ゲーム説明……という名のコント
『さぁ!! 皆さんお待ちかね、エキシビジョンの時間がやって参りましたーっ!!』
暫くそのまま待ってたら、あの部屋自体がエレベーターになってたらしく、そのまま自然と上へと運ばれ。
そして聞こえてきたのは女性の声。彼女の代役だろうか。その声の後、黄色い声が空気を揺らす。
なんだろうこの感じ。相変わらず……、
「あーヤダ。やっぱ嫌いだわ。アホ共が危険の及ばない安全圏から笑ってるこの感じ、気色悪いったらない」
嫌いだ。そう思ったその時、彼女の声が聞こえる。
彼女は露骨に嫌そうな表情をし、咥えるタバコを強く噛む。相当不快みたいだ。
「同感。ってか主催者側だった君が言えたことか? それ」
「わーってるわよ。でもあたし、この組織のデスゲームに関わるのこれが初めて……のはずだったのよ?」
「マジ? じゃあ今まで何を?」
「んー。開けちゃいけない箱の運び屋とか、抗争の一番隊とか?」
「それ1番危険なもの……。正に散々使われて捨てられてんね」
……可哀想になってきたな。この様子だと危険な役回りを率先してやらされてたみたいだ。でも言い換えれば、それは数々の修羅場を潜ってなお無事でいるということ。
丁度よかった。俺としてもそんな人材が欲しかった所だし。
「そーね。だからこそあのクソどもを早くぶちのめしてやりたい気分なのよ……。っと、そろそろ始まるみたいよ?」
そう言う彼女、来夏さんは冷静を装いつつも、目は滾っているようで少し安心する。こういう人が燃えると、予想もつかない結果を出してくれることを、俺は知ってる。
それは、これから見せてくれるだろう。
そう思って俺は前に向き直る。
「さぁ! 今回愚かにも我々に捕えられた、危機意識の欠片もないお猿さんにご登場いただきましょうっ!! オーープンっ!!」
そんな声が聞こえると天井が二つに割れ、急に光が辺りを照らす。
縦に長い部屋だ。様々な遮蔽物と、遠くにゴールらしきもの。で、天井付近には観客の姿。
成程。横スクロールアクションを模したものか。俺たちはあくまであそこへ向かえばいいと。
「あー。あたしは無視ですか。わかってたけど。あんたらしいね、その態度」
来夏さんはそう言いつつ、ステージ上にいる司会役の女性を睨みつける。なんか色々ありそうだな。あの司会者と来夏さん。
「あぁそういえば! 今日はもう1人いるんでしたっ。地味すぎて忘れちゃってましたよー」
女性はわざとらしくそう言うと、軽く手を叩いた。
「えー、1人だけじゃすぐ終わっちゃうしつまんないだろってことでぇ、私の組織からも下っ端が参加してくれることになりましたぁっ!」
そう言うと歓声が一段と大きくなった気がする。
まぁ、そうだろうな。来夏さん普通に可愛いし。男1人だけじゃアレだから……とか考えたな。
うん。なんかムカつくな。
そう思って、少し来夏さんに耳打ちをする。
「ねぇ君、話合わせるの得意?」
「は? 何いきなり」
「いやなんかムカつくからさ。ちょっと煽ってやらね? って。君も日頃の鬱憤を晴らせると思ってさ」
「……なるほど? いいね。んじゃまずはあんたから適当に頼むよ。乗っかるから。あたしもこのノリにイライラしてたとこだし」
そう言うと彼女は悪どい顔で笑う。
この状況でそんな顔できるんか。さっきとはえらい違いじゃんか。
どこか、確信してきてるな。このデスゲームを確実に潰せるって言う確信を得てきてる。
「おやおや作戦会議ですかぁ? いいですねぇ無駄な努力を見てるようで。ゾクゾクしますよ? あはははっ!」
「お、言ってんねおばさん。見た目アラサー? おめかししてキャラ頑張って作ってるようだけど。ねぇ来夏さん。あの人幾つよ?」
「あ? 確か33とかじゃなかったっけ。上からの指示にしたって流石にその歳でそれはキツいよねぇ。独り身だし」
「成程察した。おーい! いい人見つかりますよー、多分。てか上からの指示って、いー感じにあの人もくたびれてんね」
俺が切り出すと、来夏さんはノリノリで合わせてくる。めっちゃイキイキしてますね。
で、当のおばさんは……、あー怒ってる怒ってる。額に青筋浮かべてますがな。煽り耐性低くて結構だ。
「このクソガキ共あたしはまだ29…….んゔっ! とにかくっ!! ルール説明に参りましょう! 貴方たちにはこのコースの様々な障害を潜り抜け――――」
あ、今キャラ崩しかけたぞ。
でも、それをすぐに奥にしまい込む。そして気を取り直して声高らかに話の筋を元に戻そうと試みる。けど、
「すっげ。この土どんだけ盛ってんだ。少し掘ったくらいじゃ底見えねぇや。無駄に凝ってて結構結構」
「……ふぅっ」
俺は別のことに関心を向け、彼女はだるそうにタバコを吸い始めるもんだから、
『ゴールを、めざ、して……』
声は途切れ、収めたはずの怒りがまた現れてくる。
「つーか君どんだけ吸うのよこの短時間で。3本目じゃないそれ?」
「うっさいな。こんだけ吸うのは稀よ。暇だし上はなんか喧しいし……ったく」
「あ、吸い殻入れ持ってるんだ。偉い」
「当然じゃない。エチケットよエチケット。二十歳になったら気をつけなよ悟くん?」
「いや、私吸う予定ないんで」
そんで俺たちは関係ない話を始めるもんだから、流石に我慢ならなくなったのか、
『聞けやアホ共ぉっ!!』
怒鳴った。でも怖くない。
『あら怖い』
だからそう敢えて返してやる。けど、彼女と一言一句シンクロした。
「ふふっ」
「……あはっ」
『何笑ってんだテメェら今すぐこの場で○してやってもいいんだぞこの(以下自主規制)−−−−!!」
うわすっげキレとりますがな。それがお前の本性か。クッソ面白。
まぁそんなことはさて置いといて、初めて会った人とここまで呼吸が合うなんて初めてだ。だから思わず笑ってしまった。
こいつは後々、いいバディになるかもな。
「はぁ、はっ……! さて、ゲーム説明はいらないらしいので省略しちゃいますね? さてテメェら。何か言い残すことは?」
「なし。だいぶ簡単そうだし。ねぇ来夏さん、あの方普段からあんな感じ?」
「同左よ。まぁねー。あんたの代わりはいくらでもいるのよ、とか言って適正フル無視の配置してくるからもう大変よ?」
「うわそれなんてパワハラ」
「えぇ全くね」
そう言うと彼女は上を見上げる。もう清々しそうな笑顔で。言いたいこと言って超スッキリ……って顔だ。
「っ……! まあ、活きがよくて何よりですよ? そういった生意気な奴らがこの後どうくたばってくれるのかとても楽しみねぇ!! さぁ、始めましょう!!」
おばさんは場を盛り上げんとそう叫ぶ。けど、
いい感じに場、白けてくれたんだよね。もうこちら側のペースなんだわ。
「それではゲームっ、スタートぉ!!!」
だからあとは、いつも通りにやるだけ。
半ば激昂気味に放たれた開始の言葉を聞くと、俺は来夏さんと共に、前へと跳び出した。