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エピソード1 私は悪役令嬢イザベル。どこにでもいるような悪役令嬢――のはず。

「イザベル様」

 

 馬鹿みたいに大口を開いて校門に目を奪われている私を家からついてきた侍女がたしなめる。


「入学式は講堂?でよかったのかしら?」


 はっと我に返る私を心配そうな目で見ながら侍女は「はい」と肯定した。

 馬車乗降所からこの校門までお見送りをしてくれた侍女ともここでお別れだ。ここからは付き添いは入場することは不可能だ。たとえ王族であっても例外はない。



「大丈夫よ、ありがとう」

「またお時間になりましたらお迎えに参ります」


 しずしずと頭を垂れる侍女だが心配の色は消えない。頼りないお嬢様まで申し訳ない。

 入学式への気合は十分で来たものの、厳かな学園の門を実際見たことでつい感動してしまった。


 ついにここまで来たのだと。



 5歳で前世の記憶を思い出した私が、最初に思ったのは「あれ、これナーロッパじゃね?」ということだった。

 前世の世界ではありえない髪や目の色をした人物、コルセットにドレス、貴族の爵位。流行りの「異世界転生」の可能性を覚えるのには十分。

 何よりも鏡に映る己の姿が金色のふわふわとした髪に金色の目。とんでもない美少女だが、どことなく生意気で意地悪そうな容貌。

 これは、間違いなく悪役令嬢だろうという結論に至った。というか、私の名「イザベル・セイド・ユスティノフ」という長ったらしい名前。この聞き覚えのある名前に、閃いたものがあった。

 

 あ、やっぱ乙女ゲームだわ。

 『空の囁き』だ。


 それはナーロッパを舞台とした個人サークル作成の同人ゲームであった。

 ありとあらゆるジャンルのパク――もといパロディを多用した王道恋愛シミュレーションゲームだ。

 舞台がナーロッパといっていることからどんなパロディなのかはお察しいただけるのではなかろうか。


 攻略対象が3人(王子様、脳筋、腹黒)に、ライバルキャラも3人(悪役令嬢、小姑、ヤンデレ)。前世の私は3キャラとも攻略済みだ。

 絵が可愛らしくて割と好みだった、そんな理由から軽い気持ちで手を出したのだが、やっておいてよかったと喜ぶべきか、やっていたから転生してしまったととらえるか。


 メイン攻略対象である王子様のエンディングの内容で世間的には賛否両論だったが、ライバルキャラ「イザベル」にとっては全然問題ない。

 むしろイザベル転生でラッキーだと思った。


 乙女ゲーのテンプレでイザベルはあの手この手でヒロインの妨害、いやがらせ、意地悪の限りを尽くすが、王子様と結ばれたヒロインは、そんなイザベルを許してしまうのだ。

 さらに許すだけではあきたらず、父親が奸計をめぐらした結果没落しそうになるイザベルを助けちゃったりする。


 ユーザーレビューの大半はヒロインを「バカジャネーノ」罵った。ゲームの評価は地に落ちた。

 ヒロインを罵りたく気持ちはわかる。わかる、が! イザベル本人になってみると、マジヒロインちゃん天使!としか思えない。

 つまり私はどんなやらかしをしても、大概ヒロインに許されて、悪役令嬢なのに断罪なし!というスーパー恵まれたキャラクターに転生したのだ。やったね!


 この幸運に気づいて、思わず踊り出した5歳児をしばらく家族は奇妙な目で見ていたが、どうやら倒れた時に頭でも打っておかしくなったと判断されたのか、温かい目で見守ってくれるようになったとさ。

 めでたしめでたし。



 ヒロインをいじめても断罪されないとわかっていてもさすがに妨害やいやがらせ行為などする気にはなれない。むしろ崇拝したい!ぐらいの気持ちなのだが、あんまり変な絡みをしたら逆にゲームにはなかった断罪ルートが隠しルートとして開放されそうな気がする。

 そうすると取れる道はただ一つ、傍観だ。

 この乙女ゲーの世界に介入することなく、穏便に学園生活を終わらせ、大貴族のお姫様としてそこそこつつましく遊んで暮らす! それしかない。

 

 だからゲームの筋書きでは第二王子様の婚約者になっていたが、今の私は普通の親戚付き合いしかしていない。

 イザベルは、先代国王の妹の孫のため、王子様のはとこにあたる。


 王族にも近く、王都にほど近い広大な土地を領地として持つ大貴族の末娘がこの私イザベルである。

 生活に全く不満もなく、欲しいものはすべて手に入り、食べたいものはいくらでも食べられる。

 この贅沢極まりない富に富んだ生活は絶対に手放したくはない!

 

 しかし、なんでこんなに恵まれた家なのに、お父様は奸計などめぐらしたのかしらね。

 まあ最終的にはお父様だけが罰せられるのだから私には関係ないけれど。


 一応お父様が踏みとどまるように、「正直で誠実なお父様スキー」やら「お父様が嘘つくなんてイザベル悲しい」と末っ子にしかできない武器を最大限利用し、何年も暗示をかけ続けてるからブレーキになると信じたい。

 前世と合わせて余裕で40歳オーバーだが、使える武器はなんだって使うのだ。

 それが私の処世術である。

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