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戦慄! 骸骨博士 1

ナレーター(以降、「>」と表す): 都内のある建物。地元の子供に「のっぽ豆腐(とうふ)」と呼ばれるほど、四角く白い壁が目立つ四階建てで、窓は少ない。一面には大きなシャッターがあるが、ここも白く塗装されていた。ここは地元っ子たちに「豆腐(とうふ)の口」と呼ばれている。

>あ、もう地元の子供目線はいりませんか? では、そこを抜いて、もう建物に入っちゃいますね。突撃! 隣の豆腐(とうふ)(めし)!!


>そこは様々な機械が備えられた実験室だった。中央付近には二つの机、黒い天板の机と机上棚が真ん中に立てられている白い机だ。その脇に、ロボットが立っていた。丸い頭部があり、胴体から伸びたアームに付いた長めの刷毛(はけ)で、机を拭いていた。


(しわが)れた男声: おぉ、来たか。


>声を掛けられた相手は入口に立っている男性だ。サングラスを外して胸のポケットに入れたのは、バイカースーツの姿の貝積(かいつみ)呉酒(ごしゅ)。有名アパレルメーカー「オルヒト」の社長だ。サングラスの下には、()れぼったい(まぶた)と細い目。そして、薄い眉毛も印象的だ。――って、いつもより描写し過ぎましたね。視聴者さんの自由想像枠を圧迫(あっぱく)するべきではなかった。イケているオジサマ、いわゆるイケオジが好みの方は()り替えてください。というか、さっきの特徴(とくちょう)を備えていても、イケオジじゃないわけではないですから。


貝積(かいつみ)(以降、「貝」と表す): そんな所で何をしている? 魚図(うおず)


貝積(かいつみ)社長が見上げる先にあるのは、大きな冷蔵庫、あるいは冷凍庫か。その上に、白衣を着た老人が横たわっていた。ボサボサの白髪が目立つ頭部には、(ひたい)に留められたらライトが輝いている。


魚図(うおず)(以降、「魚」と表す。): 何って、メイの掃除の邪魔にならんようにしているに決まっている。


>答えながら、魚図(うおず)はロボットを指差した。モノカメラが付いた頭では表情もなければ、性別らしさもなかったが、このロボットが「メイ」なのだろう。……もちろん、視聴者さんの好みによっては、両眼異色(ヘテロクロミア)の可愛らしいメイドロボットでもいいですよ。


貝: だったら、別の部屋に行けばいいだろう?


魚: 別の部屋だったら、エラーが起きた時にすぐ対処できないだろう。


魚図(うおず)がさも「当たり前のことを今更……」と言いたげな顔をしたが、ゴツゴウ・ユニバースでも立身掃除ロボットは(まれ)なので、その限界を知らない方が普通だ。しかし、普及の進んでいる床掃除ロボットを日常的に使用の方は、お掃除ロボットを運用する前には、まず環境をロボットのために整えないといけない事実をご存じであろう。

>床掃除ロボットが引っかかったり誤動作をしたりしないように、床の小物を(あらかじ)め拾っておく、家具を動かす、などと初めて使用する時から安定運用までけっこう対応が忙しいものだ。ふと我に返ると、「ん、掃除しているのは自分じゃね?」と気づいてしまうが、そのうち解消できるはずなので、我慢しよう。


>この小物(こもの)()けの作業は子育ての現場でも発生する。赤ちゃんは何でも口に入れて確かめたがるので、ハイハイができるようになると、床に余計な物が転がったままになっていないか、確認と掃除をしなくてはいけなくなる。その後、つかまり立ちができるようになると、一旦床近くから避難(ひなん)していた小物たちは、幼子の手が届かないようにさらに上へと逃げていく。一般的な小物だと味気ないが、人形だと何か意志を持った移住のような気にさせられるので、一部の家庭では「人形避難(ひなん)」「人形お引っ越し」と呼ばれる現象ですね。まあ、一部の家庭と言いましたが、私の周りだけかもしれません。

>人形避難(ひなん)は形を変えて、その後も続けられる。小学生になるとさすがに何でも口に放り込まなくなるが、お菓子や危険な物を高い場所に保管する家庭も多いだろう。個人差は大きいが、小学生の中学年にもなるともはや高さではごまかせなくなる。子供が足場を利用するからである。よって、次なるステージは(ロック)に移る。

(ロック)はやはり金庫があれば、かなり強いのだが、一家に一台ある物でもなく、あっても既に金品を保管しているだろうから、「子供に触らせたくない」あるいは「使用を保護者が制限したい」物を隠す場所としては使えない場合がほとんどであろう。なので、簡易な錠のかかる(たな)に保管するのだが、これも子供の成長に従って、その鍵やナンバーなどを見つけて突破を試みられるようになる。(ロック)or突破(ブレイク)闘争(バトル)の幕開けである。

>これも個人差が大きいが、おおよそ中学生くらいの子供が交戦相手として対象となるだろう。現代では(ロック)はむしろ電子の世界で多く使われる。「鏡越しに暗号を読みとろうとした」「リビングで居眠りしたら指紋を利用されそうになった」等、本来安息の地である我が家で熾烈(しれつ)な情報戦が繰り広げられる。

>子供が高校生に成る頃になると、管理を移譲することを考えていかないといけない。ここのルールも家庭によってまちまちなので、正解はない。

>いずれにせよ、やっている時は大変でも、後になると「ああいう事、したねぇ」と夫婦で懐かしく話し合える時が来るので、今奮戦している方は是非とも頑張っていただきたい。未だこれからだという世代の方は、今から覚悟しておくと心の余裕が生まれるかもしれません。

>とりあえず夫婦と言いましたが、もちろんこの形にこだわっているつもりはないですよ。子育てしている全ての方が対象です。一人で頑張っている方が「話す相手がいない」と嘆かれるのはまだ早い。子供が大きくなった時に「昔は人形お引っ越ししていたんだよ」と教えられますし、そんな話ができるほど成長する前も、鏡や人形、ペット相手に話す手もありです。「一方的じゃん」とバカにすることなかれ、意外に気持ちの整理がつくんですよ。

>育児で溜まったストレスも是非当番組を観賞して吹き飛ばしてください。……あ、そんな人たちはこんなの見ている場合じゃない? そうですね。


>と、まあ、それはそれとして、床掃除に特化したロボットでも、色々とヘマをしがちなので、立身型だと掃除の対象範囲が広くて、より動作が不安定なのであろう。魚図(うおず)が高い位置にいたのも、おそらく誤動作しないようにという配慮ですね。……つまり、この立身型掃除ロボットはまだまだ実用段階とは言えません。


魚: おお、そこはもういいぞ。既に掃除が終わった場所だからな。でも、それ以上は踏み込むなよ。


魚図(うおず)が指摘したのは貝積(かいつみ)社長の立ち位置についてだ。貝積(かいつみ)社長は呆れたように溜め息を吐くと、一言告げる。


貝: ……話がある。


魚: もちろん、知っている。そうでないと、わざわざ忙しい社長様がこんな場所に来ないからな。


貝: 社長はよせ。


魚: ははは、冗談だ。貝積(かいつみ)。では、食堂で話そう。場所はわかるな?


貝: うむ。


(うなず)いてさっさと部屋を出る貝積(かいつみ)社長。廊下(ろうか)を歩き出したところで、先ほどの部屋から何かがカラカラと落ちる音がした。


魚: うおっ!


♯ ピーピーピーピー


>カラカラという音に続いて、魚図(うおず)の小さな悲鳴とエラーシグナルが鳴った。



>四人掛けのテーブルのパイプ椅子に、貝積(かいつみ)社長が座ってコーヒーを飲んでいた。その向かい側には白衣姿の魚図(うおず)が立っていた。

>「科学者の作るコーヒーといえばビーカーだろう」という発想の方もおられると思いますが、二人が使っているのは普通のマグカップです。ビーカーは確かに気軽に手に入る容器で、様式よりも実利を取る科学者なら、いかにも使いそうですね。でも、実際には「ビーカーの(じか)持ち 」は熱いので試みません。科学の世界では当然熱いビーカーを持つ機会があるので、それ専用のトングのような器具はあるのですが、それを使わなくてもキッチンミトンで事足りますよね。そして、いちいちミトンで持たないといけないくらいなら、最初からマグカップ使った方が早いのです。

>ですから、「学者と言えば、『白衣』と『ビーカーコーヒー』だろう」という先入観を持っていた方はそれが幻想だとお伝えしなくてはなりません。……いや、そういう夢を持っておられるなら、それはそれでいいんですよ。「白衣を着てビーカーコーヒーを飲む」ために科学者を目指す若者がおられたなら、「目標を持って生きるのは大事だぞ」とエールを送ります。だけど、科学者に限らず、世の中のお仕事は総じて厳しいものですから、現実に即していない幻想を抱いて現場に飛び込んだところで、痛い目を見ることが多いのでその覚悟はしておいてください。「結局、説教かよ!」とふてくされないでくださいね。人生、挫折(ざせつ)(かて)になりますから。


>と、話している間に、もう貝積(かいつみ)社長は席を立って去ろうとしていた。もちろん、コーヒーは飲みかけだ。……あ、そういうとこは説明要らない。むしろ、何の話をしていたか知りたい、ですか? はい、そうですね。

>では、少し巻き戻って確認してみましょう。……しかし、便利ですよね。この『異世界観測万華鏡システム』……ん? 以前は少し違った名称で呼んだ気がしますが……。そのあたりは、きちんと最勝寺先生が整合性取ってくれるでしょう。なんせあの人は……いや、むしろ放置する人ですね。では、気付いた方はご連絡をお寄せください。

>で、『異世界観測万華鏡システム』は基本ライブ映像ですが、キャシュされている分なら過去も(さかのぼ)れます。しかし、未来には行けません。ですが、タイムトラベルもので有名な作品で採られていたとおり、未来へ行くのはコールドスリープで、という方法もありですね。……え? そんな作品、知らない? ……まあSF作品としては古典だから、知らない人は知らないですかね。まあ、それと同じように『異世界観測万華鏡システム』でも未来へ行く裏技がありまして――あ、脱線はもういい? あ、そうでしたね。貝積(かいつみ)社長と魚図(うおず)の会話でした。


貝: パンツイッチョマンを知っているか?


魚: いや、知らんな。……お笑い芸人か?


怪訝(けげん)そうに聞く魚図(うおず)。突然、お笑い芸人の話なんかをする間柄(あいだがら)ではないのでしょう。しかし、初めてパンツイッチョマンについて聞く人は、お笑い芸人かな、と思うものなのですかね? ……いや、止めておきましょう。「二流三流の創作物と思うんじゃない?」という声が届きそうな気がしたので。


貝: いや、違う。


貝積(かいつみ)社長は不快そうだ。相手がパンツイッチョマンについて知らなかったからではなく、パンツイッチョマンについて考えるのすら嫌な感じだ。


貝: 枚鴨(まいがも)市のローカルヒーローのようなものだ。


魚: 枚鴨(まいがも)……西東京か。しかし、そいつがどうした?


貝: 抹殺(まっさつ)して欲しい。


物騒(ぶっそう)な発言に、意外にも魚図(うおず)は顔色を変えず、持っていたコーヒーを一口飲んだ。


貝: どうだ?


>しばらく待ったが、それ以上の反応がなかったので、貝積(かいつみ)社長が重ねて聞く。


魚: ふむ。お前とは子供の頃から、色々と悪事をしてきた。まあ、ほとんどが悪戯(いたずら)程度のものだったが、さすがに人殺しとなると迂闊(うかつ)には返答できんな。むしろ、幼なじみとして止めておくべきかと考えておった。むろん――


貝: 待て! 殺せ、とは言っていない。


魚: ――()ると決まれば……ん?


貝: 私の言った抹殺(まっさつ)は、社会的な意味で、だ。


魚: ……具体的には?


貝: そこは自由にやってもらっていいが、そうだな……公衆の面前でパンツを()ぎとってやるのはどうだ?


魚: ……そんな事なら、金を払ってゴロツキに任せれば良い話だが、わざわざ俺に回して来たのは、秘匿性(ひとくせい)が高い……いや、そいつが異能者だからか?


貝: おそらくは。詳しくはこの中に資料がある。


>そう言って、貝積(かいつみ)社長はポケットから出した小物をテーブルに置いた。


魚: USBメモリ。……メール添付じゃ重いのなら、クラウド経由の方が楽――


貝: 本件は記録には残らない。当然だろ。


魚: ふむ。そうだな。わかった。チェックしよう。


魚図(うおず)がUSBメモリに手を伸ばすと、貝積(かいつみ)社長は席を立つ。


貝: そうそう。先程「詳しい資料」と言ったが、現時点でかき集められた情報という前提がつく。実際には、謎の多い男らしい。


魚: らしい(・・・)。お前は目を通していないのか?


貝: 必要がないからな。では、頼んだぞ。


魚: うむ。もちろん、中身を確認しないことには結果を保証できんが、善処しよう。


貝: 期待している。


>そして、部屋を出ていく貝積(かいつみ)社長。思っていた以上に話していましたか? でも、それはもしかすると、視聴者の皆さんが私の脱線話に聞き慣れて、「無駄話、長いなぁ」と感じなくなったからかもしれませんよ。



>パソコンで、パンツイッチョマンの資料を確認する魚図(うおず)。アニメの放映なら、過去シーンを出す時間稼ぎができる箇所ですね。

>え? 「そんな事より、ナントカ万華鏡システムは未来に進めないのではなかったか?ですね。

>はい、そのとおりです。このカラクリ、実はこれまでの放映分は全て録画した内容だったのです! ライブ感を出した方がいいかな、と生放送っぽい感じを出していましたが、スタッフが使えそうなシーンを選別した後、私が合わせて(しゃべ)っていたんですよ。まあ、私が観察当番の時は、ほぼ生撮りの状態だったので、生放送と言っても差し支えありませんでしたが。


>えーと、気になっているからもう言っちゃいますけれど、暗い部屋でモニターに照らされている魚図(うおず)の顔って、元々()せこけているせいで、骸骨みたいですね。これ、タイトルの骸骨博士(・・・・)(がいこつはかせ)って、きっと魚図(うおず)のことですね。


>と、ネタバレしておいて、とりあえず今は魚図(うおず)がチェックしている概要だけはお伝えしておきましょうか。……過去映像は他メディア化した時に任せて、と少し思っていましたが、結局こちらと過去シーンに突入する展開ですね。


>まずは戸羽(とば)公園の花見での活動について。明確にパンツイッチョマンが(とら)えられていない動画と、ニュース記事ですね。おっと、貝積(かいつみ)社長の秘書である添谷(そえたに)さんのメモも添えられて――いや、ダジャレのつもりはないですよ。


添: 確認できる初めて(?)。暴走した酔っ払いを鎮圧? そもそも、なぜ、酔っ払いの暴走が? 当時の掲示板から、暴走していた者に記憶障害が起きている可能性あり。


>その後、ちらほらと目撃情報が記載されるが、ほとんどが文字情報で画像はない。画像があっても遠かったりブレていたりで、私たちが見ても、「パンツイッチョマン?」と確信できない情報だ。

>「いや、パンツイッチョマン以外に、そんな格好をしている人いないでしょう!」と思った貴方はまだまともなのかもしれません。そう思わなかった人たちにとっての実例が、次の大型資料、あの『パンツ祭り』に関するものでした。

>そうなるだろうと構えていても、半裸の男が集まってワチャワチャしたという情報には、魚図(うおず)もさすがに(まゆ)をひそめる。今度は文字情報だけでなく、画像情報もあるから嫌悪感はひとしおだ。

>それでも我慢して、幾つか写っている半裸の男からパンツイッチョマンがどれなのか、目を()らして探し出そうとする魚図(うおず)。が、しばらくして首を左右に振ると、画面を切り替える。

>あ、これは……口直しならぬ、目直しですね。えーと、世界遺産かな? 綺麗(きれい)な風景を見て心を洗い流しているようです。……ん? 「俺だったらキレイなネエちゃんの画像にするぜ!」という声が聞こえますね。もしかすると、魚図(うおず)さんもエロ画像を閲覧しているのに番組上別の画像として上書きしているかもしれませんよ。

>いやー、本来、『異世界観測万華鏡システム』はそういうフィルターが掛かっているんですが、定点観察した場所で突然、NG情報が差し込んでくるとスルーしちゃうんですね。――あ、ブラックアウトした。

>あ、いや、エロ画像だったからではないですよ。世界遺産画像の写真家の著作権問題に触れちゃったのかなぁ。ははは。



魚: しかし、この数の暴漢を相手にしたなら、やはり異能者と考えるべきか……。


>しばらくして復活した画面で、ボリボリと煎餅(せんべい)を食べながら、魚図(うおず)がモニターを眺める。そこに映るのは、地面に倒れている半裸の男たちの画像。中には、フリップフロップ・チェリーや銀子先生が倒した人も混じっているのかもしれませんが、二人の話しぶりを思い出すと、大半はパンツイッチョマンの仕業だったようですね。……思い出してみたら、『イッチョマン・スラップ・タイフーン』が吹き荒れたのでしたね。そりゃあ大惨事(だいさんじ)になりますね。


>そして、先週放送の――あ、先週放送分は語句説明でしたか。あれ、私は関係していないから、つい忘れちゃうんですよねぇ。――先々週放送の『(まぼろし)のヨーデル格闘術』回。正式名称は違っていましたが、これだとこれから初めて見る人に出落ち・ネタバレになるからで、実質はさっきの呼び方で良いでしょう。

>ここでも、画像は残されていなかった。確かこれは、アナベル切山(きりやま)の怪音波の影響でしたね。しかし、実際の目で観察していた添谷(そえたに)さんのスケッチが添えられていた。――今回もダジャレのつもりはないですよ! ……いや、ウソです。いや、ウソではなかったですね。本当にダジャレのつもりではなく、「重ね」というお笑いの技術として使ってみました。

>しかし、魚図(うおず)はせっかく添谷(そえたに)さんが書いてくれたスケッチの方より、アナベル切山(きりやま)についてのちっぽけな記述の方が気になるようだ。


魚: 歌声で、衣服を破壊だと! 手品でなければ、これは確実にステージ2の異能者ではないか。詳細なデータはないのか?


>興味を持って掘り進めようとするが、生憎(あいにく)アナベル切山(きりやま)の情報はそれ以上ない。そりゃあそうですよね。貝積(かいつみ)社長に指示されたのはパンツイッチョマンの情報ですし、アナベルを掘り下げていくと、放屁(ほうひ)おじさんの仕込みに触れかねません。添谷(そえたに)さんにとっては都合の悪い方面です。

>仕方なく魚図(うおず)も、当初の目的へと移る。

添谷(そえたに)の絵は、すごく上手いわけではなく、だからといって「何じゃこりゃ」とツッコめるほど下手なわけでもない。むしろ、どちらかというと上手い寄りなのだが、こういう中途半端さ、扱いに困りますよね。そもそも、離れた位置から見ていたので細かく顔を描けるわけでもなく、特徴を記しただけです。だけど、野次馬(やじうま)根性で近づかなかったのは正解だと思うので、これで仕方ないと納得せざるをえませんね。

>「黒バイザー」「引き締まった肉体」「黒パンツ」と主要三点は押さえられています。なかなか優秀なスケッチと言えますね。

>隣にパンツ筋肉(マッチョ)マンの絵も描かれており、こちらも「筋肉質」「水泳水着」という特徴を、絵だけではなく文字で注釈を入れています。が、その上に大きく×(バツ)が重ねられ、「こっちは違う」と書かれていた。――なら、書くな!

>ん? 魚図(うおず)はこのパンツ筋肉(マッチョ)マンに引っかかったようですね。先ほどの「パンツ祭り」の画像を引っ張り出してきて、調べ始めます。


魚: やはり、いたか。


魚図(うおず)が見つけたのは、パンツ行進中の半裸の(むれ)。町中で見かけた人が「何これ!?」とウェブにあげた画像を添谷(そえたに)が回収していたようです。そこには、少年を肩車したパンツ筋肉(マッチョ)マンの姿が! 確かに、目を引く構図です。本命のパンツイッチョマンは、他の半裸に|紛《まぎ》れてひっそりと……いや、そんなイメージないな。目立っていなくとも何やら偉そうに歩いていたに違いありません。

>しかし、「同じ服装をした男を捜せ!」の絵本じゃないので、パンツ筋肉(マッチョ)マンを見つけたところで何になるんでしょう?


魚: パンツイッチョマンの現れた場所に似た風体で居る。こいつら仲間かもしれんな。


>おっと、意外な推測! ……いや、よく考えたらそう思う方が自然ですか。私たちは、パンツ筋肉(マッチョ)マンがパンツイッチョマンの偽物と知っているから、ちっとも仲間なんて発想はありませんでしたが、「そりゃあ、そう思うよね」ですね。

魚図(うおず)添谷(そえたに)さんのまとめのメモにも目を落とす。


添: 神出鬼没(しんしゅつきぼつ)? 事件がある場所にやって来る? 逆に、事件を起こす? →オクトーバーフェストでは、事件を嗅ぎつけたか、たまたま居合わせたか。枚鴨(まいがも)市での観察例は多いので、捜すならそこ。 ……事件を起こすべきか??


>ああ、ヤバい結論に落ち着いちゃったみたいですね。でも、まだ大丈夫です。もう再三言っている事ですが、考えているうちは罪になりません。添谷(そえたに)さんは踏みとどまっています。問題なのはこれを受けての魚図(うおず)です。ボサボサ髪の()せこけた白衣の男って、もうマッドサイエンティスト感満載(まんさい)ですからね。超えてはいけない一線は踏み越えてきた雰囲気(ふんいき)があります。……外見だけで判断していますが、本人には聞こえていないのでいいでしょう。

>しかし、この後、次のシーンに入るには放送時間が少なすぎるので、今週はここまでにしましょう! 今回は少し短めですか? それはもう毒されているだけで、一般的には十分おなかいっぱいな量ですよ。でも、ちょっと食べ足りないなあという人の為に、翌週のシーンの一部をお見せしましょう。



>暗い部屋の中央にぽつんと置かれた椅子。そこに座っているのはうら若き女性。


銀子先生: 助けて! パンツイッチョマンさん!!


>あ、暗くて良く分からなかったけれど、声は銀子先生でしたね。じゃあ、うら若きって感じじゃ……いやいや、おじさんにとっては十分若いですよ。というか、本当に年齢的には若い方なんだけど、家庭の事情から落ち着きすぎているところがあるから、「若い女性」と表現するのにちょっとためらいがでちゃいますね。いずれにせよ、銀子先生のファンのみなさんには、ようやく第二シーズンでヒロイン登場ですかね?


※注釈: 銀子先生は公式にヒロインとは認められていません。


>それでは、また来週~~!!


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[一言] 銀子先生がとうとうヒロインに……!(※部分など見てはいない)
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