log22...どうせ実りの無い宇宙戦訓練に付き合わされる(記録者:TERU)
高内重工業が占拠する、宇宙ステーションNo.126“サイファー”の攻略に参加する事になった。
おれとしては、足手まといに構わずぶっつけで出撃すれば良いと思っていたが、YUKIのヤツが、先に模擬戦で慣らそうなどとぬるい事をぬかし、それが満場一致で可決されたので、無駄な回り道に付き合う羽目になった。
今回の模擬戦は、おれとYUKI、HARUTOとMALIAのチームに分かれて行う。
各自、自前のSBでは無く、テスターSBをレンタルして搭乗する、純粋な技術勝負である。
カラーリング以外、機体構成は全く同じだ。
ちなみに色だが、おれが黄色で、YUKIがワインレッド、HARUTOがシルバーで、MALIAがターコイズブルー。
装備は、右手に手の甲剣タイプのレーザーブレードとビームハンドガン、左手にアサルトライフル、右肩に四連装ミサイルが一門。
全て、マンネリと安心のブラフマー製品ってとこだ。
ジェネレータ・ブースタ・FCSと言った内装面も、それは面白味の無い量産品で固められており、禍蛇に慣れきった腕にはマジで鉛のようなトロさに感じられる。
【戦闘を開始します】
足下で蒼く光る地球を背景に、宇宙のVR空間が生成され、おれと他三名が放り込まれた。
重力が一瞬で失われ、機体が後ろへ倒れようとする。
おれの横に並ぶYUKIのヤツはすぐに姿勢を修正して直立を維持したが、遠く前方に現れたHARUTOとMALIAは各々、ものの見事に宙でコケた。
おれは、あえてひっくり返り、逆さまになってやる。
宇宙空間に上下の概念は無い。それを教えてやろうって親切心だ。
せいぜいテンパれ。
YUKIは、ヤツらが姿勢を直す暇を与えるつもりは無いらしく、一直線に向かって行った。
おれも容赦する気はなく、YUKIより少し遅らせてブースタを噴かせた。
地上のように噴かし続ける必要は無い。宇宙では、一瞬ぶっぱなしただけで、かなりの距離を詰められる。
この辺りの物理演算もゲームバランスを考慮して計算されているので、本物のそれとは厳密には違うようだが。
さもなくば、今ごろヤツらを通り越して遥か彼方へぶっ飛んでる事だろう。
それこそ人間の反射神経ではゲームにならない。
それでも、狙った位置でブレーキがかかるようにしなきゃならんので、それだけでも宇宙ビギナーは脱落するんだがな。
おれは当然、そつなく停止。
YUKIと言う名のおれの弾除けも、ヤツらと向き合う位置を維持するように減速してアサルトライフルを構え――HARUTOが、ほとんどズッコケたような体勢から放った紅いビームの方が速かった――が、YUKIは一応予想はしていたのか、撃たれる直前にブースタを噴かせて(おれから見て)下へと退避。
だが、MALIAはMALIAで、肩のミサイルを射出していた。
テスターSBは、訓練用と言う用途から弾数もかなり絞られている。
特に、こんな貧相なミサイルでも、この機体では切り札と言っていい、
安易に使うのはアホだと思うが。
まあ、目先のYUKIには、四連のうち二発ばかり命中。
この場合、撃つ方も撃つ方なら、受け側もマヌケだな。宇宙じゃ、空気抵抗も無いからミサイルのスピードもえげつない事になってる。ロックされ、撃たれたのを視認した時点で手遅れだ。
HARUTO程度のヤツが不意打ちで放ったビームハンドガンを命からがら躱し、かつ、その回避行動を狩るように放たれた四連装ミサイルを躱し切れない……ってのが、まあ、ヤツの限界らしい。
ぶっ飛ばされるまま、爆炎と煙から出てきたYUKI機のぶっ壊れ具合はっと……右脚と脇腹の装甲が若干剥げただけ。直撃はきっちり避けてたのかよ。つまんね。
てか、そうすると逆説的にMALIAのミサイルはムダだったって事だな。
だがまあ、HARUTOがここぞとばかりにブースタを点火、生意気にも地面もクソも無い宇宙に味を占めたのか、機体を縦に回転させつつ、同時に出力した紅いブレードを斬り上げた。
股間から頭頂まで真っ二つにしてやろうってハラだったのだろうが、YUKIの方も生き汚くスッ転んで機体を反らした。
紅いブレードが弾けた光華と、YUKI機の切断された火花。
ご愁傷様。アサルトライフルを持った左腕が二の腕あたりで両断。宇宙ゴミとなったそれは、滑るような勢いで彼方へと飛び去った。
この戦い、アサルトライフルも結構大事なんだが、一発も撃てないまま無くすとか。プッ。
……とも言ってられん。このまま高みの見物ばかりしてれば、いい加減、弾除けがなくなる。
ヤツらめ、小癪にもおれやYUKIの背後だの上下だのを取ろうって軌道を取り始めた。
凡愚が“閃き”だと思ってる事の大半なんぞ浅知恵だって事を教えてやる。
おれは、YUKIへ追撃をかけようとしたMALIAへ、アサルトライフルを――あの女、レーザーハンドガンだけをおれに向けて来やがった、それをしっかり見たおれは、射撃を止めて退避。直前までおれのいた宙空に、紅いビームが尾を引いては消えた。
まあ、あれだけ形振り構わず身体いじくり回した強化人間サマなら、これくらいは当然だ。
一方、“真人間”のおれはしっかり反応したがな。これが、強化人間に手を出しても埋められない、資質の差だ。
で、アサルトライフルを改めてYUKIに撃つが、下へと急カーブを描く格好であえなく躱される。
YUKIは、同時にミサイルを放出していた。
狙いはHARUTOだ。
お魚の一家よろしく群れをなして襲い来るそれから、濁流で溺れるような無様さで逃げ惑いつつ……ヤツの頭部パーツはMALIA機を未練がましく見ているな。
どうにかフォローに入ろうとビームハンドガンをウズウズさせてるのが、ここからでも良く見えるぜ。
はい、無情。
YUKIが、アサルトライフルの火線を全部すり抜けた挙げ句、余り物のビームハンドガンでMALIAの胴体コックピットを撃ち抜いた。
爆発四散。
ゴミのようなプレイヤースキルが祟り、あの女は、何十分割もされた宇宙ゴミと化した。
で、二対一になった。
このオルタナティブ・コンバットってゲームは見ての通り、忙しく機体を操作するアクションジャンルではあるんだが。
彼我の人数だとか、弾数だとか、距離だとか。
こう言う、あまりにも格下を相手にしていると特に思うんだが、ターン制RPGじみた身も蓋もなさを感じる事もある。
ヤツは性懲りもなく、ミサイルとアサルトライフル、ハンドガンを総動員の一斉射撃でYUKIに特攻。
さすがに、爆風の中でワインレッドの悪趣味な機体が虫食いのボロクズにされていくが。
はい。おれもヤツに全武装一斉射撃。
弾除けの後ろからぶっぱするだけの、簡単なお仕事です。
逃げようにも、未だしぶとく生きているYUKIが前に出て、蒼いブレードを見苦しく振り回しながらヤツに張り付いている。
おれの放った蒼いビームを辛くも避けたHARUTO機だが、ミサイルの方が一発、無事命中。
機体がコントロールを失うのには充分。
もう、どっちを向いてるのかさえ定かではない、こちらが“宇宙酔い”を感じさせる程の無様さを晒すヤツに、おれは悠々とアサルトライフルを全弾きっちり叩き込む。
バチバチ、がしゃーん、爆発四散っと。
ほらな?
面白味の無い結果だ。
実りがない。
いや、言っとくがこれ、シミュレータで環境を都合良く整えた、お行儀の良い模擬戦だからな?
実際の宇宙戦はこんなもんじゃあない。
やっぱ、やめといた方がヤツらにとっては身のためかもな。




