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log24...調査の結果、不味い事が判った為、急遽情報の共有を行う(記録者:KANON)

 宇宙ステーションNo.126“サイファー”攻防戦。

 私達タイニー・ソフトウェアと、高内重工業、両陣営の戦力は(およ)そ百機ずつ。

 敵の防衛戦力はサイファー前の宙域に半分と、サイファーそのものに半分、配置されて居る。

 思い立ったら気軽に敵勢力へ亡命出来るような世界だ。人の口に戸は立てられぬから、最早、誰も隠す気は無い。

 結局の所、物量と一機(ごと)の練度が、土壇場で戦術を決める世界でもある。

 ……前者は拮抗して居るものの、後者についてはかなり不味い状況のようだ。

 高内の連中は寧ろ、隠す所か、この事実をこれ見よがしに喧伝して居るような有り様だ。

 コロッセオの王者、LE()、及びその盟友であるHI(ハイ)の参戦。

 自然、その周囲に集まる戦力の質も、勢力内に於ける上澄みばかりだ。

 最新の機体情報も仕入れてある。

 LE()の機体“アンドセーフティ”について

 重量二脚を、天権(ティエンクァン)の大推力ブースタとパイロットの強化人間化で無理矢理高機動化した、アルバス・サタンに近いコンセプトの機体だ。

 手持ち武器は狩猟ライフルと、ヘッドにブースターが装備されたスーパー・スレッジハンマー。背部兵装は実弾オービットと、もう片方はその日によってまちまち。傾向的に拡散バズーカか、二連グレネードランチャーの場合が多いようだが。

 兎に角、絵に描いたような実弾信仰が見て取れる。

 まるでレーザーやプラズマは信用出来ないとでも言いたげな年寄りを思わせる。LE()は私と同年代か、ともすれば年下の可能性すらあるのだが。

 一見して最も地味な武装がライフルだが、態々(わざわざ)ボルトアクション式を持って来ている辺り、充分に神経症じみて居る。

 SBで何を狩る気だ。シロナガスクジラか?

 ジェネレータが何かまでは不明だが、その武装から察するにエネルギー負荷はかなり軽い筈。

 とは言え、その余剰エネルギーについては別の用途があるようだが、それは後述とする。

 次。

 HI(ハイ)の搭乗機……“御霊前”。これが機体名らしいが。

「日本語を勉強しはじめの頃、機体の命名を横着して他人任せにしたら、任せた相手が面白がってアホなネーミングにしたってクチだろ。

 外国人がよく着てる、ヘンテコ日本語Tシャツみたいなモンさ」

 YUKI(ユキ)が、まるで見て来たかの様な調子で言うが、確かにパイロットはベトナム人だった筈だから、可能性としては高いだろう。

 敵対者に“死”をくれてやる、と言う意気込みの込められた名前である可能性もあるが。

 まあ、どんな名前のSBに乗ろうが個々の自由と責任の問題だ。機体構成に言及しよう。

 カテゴリ的には重量二脚……らしいが、“定形外”と呼称した方が良いかも知れない。

 と言うのも、全体的に左右非対称のフォルムなのだ。

 左右の脚で太さが違う。

 武装も右手にマシンピストル、左手にガトリングと言う両極端な二丁フルオート銃。それらを保持する腕部パーツも左右でまるで太さが違う。シオマネキか。

 背部兵装も同様で、右肩の軽量四連ミサイルに対し、左肩のコンテナミサイルが余りにもアンバランス過ぎる。

 

 さて、武装についてはこんな所だが、最も大きな問題が一つ残っている。

 先程、後回しにしたLE()機、アンドセーフティの余剰エネルギーの使い道と思われる――防御システムについての説明だ。

 順当に堅牢な高内製の“楯無(タテナシ)”に、デュアル・モーメント・シールド(DMS)なるものが導入されたらしい。

 端的に言えば、実体武器を弱点とするシールドとエナジー武器を弱点とするシールドを重ねた二層の防御障壁を展開する。

 それぞれのシールドは驚異的な復旧速度を誇り、まずプライマリである対実体シールドに実弾武器を集中させて負荷限界まで展開させてダウンさせ、再展開される一秒未満の間にセカンダリの対エナジーシールドも同じ様に突破し、更にそれらが復旧するよりも速く、機体自体に充分な威力の追撃を叩き込んで、(ようやく)くダメージが与えられると言う代物だ。

 自分が実弾しか使いたがらない割に、敵には両属性の武装を強いる辺り、良い性格をしているが。

 しかもこの上。

 これらのシールドは、受けた攻撃の波形を“学習”し、次回のシールドが最適化されると言う。

 こうなると、学習された武装による攻撃の減衰率は殆ど百パーセントに近くなる。

 つまり、一度シールドを破っても、追撃でアンドセーフティを撃墜し切れずシールドを張り直された場合、次回の攻撃で同じ武装が通用しないと思って良い。

 仮にアーテル・セラフのムーンライトでシールドを攻撃した場合、次回以降は当面、ムーンライトによる攻撃の一切が効かなくなる。

 無論、このシールド学習機能も無制約では無い。

 一度に記憶出来る波形パターンの容量には限度があり、パイロットや頭部COMが取捨選択する形で古いデータが消去される。

 それでも仮に相対した場合、自分達の波形パターンが優先して消される等とは思わない方が良いだろう。

「個人情報の一切合財が筒抜けだねぇ。有名税ってヤツか」

 YUKI(ユキ)が、また何やら訳知り顔で茶々を入れたが、まあ正論でもあろう。

 コロッセオの上位ランカーは、常にその首級を狙われる身だ。

 下克上を夢見る大勢の猛者に、日々、対策を研究される。

 そして。

 機体情報やパイロットの能力を丸裸にされて尚、ランキングを防衛し続けるのが、真のランカーである。

 高内の開発者が作ったボディだ。

 確かに波形学習機能のアイディアには目を見張るものがあるが、シールドそれ自体は、本来特筆すべき事では無い。

 クエストのボス機体なんかでも、このレベルのギミックはざらにある。

 問題は。

 宇宙で・戦争の只中で・コロッセオ全一の強化人間を相手に。

 そんなギミックにも対策しなければならぬ“負荷を強いられる”と言う事。

 YUKI(ユキ)UMGPアンマークド・グッドプロダクトの簡易ステルス機能と同じだ。

 それ自体の対処は容易くとも、強敵・難敵の相手でギリギリの時にやられれば、致命的なキャパシティダメージとなる。

 

 この“特別”な相手に、HARUTO(ハルト)は、MALIA(マリア)はどう戦う?

 いや、どう“闘う”?

 それが私に、答えをくれるのだろうか。

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