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足りないものは心の中に

作者: 古びた望遠鏡

「一つ足りない!」


男は胸のあたりを触って言った。立ち上がって家の戸棚、押し入れ、机の引き出し、本や雑誌の隙間、冷蔵庫など片っ端から探した。残念ながら、どれもはずれだった。

その後男は焦りに焦って家の中を一日かけて探した。しかし、見つからなかった。男は床で目を覚ました。家の中はまるで強盗でも入ったかのように荒れていた。男はそんなものはどうでもいいとばかりに昨日の服のまま飛び出した。

男は商店街へ向かった。そしてあらゆる人に声をかけて足りないものを探した。胸の部分を指さして「どこかで見ませんでした?」というが、首を縦に振る者は現れなかった。

男はすごく焦っていた。男は25年の人生の中で何かが足りなかったことが数多くあった。例えば1000ピースのジグソーパズルの最後の右目の部分だけ足りなかったり、プラモデルのお城のしゃちほこの部分だったり、999円の買い物をしたときにほんの1円だけ足りずに1000円札を出したりと何かと一つ足りない人生を過ごしてきた。結局その足りないものたちは見つかっていない。しかし、男は決して妥協はしない。いまだにジグソーパズルのワンピース、金のしゃちほこだって諦めたわけではない。男はよく足りないものがあるが、それを探し出そうとする意欲、それをずっと探し続ける並外れた継続力が備わっていた。


男はその翌日、その次の日も探し続けた。しかし、男の胸は一部分だけ欠けたままであった。ある日、男はSNSでジグソーパズルが1ピースだけ余っているという書き込みを見つけた。男は気になり、そのアカウントの他の投稿を漁った。すると不思議なことに自分が足りなかったしゃちほこなど様々なものが余っているのだという。

男は足りないものを見つけたためか持ち前の探求力を生かしてダイレクトメッセージに事情を書き込んだ上で「直接お会いできませんか?」とそのアカウントに送った。すると、是非ともと返ってきて彼らは会うことになった。


駅前の喫茶店で彼らは会うことになった。男は席の隅で先に注文したレギュラーコーヒーに口をつけると喫茶店のドアが開き、ドアベルが鳴った。入ってきたのは若い女だった。落ち着いた色のトップスにジーンズというこの渋い喫茶店にはぴったりの服装であった。女は周りを見渡し、やがて男のいる席のほうへ近づいてくる。そして女は男がメッセージの主であることを確認するとにこやかに笑い、自己紹介をした。男は予想外の人物像であったのかあたふたしながら女の後にあいさつと用件の確認をした。

女は男が探していたピースとしゃちほこを差し出して間違いがないか聞いた。男は足りないものが見つかった喜びなのか声を高らかにして間違いありませんと言った後、感謝の言葉を述べた。女は男の言葉を聞いて笑い、過去を語った。


女は実は男と全くの反対で、いつも何かが余る人生であったと告白した。そしていつも余ったものを見ては足りない人がいるのではないかという罪悪感を感じていたという。

女の告白を聞いて、男はその罪悪感は間違っていると言い放ち、足りない人生は決して不幸な人生ではないといった。足りないことで自分は探求心や継続力、諦めない根性がついたことや、何かを探し求める時間は楽しかったといった。

男の言葉を聞いて女は目に涙を浮かべた。そして、満面の笑みを向けた。その時男は心に何かを宿した。それは足りなかったピースが埋まった感覚に近く、とても温かいものだった。男にとって初めての感触であった。


この瞬間男と女は補完に成功したのである。


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