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エピソード6 言い換えれば強制

「お嬢様」

「出して、早く家に帰るわよ」


 学級会が終わった後、校舎内を全速力で駆け抜け馬車乗り場に向かい、猛ダッシュで現れた私に驚いた顔を見せる侍女を急かして、馬車を走らせる。

 すぐに家に帰って父に相談しないと。

 第二王子との婚約について。


 急いていても馬車はいつもの速度だ。

 自宅――というか王都滞在の際のタウンハウスなんだけど――の門を馬車に乗車したままくぐって、前庭を抜け玄関の前で馬車は止まった。

 いつもは御者が降車のために足場を用意してくれてから降りているが、そんなのを待っているのももどかしく馬車から飛び降り邸宅内へ向かって疾走。

 さすがに咎めるように侍女が呼びかけて来るが、聞こえないふりをして玄関へと駆け込んでいく。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 玄関ホールに入った途端、ずらっと整列した使用人たちに出迎えられて、ようやく足を止めた。

 いつもの出迎えなんだけれど、全く慣れない。頭がくらくらしてくる。

 公爵家所有の土地と建物の大きさには慣れてきたけど、この大げさなのはちょっと無理。明日以降は固辞しよう。絶対に。


「ただいま戻りました。お父様に伝言をお願いしたいのだけれど」


 入口近くに控えていた執事にそう伝えるや否や、1つの人影がホールから二階部分に続く大階段を転がるように駆け降りてきて私に抱き着いてきた。


「イザベル!」

「あらお父様! 家にいらしたのですか!」


 いつもどおりぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しい。でも今はそれに時間を割いている余裕はないから身を捩ってお父様の腕から逃れた。

 

「学校でいじめられたりしなかったかい? 変な言いがかりをつけられたりは?」

「我がユスティノフ公爵家にケンカを売るような者はおりませんよ」

「イザベル、良く聞きなさい」


 お父様はそう言って私の両肩をその両手でつかみ、私の顔を覗き込んだ。

 年相応の皺のある顔がなぜかやや引きつっているのがわかる。

 ゲームでは悪役だ。でも私に向けられているその目はいつも穏やかで優しい。今は混乱しているように見えるけど?


「何をやらかしたんだ、正直に言いなさい」

「やらかしたって、何もしていませんよ!」


 ――なんか私ってば信用されていない?

 いやいや、今日の私はむしろうまくやれた方よね? 大人しくて地味に。

 

「アシュフィールド家が、王家を通して君とアシュフィールド家の三男との縁談を申し込んできたんだけど! 絶対何かしでかしたよね?」


 ……んあ?

 超絶意味がわからない言葉が父の口から飛び出してきたような……。


「あの、お父様? 私、第二王子殿下とできれば婚約の申し込みをしたいなぁって思いながら帰ってきたのですが、それってやらかしに入ります?」

「突然何の話だ!? そうではなく、陛下から、イザベルの婚約話を――」

「セルダン第二王子殿下との?」

「ち・が・う!」


 噛み合わない話に、先にしびれを切らせたのは父だった。

 私の肩を揺さぶりながらも、そうじゃないと首を何度も横に振っている。――違うというのは、聞こえている。ただ理解したくなかったし、聞きたくなかったのだ。


「なんでアシュフィールド家がイザベルに婚約を持ちかけてくるの!?」

「……し、りません……。……た、他人でいたい……」

「やっぱり何かやらかしてたんだろうっ!?」

 

 実の娘に向かってなんて口を!

 そんな口は縫い付けてやりたいわ、と睨みつければ父も私を睨んでいてにらみ合うような形になってしまった。


「……何もやらかしていないのです。本当に。入学式前にアシュフィールド家のご令息と会って、い、『友達になりたい』と言われはしましたけれど」


 犬に、とは言えない。言葉を濁しておく。


「あの方がその三男なのでしょうか」

「ああ、イザベルと同じ年だと聞いたから間違いない。本当に何もやっていないんだね?」

「……」

「沈黙するな!」


 ちょっと『おもしれー女』ムーブをかましただけで、婚約を申し込まれるなんて思わないじゃない。普通。

 何考えてんだあのボンボン。世間知らずにもほどがあるだろ、マジで。

 王家を通してってあたりが非常にいやらしい。断ることができない案件ってことだ。

 これじゃ第二王子と婚約できない。


「友達になりたいと言われたのを拒否しました。お父様の敵は私の敵ですもの」

「なんと!」


 何だか父のツボは押さえたらしい。少しだけ泣きそうな顔になって、再びぎゅうと抱き着かれた。今度はすぐに離れてくれる。


「いつの間にか父のことをそんな風に考えれるようになってくれるとは……!」

「学校に入学する年齢になったのですから当然です」

「イザベル……!」

「お父様!」


 何となく雰囲気に流されて、今度は私が父に抱き着いて涙してしまった。

 あれ、何だかおかしい流れになっちゃった?


「お父様、私、お父様が大好きです。ですから絶対に長生きしてくださいね」


 奸計などめぐらすことなく、大人しく生きて行ってほしい。

 そして私にこの慎ましく贅沢な生活を与え続けて欲しい。



 あ、結婚が決まっちゃったから、そうはいかない? と気づいたのは自室に戻ってからだった。

 婚約の詳細聞き忘れてたわ。

 まあいいか。まだ打診なだけでこれから詰めていくんでしょうから。

 もう一度あの感動しっぱなしの父に会うのは面倒くさいな、と面会はすっぱりと諦めた。


 でも、あの犬と婚約ねえ。全然シナリオから外れているし、あの長髪と一緒に暮らす未来なんて想像できるはずもない。

 ゲームのようにこの婚約も破棄されてしまうのかしら。

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