序
昔、神様が生きものを作った時のことです。
はじめは天使たちにお世話させていましたが、たくさん作りすぎたせいで、全ての生きものには手が回りません。
困った神様は、妖精さんに お手伝いしてもらうことにしました。
ところで、妖精さんは自分の体をもちません。
おなかはすきませんが、おいしいものも食べられないのです。
神様は妖精たちを集めると言いました。
「生きものを お世話をするなら、その体に宿ることを許そう」
妖精たちは大喜び。
なぜって生きものの体に宿れば、『気持ちいい』や『美味しい』を感じられるからです。
妖精たちは、さっそく お世話をはじめました。
お花さんに宿るなら、お日さまが よく当たるよう、お顔のむきをチョッピリかえてあげます。
そうすると、お花さんが ひなたぼっこ出来て、妖精さんもポカポカあたたかいのです。
リスさんに宿るなら、ドングリが落ちているところへコッソリお顔をむけてあげます。
そうすると、リスさんはドングリが見つけられて、妖精さんもモグモグおいしいのです。
(みなさんも何かを発見することがあったら、妖精さんのおかげかもしれませんよ?)
みなさん、もうおわかりですね?
そうです。妖精さんは、生きものの体を乗っ取ることが出来るんです。
でも、それをしていいのは『お世話に必要なとき』だけ……。
それも、気づかれないよう、コッソリやるきまりでした。
なぜって、目に見えない誰かが そんなことしてる なんて知ったら、おちつきませんからね。
あと、『その生きものがイヤがることをしてはダメ』という決まりもありました。
でも、そこはイタズラ好きの妖精たち……。
『お世話のため』とイイワケしては、イタズラをしていました。
イタズラというとカワイク聞こえますが、妖精さんのイタズラは、おもしろ半分で命をうばったり、心をキズつけたりする、ザンコクなものばかり……。
神様のほうでも それを心配して よく見張っていましたが、たくさんの生きものを お世話する妖精さんも また たくさんです。
とても見張りきれるものではありません。
そこで神様は、妖精たちに『かんさつ日記』を つけさせることにしました。
それも、ウソを書くと頭がイタくなる魔法の『かんさつ日記』です。
これで神様が四六時中 見張っていなくても、日記を読みさえすれば、キチンと お世話が行われているか分かる、というわけでした。
妖精たちはシブシブ イタズラをひかえるようになりましたが、なんとかズルをしようと日記のつけかたを工夫するうち、『ぬけみち』を見つけました。
なんと……!
『ウソじゃないけど、ホントでもない こと』なら、書いても頭がイタクならないのです。
妖精たちは さっそくコレを利用して、自分たちのしたイタズラを、さも生きものたちが自分で やったことで あるかのように見せかけました。
神様が日記を読んだとき ゴカイするような書き方を、ワザとしたのです。
もちろん バレたら大変ですから、はじめ の うちは たまーにコッソリやるだけでしたが、何も言われない内に だんだんダイタンになっていきました。
そして、わるいことにイタズラ好きな妖精さんは、一人や二人ではありません。
でも、いきなりイタズラが ふえだしたら、神様もヘンに思いますよね?
ましてや、生きものたちは神様にとって大切なこども……。
こどもがワルサをしたなんて信じたがる親は いません。
じつは妖精たちは、みんなで一緒になってウソのストーリーをこしらえていたのです。
《生きものたちは、はじめこそ神様の教えを守ってよい子にしていましたが、くらしがラクになるにつれて、だんだん悪い子になってしまいました》
なぜか、もっともらしく聞こえますよね?
『どんなウソでも、たくさんの人が言ったら、ホントのことに聞こえる』と言いいますが、あろうことか、神様はそのウソを信じてしまいました。
『木を隠すには森の中』……。
数を たのんでウソをついた妖精たちは、生きもの たち みんなを悪い子に仕立てるや、やりたい ほうだいでした。
でも、相手は神様。エライ人です。
そんなエライ人をカンタンに だませたものでしょうか?
しかし、これが案外うまくいきました。
と言うのも……
「たくさん書いてあると読むのがタイヘンだから、日記は できるだけ みじかくつけるように……」
と神様 自身が命じていたのです。
こうして神様は、生きものたち ひとり ひとり のことを よく知ろうともせず、報告をウノミにするように なってしまいました。
さて、まんまと神様をだました妖精たちですが、そのくせ、神様が生きものたちを滅ぼそうとすると、
「わるい子だけではありません」
「チャンスをください」
と、かばうフリをして引きとめるのでした。
だって、もう一回 作り直すとき、どこが悪かったか調べてて、うっかりホントウのことが分かったらタイヘンですからね。