戦慄! 骸骨博士 4
ナレーター(以下、「>」と表す): 暗がりより飛び出す黒い塊! それは、全身黒ずくめの衣装をまとった男だった。
>みなさん、こんばんわ。あるいは、こんにちは。業界的には、いつだって「おはようございます」。ええ、このスタジオも芸能界の一部なんですよ。
>ともかく、今週も始まりました。パンツイッチョマン弐。ぐだぐだ言っているとまた長くなるので、冒頭から飛ばしてみました。いかがでしょう? ……あ、今がまたぐだぐだ時間に入っている? そうですね。では、続けましょう。でもその前に一つだけ言わせてください。回転率上げてみたらあっさり終わっちゃっても許してね。
>黒ずくめの男は、黒い目出し帽を被っていた。目出し帽は、「誰が着けているがわからない」という要素を悪用して、強盗やテロリストが使うようになってイメージが悪くなりました。しかし、防寒具としてはとても優れています。寒い地域の風は、もう寒いより痛いんですが、それを防いでくれるのでとても快適です。
>黒ずくめの男なので、目出し帽以外の部分も黒なのだが、それは全身黒タイツだ。おそらく、舞台の黒子衣装として流通している品だ。黒ずくめと紹介しましたが実は黒くない部分が一つあった。それは――はい、確かに目出し帽から見えている目の回りとかは黒くないですね。うん、そうなんだけど、もっと目立つ白い箇所があるんです。それは右手の先。そこだけ白い塊。ギプスであった。
>ええ。お気づきの視聴者の方もおられるようですが、この黒ずくめの男は、以前銀子先生を襲おうとして、骨を折られた若者ですね。頭蓋骨博士は、破損品も再利用する性格の人のようです。
黒ずくめの男(以降、「黒」と表す。): どりぅあああぁぁ!
>意味不明の咆哮をする黒ずくめの男。確かに、頭蓋骨博士の言っていたとおり、凶暴化していますね。 話が通用する相手ではなさそうです。
頭蓋骨博士(以降、「頭」と表す。): ふふふ、こいつは少しばかり荷が重いのではないか? パンツイッチョマン。
黒: ぱんついっちょまん!?
※注釈: 片言表現は普通カタカナ表記ですが、元単語がカタカナ表記なので、今回はひらがな表記にしました。
>パンツイッチョマンという言葉に反応して、頭蓋骨博士を振り向く黒ずくめの男。
頭: いや、私じゃないぞ! あっちあっち!
>意外にも、その指示には素直に従い、黒ずくめの男はパンツイッチョマンの方を向いた。パンツイッチョマンは既にハの字の構えだ。
黒: うがぁぁあぁ!
>いかに人気の少ない場所とはいえ、これだけ叫ばれると近くの通行人が通報してもおかしくない。警察の介入は、治安維持の観点では望ましいのだが、我らがパンツイッチョマンにとっては避けるべき相手、これは時間を――あ!
P1: イッチョマン・スラップ!
>おっと、「時間的猶予がなさそうだぞ」と言おうとしたところ、自覚があったのかパンツイッチョマンが仕掛けた。先制攻撃は勝利への近道だが、相手の状態が整わない場合には卑怯呼ばわりされかねない。ゆえに、通常のヒーローはあまり採らない手だが、パンツイッチョマンはそのあたりお構いなしだ。
♯ パチン!
>距離を詰めると、黒ずくめの男が腕を振り上げる前に、パンツイッチョマンの左手が一閃する!
黒: ぐっ。
>よろめく黒ずくめの男。おおっ! 耐えた! それどころか、振り上げていたギプスハンドを振り下ろす。それを下がるように跳んでかわすパンツイッチョマン。
>まともにイッチョマン・スラップを食らって耐えられたら存在はほとんど居ません。記憶に残るところでは、パンツ一緒マンくらいですね。しかし、そのパンツ一緒マンも膝をついてなんとか我慢できたレベルでした。今回のように、動きを一時的に止めただけ、という程度のダメージではありませんでした。これは頭蓋骨博士が「ヒーロー並みの強化」と言っていたとおりです。もはや常人レベルを超えています!
頭: ふふふ。イッチョマン・スラップの与えるダメージは解析済み。私の超人化薬、通称『カヤック』では計算上――
黒:うがぁぁ!!
>頭蓋骨博士の説明をかき消して、パンツイッチョマンに突進する黒ずくめの男。パンツイッチョマンに掴み掛かろうとするが、パンツイッチョマンはそれを右手の平手打ちでいなす。そのまま、左のイッチョマン・スラップが――いや、それよりギプスハンドの振り抜きが早い! パンツイッチョマンは攻撃を諦めて、また距離を取る。
>これはもう、一般人感の残る「黒ずくめの男」という呼び方がもはや相応しくないですね。頭蓋骨博士が呼んでいた名前は何でしたっけ? ……そう、破壊者!
頭: ふふふ。押しているぞ。このまま、パンツイッチョマンをK.O.して、そのパンツを剥ぎ取ってやれ!
>説明を割り込まれた時には、困った顔をしていたが、それより困っている立場に追い込んでいるパンツイッチョマンを見て、頭蓋骨博士はご機嫌だ。
黒(いや、次からは「破」と表します。): がぁぁ!
>今度は、ちゃんと頭蓋骨博士のセリフを待って吠えた破壊者。……きっと偶然だろう。
>これまで説明する機会がなかったが、実はこの元飲食店にはかなり備品が残っていた。視聴者の方のご想像のとおり、目立つのがテーブルと椅子だ。簡単に持ち運べる物は移送されていたが、一体型のテーブルとソファはそのまま残っていた。
>振り返って考えると、パンツイッチョマンの戦闘区域は開けた場所ばかりだった。花見で有名な戸羽公園、穴穿きと遭遇戦をした駅前広場、パンツ祭りの会場も公園だった。つまり、パンツイッチョマンの華麗な身のこなしは、十分な空間が確保されていてこそ発揮できる、とも考えられる。もしかして、頭蓋骨博士はそこまで計算してこの場所を――
破: ぐがぁあぁぁ!
>もう、破壊者は誰の会話の途中でも気にせず吠えますね。その破壊者の叫んでからの突進を、パンツイッチョマンはテーブルの上を転がって向こうに避ける。当然、破壊者の突進は、固定されているテーブルに激突して止まる。……うん。確かにパンツイッチョマンの回避力は広い場所の方が高いのでしょうが、それ以上に破壊者の動きが制限されていますね。暴走して知性が低下していると思われる破壊者なら、そうなるだろうねぇ。
>そういえば、パンツイッチョマンが現れた時に、頭蓋骨博士は動揺していたので、やはり罠としてここに誘い込んでいませんでしたね。ちょっと深読みし過ぎました。
破: どぐわぁ!
>破壊者が苛立ったようにギプスハンドをテーブルに振り下ろす。
♯ バキッ! ガラガラ……
>おお! テーブルの天板が粉砕されました。……まあ、それでそこが通れるようになった訳じゃありませんが、パンツイッチョマンがテーブルの上を転がることはできなくなりましたね。
頭: ふふふ。見たか! 強化ギプスの威力を! ただの石膏ギプスとは違うぞ! コンクリートの塊のようなものだからな。 もちろん、殴打の衝撃は中にも伝わっておるぞ。本来なら痛くて堪らないはずだが……
>ん? 破壊者は立ち止まると、ギプスハンドを軽く二度三度上下に振った。……やっぱり痛いは痛いのかな?
頭: 『カヤック』には麻酔効果もあるからな。今は大して痛くないだろう。まあ、痛みは薬が切れた後にまとめてやってくるかも知れないが、何より重要なことに……そうなってもこの私はちっとも痛くなどない!
>……私には、科学者の心得がどういうものなのかよくわかりませんが、おそらく、これ、ダメなやつですよね? 他人の痛みがわからない人は発明に携わるべきではないんじゃないかな? 何だか恐ろしいものを作りそうですからね。……いや、手遅れか。実際恐ろしい実験体ができちゃっていますもんね。
破: ぐ、ぐぐぐぅぅぅ。
>歯軋りのような音を立てて、破壊者がパンツイッチョマンを見つめる。滅多矢鱈に打ち掛かったところで攻撃が当たらない、と理解できる知力は残っているようだ。
P1: ならば……イッチョマン・ダブルスラップ!!
>おおっ! ここで新技か!? 名前からしてもうアクションは予想できますが、その予想されるアクションどおりなら、いつもの「イッチョマン・スラップ丸め」で一緒くたにされてしまいそうです。つまり、私の驚きは、新技という事よりパンツイッチョマンがイッチョマン・スラップの亜流を区分した事に起因します。
P1: とおっ!
>この掛け声は、パンツイッチョマンの三大迷惑技の一つ、イッチョマン・ストンプの時に聞きますね。今回も、その時と同じくパンツイッチョマンはジャンプすると、破壊されていないテーブルの一つに乗る。
>そういえば、イッチョマン・ストンプの本気バージョンなら破壊者に効きそうですが……屋内で天井が低いから使えなかったようです。意外にも、環境に依存する技だったんですね。
破: ぐあぁぁ!
>攻撃可能な直線上に現れたパンツイッチョマンに対して、破壊者が突進を開始する。
P1: ふん!
>パンツイッチョマンが前蹴りを繰り出すと、その素足が破壊者の顔面を押し返した。……ん? これってイッチョマン・ダブルスラップの一部ではないですね。
P1: とうっ!
♯ パパチン!
>テーブルから飛び降りると、前蹴りで確保したテーブル前の空間に、パンツイッチョマンが着地する。その直前、空中で両手が振り下ろされ、破壊者の両頬が叩かれた。
>破壊者はノロノロとギプスハンドを振り上げ、そのままゆっくりと後ろへ倒れていく。
♯ バタッ、コチン。
>ちょっと遅れて聞こえたのは、ギプスが当たった音だ。後頭部を打ちつけかねない危険な倒れ方なので、実写化の際にはカメラ画枠外のクッションを利用したり、受け身の達人とされるプロレスラーに頼ったりすると良いだろう。……もちろん、この破壊者は後頭部を打ちつけていて危ないぞ。
>パンツイッチョマンは、ハの字の構えを解くと、ゆっくりと背を伸ばし、フロントラットスプレッドの姿勢を取る。
頭: ま、まさか! 一撃だと!?
>信じられない、と驚く頭蓋骨博士。確かに、破壊者の勢いはすごかったですが、パンツイッチョマンが決める時はたいてい一撃ですからね。私たちは、まあそんなもんか、くらいな感想ですよね?
頭: 両手打ちにしたところで、ダメージが倍になるわけでもなし。むしろ、移動ベクトルは相殺される……いや、二つのベクトルの衝突点に当たる口腔内で……
>何か言いながら、白衣の裾を翻らせて、また忽然と頭蓋骨博士が姿を消す。パンツイッチョマンはそちらに目もくれず、破壊者がやってきた方向へペタペタと歩き出す。もちろん、私たちもそちらに続きましょう。
>間仕切りに隔たれて半個室になっていた空間には、テーブルがくっつくようにして並べられていた。その横にペットボトルを逆さにして半分に切ったような容器とそれを吊り下げるスタンドがあった。どうやら、これは点滴装置。破壊者はここで、点滴にて超人化薬『カヤック』を投与されていたようです。くっつけられたテーブルは即席ベッドだったわけです。
>傍らに孤立したテーブルもあり、そこに液体の入った樹脂ボトルが置いています。パンツイッチョマンはそれに手を伸ばすと振った。
♯ チャプチャプ
>半分ほど中身のあるそのボトルには……生理食塩水とラベルが貼られています。略すると「生食」。ここでは「せいしょく」と読みますが、一般的には「なましょく」と読まれがちです。「生食用牡蠣」がわかりやすい例ですね。
>確かこのネタは過去にどこかでも言及していました。「ナレーターはジジイだから、同じことを何度でも言うよね」と思われているかも知れません。若い方からすれば、それは事実ですが、繰り返し言う事が悪いとは限りません。例えば、勉強で繰り返し記憶する、という手法がありますからね。生食 (なましょく/せいしょく)についても、ナースとお付き合いするようになった時、「あ、あれって「せいしょく」って読んじゃうでしょ?」と言うと、「うんうん、そうなの。あれ? どうしてわかったの?」とポイントアップに繋がる結果が得られるかも知れません。忘れずに憶えておきましょう! でも慌てると「あれって「なましょく」と読む……」と言い間違えて、『この人、何を言っているの?』と思われマイナス効果になりかねないので気をつけましょう。
>それはそうと、パンツイッチョマン、いつも気軽に証拠品に手を触れるから、いつか指紋採取されるんじゃないかと心配になりますね。いや、むしろ実はもう指紋サンプルが採取されているのかもしれません! 追いかけているのはノーパン刑事みたいなのばっかりじゃないですからね。というか、むしろノーパン刑事は逮捕に積極的ではないから、警察に本気で目を付けられたら危険です。
>が、まずはこの場をどう過ごすか、注目です。……と言っている間に、パンツイッチョマンは生食ボトルを置いて元の場所へと戻って行きます。
>そこには、いつの間にか戻ってきていた頭蓋骨博士の姿があった。ぼんやり光る体と立っている場所も先程と同じだ。
頭: なるほど。同時ではなく、時間差攻撃であったか。
>頭蓋骨博士が白衣のポケットに両手を入れ、戻ってきたパンツイッチョマンに語りかける。パンツイッチョマンもさすがに足止めると、そちらへ顔を向ける。
頭: 右手が先に入り、首が被害者にとって時計回りに流れたところに、左手の一撃が急激な逆回転を強いる。このギャップの大きさが脳震盪を発生させる。これが、イッチョマン・ダブルスラップの真髄。
>記憶力に優れた視聴者の方なら既にお気づきのことだろう。私はさっき、「あれ? そういえば……」と思い、実況をしつつメモでスタッフに確認を取ったところ判明した事実をお伝えしなくてはならない。
>「『イッチョマン・ダブルスラップ』……聞いたことがあるなぁ」と思っていたんですが、『ダブルイッチョマン・スラップ』が過去に使用されていたようです。どこで、かは今関係ないので省きますが……あ、気になりますか? では、戸羽公園の花見騒動で使われていました。
>で、問題なのは、『イッチョマン・ダブルスラップ』と『ダブルイッチョマン・スラップ』が似て非なるものなのかどうか、です。結論から申しあげると、わかりません! なんせ言っているのはパンツイッチョマンですからね。意図的に使い分けているかも知れませんし、思いついた言葉を口にしているだけかもしれません。個人的には後者の可能性が大、かと思います。
>気になってモヤモヤしていた方はスッキリしましたか? では、続けましょう!
P1: 人を凶暴化させる薬は、まだ保管しているようだな?
>パンツイッチョマンは、頭蓋骨博士の話をスルーした。分析結果を語られても「何となく」戦った可能性が高いパンツイッチョマンには答えようがないのだろう。
頭: いかにも。して、いかがする? この私を倒して奪い取るか!?
>バッと両手をポケットから出すと、それを前に伸ばして構える頭蓋骨博士。
>これは見事なへっぴり腰だ! 小学校で整列する時にやらされた「前にならえ」のポーズを、体を斜めにして左手を先に出し、そのうえで妙な角度に腰を曲げた姿勢だ。どうだ! カッコ悪いだろう。
頭: ほれほれ、掛かって来い!!
>挑発する頭蓋骨博士に、パンツイッチョマンの態度は冷たい。しばらく無言で見つめた後、ポツリと言う。
P1: 立体映像だろ。
頭: かーっ、ノリが悪い! そこはイッチョマン・スラップとやらをして、それがこのビジョンを通り抜けて「何っ? ホログラムかっ!」とか言う方が盛り上がるだろうが!
>そう。賢明な視聴者の方なら既にお気づきのとおり、頭蓋骨博士は|立体映像だったのだ。全体がぼんやり光ったり、突然姿が虚空に消えたり、そのわりにはいつも同じ場所に立ったままだったりしたのは、足元の装置が写し出す遠隔画像だったからだ。
P1: しかし、本体はそれほど遠くない場所にいるな。
>小芝居を止めて背筋を伸ばすと、頭蓋骨博士はまた両手を白衣のポケットに入れた。
頭: ほほう。そう言い切る根拠は?
P1: 点滴に使っていた生理食塩水が半分ほど残っていた。普通に考えれば、一時間の投与。しかし、ナースではない貴様なら、待てずにそれより早く滴下していてもおかしくない。被験者に麻酔を投与して眠らせた後、点滴に混ぜて薬品を投与し、移動。そして、今、その送信場所にいるのだろう。
頭: ふむふむ。なかなかの推理力。このやり取りにほとんど遅延がないことから、私が関東一円のどこかにいるのは自明。そこから、一時間の移動範囲内とは、推定できる居場所はかなり狭まってはいる。しかし、それでも探す場所は広大。お前に私は見つけられまい。
>しばし、静かに見つめ合う二人。睨みを利かせない冷静さが、こういう頭脳勝負においては、より迫力が出るものなんですね。
>先に視線を切ったのはパンツイッチョマンだった。背を向けると、首だけ少しめぐらせて言う。
P1: 警告しておくぞ。生身で出会えば張り倒す。そうされたくなければ、薬を廃棄して、悪の道から足を洗うことだな。
頭: ほほう、怖い怖い。だが、薬を廃棄したところで、私はまた作れるぞ。さすればどうする? 私を止める為に殺すのか?
>おっと、これはいきなりとんでもない議論の展開をし始めたぞ。お子様も見られる番組なので、人の生き死にについてはちょっと距離を置きたいですね。PTAが何かと……ええ、はっきり言っちゃいますと煩いですから。
頭: ふふふ。答えられまい。そこがお前の考える正義の限界。悪とやらを取り除くためには、悪の手法を使うしかない場合もあるのではないのか?
>パンツイッチョマンが頭蓋骨博士に向き直る。
P1: 少なくとも貴様相手には、反省してもらうまで何度でも繰り返し張り倒すつもりだ。
頭: それも一つの答えだが、やはり限界が見えるな。……まあ、よい。別にお前と正義の問答をするつもりはないし、興味もない。ただ、その活動を続ける以上、先ほど示した問題点にはいずれ直面するぞ。
P1: ……警察を利用する。
頭: ふむ。一歩前進かな? しかし、お前のいわば「社会に対する危機の予知能力」には、警察組織が重視する証拠主義と関わりが薄いのではないのか? 「悪者を張り倒したので牢屋にぶち込んでください」と示して、警察が「ありがとう」とは受け取らない。むしろ、お前の方こそ捕まえなくてはいけない存在になるだろう。……ん? どうやら既にそうなっているようだな。
>パンツイッチョマンの態度から、推理を付け加えた頭蓋骨博士。パンツイッチョマンが警察に追われている事実は読者の皆さんもご存じのとおりだ。
P1: しかし、彼らを待っていては、間に合わない時があるのも事実。
頭: なるほど。いわば、覚悟の上の犯行を重ねているわけか。それで言うと、私も大して変わりはしない。正直なところ、私はお前のことが気に入り始めている。バカ丸出しの格好をしているから、その程度の男なのだろうと思っていたが、なかなかどうして理屈のわかる男だ。しかし、世の中は好きや嫌いだけで物事を進められないものだ。私にもそれなりのしがらみがあり、お前を……倒さねばならない理由があるのだ。
P1: ……カイツミという者からの依頼か?
>これまで冷静に話し合っていた頭蓋骨博士が急に乱れる。
頭: え!? どうしてそれを? ……あれ? もしかして、どこかで言っちゃってた?
>静かに頷くパンツイッチョマン。
P1: 養老の滝についての話あたりで。
>パンツイッチョマンにとっては、養老家ではなく、滝の方が印象に残っていたようですね。銀子先生、残念です。
頭: そ、そうか。ぐぬぬぬ……やはり関わるとろくなことがないではないか、養老家。
>養老家はすごい悪い存在という印象のようです。正直にもうしますと、私も養老家はそっち寄りの感想です。
頭: ……聞いていなかった事にはできないか?
P1: できない。
頭: あ、やっぱり……。
P1: しかし、ずっと覚えておけるかどうかは別だ。覚えておいて良い事なのか?
頭: いえいえ、全然。私なんかもう覚えていませんから。なんでした? 貝柱? 貝塚? 石塚だったかなあ?
>白々しく、貝積から離しに掛かる頭蓋骨博士。しかし、依頼人の名前についてうっかり口を滑らすなんて、ぜったいダメな失敗ですね。場合によっては「もう殺すしかない」という展開にまで行きかねないですから。しかし、そこまで行くのが目的の暗殺者でさえ、依頼人の名前を告げるのは、きっと本来ありえない失敗です。でも、そういう作品を視聴者の方々は、どこかで見た経験があるかもしれません。そういう事例はおそらく、依頼人の名前を教えるのまでが依頼のうち、なのでしょう。
P1: いや、カイツミだったぞ、確か。
>忘れているのを真に受けての通知なのか、それとも嫌味なのか。いずれにせよ、頭蓋骨博士はがっくり肩を下ろすと、姿を消した。もちろん、パンツイッチョマンも背を向けて歩き出す。いつもパンツイッチョマンは帰るのが早い。
頭: パンツイッチョマン。
>数秒後、ふらりと現れた頭蓋骨博士が声を掛けると、パンツイッチョマンは一旦足を止める。しかし、振り返りはしない。
頭: いずれにせよ、私はお前のパンツをもらい受ける。そういう約束なのだ。公衆の面前で恥を掻きたくなかったら、もう危うい活動を止めろ。お前が私を止められない以上、お前に勝ち目はない。
P1: そうだとしても、私は、私を呼ぶ声が聞こえる限り、歩みを止めるつもりはない。それに、その歩みがいつか貴様の元に辿り着く未来もありうる。
頭: ふふふ。そうだな。未来を予測するのは難しい。いかにお前が部分的な予知能力を持とうとも。いかに私に優れた頭脳があろうとも。
P1: 頭蓋骨博士、貴様とはまた会うことになりそうだな。その日まで、さらばっ!
>言いきると走り出し、止まったままの自動扉の間を抜け、いずこかへ消えていくパンツイッチョマン。急に駆け出した理由は、遠くから聞こえてきたパトカーのサイレン音のせいかもしれない。
>片や、この場には居ない頭蓋骨博士に焦りはない。いや、警察が乗りこんで来たら、何かとマズいだろうと思うのだが……。もしかすると、乗り込まれない自信があるのかも知れない。なんせ、頭蓋骨博士の裏にはオルヒトの貝積社長が居ますからね。権力者はヤバい圧力を利かせられそうです。
>あるいは、単に警察に踏み込まれるという展開が思い浮かんでいないのかもしれません。ある種の人は「自分は大丈夫」と思い込みやすいですから。いや、規模が小さいことを含めれば、そういう心情は誰にだって持っている性質かもしれません。
頭: パンツイッチョマンか。思っていた以上に面白くなりそうだ。
>頭蓋骨博士は「ふふふ」と笑うと、その場を離れて姿を消し、やがて床から照らし出されていた光も消えた。倒されたまままの破壊者は、やっぱり放置だ。後頭部を打っているから本当はかなり危険なんですけどね。大丈夫なんですかねぇ。
>と思いつつも、こちらも目覚めるまで待つつもりはないので、放置してフェイドアウトするのであった。
>頭蓋骨博士。ついに、『文明の○○ パンツイッチョマン』にも悪の科学者が登場となり、特撮アクションっぽくなりましたね。
>あ、ちなみに今の映像は、ヨーロッパの鉄道からの風景を映しておりますので、そちらをお楽しみください。……はい。こちらからは詳しい描写をするつもりはないですよ。音声多重(以下略)の達人鑑賞者向けの情報でした。
>悪の科学者自体は良いのですが、前回終了時では、『パンツイッチョマン VS 大企業社長!』という構図を予想していたので、その流れから考えると、期待外れでした。その社長が、外部に依頼して、外注された悪の科学者が今後怪人を送り込むんだろうなぁ、と考えると、「元請け→下請け→孫請け」の構造が透けて見えますね。日本の企業的な流れってどこでもこうなっちゃうものなのでしょうか? それに裸一貫で立ち向かうパンツイッチョマンは、日本の構造社会に対する挑戦というメッセージが……込められているわけはありませんね。
《次回予告》
ついに敗れる、パンツイッチョマン!
立ち塞がるは、異形の存在
圧倒的な破壊力の前に、半裸の英雄も命の瀬戸際
危うし! パンツイッチョマン!!
そこに、現れたるは、流浪の侍
次回、『参上! 忝い侍』
パンツ洗って、待っときな。