第一章 第十話 赤眼の悪魔
ショウは、バルカンの目の前に倒れた。そう、負けたのだ。だがバハムは生きている。ショウもまだ死んではいなかった。
...最後の一撃。手を抜いたな?ショウ。なぜだ。なぜ殺さなかった。倒れた時、感じたのはなんだ。何か別の者の気配を感じた。もしもの時は、我が助けようとしたものを...
ショウは、再び起き上がり刀を拾った。いや、刀が自らショウの手に向かった。エンチャントは既に消えているが、刀身が赤く染っていた。
「ククク.........何だ...この体は!いい!凄くいい!素晴らしく居心地がいい!なるほど...これがシャバの空気、てやつなんだね!」
「まだ生きていたか!ガキ!」
ショウであろう人物は、不敵な笑みを浮かべていた。
...誰だ。ショウではないな。匂いが違う。それに我の核がやつを否定している。何者なのだ。あの赤目は。
「えーと?今どういう状況?あれ?穴空いてるじゃん。」
ショウの体には大きな穴が空いていた。だがみるみる血が穴を埋め、やがて肉になり皮膚が覆い隠した。一瞬で治ったのだ。
「よぉし、治ったぁ!久しぶりに僕と相性のいい体だぁ。綺麗にしてあげないとねぇ。後はぁ... おぉい!そこのデカいのぉ!ちょっと付き合ってぇ!」
「なんだこいつ...」
さっきと雰囲気が違う。明るくなった?...いや、幼くなったのか? あれじゃ本当にガキじゃねぇか...
「失礼なやつだなぁ?僕に向かって、こいつとは。いいから〜 来てってぇ〜 ガキ...」
バルカンは、短くなった大剣をショウに振り下ろすがショウはそこから離れなかった。そして肩に再び大剣がめり込んだ。だが、いくら力を入れようが、切断することができない。それどころかめり込んだ箇所から大剣が離れなかった。
「どうなってるんだ!動かない。」
「えぇ?気になる?面白いでしょぉ?人の体、てね凄いんだよぉ。見たらわかるよね?斬られた肉と肉で挟んでるんだ。それしても君...思ってたより弱いなぁ。この体の持ち主はこんな奴に負けたのか。はぁ...ちょっとガッカリかもね!」
ショウは、不敵な笑みを浮かべたままバルカンを見つめる。相手にならなかったが退屈しのぎには、なったのであろう。
バルカンは感じていた。ショウの赤黒い瞳の中にある殺気に。その喋り。口調からは好奇心が高そうな子供のそれだが、瞳には、本性が映っている。吸い込まれそうだった。
大剣をを抑えていた肩の肉の力を抜き、バルカンに尻もちをつかせた。腰が抜けているのか、足に力が入らない。
「なんなんだ...その赤い目は...お前...何者なんだ...」
「クッククッwそれ、今更言うかなぁw 僕はぁ...そうだねぇ...ねぇ、そこの神獣。名前つけてよ。」
「え...?神獣!?」
「ふんっ、バカバカしいなぜ我が貴様に名前をつけなきゃならんのだ。」
「神獣ごときが、名前をつけることすらできないの?もういいよ。そこのお姉さん!なんかいい名前なぁぁい?」
「え?私ですか?えっと、そう...ですね。ショウさんに名前...」
いきなり私にそんなこと言われてもショウさんは、ショウさんだし...
「まぁ、すぐに決めて、て言われても無理だよね! じゃ〜あぁ〜。後でまた聞くね!」
「は、はい...あの...ショウさんは。」
「ん?あぁ、この体の持ち主のこと?ねぇwそんな顔しないでよぉwあの子は今眠ってるだけだし、殺したりしないよ?w僕にピッタリの体だしね。あ、そうそう君の名前、おしっ...」
バァン!、と大きな音が響き渡った。銃声だ。ショウの頭が吹き飛ばされた。
「...くたばったか。腹がダメなら頭だ。これでも再生できるか!」
次の瞬間。バルカンの左手が銃と共に地に落ちた。
「うぁあああぁ!!!腕がぁ...なんだっ!くっ...何に斬られた...」
バルカンの目には、頭部がないショウと赤く光る刀がフワフワ浮かんでいるのが見える。
...あの刀。どうして浮いてるんだ...どうして光っているのだ。エンチャントなのか、属性は...なんだ。手...俺の手...
左手を拾おうと腕を伸ばすが、落ちている手に刀が突き刺さる。刀は刺した箇所からゴクゴクッ、と血を吸っている。みるみる細くなる手。バルカンの手持ちには、使うと1度だけ傷を完全に回復する魔道具があった。切断された箇所を元の形に戻すなど。人を超えた力だ。だが、目の前で自分の体の一部である左腕は今や腐ってしまった。腐敗臭がしており、匂いでわかる。
「ちくしょぉおおお!!!おぉっ...お前ら!力を貸せ!」
その場に居たバルカンの仲間が役目を後にし、駆けつけた。一斉にショウに刃を向けようとするが、1人の老人が立ちはだかったのであった。
「いけませぬなぁ...男の戦いに水を差すなど。」
「何だこのジジイ!お前らやっちまぇ!」
一斉に1人の老人に襲いかかるが、流れるように全ての斬撃をかわした。
「じじい?わしはまだ!80代じゃぞ?」
「ジジイじゃねぇか!!!お前ら!やるぞ!」
「まったく...近頃の若い者ときたら。空気が読めないようじゃ。」
1箇所に集まったバルカン一味は、「赤」と唱え火の玉を一斉に老人に向け発砲した。老人は後ろに手を回し、腰にある剣に手を伸ばした。
「魔法の使い方がなっておらんのぉ...」
老人は、一瞬で火の玉を切った。切られた玉は全て蒸発。流れるようにバルカン一味に接近し、全員の頭を切り落とした。落ちた頭達は皆口を揃えてこういった。
「え...俺死んだのか?」
「まだ生きておる。いずれ死ぬがのぉ...」
次の瞬間切れた首から血が吹き出し、血の雨が降る。サクヤは、圧倒的な強さと、流れるような戦いに目が離せなかった。美しいとも感じていた。
それより、ショウさんは!
「凄いねぇこれ。僕がいない間に魔素の技術...発展したんだね!けどこれじゃ、弾数に限りがあるんじゃない?」
ショウの頭はいつの間にか元に戻っていた。そしてバルカンのものであろう銃で遊んでいる。バルカンに発砲して... 生きているのが不思議なくらいバルカンの体は蜂の巣だった。
「てめぇ...俺にこんなことしてただで済むと思うな!!!グハッ!!?」
「いやいや、こっちのセリフだってぇw僕に手出してこんなんで済むと思わないで欲しいよw」
「この悪魔が!!ハァ...ハァ...殺すなら...ハァ...殺せ!!!」
ショウは倒れているバルカンに手を触れた。触れた瞬間、地面に付着したバルカンの血が全て戻っていく、そして傷口や、無くなったはずの左腕が生え、完全に治った。
「僕にとって、ここで死ぬことは逃げるに等しい。だから治してあげましたー!ぱちぱちぱちぃ〜 ほら、もう立てるでしょぉ?これも返してあげるよ。はい!拾ってぇ!」
バルカンの体は戦闘前に戻り、今の状況に理解できなかった。...が、これはチャンスだ。
おかげでこの悪魔を仕留めれる。殺せる...はずだ...
しかし、体の震えがとまらない。怖いのか...怯えているのか。俺が...
「大丈夫!安心して!それぇ、僕の前だと皆なるからね!もぉう。仕方ないなぁ〜ハンデをあげよぉ〜う!」
赤目の悪魔は自身の体に自ら刀を突き刺した。刀はショウの体に溶け込んだ。
「ほれ、これでどう?ジャーン!丸腰です!」
「なめやがってぇ!このガキィィ!!!」
バルカンは銃を拾い、ショウに向けて引き金を引くが、何も起きなかった。
「だからぁ〜ガキは君だってのぉ。あ、そうだ!そのおもちゃ楽しくてっさ、つい...撃ち尽くしちゃった。てへっ!」
...クソ。コイツのムカつく口調と表情。あの殺意は幻だ!もう騙されないぞ!殺す!絶対殺す!
「どうしよっか。これじゃ〜フェアだね。でもそれじゃ君は僕には勝てないしぃ。んん〜...」
ブツブツと呟くショウにバルカンは背後から折れた大剣で再び斬り掛かる。
既に死んでもおかしくない量の血を流した男だ。やつは、左腕だけ再生していない。恐らく、できないのであろう。左腕はもう使えないはずだ!勝てる。勝てるぞ...大剣は...切られたとはいえ...まだ刃が残っている....頭部に大剣を叩き込みエンチャントで灰にしてやる!
「勝つために手段は選ばない...か。それもいいね!」
大剣は...頭部寸前で止まった。ピクリとも動かない。
大剣が動かない...いや、俺の体が動かない!?
「僕がそんなに優しく見えたのかな?よぉ〜く思い出してみて?その中身の無い頭でね。」
...!コイツは体にできた穴を再生した。頭までも再生した!まさか、こいつ。血を操れるのか!?俺の血も!どういう理屈だ!意味がわからない!
「やっと...わかったんだ。遅すぎ... そうだよ!僕は血を操れるんだぁ〜!けど勘違いしないで?他の人の体の血は操れないからwククッw」
「なら....どうっ...して...」
「わかってなかったのかよぉ。もうほんっとに頭が悪いなぁ。簡単だよ。僕の血を君に入れた。それだけ。」
この赤眼の男は、血を操ることができる。だがそれは悪魔で自身の血だ。バルカンを治す際、自身の血をバルカンに流し込んでいた。やがて血は全身に巡り、結果バルカンの体を止めることが出来たという訳だ。さらに血は触れるだけで自身の血液に変換できる。刀はバルカンの左手から血液を吸っていたが、そのプロセスに過ぎないと言った。
「わか...らない...聞いた...ことな...い...そんな...」
「はいはい、そんな魔法聞いたこと無いねぇ。説明するのめんどくさいからさぁ?そろそろ死んじゃおうか!」
ショウの目が赤くなった。バルカンに近づき、体から顔へ撫でるように触れていく。バルカンは悟った。...今からこの男に殺されるのだと。
「さぁて、さてさてぇ?どうやって殺そうかなぁ〜」
「い...やだ...しに...」
「死にたくないよねぇ?分かるよぉ。これまで自分が強者だと自惚れていたことを...死を悟った時、弱者だったと自覚できるものだ。」
「ゆる...して...くれ...」
「それは、あのお姉さんに言うべきじゃない?ほら、行け。...土下座だ...謝れ...」
バルカンは自分の意思とは関係なく、サクヤの元へ向かい。赤眼の悪魔の指示通りに動いた。地に頭をつけて謝るその姿は無様であった。屈辱的であったが、一方でサクヤの気持ちが少しわかったような気がした。
「クッククwなにこの光景wお腹痛いww死ぬ死ぬw ...ふぅ。お腹いっぱいだ。戻っておいでぇ。」
再び赤眼の悪魔へ戻るバルカン。バルカンは戦意を完全に失っていた。体が戦うことを拒むのだ。諦めるしかない。
「よし、じゃあ自害しよっか。思い残すことないよね?」
「待ってください!」
サクヤが焦った様子で駆け寄ってくる。
「その方はもう充分反省されていると思います。完全に許すことは、できませんが、機会をあげてもいいと私は思います。」
...!?何を言っているんだ。俺がお前にしたことを忘れてないはずだ。バカなのか。お前が考えていることがまったくわからない。
「え?嘘wお姉さんは、こいつにまだ生きていて欲しい、てこと?」
「貴方はここで死ぬことは逃げるに等しいとおっしゃった。私もその通りだと思います。だから...生きて。生きて!罪を償ってください!」
「...す.....ま.」
口が思うように動かない。身をもって感じたあの屈辱...サクヤはこんなものを今まで。いや、それ以上のことをさせたんだ。これからどう生きてその罪を償えと言うのだ。今まともに喋れるのであれば、俺はサクヤに謝りたい...
「はぁ...つまんないの。わかった...なら僕が殺ってしまおう!」
赤眼の悪魔は血を手に集め、刃を形成した。バルカンの首を跳ねる気だ。
「よせ。ショウ...お前には殺せない。」
「ショウ?僕はショウじゃないよ?」
「我にはわかる。そこにいるのだろう?起きるのだ!」
「話なら後で聞いてあげるから、神獣ごときが邪魔しないの。さよならバルカッ...!?なんだ、これ...体が熱い。」
...あの神獣何をした...なんだ...体の中が燃えるようなこの痛みは...こいつまさか...契約しているのか!あの神獣と!!!
「これは...予想外...だなぁ...」
赤眼の悪魔は力尽きた。




