log35...とあるラストバトル的な戦い、その前半について(記録者:フルチューン・MALIA)
わたしが胸部ガトリングレーザーを、アウトレットモールがレーザーキャノン10門ぜんぶ、アルバスがビームマシンガンを、アルダーナーリーへ集中して撃ち込みますが。
わたしたちの描いた光速の網をことごとく避けて、その巨躯が宙を舞います。
さすがにあの重武装です。速度自体は、あんまり速くはないようです。
なんだか、アルバスといいアンドセーフティといい、わたしの見てきた“重量二脚”ってすばしっこいのばかりだったので、ようやく正統にヘビーなそれと出会えた心地です。
ただ、だからこそ、錘のような機体を、恐ろしく的確に動かしているのがわかります。
あれはまるで、
《ブラフマー財団CEOスジャータは、プライベートにてヨガを嗜んでおります。その結果、極限まで研ぎ澄まされた知覚が驚異的な先読み能力へ昇華されるに至りました》
運営AIスジャータが、三人称視点で説明してくれました。
ヨガってすごいんですねー。わたしも次の世界行ったらやってみようかな?
……そんなフレーバーテキストはさておき、実際の仕組みとしては、わたしたちの“思考”を読んでいる、ってところでしょうか。
このVR世界では、SBの操縦にかかわる行動全般はもちろん、単に手をふるだけとか、あくびをするだとか、白目をむいて舌をべろべろさせるような行為にも“入力”がともなうと言えます。
現実でゲーム装置に接続されたわたしたちの思考が、VRのアバターに連動している。
世界には、わたしたちのあらゆる“思考”がデータ化されている。運営AIなら、それを傍受するのも簡単でしょう。
このオルタナティブ・コンバットに限らず、NPCが“入力反応”機能を与えられているケースは結構あります。
アルダーナーリーが、ヒュージブレードを出力、鉄砲水のような光がほとばしると同時、それを斜めに振るいました。
この長大さ、やっぱりブレードと呼ぶには疑問符がつきます。
光の川が荒れ狂い、三者ばらばらの位置にいたはずのわたしたち全てを、ひと太刀で襲います。
わたしとアルバスは、あわや回避。
アウトレット・モールはさすがにかわしきれませんでしたが……あのアンドセーフティも使っていた二層シールドが、大きく揺らぎながらも、なんと防ぎきってくれました。
目に痛い光華が無数に飛び散ります。
プライマリの“対実弾”シールドのおかげでしょう。
あらためておさらいしますが、あの二層シールドは、実弾でプライマリをダウンさせてからエナジー武器でセカンダリをダウンさせるという攻略法になっています。
ややこしい話なのですが「対実弾シールドはエナジーに強く」「対エナジーシールドは実弾に強い」ともいえるのです。でないと、攻略ギミックにならないので。
それでも限度はあるようで、エナジーに強いプライマリすら消し飛び、その内側のセカンダリでどうにか防ぎきった様子です。
とはいえ、全身これ即死攻撃の塊みたいな相手を前に、とても頼もしいタフネスだと思います。
彼女が作ってくれるチャンスを、わたしたちが活かさないと。
シールドといえば、アルダーナーリーの周囲にも光の揺らぎ“バリア”なるものがわだかまっています。
あれが“ドゥルガー”なのでしょう。
アウトレット・モールやアンドセーフティの二番煎じのギミックだとは思えませんが、対負荷は同等以上と思うべきでしょう。
つまり、このアルダーナーリーもまた、ちょっとやそっとの牽制が通じない=怯まずに突き進んでくる、ということ。
さしあたり、絶対に撃たせてはならないのは大型ミサイル“ピナーカ”かと思われます。
この場でミサイルを作って自分が発射台になるような構造からして、常軌を逸してます。
そうなると、やることは。
アウトレット・モールが、全種ミサイルを再び一斉発射。
すこし遅らせて、わたしも左右の30連ミサイルと両腕ミサイルをてんでばらばらなタイミングで一斉発射。
当然、リーズン式オービットもここで飛ばします。
アルバスが“サクリファイス”を発射。
そのものは、やはり“入力反応”によって軽々予見され、回避されましたが。
空ぶったキャノンは、アルダーナーリーがいた空間を通りすぎ、ビルのような建物に命中。
そこを起点に生じた対消滅の光爆が、アルダーナーリーを襲います。
それもほとんどかわされましたが、アウトレット・モールとわたしの放ったミサイルの大群が、あらゆる方位から不規則に追いすがります。
それを大きく取り囲むように、わたしのオービットと、アルバスのオービットもレーザーの雨あられを浴びせます。
思考を読まれるとは言っても、結局のところ、実際のわたしたちが使っている武器だとか、機体の位置だとかの視覚情報から計算しなければならないでしょう。
ヨガは予知能力でも読心能力でもありませんから。
まして、ファンタジー世界での剣戟などならいざしらず、ロボットもののスピード感がある世界で、相手の“入力”を傍受したとしても、対処しきれるかは別問題。
読みきれない物量、あるいは、読まれても避けられない飽和攻撃をアルダーナーリー一機につぎこむ。
世界ひとつを管理するスパコン群ともいえる運営AIのキャパシティ……というのがどれほどのものか、今は考えたくもありませんが、持てる手段を尽くしてゴリ押すしかありません。
そして。
アルダーナーリーのバリアがダウンしました。
けれど。
《わかってるね?》
YUKIさんがそれだけを言いました。
「はい」
《……無論だ》
ワンテンポずれたHARUTOさんの返答とほぼ同瞬。
アルダーナーリーの機体を起点に、凄まじい光の奔流が放射しました。
さっきのヒュージブレードに勝るとも劣らないエネルギー反応。
やっぱりです。
バリアシステム“ドゥルガー”。
パールヴァティの一面である、近づきがたきもの。
再展開時の余波そのものが、エナジー兵器みたいなもの。
あんなものをシールドなしで浴びれば、わたしたちの中で一番大きなアウトレット・モールでさえ、木っ端みじんでしょう。
つまり、バリアをダウンさせたとしても、その瞬間、すぐに近づいて追撃がかけられないことを意味します。
それでも、さすがに放流されたミサイルやオービットは半数近く残っています。
後続のそれらが、再展開しかけたバリアを再びダウンさせ、障壁をうしなったアルダーナーリー本体へと食らいつき。
無数に炸裂する白光と炎煙を突っ切り、アルダーナーリーはここ一番の推力で無理矢理ぬけだしました。
それでも、右脚や左肩、ドリルアームの腕がぼろ切れのように千切れかかり、配線とかが剥き出しに――と思ったのもつかの間、
もはやどういうメカニズムなのか、
アルダーナーリーの損傷箇所の機関が複雑に組みかわり、次の瞬間には元通りに修復されてしまいました。
通信のむこう、YUKIさんが、転げるように爆笑しました。
《なあ、見たかい!? ロボが、ロボが、とうとう自然治癒しちまったよ! 超ウケる!》
おそらく、これがリペアシステム・親切な側面“ウマー”なのでしょう。
けれど。
「質量が有限である以上、無尽蔵になおせるはずがありません。あきらめず、攻めましょう!」
わたしがいうと、彼女はさらに笑いを増しました。
《アンタもアンタで、ブッとんでるねぇ! アレを見ても心が折れないってさ!》
そして彼女は一転、ふっと落ち着いて。
《ま、アンタの言うとおりさ》
アウトレット・モールを、アルダーナーリーめがけて直進させます。
あまりに無謀にみえますが、わたしも、彼も、今さら疑いはしません。
《……リペアシステムと言う単語を見た瞬間から覚悟はして居た》
後方から、アルバスが、また“サクリファイス”を撃ちます。
二度、三度、四度。
狙いはさっきと同じ。アルダーナーリーそのものではなく、わたしとアウトレット・モールの攻撃をくぐり抜けた先の、何らかの建物や設備を利用して対消滅爆発に巻き込んでいきます。
もともと彼は、オルタナティブ・コンバット以外では拳銃を好んで愛用していました。(もちろん、それが存在するような世界観にかぎり、ですが)
わたしはご一緒していない世界での話なのですが、その腕前は跳弾でターゲットを正確に撃ち抜くほどだったとか。
それみたいなもの……なのでしょうか、ねぇ?
照射対象の質量に威力が比例する二次爆発。
もし彼が、うっかり計算ミスって「撃つものを間違えた」りしたら……正直、アルダーナーリーどころではなく、恐ろしいことになります。
あっ。
それでアルダーナーリーごと自爆すれば、スジャータに勝ったことにはなりませんかね?
……ええ。それで納得するようなら、とっくにやってますよね。
もう何発目かの光爆と共に、ドゥルガーのバリアがフェードアウトしました。
再展開の光波がきます。
わたしとアルバスは静観。
アウトレット・モールは、やはり直進をやめません。




