log14...【クエスト】奪還省の洋上宇宙港強襲(記録者:YUKI)
【ミッション ブリーフィング】
【クライアント:タイニー・ソフトウェア社宇宙開発部主任】
【依頼内容:各国家奪還省連合の宇宙母艦の出航阻止】
――社員各位。日頃の業務、ご苦労様です。
先日、各国家奪還省連合(以下、奪還省)が、北大西洋にある旧・第八宇宙港を占拠し、復旧させたとの報告を受けました。
これは明らかに、SB部隊を宇宙に進出させる意図からでしょう。
奪還省の戦力が宇宙に進出すれば、我が社のみならず、全企業にとっての脅威となり、見過ごせない損害を出す事になります。
つきましては、奪還省の宇宙母艦が出航する前に強襲し、これを撃墜して下さるテストパイロットを募集します。
宜しくお願い申し上げます。
……と言うNPCのクエストを、アタシらは受注した。
正確にはアタシらと、タイニー直属プレイヤーのINAって女のチームが合同で出撃する。
どうもこの女、この前戦った九頭龍MARK Ⅱのパイロットらしい。
この合同ミッションも、INAがウチのリーダーに持ちかけてきたと言う。
基本的にNPCからのクエストは無数にあって、その戦域は、クエストが終わるまで引き受けたヤツの貸し切り状態となる。
ま、対人戦がメインコンテンツのゲームとは言え、たまには友人等と水入らずでストーリー仕立ての“ゲーム”でもやりたくなるのも確かだ。
協力してクエストクリアを目指すもよし。
レギュレーションを決めて、クエストでの成績を競うもよし、だ。
で、どうやら今回は後者になりそうだね。
「……敵機の撃墜、及び、敵艦の撃墜数のスコアを競う」
HARUTOが端的に説明した。
なお、先方の人数に合わせて、ウチもアタシとHARUTO、MALIAの三人。禍蛇は不参加だ。
そうでなくとも、参加したかは怪しいけどね。
【メインシステム 戦闘モード起動】
さーて、自社の母艦に運ばれて、問題の海域に到着。
いや、こりゃエゲつない光景だ。
海はもちろん、奪還省の艦隊と、そこから飛び立つSB部隊で埋め尽くされている。
そして、空にも海と同じくらいの飛行艦がうじゃうじゃいるよ。
空と海の二面に展開された戦艦の群れ。
上下立体艦隊……なんてパワーワード、このゲームでもなきゃ口にする機会は無さそうだね。
《今回こそは勝たせて貰う、HARUTO》
九頭龍からの、勇ましい通信だ。
名指しでご指名とは、モテるこったねぇ。
この前のサガルマータ戦でよほどハートを掴んだのか。
ま、アタシも泣き言こぼしてる場合じゃないって思えてきたよ。
たまには怖いもの知らずの若者から、英気を吸い取っておかなきゃね。
INAのチーム三機がまとまって突貫するのを合図に、作戦がはじまった。
アタシはブースタを噴かせて全速前進。
今しがたすれ違ったMALIA機、“漆黒の熾天使”ことアーテル・セラフは、ハナからフロート形態に変身していた。
今回は他人とのNPCエネミー撃墜競争ってコトからの判断なのだろう。
やっぱ、こういうトコ、しっかりした娘だよ。
そんなわけで、いつものように、初動でアーテルの一斉射撃をアテにできない。
アタシが血路を拓く必要があった。
さて、海側の艦から第一波のSB部隊がワラワラ押し寄せてくる。
正規パーツで構築したSBって言うより、寄せ集めの、ともすれば建設ロボットのパーツをツギハギしたような、お粗末な機体ばかりだが。
ま、“ストーリー”の設定上、これが奪還省の“官軍”の現実だ。プレイヤー入りのSBをこれだけの数、たったの六人で迎え撃てと言われれるのは無理な話だが、敵の質がこの程度であればいくらでもやりようはある。
その、一番簡単な事例をお見せしよう。
アタシは、敵陣で最も射程が長そうなライフル持ちの機体へ飛び掛かると共に、自機UMGPのステルス機能をオンにした。
アタシから見て派手な演出は無いが、他機のカメラからもレーダーからも、UMGPの姿が消えたはずだ。
先ほどツバをつけたライフル持ちの敵機を見るとわかりやすい。突然、的を見失ったAIがキョロキョロ人間味のある戸惑い方をしている。
そんな上等なステルスじゃあない。
熱源でも何でも良いから、SBのスキャン機能やセンサー類であっさり看破されてしまう。
明らかにステルスしてるヤツがいるんなら、索敵を怠るほうがアホだ。
……と、無責任な言いぐさは世の中にごまんとあるけどね。
一秒未満の世界でドンパチやってるさなか、透明なヤツに気を取られてスキャンを強いられる、労力的な負荷ってのはなかなかバカにならないよ。
例えそれが感情のないNPCであっても――いや、一生懸命に人間を模しているからこそ――重くのしかかるもんだ。
まあ、このステルス状態を維持するには毎秒、ジェネレータにシャレにならない消耗を強いる。
モニタ端のエネルギーゲージが勢い良く減っていくけれど、短時間に限って言えば、頭部パーツが安物の機体を足切りするには充分な装備だろ。
こんな風にね。
アタシは敵陣の只中に紛れ込むと、ビームライフルで一番手近なヤツの背中を撃ち抜き、間髪いれずに別のヤツをブレードで貫いた。
さて、ビームの射線で何機かに居場所を悟られただろう。
手早く小型グレネードランチャーに持ち替えてぶっぱ。
短めの砲身から、丸々太った擲弾がトビウオのように敵陣へ襲いかかった。
固体じみた炎と煙と衝撃波がブチまけられて、複数機を巻き込んだ。これでもう一瞬だけ混乱が続くだろう。
グレネードランチャーを戻し、お手玉のようにビームライフルを持ち直す。
比較的“正気”を保って、アタシにブレードを振りかざして来たヤツを、後退しながら真っ直ぐ撃ち抜いて爆散。
さて、ほぼほぼエネルギーダウンだ。アタシは、最寄りの戦艦に着陸して立ち往生した。
そこへ群がる奪還省のガラクタども――へ、アルバスの蒼色と紅色のフルオート射撃。それだけでヤツらの装甲が紙クズのように千切れる。
それはあくまでも掩護射撃と言う名の副菜さ。
メインディッシュの黒いヤツが、蒼く弧を描いたレーザーの大鎌を振りかぶってぶっ飛んで来た。
何発ものミサイルがアーテルへ発射されるが、音速の中でギリギリまでそれらを引き付けて撒く、と言う芸当を演じながら片手間でレーザーサイズを翻して三機ばかり両断。左右から挟撃してきた近接機を先読みしていたかのように潜り抜け、一機ずつ斬首するようにブチ殺した。
もはや、フロート機体の慣性に振り回されるなど、あの娘にはあってないようなものらしい。
……タールベルク本社防衛戦のリプレイログはアタシも見させてもらってるけど、あの時とはほとんど別人だね。
「順調かい、MALIAお嬢さん」
アタシが、半ば投げやりに言うと、
《ええ、とても》
極めて素直な天然モノの返答がきたよ。
こっちが汚れた大人であるコトを強調するように。
お陰さまで、こちらのエネルギーが復旧した。
ここからのアタシはメインディッシュのつけ合わせだ。
アーテルの立ち回りに合わせて、敵機をビームライフルで牽制。何機かはうっかり撃ち殺してしまったが、スクラップになってしまえばアタシに殺られようがMALIAに殺られようが同じだ。
さて、両チームの撃墜成績は常にコックピットのモニタに表示されている。
この時点で結構引き離してやったつもりだけど――へぇ、グラフを見るに接戦だね。
九頭龍の方を見ると、まあ順当に四脚のホバリング機能で制空権を取りながら、一撃必殺、かつ、手数の多い有線武装で着実に撃墜を稼いでる。
勝負はまだはじまったばかり、か。