚約! 挨拶! 今日!」

「は? ほ? おお?」


 ダメだ会話にならない。


「旦那様、お嬢様は本日お越しになるアシュフィールド令息様のことを言っておられるのではないかと存じます」


 さすが執事だわ。

 お父様の背後から的確な補足説明を与えてくれている。


「お父様は了承されたのですか?」

「うん、だって陛下を通じての連絡だったからね」


 あの犬! なんで陛下の手を煩わせるの! ってまあ断れないように、なんだろうけど。

 そこまで急ぐ必要がどこにあると?


「旦那様」


 私が駆け込んだ時に開けっ放しにしておいた扉をわざわざノックして侍女の一人がやってきた。


「アシュフィールド家の方がお見えになっております」

「早!」


 学校が終わってダッシュで帰ってきた私とほとんど変わらない時間に到着ってどういうことよ!

 直行したにしたって早い。


「ご指示どおり応接にご案内しております」

「わかった。では手筈どおり」

「かしこまりました」


 なんだかシリアスな雰囲気でやりとりをして侍女と執事が一緒に執務室を出て行った。

 手筈、とは?


「一緒に参りますわ、お父様」

「いや、イザベルは着替えをしなさい。お前の部屋に侍女を待機させてあるから、ゆっくり身支度をしなさい」

「え、それだと待たせてしまうのでは?」

「突然の訪問など無礼な態度には無礼な態度で応じてもよいのだよ。いいかい、イザベルはゆっくりと支度をしてきなさい」


 はい、と頷くけれど。

 それって人してどうかと思うわよ、お父様?

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