戦慄! 骸骨博士 3
ナレーター(以下、「>」と表す): なんだかんだで今回も三週目突入ですね。最勝寺先生は「今後は三週ワンセットでいこうかなぁ」と言っていましたが、あの人が有言不実行の人だというのは視聴者の皆さんも知っているとおり。私が「へえ。そうなんですか」と言いながら聞き流したのと同じく、皆様もスルーしておいてください。
>今回のサブタイトルを見て気付いたのですが、『戦慄 骸骨博士』の「戦慄」部分は、先週の銀子先生だったようですね。こういう場合、視聴者の方々が戦慄させらるのか、と考えちゃいますが、まさか骸骨博士が戦慄させられるとは……。いやぁ意表を突かれました。……あ、視聴者の方々も銀子先生に恐れ慄きましたか? では、そういう意味でもタイトルは正しかったのですね。
>恐いと言えば、銀子先生が対パンツイッチョマン側に付いてしまうんじゃないか、というのもハラハラしましたね。最終的に同盟は決裂したようでしたが、銀子先生にはパンツイッチョマンの障害となるリスクがあるというわけです。今後も、二人の関係にある意味目が離せなくなりましたね。
>で、肝心のパンツイッチョマンですが……。おや、今回の舞台も薄暗い……おそらく銀子先生がパンツイッチョマン誘き出し作戦を展開した、閉鎖された元飲食店のようです。
>その、もはや動かなくなった自動扉を強引にスライドさせて、中に入っていくのは体のラインがやけにはっきりし過ぎな黒い影。扉に貼られていた「関係者以外立ち入り禁止」という紙を無視しているあたり、きっとあの人であろう、と視聴者の皆さんも思っておられるでしょうが、いつものように名乗りまで見守りましょう。
>ヒタヒタと裸足特有の足音を立てて、部屋の中央へと進み出る黒パンツ――って暗くては見えないのでしたが、きっとはいているに違いないと言ってしまいました。正しくは、黒い影です。その黒い影は、以前銀子先生が椅子に縛られていたあたりまで来ると立ち止まる。
>これはもしかして、時間差なのか? あれから、えーと……数日経っていますね。銀子先生の「助けて!」が届くのにそれだけの時間が必要だったのか? デタラメな世界設定なゴツゴウ・ユニバースならありえそうですが、いきなりそんな設定を打ち込んできても旨味はなさそうだ。どういう事だろう?
嗄れた声: よもや! ……直接、ここに現れると思っていなかったぞ!
>えーと、この声は魚図博士ですね。実は、最後に「パンツ何某」と相手の名前を呼びかけていましたが、いつものように本人からの名乗りがあるまで無視です!
>黒い影が声がした方向に振り返ると、やはり白衣を着たボサボサ白髪の魚図博士の姿がぼんやりと光に照らし出されて立っていた。
魚図(以降、「魚」と表す。): 貴様と遭遇するために、随分と回り道をさせられた。万引き、引ったくり、恐喝、傷害、その他諸々の犯罪現場に姿を現さなかった貴様が――
黒い影: それらの犯罪を犯したのか!?
>怒りのこもった声で横槍を入れられ、魚図博士は慌てて片手を自身の顔の前で左右に振る。
魚: ば、バカにするな! 社会の発展を促進する科学者が、直接、反社会的行為をするわけが無かろう。
黒い影: 直接か。では、誰かを指図したのか?
魚: ふふ。さすが、目の付け所が良いな。その可能性を放棄してはいない。しかし、先に語った犯罪に私は直接関与していない。
黒い影: 直接?
魚: あ、今のは違うぞ。何というか、口癖みたいについ口から出てしまっただけだ。深い意味はない。……ついでに言及しておくと、「直接」という単語が私の口癖というわけでもない。あくまで口癖みたいだからな
黒い影: では、どういうつもりの発言だったのだ?
魚: それは、科学の基本的姿勢の一つ。観察だ。先ほどの犯罪群は、発生した現場に予めカメラを設置し、それを録画して見直しただけだ。ついでに言及しておくと、どの現場にどういう事件が発生しやすいかは、集積された犯罪データの解析より導き出した。解析。これも、科学的手法の重要な一要素であるな。
黒い影: では、その解析方法は防犯に役立てそうだな。
魚: ふふふ。
>魚図博士は白衣のポケットに両手を突っ込み、肩を揺すって笑ったが、数秒後その動きを止め、片手を出すと自らのおでこを押さえる。
魚: いや、今のは少し盛った。実際のところ、こちらが新たに見つけられたら犯罪は二カ所だけだ。それ以外は過去の犯罪映像を見直して、そこにお前が映っていないかどうかを確認した。
>ここまではまるで俯き加減で反省するような様子だったが、急に頭を上げると、半ばキレたように話し出す。
魚: ……そりゃあそうだろう。いちいち犯罪行為が起きていたかどうか見直して確認するのは多大な手間だからな。既にフィルタリングが済んだ記録映像を見る方が効率的だ。あまりにダラダラと映像を見返すのが面倒で、自動判定記録のプログラムを書いてしまったくらいだからな。
黒い影: そこまでして何が目的だ? ……私に会いたいというより……そうか。科学的解析、というやつか。
>警戒心を高めたのか、ハの字の構えをする黒い影。というか、そんな事より早く名乗って欲しいんだよな。オジサンは。
魚: いかにも。お前の力がどれほどのものか。弱点はどこにあるか。それらは直接会わずとも観察できる。……であるが、直接観察ならそれはそれで、得られるデータは多い。だが、その前に!
>ビシリと黒い影を指差す魚図博士。
魚: なぜ、今になってここに現れた!? ……もしかして、養老家の娘の声が時間差で届いたと言うのか?
>勢いのあった魚図博士の指差しが、疑問の重さからか下がる。それに、フロントラットスプレッドの姿勢で答える黒い影。というか、もしかしてこのまま名乗りのないパターンか? そうなのか?
黒い影: 養老? 養老と言えば、逸話の『養老の滝』くらいしか知らないが。
魚: それが、全く無関係でもないようでな。……いや、それについては問題ではない! あの女が貴様の出現と関係がなかったなら、接触して恐ろしい目に遭ったのは丸々損ではないか! 調べてわかったが、養老家! あれは日本の暗部ではないか! もう二度と関わりたくないわ!
>さすがは研究者と言ったところか、養老家の情報にある程度アクセスできたようですね。もちろん、学術的な経路ではないと思いますが……いや科学界も案外潜れば底が深いのかもしれませんね。
黒い影: それは……私にその悪の組織を潰せという依頼か?
魚: いや、違う。……いや、そうしてくれるならそちらの方がいいのか? ……しかし、調べた限り、悪の組織と断じるには筋違いのような……必要悪といえばその範疇に入る気もするが。
>相手の発言に意外に考えさせられたようだ。ブツブツと独り言を唱える魚図博士。すると突然、ブルブルと首を左右に振った。
魚: いや、いかんいかん! 何かの拍子で私が指図したとわかれば、私だけでない、貝積まで危険に晒される。
>世界的に有名な企業の社長の身が危うくなるなんて、どんな影響力があるんでしょうね、養老家。……もちろん、恐いのでこちらから掘り下げることはしません!!
魚: ええーい! さっきから……ちっとも私の質問に答えておらぬではないか? こちらがお前に会うために涙ぐましい努力をしたと質問に答えたのだから、今度はそちらに答えてもらうぞ。
黒い影: ……質問?
>そうですね。間に養老家問題を挟んでいたので、ぶっ飛んでしまいますよね。
黒い影: 私が現れた理由だったな。それは何となくだ!
>バンと胸を張る黒い影。うん、「何となく」と言うのはどこかで聞いていたから、こっちは知っていますが、改めて考えると、何となくこんな格好でアチコチ――というか侵入禁止領域まで入っているんだから、恐ろしいですね。
魚: 何となくだと! そんなあやふやな回答があるか! 論文でそんな事を書いてみろ。全く相手にされんわ! ……定量的定性的にまでとは言わんが、ほれ、何となくの底にはそれなりの理屈があるだろう。そこを聞いておる。
黒い影: 何となくの先……しかし、やはり何となくしか見当たらないな。強いて別の表現をするなら、ここに呼ばれている気がした。何か事件が起きそうだ、と。
>結局、話は平行線のようです。むしろ、「呼ばれている」と言う表現から、やっぱり銀子先生の声が聞こえていたのかもしれない、とか思っちゃいますね。パンツイッチョマンからはそれは否定されたばかりのようでしたが……って、あれ? 意外にも、魚図博士、考え込みつつ頷いています。
魚: なるほど。無意識下の未来予測かもしれんな。「事件が起きる」という限定での未来予測か。……大門さんも、未来予測についてそのように論じていたな。
>おっと、二重にビックリだ。無駄と思えていた返事を掘り下げた対応に驚かされ、さらに、おそらく大門博士の知り合いらしいです! あ、大門博士というのは、ゴツゴウ・ユニバースでの偉い科学者で、専門の一つが異能研究と……あれ? 視聴者方々の中から「知っている」という声が聞こえますね。ん? ……語句説明で出て来ることがあったんですか? ああ、それで。知っていたら話が早いですね。あの恐ろしいお爺ちゃんです。……あ、そこまでは知らない? 幾つか話を聞いただけ、な感じなんですね。はい、それは良かったです。直接会わない方がいいですよ。少なくとも私はごめんです。
黒い影: 心当たりがありそうだな。やはり、貴様も文明に仇なす者か。……名を聞いておこう。
>いや、違う。そこは――
黒い影: いや、その前にこちらが名乗るのが礼儀か。
>はい! そうです。よろしくお願いします。
黒い影: パンツなくして光明なし。私は文明の灯台守。
>キター! もう飽きて寝てしまったお子様も起きて一緒にポーズを取ろう!
黒い影: パァァァーンツ――
> 天に向けて伸ばされる右手の人差し指。それが、左右と振られながら下がります。
黒い影: ――イッチョマン!
> 右腰で手が払われると同時に突き出される左手。その手の人差し指も立てられているぞ!
♯ バン! バン! バン!!
>左右正面の三連ズームイン。 あ、ちなみに「バン!」と鳴っているのは当スタジオが勝手に入れている効果音で、向こうで実際に鳴っているわけではありません。
♪ チャラッチャラッチャラッチャラッチャッチャー、デケデケドンデケデケドン……
(中略)
♪ パァアンツゥーーー、チャッチャッー、イッチョマ~~ン!
>はい。この音楽も向こうでは鳴っていませんよ。あ、今までこの説明していなかったから、もしかしてパンツイッチョマンが自分で歌っていると思っていた方が居ましたか? まあ、居たら居てもいいですよ。そんな事をしかねない変な奴だ、という点では間違っていませんから。
魚: 何が『文明の灯台守』だ! 文明を照らし見守ってきたのは紛れもなく科学ではないか!
パンツイッチョマン(いつものように、以降は「P1」と表す): ……文明論争に入るのはいいが、そちらの名乗りはいいのかね? 貴様もいつまでも貴様呼ばわりはされたくあるまい。
>なんかすごい矛盾を感じる問いかけですね。「貴様呼ばわりされたくないだろう」というあたりは表面的には配慮のある発言ですが、その問いかけの中に「貴様」という呼び掛けが入っているなんて……。理屈としては間違ってないけれど、心理的には間違っていると思います。
魚: な、名乗りか。……いや、研究者は自分の名前を公表する事には慣れており、拒否感は薄い方だと思うが、さすがに今回は躊躇わされるというか……。
>あら、あっさり受け入れましたね。「貴様、貴様、言うな!」と怒りそうなものなのに。こっちはむしろ感情ではなく理論で行動する科学者だからうまく流れたようです。……いや、パンツイッチョマンがそこまで読んでの発言とは思えません。単なる偶然でしょう。
P1: 実名である必要は無いのだぞ。
魚: いや、そのルールはお前の名前を聞いていればもちろんわかるが、実名ありきの世界で生きていた者がいきなり渾名と言われてもすぐには……。
P1: 過去に本名以外に呼ばれた経験はないのか?
魚: ふむ。そう言えば……子供の頃、痩せていたので骸骨と呼ばれていたな。ならば、骸骨博士ではどうじゃ!
>ここに来てようやくタイトルの回収ですね。もうできないだろうと気を利かせて、先にこっちが骸骨博士と呼んでいましたが、本人もそう言ってくれれば当然スッキリします。
骸骨博士(以降、「骸」と表す。): ははは、これはなかなか面白い。子供の頃、私をバカにしていた呼び名が社会を震え上がらせる名前に繋がるとは。
P1: 苛められていたのか?
>少し心配そうな声で聞くパンツイッチョマン。イジメられっ子が歪んで育ち、社会に復讐していたなら、なかなかの同情を誘う悲劇だ。
骸: ん? 虐められていたのか? ……そう言われれば、そういうつもりだったのかも知れないな。しかし、それより前に、私の方からバカな連中を見下していたから、今までそう思った事はなかったぞ。
>おっと魚図博士、改め、骸骨博士は、細い体つきとは違い、神経は図太いようだ。視聴者の方の中に、もし「あんなマッドサイエンティストに負けたくない」と思う方がおられたら、精神的にタフになるきっかけになれて幸いです。
骸: ……ぬ? 何だ? 自分より良い名前を付けられて、悔しいのか?
>骸骨博士がそう言ったのは、パンツイッチョマンが僅かに首を傾げたからだ。確かに、少し何かが気に入らない雰囲気だ。
P1: いや、貴様がそれで良いのなら良いが、骸骨博士だからドクター・スケルトンで良いのか? しかし、これでは少し締まりが悪いのが気になっただけだ。うむ、貴様が良いなら良い。
>気になる言い方です。これでは、気に入っていても骸骨博士で本当に良いのか、考えさせられます。ちなみに、私には、パンツイッチョマンの言う「締まりが悪い」という感覚がわかりません。おや? 表情を見る限り、骸骨博士もよくわかっていないようだ。これはどうやらパンツイッチョマンの語感の問題と言えそうだが、私と違い、パンツイッチョマンと一対一の骸骨博士は、自身が多数派という認識がないので、私のように「あ、キミの感性の問題だね」とサラリとかわせない。
>いや、英語に自信があれば一対一でも自分の感覚を押せるのでしょう。しかし、辞書にもなかなか表現しづらい言葉の相性について、日本の英語教育を受けた者にはそう簡単に、胸を張って受け止められる土台はできていないでしょう。
>だから日本の英語教育がダメだ、などと偉そうな事を言うつもりはありません。この手の感覚は、英語圏に行って生活の中で身につけるしかないでしょう。その行く先々によって正解が変わるのだから、教育として一律に教えられないのです。
骸: そ、そうか? ……確かに、ドクター・スケルトンでは何か引っかかるようなものを感じる気がするな。
>「感じる気がする」というぼんやりし過ぎた表現に骸骨博士の自信のなさが現れています。
骸: ……では、頭蓋骨! 頭蓋骨博士ならどうだ? スケルトンよりキレが良かろう。ん? ……なんだ、今度も何か言いたそうだな。
P1:確かに、ドクター・スカルなら締まりは良い。しかし……ありきたりだな。既に何かの作品でドクター・スカルは存在していそう――
骸: ――やかましい!
>あ、キレた。そりゃあ、まあ、機嫌も悪くなりますよね。普通の人なら既に何度か気分を害しているか、会話の継続を諦めていてもおかしくなかったので、これくらい許してあげましょう。
骸: 人が考えた名前に次から次へとケチをつけおって。……そもそも、何だ! どうして、英語の語感を気にせねばならぬのだ。ここは、会話のほとんどが日本語でなされている日本だ! グローバル化だの何だの言うものには確かに英語は無視できないが、私の活動はむしろ公にすべきものではない。ゆえに、グローバル化に対応する必要もないのだ。
>怒りにまかせて一気に言い切る骸骨博士。……あ、そういえば、今はドクター・スカルなのかな? 対するパンツイッチョマンは、言われているのにあまり受け止めていない様子。自分に対してというより、日本人の英語コンプレックスの問題とでも受け止めているのだろうか。
>これは、叱っても自分の事ではないと聞き流す今時の新入社員のようだ。……ちなみに、そもそも今時の新入社員は叱るのも大変だ。すぐにパワハラだと騒ぎ出すからだ。もちろん、怒りの矢が飛び交う職場より、冷静で理知的な職場の方が理想ではあるが、そもそも叱られるようなミスをしたことを反省しない、それどころかミスを認めようともしない姿勢が問題なのです!
>……すみません。ちょっと熱くなりすぎましたね。もちろん、最初からしっかりできる若者もたくさん居るんでしょうけれども、そうではない新入社員を引いた現場は大変なんですよ。
骸: よし、和名でいくぞ! 頭蓋骨博士だ! 「ずがいこつ」ではなく「とうがいこつ」だ。医学的であろう! これなら何かの真似だと言われないに違いない!
P1: それで良かろう。では、あらためて、頭蓋骨博士、貴様の狙いは何だ!!
>ビシリと左手の人差し指を向けるパンツイッチョマン。それにちょっと戸惑う頭蓋骨博士。
>確かに、複数ツッコミ所が存在しました。まず、「ドクター・スカルを止めて、頭蓋骨博士にする」と言った直後に、やっぱりドクター・スカルと言われたショック。これには、普通はすぐに「お前、聞いていたのか!?」と怒っていい場面でしたが、頭蓋骨博士の表層思考を読んだところ、「いや、これは、頭蓋骨博士を英訳して話しているのか?」と考えてしまったようですね。そう考えてしまったのは、パンツイッチョマンの発音がネイティブみたいだったからですが、私は考え過ぎという気がしますね。なまじ、頭の回転が早いと、言葉が出てくる前に考え直しが発生するんですね。
>もう一点は、「貴様呼ばわりしないための呼び名」だったはずなのに、やっぱり「貴様」と呼ばれた衝撃。これは、バカにされているのか、それとも理屈が通用しない相手と会話しているのか、判断に困っているようです。特に後者であれば、頭蓋骨博士の身の回りにいないタイプになるので、むしろ相手にしたくないと感じています。しかし、そもそもパンツイッチョマンを罠に嵌めようとしていたのは自分、という矛盾。
>これらの思考が一気に押し寄せて、さすがの頭蓋骨博士も軽いパニック状態に陥ったわけです。
頭蓋骨博士(もう、何だよ! 以降、「頭」と表せばいいんだろ!): いや、そ、それは……ええーい、違う!!
>ブルブルと頭を振ると、頭蓋骨博士は仕切り直す。パンツイッチョマンを指差そうとして、それだと相手と被る、と気づいたのか、両手をまた白衣のポケットに突っ込む。
頭: パンツイッチョマン、今日が貴様の最後の日だ! そのパンツを剥ぎ取って、ノーパンマンに変えてやる!
>これに、微妙な沈黙でもって応じるパンツイッチョマン。パンツイッチョマンの思考はいつもと同じく読めないが、おそらく「ノーパンキャラは別にいるのに」というようなものなのでしょう。しかし、頭蓋骨博士はもちろん、ノーパン刑事なる変人、じゃなくて異能者の存在を知りません。ちょっと「パンツイッチョマンがノーパンマンに変わる、ってうまく言えた」というドヤ態度なのも、腹立たしいけれど、仕方のないところ。
>だが、ここで振り返って考えてみれば、当初、最勝寺先生は「ノーパン刑事じゃなく、ノーパンマン」と度々ゴツゴウ・ユニバースの流れに反していましたが、あそこで最勝寺先生が流されてしまったおかげで、頭蓋骨博士が「ノーパンマンだ!」と主張しても、あまりややこしくない展開に落ち着けましたね。もしかして、最勝寺先生は「ノーパン刑事じゃなくて……」と言いながら、ノーパンマンとノーパン刑事の二つを私たちに印象的に覚えさせていたのではないでしょうか!? 既にあの時から、この頭蓋骨博士の登場まで見通せていた大作家なのではっ!?
>――んなわけないですね。あの人は行き当たりばったりなので。そもそも、骸骨博士もタイトルで使用させたから、そう自称させるつもりだったのに、頭蓋骨博士と変な着地をしちゃいましたからね。作品の展開なんかを操れる人ではないのです。
P1: 私が狙いだとしても、それだけでは筋が通らない。確かに私は文明の平和の象徴的存在であると自認しているが、象徴であって文明社会そのものではない。つまり、私は私自身の異変を事前に感じ取れるとは思えない。
頭: ふふふ。良い所に気が付いたな。明智くん。
>あ、パンツイッチョマンの本名が出たと早合点してはいけませんよ。お爺さんに近いおじさんの中にたまに混じっている、子供の頃に読んだ怪奇冒険小説に強い影響を受けたままの人がいるのです。これは、きっと頭蓋骨博士は自身を怪人ナントカ面相に当てはめているのでしょう。
>そういえば、最勝寺先生も「パンツイッチョマンは登場すれば話が終わってしまうから明智小五郎みたいな存在だ」と言っていたので、一致しましたね! 「そんな一致くらい、作者だったら簡単じゃないか」と思う方がおられるかもしれませんが、最勝寺先生はそんな器用な人ではないのです! ……あ、もう第二シリーズまでお付き合いしている方々なので、大半の人は「うん、知ってる(冷めた目)」状態でしたね。
>しかし、登場すれば終わると言っていたのに、実はもう放送時間終了が迫っているのであった。ちっとも終わらないじゃない! そう言えば、冒頭で言っていましたね。「これからは三週で一回のペースで」とか。あれはいわゆるフラグでしたね。もう一度言っておきましょう。「うん、知ってる(冷めた目)」
頭: パンツイッチョマン、お前が反応したという世界の危機は、この天才科学者、頭蓋骨博士の事だと言ったら、どうする?
P1: それには、「いや、きっとそうではない! 貴様そのものではなく、その開発した何かが危機なのだろう」と答えよう。
頭: ……ま、まあ、そうだけれど、もうちょっと発明品と科学者を同一視してくれてもいいんじゃないかなぁ。
>ちょっとベソをかいたように弱った頭蓋骨博士だったが、またボサボサ頭を振ると威勢を取り戻す。
頭: そう。私は、発明してはいけない物を発明してしまった。それは、いわゆるヒーローを生み出す薬だ!
P1: 何っ!!
>お、これには素直に驚くパンツイッチョマン。ようやくコント的展開から、緊張感の溢れるバトルに突入するのか!?
頭: その薬を使えば、まあ、母数が未だ少ないのではっきりとは言えないが、予測として健康的で標準的な身体能力を持つ成人男性三人に一人が、ヒーロー並みの身体能力を手に入れられる。……成人男性と制限したのは、別に女性を蔑視しているからではないぞ。むしろ、危険な人体実験に晒すのは忍びないから……
P1: 科学的な厳密性はこの際問わない! その薬、事実であるなら、確かに社会を混乱に陥れかねない。正義の心を持つ者だけが強くなるわけではないからな。しかし、今の情報だけでは、まだ薬にも毒にもなる中立的な代物。私の、全開スキンセンサーは、そのような曖昧な危機は感じ取れない! まだ何か、隠していることがあるな?
頭:いかにも。この薬品は、まだまだ、まだまだ調整不足で、色々な副作用を内包しているのだ。ゆえに、私はこの薬を世に出すことはしない! 社会が乱れるのは、社会に貢献する科学者の本質に大いに反するからな。
>また微妙な沈黙が流れる。散々煽っておきながら、「やっぱりやーめた」と言われたような感じだからだ。あるいは、ちょっと狂気の方向に歪んでいるが、頭蓋骨博士は賢いので常人の私たちでは、彼の言いたいことに理解が追い付いていないだけなのだろうか? ……あ、視聴者の方も含めて「常人と決めつけるな」ですね。あ、いや、そちら向けではなくでスタジオスタッフとしての「私たち」のつもりだったのですよ。ええ。
P1: 結局、何がしたいのだ?
♪ ピピピピッ、ピピピピッ……
>突然、小さな電子音がすると、頭蓋骨博士の姿がふいに消えた。数秒後戻ってくると、不敵な笑みを浮かべていた。
頭: パンツイッチョマン。私が、どうしてこれまでバカげた会話を続けていたのかわかるか?
P1: 時間稼ぎか?
頭: そ、そうだが。……もしや、気付いていたのか?
P1: いや。そう問われたら、そう考えるのが普通ではないのかな?
頭: ……ま、まあそうなるな。そうだ。いかにも、時間稼ぎ。先ほど、副作用の話をしたが、その一つが狂暴化でな。身体能力が高くなったはいいがそれを創造的な作業に向けられず、ただただ破壊行動に消費される、という社会にとっては害悪にしかならない、とっても困った副作用。 本来は、この狂暴化似非ヒーローを世に放つことで、パンツイッチョマン、お前をおびき出す作戦だったが、その準備場所に乗り込んで来るとは好都合。社会にご迷惑を掛けずに、お前のパンツを奪い取れるという結果に繋がりそうだな。
P1: なるほど。貴様は、怪人を生み出す悪の科学者だったわけか。
頭: そう。そうとも。私は悪の科学者、頭蓋骨博士! そして、その実験作第一号が、薬の効果が十分に効いているはずのこいつだ。出でよ! ……
>ここで頭蓋骨博士の動きが止まる。どうやら、パンツイッチョマンとすぐに激突すると予想していなかったから、送り出す怪人の名前を決めていなかったようだ。
頭: 出でよ! 破壊者!
P1: それもありきたりな名前だな。
>私も思ったことをパンツイッチョマンが遠慮なく告げる。頭蓋骨博士自身、そう思うところがあるのだろう、聞こえなかったかのように流した。片手を一方に振ると、その手にいつの間にか握っていたボタンスイッチを押す。
男の声: イデェェェ!!!
>奥の暗がりから悲鳴が上がる。ドタバタと動き回る音がしたかと思うと、そちらから黒い塊が飛び出してきた!!
>と、今日はここまで!
>最勝寺先生は「ここで切ってしまうと、来週分は従来の半分くらいになっちゃうなあ」と言っていましたが、どうなることやら。いつも想定時間より伸びていますから、まあ信用せずに待っていてください。
>では、また来週~~!