プロローグ 家族
俺はどこにでもいる普通の高校生だった。あの時までは。
夜遅くにアルバイトが終わり、スーパーに立ち寄った。閉店ギリギリだ。そこに売っている格安のチョコのショートケーキを手に取り、約束の場所へ向かった。
ズボンのポケットが震える。スマートフォンの着信だ。相手は、一つ下の妹だ。彼女もバイト終わりだったらしく、先程着いたようだ。
「お兄ちゃん今どこー?お母さん待ちくたびれたって顔してたよー。」
「ごめん、ケーキ買ってた。もう少し時間かかる。」
「もぉぉう。日付変わりますよー。ハリアーップ」
今日は、母の誕生日だ。忘れてない。チョコケーキは、母の好物。昔から。
急ぎ足で母の元へ向かった。
「10分以内でそっち着くから、お前にもプレゼント?あるから期待して待ってて。あ、それか...!?」
会話の最中、爆発音が聞こえた。相当大きい。衝撃も伝わった。近い。
「えなに?今の...ちょっと!お兄ちゃん!!?ねぇ!お兄ちゃ、プツ...」
その爆発は、電話越しでも聞こえていたようだ。俺は、すかさず電話を切り、爆発の聞こえた元へ向かう。考えるよりに先に体が動いたのだ。
無我夢中で走り続ける。たどり着いたところで俺には何もできないかもしれないけど、できることはしたい。無視はしたくない。胸が苦しい。
今いるこの場所は住宅街のどこか。路地の突き当たりを曲がった先に見えた、激しく燃え盛る一軒の家。辺りには、その光景を見に来た人が群がっている。その中に灰だらけの3人がいた。この火災に巻き込まれた家族だろう。
1人の男が泣き叫び、自ら火の中に入ろうとするが、その足を複数の人物が抑えていた。まだ2人、息子とその父が中にいるという。
消防隊は、まだ来ていない。この状況だ。消防隊が駆けつける頃にはきっと全壊している。
「その人行かせてあげなよ?間に合わなくなるよ。」
俺の放った言葉に周囲の人は呆然していた。この子頭おかしいんじゃないの?などと、ありとあらゆる罵声を浴びせられた。そんな言葉は、もう言われ慣れてる。昔から変わり者と言われていた。けれど...そこに突っ立って考えてるフリをする奴らよりは、等分まともだと思う。所詮傍観者、か。
気づけば俺は、火の中に飛び込んでいた。2人はどこにいる。息がしづらい。どこだどこだ。ここにはいない。ここにも。いや、広すぎるだろ!この家。時間がない。なんで俺は、こんなことを。は!!!
「ゴホ...ゴホ...見つけた。」
運よく同じ部屋にいた、スースーと苦しそうに息をしている2人。
「息は、まだあるな。あとは...ここを...出るだけだ。」
2人を抱えて外へ急ぐが、重い。一歩進むのにもやっとだ。身体中が痛く、息もしづらい。苦しい。限界を迎えて倒れそうなその体をふらふらと前へ進める。父さん、俺には、分からないよ。父さんは、なぜ人を助けるの?仕事だから?それとも意思?
俺こういうの向いてないなぁ。今...隣にいたら、その答え聞けたかな。
そうこう考えているうちに出口が見えた。先にいる人達の希望の眼差しで安堵したがそれは一瞬だった。上から建物の一部が落ち、出口の通路が塞がれてしまった。俺の目には、抱えてる2人の帰りを待つ家族が映っている。出口が塞がれたわけじゃないんだ。うまく投げればギリギリ届くか?どのみちこのままじゃじり貧だ。考えてる余地無し。当たって砕けろだ!
「今からこいつらをぶん投げる!お前らがキャッチしろ!いいな!」
そして1人、また1人と。外にでることができた。後は俺だけだ。助走をつけ、走り出そうとした瞬間、右足が動かなくなり。倒れてしまう。足を見ると無惨にも潰れ、足が引きちぎれそうになっていた。
「ここまでか。」
俺は高校生。まだ若いが、やたらと長く感じた人生。夢もないし。ここで終わってもいいk...。
ポケットから誰かの着信だ。マナーモードを解除していた。うるさいなぁ。誰だよ。眠らせてくれ。俺は疲れたんだ。
スマホの画面を見るとそこには、妹と映されていた。
なんだよ。俺には、やり残したことがまだあるじゃないか!
その瞬間、母の顔が浮かんだ。その瞬間、体に力が入り、再び立ち上がる。生きなきゃいけない理由がある。こんな所で死んだら、母は、もう帰ってこない!
潰れた右足を無理やり引きちぎる。流れる血の量が多く、意識が飛びそうだ。朦朧とする視界の中、前に...ただ前に...燃えた壁に手が触れようが関係ない。
手と足が無くなろうが!!命がある限り、俺は帰らなきゃいけないんだ!!!




