頼むぜ相棒
俺、八柱悟は某民間自警団の一員だ。
どんな組織なのかって言うと、まぁ秘密組織的なアレだ。
大学に進学し、バイト探してて見つけた先。人材派遣業と聞いたがそれは仮の姿。警察も対処できない案件を扱う、国公認のクソ危ない組織でした。
そんな所で揉まれ一年。心身共に成長し順当に成り上がった。そんな中で舞い込んできた仕事。それが、
「都郊外にてデスゲームを催す組織の摘発、そしてその撲滅」
これだ。
という訳で俺はそこで調査を行い、そしてその組織の実態、そしてそのゲーム内容のはあくまで至った。
そのゲームは毎回高い難易度で有名。
特に、組織に仇なす人物を1人捕え、ゲームに参加させる「エキシビション」なるものが人気らしい。
これだ。これに参加して内側から壊す。そう考えた俺はあえて奴らに捕まった。
で、目を覚ました時にいたのがこの女性。名前は知らん。最初は意気揚々と喋ってて、俺を尻目に部屋から出て行こうとした。
でも壁に据え付けられたボタン押してもドアが開かなかったんですね。それに気づいて彼女は焦ったようにスマホを見る。
そしたら顔が青ざめていくんだもの。
そこで悟った。これ捨てられたやつだって。
何故わかったって、こんなの行く先々で何度も出くわしましたし。察せるようになっちゃったんだよ。
それで声をかけて、文句を言われ現在に至るわけだ。
で、暫く泣いてた彼女だけど、時間が経って気持ちの整理がついたのか、
「ったくやってらんないっての!! 安月給でこき使われて挙げ句の果てに捨てられるって、もうアホみたい……!」
愚痴り始めた。当然か。想像する限り、それなりに組織に対して尽くしてきたんだろうし。こんな仕打ち喰らっちゃ文句どころか八つ裂きにしてやりたくなるだろう。
あと普通に口調も変わってますがな。さっきまでハツラツとしてたのが大分粗暴になってる。要はさっきまではキャラ作ってたと。
「ごめん。じゃあなんでやめなかったん? あと裏切られたとはいえこの場でそんな悪口言って大丈夫?」
「辞められる訳ないでしょバーカ。あたし身寄りないし、昔グレてた事もあってまともに就職もできなかったから。やめた所でどこも行くとこないのよ」
彼女の言葉に、ふと感じた疑問をぶつけてみる。それに対して返ってきた言葉は、割と重めのものだった。
そう言われると少し同情もするけど、彼女と俺は敵同士。そこに踏み込むのは野暮だろう。
「同情はしねーぞ。身寄りがないのは辛かったろうけど、グレたのとは関係ねーだろ」
「必要ないよそんなん。あと、ここ監視カメラないし心配いらないわよ。絶対に逃げられないように作られてるから必要ないもの。……あんたタバコダメ?」
「別に大丈夫……だけど秒で吸うのどうなのよ。俺まだ未成年だぞ?」
彼女は俺が言葉を終える前にタバコを出し、火をつけ吸う。外見は可憐なだけあって、その姿はどこか様になっている
。
「マジ? あんた今いくつ?」
「19。今年で20だけど」
「私の二つ下か。残念だね。成人しないうちに死んじゃうなんてさ。それに私もこれが最後の一服なんだし大目に見て欲しいんですけど?」
彼女は一通り吸いきると、煙を吐いて壁にタバコを擦り付ける。
そっか。何か彼女に違和感を感じると思ったら、そういうことか。
「随分と落ち着いてるね。これから起こること、よくわかってるはずなのにさ」
「本当は暴れてやりたいわよ。でもそれは奴らの思う壺みたいで癪。それに、ここにいる内に色々覚悟が決まっちゃってね。前から思ってたのよ。こうなっても仕方ないって」
落ち着きすぎてるんだ。置かれた状況にしては。
でも彼女の返答を聞いて納得する。彼女もこの世界に身を置く者として、ある程度覚悟はしていたということか。
「逆にあたしはあんたに驚きよ。さっきから全く動揺してる様子がないし。もしかして逆にチルっちゃったとか?」
チルって……、あぁ落ち着く的な意味か。
そりゃ当たり前でしょあえて捕まってんだから、とは思うけど、当然ながらこの人はそのことなんて知る由もない。
「そりゃそうよ。俺はここに来るために敢えて捕まったんだから」
「は? あんたおかしくなったの? うちのゲームって言えば、界隈じゃ無理ゲーって有名なはずよ?」
「承知だよ? おかしくなんてなってない、真面目に言ってんの。俺は」
「……ぶっ。あっっははは!!! バカだ、本物のバカだこいつ! 僕は死にたいんですー、なんて言ってるようなもんじゃんかそれ!!」
彼女はさも可笑しそうに大声で笑う。もう腹立つレベルに。
彼女の言う通り、確かに任務を完遂できる保証はない。それは事実だ。
でもね。俺には大丈夫って自信があるのさ。
「確かに死ぬかもね。けど生き残る可能性の方が俺にとっては高いんだよ……。まぁでもそんなの、生きるのを諦めた君に言っても、まぁ仕方ないか」
だから煽った。皮肉を込めた口調ではっきりと。
彼女は……、あぁやっぱり怒ってる。無言で俺に近づき、胸ぐらを掴み上げた。
「……うっさいっ! 諦めたいわけっ、ないでしょうが!! 散々尽くしてっ、それなのに惨めに捨てられて! 悔しくない訳ないじゃないのっ!!」
まぁ、そんなのわかってたさ。
でもここまで激情的に言うのは初めてだ。漸く感情を表に出してくれたか。
「こんな所でっ! 奴らの嗜虐心の肥やしになんてなりたくないっ!! でもっ……、でも!! どうすりゃいいのか、わかんないのよっ……!」
彼女の表情は悔しさ、怒り。様々な感情が渦巻いてそうだ。そして俯いて、顔を歪めた。
そして俺は……ちょっといいこと思いついちゃったから。
笑って、彼女の手を掴む。
「なら結構。じゃあ生き残ろうよ一緒に。協力してさ。そんでここから出たら、うちの組織に来ない? 行くとこないならさ」
「は? あんた何言って」
「そのまんまだよ。君はゲームを潰すために俺と協力する。俺はそのお礼に君に職を提供する。悪くないでしょ?」
「いやその前に、ここからどうやって出るのよ。この状況でそんなこと言われても」
「あぁそういうこと。安心しなよ。ちょっと耳貸して」
そう俺が言うと、彼女は怪訝な顔をしながら顔を近づける。何を話したのかは、勿論秘密。
そして、俺の話を一通り聞いて、彼女は驚愕したような顔をする。
「嘘。あんたまさか」
「そのまさか。どう? 少しは希望持てた?」
「まぁね。全くの考えなしって訳じゃないみたいだし。で、条件は?」
「条件、とは?」
彼女は幾らかの希望が見出せたのか、落ち着きを取り戻したようだ。不敵に笑えてるあたり、精神面に関してはもう心配いらなさそうだな。
「さっきあんた言ってたじゃん。あたしを雇ってくれるってさ。その雇用条件よ。それによっちゃ協力してやってもいいわ」
「あーそれか。君、今手取りいくら?」
「15だけど?」
「いや少なくね? ウチだと倍は出るぞ。福利厚生も充実してるし、傷病手当もつく。さぁ、どう?」
余裕ができた途端態度がデカくなったな、とは思うけど元がこうなんだろう。
そう思えばさっきの態度をされるよりかはマシだ。
「乗った。さて、とっととあのクソどもぶっ潰してやりましょ」
「交渉成立だな。じゃ、頼むぜ相棒」
「キモ。会ったばっかの人間にそんなこと言われんの嫌なんですけど?」
「酷くね? ならせめて名前教えて。どう呼びゃいいかわかんねぇし」
こういうのは形から入るのが大事だと思うんだけどな……、なんて思うけど、黙っておこう。
彼女は俺の言葉を聞きながらタバコを取り出し、火をつける。
そして吸って、吐いて。軽く笑って言った。
「清水来夏よ。歳は21。あんたは?」
「八柱悟。歳は19。宜しく頼むよ」
「ええ、お互いにね」
そう声を掛け合って、お互いに手を取った。