第一章 第五話 親切な女
この世界には、ダンジョンという場所がある。RPGゲームにでてくるやつだ。だが、この世界のダンジョンは、生きている。場所を選ばず、それは、生まれる。
ショウは、そのダンジョンの1つに挑もうとしていた。
「あのぉ...すみません。」
何者かに肩を叩かれ後ろを振り向くと、桃色髪の女が立っていた。その女は、ダンジョンに向かう道中、前を歩いていたパーティーの1人だろう。パーティーの荷物持ちをしていたのを覚えている。
「あなたは...冒険者?ですか?」
「違うけど。」
「そうですか。失礼かもしれませんが、帰ることをオススメします。」
この女は俺を心配しているらしい。ダンジョンには、ランクというものが5段階ある。このダンジョンはCランク。俺には、まだ早いかもしれないと。
冒険者には、ギルドカードが発行されるらしい。女は俺にそのカードを見せてくれた。しかし、彼女のカードにはDと書かれている。
「このダンジョンはCランク以上の冒険者が推奨なんだろ?君はいいのか?」
「私はあそこにいる方達とパーティーを組んでます。私以外、皆Bランクなので大丈夫です。」
聞けば、個人のランク以外にパーティーランクというものがあるらしい。パーティーに所属する人達の平均ランクがその値となる。すなわち、桃色の女が所属するパーティーは、Bランクということだ。
「あの、もし挑まれるのであれば、私とパーティーを組みませんか?嫌じゃなければですけど。知らない事が多そうなのでお力になれると思います。」
「いいのか?パーティー組んでるんだろ?叱られるんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。初めてではないので。 話は通しておきます。」
こうして俺はこの女 サクヤとダンジョンを攻略することとなった。サクヤは、ここについて細かく教えてくれた。ダンジョンは、生まれる場所や気候によってその形を変える。1度攻略するとそのダンジョンは消え、新しく生まれ変わると。死んだ人間や魔物を取り込み、身につけていた装備品などを次の宝にするらしい。永久機関のようだ。目の前にある大きな扉が開かないのは、まだ完成されていないからだという。
「ダンジョンに人が誰も立ち寄らなかった場合はどうなるんだ?」
「え...考えたこともありませんでした。」
まぁ、ゲームでもダンジョンをクリアすれば戦利品としてレアな武器や防具が手に入る。立ち寄らないという選択肢はない...か。
数時間経ったが、まだ扉は開いていない。これ本当に開くのか?壊して入れないのかな。バハムのあのブレスなら壊せそうだが...
「サクヤ。この扉壊せないのか?」
「無理ですよwそんなことができるのならそこにいる皆さんとっくに入ってますから。」
ダンジョンの入口でもあるこの扉は、謎の力があり、一切の攻撃も入らないという。この世界では常識のようだ。
しかし、その常識を覆すことが起こった。目の前の扉が爆発し、穴が空いたのだ。そして中から1人の男が出てきた。周囲の冒険者達は皆驚いた表情だった。
「壊れたよ。あの扉。」
「そう...ですね。」
フラフラと歩くその男は、「兄さん...」と言いながらその場を後にした。周囲はザワつき始めていた。扉を破壊し外に出てきたあの男。すでに中にいたということは、このダンジョンはクリアされたのではないかと。とぼとぼと帰る冒険者もいれば、破壊された扉に向かう冒険者もいる。
「ショウさん。どうしますか?」
「さっきの男は手ぶらだった。俺はこのまま行く。」
俺は扉に空いた穴から中へと入っていた。ダンジョンの中は思っていたより明るかった。壁の至る所に青く光る石がめり込まれており、それは光石だと言った。光石は、魔素を吸収し、光を放つ石で、その用途は様々だ。市場でも売っているらしい。
「ショウさん。1つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「ショウさんは、どこから来たお方なのでしょうか。失礼かもしれませんが、知識が少なすぎます。それにその剣。見た事がありません。魔剣の類なのでしょうか。」
(我の言う通りにしろ。今言ったことをそのまま話せ。)
「オレワ キオクソウシツ ダー」
(貴様という奴は...はぁ...まったく...)
サクヤに刀のことを話した。何かおしえてくれるかもしれなかったが、そもそもこの異様な形。見たことも聞いたこともないと言う。
「錆は落とさないのですか?」
「落ちない。」
「え?」
そう、この刀の錆は落ちないのだ。そのおかげで切れ味が悪すぎる。魔物と遭遇した時は、刃で殴っていた。野球バッドと変わらない。けど1つ不思議に思ったことがある。この刀、血が付着しないのだ。俺はよく返り血を浴びるが、この刀は血が一滴たりとも付かない。
魔剣についてサクヤは、事細かに話してくれた。
魔剣とは、エンチャントを目的に製造された武器だ。人の体と同じく、魔素回路というもので、魔素を巡らすことができる。魔素を巡らせた武器は供給された属性を付与することができる。通常の武器では魔素に耐えられず刃が弾け飛ぶらしい。
魔剣以外にも、魔弓や魔槍など種類は豊富だ。これらの武器を作れるのはドワーフ族だけであり、高値で売買されている。
それと、魔剣の上位互換である魔神剣というものがあるらしい。この世界に現存している本数は4本だそうだ。
その力は強大で、扱うものには、天災を引き起こすほどの力が与えられるとされる。しかし、それでも神には敵わない。
「神?神がいるのか?」
「詳しくは、神に力を与えられた人達です。」
神に力をもらった人達は資格者と呼ばれ、12人いるらしい。資格者達は神器というものを使い、戦をする。その戦いは、世界地図が変わってしまうほどの影響だ。
そういった大きな戦いの背景には、国同士の争いが関係しているらしい。神器を扱える者が、王となる国も少なくないみたいだ。まぁ、俺は政治には興味がない。どうでもいい。
ショウとサクヤは、このダンジョンの最階層へと簡単にたどり着いた。魔物とまだ一度も交戦していない。先に入っていった冒険者が、駆逐して行ったようだ。
「なんか...着いたな。いかにも、て場所。」
「そうですね...ここがこのダンジョンの主の住処だと思います。」
RPGゲームをやっていると分かる。道中には、なかった広い空間。全く違う雰囲気を醸し出している。そしてその中心に立っている巨像。恐らく、足を踏み入れた瞬間に動き出す。俺達を待っているのだ。
「薄々気づいていると思いますが...私はあまり役に立てないと思います。ですが、できる限りの事はしますので頼ってください。」
「何言ってんだ。ずっと頼ってるよ。それと、こんなに長く人と話したのは久しぶりだ。ありがとう。」
「え....」
「危ないと思ったらすぐ逃げろ。俺は人を助けるほど優しくない。自分優先だ。わかったな。」
ショウとサクヤは、巨像の元へ足を踏み入れた。その瞬間目を覚まし、ゆっくりとこちらに向け歩き出す巨像。その名はゴーレム。頑丈な岩を纏った、人の形をした魔物だ。
2人とも戦闘態勢をとり、お互い武器を構えた。サクヤの武器は片手剣。刃こぼれが酷く、直ぐに壊れそうだ。
...ずっと違和感を感じていた。サクヤの所属するパーティーは、皆強そうな装備を身につけていた。だが、彼女はゲームで言う初期装備だ。俺とあまり変わらない。なぜだろう... いや...よそう...目の前の相手に集中だ。今の俺がどれだけ戦えるのか。それを知る為に来たのだ。
「いくぞ。」
「はい!」
ショウとサクヤは、一直線に走り出し、巨像に向かった。




