Wellcome My Buddy
「えーと、火の始末はちゃんとしとこうって教訓になるねこれ」
足部分から煙を立てて横に横たわるロボの残骸を見て、俺は思ったことを口にする。その声が聞こえたのか、来夏さんは俺のところに向かって来つつ微笑んだ。
憑き物が落ちたような顔だ。こっちまで清々しい気分になるような、そんな表情をしている。
「でしょ? たかが小さな火の種侮るべからずってね。君も気をつけな?」
「マジでそうするよ。で、これで旗を取ってクリア……だといいんだけど」
「ま、そうもいかないでしょ。ほら」
そう言うと来夏さんは視線で上を示す。
あぁそういえば、あの人どうにかしないといけなかったな。怒りを通り越したのかなんか恐れてるような表情してんじゃん。
「こ、こんな事あるはず……! たかが2人にゲームを潰されたなんてっ……!」
「まぁ、そこは貴女の技量不足ってことで。で、どうなの? これ以上何もないならとっとと帰って寝たいんですけど」
「っ! 散々してくれといてそんな事許すと思ってんの? こうなったらせめて口封じだけでも……!」
そう言うと彼女はスイッチのようなものを取り出す。戦闘員を呼び出すためのブザー……みたいなもんか。
そして彼女の指がボタンに触れ、喧しい音があたり一面に響く――――、
が、何も起こらない。厳つい方々が出てくることもなければ、上から槍が降り注ぐようなこともない。
「な、何でっ!? 何で出てこないのよっ!?」
そして、彼女は勝手に上で取り乱し始める。めちゃくちゃ面白いな。あ、ブザー落とした。
でも、そういうことか。まぁ俺が攫われてから1日以上は経ってるし、駆けつけてくる時間としては妥当か。
さて、じゃあ後は彼らが何とかしてくれるはずだ――――、って。
あ、これ俺の合図待ってるのか。
「はい突入」
そう、俺がそう呟いた瞬間。
四方のドアが蹴破られ、人が雪崩れ込んでくる。
そう、俺がここに調査に来た際に同行してくれた仲間達だ。
「うぉすっご。これ君の仲間?」
「まぁね。俺が君らに捕まった時、気取られないように見張っててもらってたの。いざって時にしっかり摘発できるようにね。さっき言わなかったっけ?」
「そうだけどさ。実際に見るとやっぱビビるって」
恐ろしいねぇ周到じゃないの。来夏さんはそう呟いて苦笑いする。組織一個潰すために動いてんだからこんだけやるのは当たり前……だと思うけどな。
でもそこまで思い至らない奴もいるのだろう。現に上にいる方は、
『何々っ!? 何が起こってんのよっ!? こいつら誰なのぉ!?』
ほら。事態飲み込めてないし。あんた方捕まえに来たのよ。
そう思って内心呆れていると、俺の元へ男の人が駆けつけてくる。
「八柱小隊長。ご無事で何よりです」
「いやまだ隊も組んでないしそう言われるの違和感ありますけど。お陰様で無傷ですよ」
「いや、流石デスゲームクラッシャーの異名を持つだけあります……って横にいるその女、敵ですか?」
「ちょっと悟くーん? 話が違うんだけどぉ?」
来夏さんは銃口を向けられ、軽く抗議の目線を俺に向けながら手を挙げる。緊張感皆無ですねぇ貴女。
ほら、早く説明しなさいよ、とでも言いたげな態度だ。
「仕方ないでしょまだこの人達君のこと知らないんだから。……この人、俺がスカウトした人です。これから仲間になりますので心配いりませんよ」
「む、そうですか。なら、良しとします」
「君って意外と人望あんのね。でもそっか。「デスゲームクラッシャー」って名前、あたしも聞いたことあったし。それだけの実績があれば、評判良いのも当然か」
偶然か必然か、デスゲームの摘発に関わる機会が多かった故についた異名。来夏さんも多分、知っているであろうとは思っていた。だから、ゲーム開始前にチラッと話はしておいた。
「まぁね。でもあんまり好きじゃないよ。その名前」
「いーじゃないの。むしろその名前がなかったらあたし、君に協力なんてしてなかったけど?」
「ま、そうだろうね」
……なら、結果あの異名はあってよかったのかもしれないな。なんてそんな事を思う。それが彼女の希望になったのなら。
で、上の方がなんかうるさいけど……、あ、ギャラリー捕まってる。
ついでに司会者のおばさんもだ。項垂れながら外へ連れていかれた。
なんかついでのように退場してったけど、別にいっか。
「さて、これで君は晴れてこの組織から解放されたね。おめでとう」
「ん、そーね。いやー清々しいったらありゃしないけど……、意外とあっさりしてて実感ないわ」
「ま、そんなもんでしょ。大体のものはさ」
きっと急に解放された、なんて言われてもすぐには飲み込めないのだろう。でも一泡吹かせられて大満足……ってところかな? 彼女の今の気持ちは。
そんな来夏さんを見てると、少し微笑ましくなる。
「かもねー。で、君の言葉通りなら、これからあたしは君の所で世話になるけど、そんな権限君にあんの?」
「うん。小隊長からは自分の隊を持つ関係上それなりの人事権が与えられるから」
「それなら良かった。でも、どうしてあたしを入れようなんて思ったの? 組織から捨てられるほどちっぽけなあたしをさ」
「あ、あー。それか。それは……」
そう、言われましても、ねぇ。
確かに理由はある、けど。
「秘密」
「……っは!? ちょ、なんかズルいよそれ。気になるじゃんか!」
「良いじゃん別に。それ抜きにしても君は欲しい存在。はいこの話は終わりっ」
「何よそれ。あーモヤモヤする……!」
彼女はそう言うけど、言えるわけないでしょ。
一目惚れしたから、なんてさ。
普段であれば関わるのを避ける部類だってのに。そんな感情持つなんて、まぁ不思議なもんだよ。
「ま、とにかく。改めて勧誘するよ。俺の小隊のメンバー1号になってくれないかな?」
「なんか釈然としないけど……、いいよ。あたしの力、君に貸したげる。よろしくね。相棒?」
「あれ、会って間もない人間にそう言われんの嫌じゃなかったの?」
「いいのよ。これからは仲間なんだし」
そう言って改めて、お互いに握手。
まぁ、随分と苦労はしそうだ。けど。
どこか、心が躍った。