さらば、ノーパン刑事! 2
ナレーター(以降、「>」と表す): ついに来ました。最終話! ……「ホントかよ」という声も聞こえてきますが、それは私も同じ気持ち。生暖かい目で見守っていきましょう。
>パンツイッチョマンによる、理香珈さん救出劇も気になるところですね。それについては事前にスタジオに通知がありました。「ぬるっとカットです」だそうです!
>なにっ! と一応言っておきますが、心の中では「やっぱりね」という思いがかなり占めています。あと、最勝寺先生は「ぬるっと」表現が好きですが、「カット」の擬態語としては合わないと思いますよ。「ぬるっと」だと、切れ味が良いという感覚はありませんし、切れたとしても、切断した部位が形を崩れするイメージがありますからね。……この場合、間違っていないのかもしれません。
>と言っている場合ではなくて、話を進めましょう。きっと話をぎゅうぎゅう押し込んできますから、なるべく「ぬるっとカット」を防ぐためにも放送時間を空けておくのが良いと思います。
>というわけで、撮影対象はまた頭蓋骨博士。ここは研究所内のデスクですね。頭蓋骨博士――メイクをしていないので厳密には魚図博士なのでしょうが、そのあたりの言い分けはしなくてもいいですよね?――はパソコン画面を見ながら、ジャンクフードを食べています。ジャンクフードの中身が気になる人の為にさらに伝えておきますと、インスタント塩焼きそばですね。夕食なのに、これだけなのでしょうか? どおりで痩せているんですね。それだけじゃなく、栄養の偏りも気になりますが、独身男性の暮らしはこういう風になるか、外食ばかりになるかのどちらかが主流でしょう。料理が上手い方はホッント稀ですから、「どうせなら料理ができる男がいいよね」と夢見る若い女性は、そういう対象を見つけたらとりあえず捕獲で間違いなしだと思います。
>……調べてみたら――ええ。最終話なので、予算はジャブジャブ投入で、相手の頭の中は探り放題です――頭蓋骨博士は、外食にも良く行くようですね。それが飲み屋、という選択になるのがありがちなんですが、頭蓋骨博士はやっぱり変わっていて、行きつけのお店は喫茶店です。
>「それってそんなに変わっていないじゃん」と思われる方もいるでしょうが、朝食、昼食、そして夕食までそこで摂ることがあると言うと、「それは、さすがにやり過ぎ」と思われるでしょう。喫茶店は軽食ってイメージあるから、朝と昼はよくとも、夜まではないかな、という意見が多いでしょうが、頭蓋骨博士は少食だから気にならないようです。ちなみに好きなメニューは、日替わりランチ――って、これは明らかに「考えるのが面倒だから」という選択ですね。――とトルコライス、だそうです。トルコライスって何でしょうね? 気になる方は「Webで検索!」してください。
>頭蓋骨博士は、「仕事について話してもないのになぜ、店の者から『博士』と呼ばれるのだろう」と不思議に思っているようですが……きっとそれは白衣を着たままで訪問することが度々あるからでしょうね。
>……ん? 「『脱線しない』と言ったわりには脱線が激しいぞ」という声が聞こえますね。……そうでした。い、いや、そうじゃなくて、まず「脱線しない」とまでは言っていません。それにこの脱線話を聞いてこそ「ああ、今週も『パンツイッチョマン』が始まったなあ」と実感される方もいるという事なので、番組らしい演出なのです! 決して、ノってきたから、はみ出したわけではありません。……おそらく。
>おお! 語尾をボカシてごまかす、という手法は使えますね。そういえば、関西の方では決まり文句がありましたね。……なんでした? あ、これこそ無駄話、ですね。すみません。
>では、頭蓋骨博士に戻りまして、行きつけのお店の名前は……あ、これも不要? そうですね。話を進めましょう。
>頭蓋骨博士のパソコンの通信アプリが、ポコンと通知バルーンをあげます。それを見た、頭蓋骨博士は目を見開いて、慌ててマウスを掴――もうとして、すっ飛ばしましたね。床を転がっていくマウス。無線じゃなくて有線だったので、手の届く範囲にありますが、年を取ると屈むのが億劫になります。「よっこらしょ」と椅子から腰を上げてからマウスを取るために屈む――と思いきや、マウスから視線を切ると頭蓋骨博士は、直接指でバルーンを触ります。
# ピコン♪
>お、反応ありました! バルーンが表示された時と同じ音ですが、今回は音響さんの表示が間に合って臨場感が出ましたね。
>しかし、今時タッチパネルディスプレイって、珍しいですね。確かに、その技術が量産化の軌道に乗った頃は、「これからのモニターは、直感的にわかりやすい、触って示す時代へ」とばかりに大々的に売り出していましたが、今はもう、通常のモニターにはタッチパネル機能は搭載されていないんじゃないでしょうか? その最大の理由は、「触った手で画面が見えなくなる」ことでしょう。スマートフォンでその体験をされている方が多いので納得できると思います。
>対面販売のプレゼンテーションなど、利便性がぐっと上がった現場はもちろんありますが、モニター業界が期待したほど従来品を置き換える勢いはありませんでした。使う方からすれば、「タッチ機能ありとなしじゃ、あってもこまらないからあった方がいい」なんですが、そこにはコストという大きな壁が……あ、脱線している? それ以前に、このタッチパネルのネタは以前にもお話した気が今になってしてきました。年配者が同じ話を繰り返してしまうのは、若い頃はみっともないなと思いましたが、いざなってみるともう止められないんですね。さらにいうと、周りの同年代の人たちが「同じ話を聞いてもよく覚えていない」という状態なので、「これって話したっけ? ん? 『忘れた?』 じゃあ、また言っておくと――」と繰り返し話す癖が定着してしまうのです。さらに、同じネタでも同じ所で笑ってしまうという懐の深さが……あ? これ、心が広くなったというより劣化しているんですか?
>時間がない、っていうのに話した内容は基本カットされない。それが当番組の特徴です。生放送番組みたいですね。……もう、いい? そうですね。戻りましょう。
>アプリを起動すると、通常はモニターにそのアプリ画面が広がるのだが、そういう反応はなかった。代わりに反応したのが、机から数十センチ離れた場所に置かれている皿状の機械。それが輝くと、光の中に一人の女性が現れる。
女性: ヤッホー。おじさん、元気ぃ?
>現れた女性は、もう説明しなくてもきっとみなさんわかっているでしょうから、説明は省きましょう。……あ、そこまで急がなくてもいいですか? では、光っているから色はわかりづらいですが、もう脳内補正が効いていつものように認識できる、金髪白衣の女性、理香珈さんです。
頭蓋骨博士(以降、「頭」と表す): り、リカ! お、お前……。
>思わず絶句する頭蓋骨博士に対して、理香珈さんはヒラヒラと手を振る。
理香珈(以降、「リカ」と表す): あ、心配かけた? でも、リカはもう無事でぇーす。
頭: そ、そうか。やっぱり、あいつ、やりおったのか。
>頭蓋骨博士が呆然と呟いた内容は、きっとパンツイッチョマンについてでしょう。
リカ: ちょっとー、おじさん、大丈夫? 夢かと思ってない? だったら、自分のホッペつねってみて。こ―いう時、アタシができないのが残念ね。
>カラカラと明るく笑う理香珈さんに、頭蓋骨博士の頬も緩んだ。
頭: いや、無事で良かった。やはり、あいつに助けられたのか? ほら、あの――
>さらに具体的に話そうとした頭蓋骨博士を、理香珈さんが手を振って止める。……えーと、挨拶で振っていた手はもう下ろしていて、新たに、ですよ。さらに振り方は、こう「ちょっと待って」というニュアンスに変わっていて。……改めて考えると、挨拶のヒラヒラと変わらないかな? ……いや、手のひらの角度が変わっていますね。相手へ向けているのが、ちょっと縦になりますから。
リカ: ――あーー、ちょっちそれについては話せないんだよねぇ。っていうか、今こうして通信してるのもNG? って、ワケで、じゃ~に~♪
>おっと、いきなり登場したかと思ったら番組史上最速かもしれない退場!? そ、それは時間圧縮の観点からは最適解かもしれませんが、お爺さんと暗い部屋に取り残される我々の立場を慮って、考え直してもらいたいところ。
頭: ちょ、ちょっと待て、リカ!
>おおっ! 頭蓋骨博士、ナイスプレー。というか、呼びかけだから、ナイスコール! ……ナイスコールとナースコールって似ていますね? ――あ、すいません。急ぎでしたね。
リカ: なによ、これバレたら怒られる。……てか、きっとバレてるよね。……じゃあいいよ。後で怒られるなら一緒だし。でも、突然途絶しても、それ仕様って事でビビらないでね。
頭: ということは、もう大門さんの秘密研究所に戻っている、ということか。
>「大門」って名前が出る度に怖くなりますね。でも、通信先に現れても、向こう側ならこちらの声を盗み聞きされないでしょうから、一応は安心ですね。
リカ: だから話せないに決まっているんでしょ。そんなんだったら、切るよ。
頭: だから、待て、と言っておる。
>「やれやれ」と言いたげにため息を吐いた頭蓋骨博士であったが、「これがリカらしいか」と思い、微笑んだ。目尻が下がり、輝く従弟姪の姿を見るその目はとても優しげだ。
リカ: ……ちょっと何よ。止めたわりに黙り込んで。
>理香珈さんには頭蓋骨博士の姿は見えていない。だから、「待て」と言われた後の沈黙を理解できなかったのだろう。
頭: いや……本当に無事で良かったな、と思ってな。
>姿が見えなくとも、しみじみと言った言葉の雰囲気は伝わる。理香珈さんが恥ずかしそうに、そっぽを向いた。
リカ: いや、当たり前でしょ。リカが捕まって、エロい人体実験にかけられているわけないじゃん。……おじさん、それってセクハラだよ。
頭: ……いや、私は何もそんな事は言っていないし、そもそも考えた事もなかったが……も、もしかして、そういう酷い目に遭わせられかけたのか?
>途中で思い当たったように怒り始めましたが、これって単なる理香珈さんの自爆でしたね。誰も言っていない事を言い出したなら、それは本人が考えていた以外ありえませんから。……ん? それとも、もしや本当にそういう目に――
リカ: ンなわけないでしょ! じょ、冗談に決まってんじゃん。
>「冗談」と言いつつ、動揺が隠せていません。どうやら本人も自爆に気付いたようです。
リカ: あ、そうだ。警察の中にヤバい奴いるから、おじさんももう関わらない方がいいよ。あれはマジモンの異能者だから。アタシたちの薬じゃ太刀打ちできないよ。
頭: ほほう。まさか警察もそういう人材を抱えていたとはな。……いや、異能者が事件を起こすことを見越せば当然か。
>実態はそんな感じではないですね。パンツイッチョマンに触発されて自然発生したらしい、というのは皆さんもご存知の通りです。もちろん、H案件という言葉が度々出てくるように、警察内ではそういう事件を処理するシステムができているのでしょうが、枚鴨市にそんな貴重な人材が派遣されるはずないですよね。二十三区内が優先でしょう。
リカ: 悪い事言わないから、おじさんも手を引きな。アタシと違って年なんだから、枕が変わると堪えるよ。
頭: ふふふ。リカがそのような気遣いができるようになったというなら、存外、良い経験だったのかもな。
リカ: 止めてよ。まるで子供の頃から知っているみたいに。アタシと同じで「そういう親戚がいる」と聞いたことしかなくて、実際に会ったのは大人になってからじゃん。
頭: だったら、会ってからも成長した、という意味だな。
リカ: いや、それも違うっしょ。だって、親戚と言っても会ったことのなかった知らないおじさんだし、最初はネコ被って対応するに決まってるじゃん。
>ネコを被るって、本来は「おとなしく謙虚な対応を装う」という意味だから、ここではきっと違う意味でしょうね。
頭: では、今のリカは素なのか?
>理香珈さんが「しまった」という顔をした。素をさらけ出すのが恥ずかしいのだろう。
リカ: それを言うなら、おじさんだって、最初と全然違うじゃん。どうせ若い女の子と話す機会がないからアワアワしてたし。
>これに頭蓋骨博士は反論せず、ふふふと笑った。このあたりは年の差からくる余裕か。そうなると、ムキになっていた自分が恥ずかしくなったのか、また視線を外す。
リカ: ま、なんにせよ、おじさんはもう年だから、体に気をつけてね。アタシは今回の件で出禁くらって、しばらく会えないと思うから。
>えー、「出禁」とは本来「出入り禁止」の事ですが、ここでは「外出禁止」を意味しているようですね。
頭: まあ、警察から脱走した身だから、しばらくは大人しくしていた方がいいのは賛成だ。どれくらい掛かる?
リカ: そっか。そういう意味だと長くなりそうだね。下手したら十年近く出られないかもなあ。
>頭蓋骨博士が顔をしかめた。
頭: 十年? それは長すぎるぞ! 私は……そんなに年寄りだという自覚はないが、さすがに十年経つと死んでいる可能性もあるな、とは考える。葬式にも来ないのか?
リカ: 葬式って、むしろ死んだんだったら葬式にも行く意味ないじゃん。……てか、おじさん、葬式を開いてくれる人いるの? むしろアタシが開かないといけないんじゃない?
頭: ……確かに。考えたことはなかったが……もし、生きていたらきっとうまく取り計らってくれるだろうという――まあ、幼馴染だな。そういう友人はいる。
リカ: へえ。おじさん、コミュ障だと思っていたけれど、そういう友達いたんだ。……じゃあ、今回の件を依頼されたのもその人かな?
>頭蓋骨博士が押し黙る。もちろん、その理由は正解を当てられたからだ。
リカ: ……あれ? もしかしてビンゴ?
>理香珈さんが前を指差して、イヒヒと笑った。が、その意地悪な笑みが優しい笑みに変わる。
リカ: ……でも、まあいいよ。それ以上は聞かない。
頭: うむ。
リカ: じゃ、本当に、もうこれでおしまいね。まあ、いつになるかはわからないけれど、また絶対連絡は入れるから、それまで勝手に野垂れ死にしたらダメだよ。
頭: ああ。努力する。リカの方こそ、次は赤ちゃんを連れて現れるなんとことになるんじゃないか?
リカ: あー! それ、セクハラだから。
>理香珈さんが口を尖らせて、またこちらを指差した。が、ニコリと笑うと、最後に投げキッスをして、その姿が消えた。
>頭蓋骨博士は理香珈さんが消えた後も、しばらくそちらを見続けて、小さく頷いた。それから、いつの間にか流れていた涙を拭うと、立ち上がる。頭蓋骨博士はいつもお酒を飲むことはないが、今は「一杯飲むか」という気になっていた。腰を伸ばすと、天井を見上げて呟く。
頭: 貝積には悪いが、リカを救ってもらったなら、この件からは手を引くしかあるまい。……しかし、パンツイッチョマンめ、本当にやりおったか。
>そして、頭蓋骨博士は満面の笑みを浮かべると、白衣を翻して、外出の準備をするために部屋を出て行った。
>おっと、ここでまたもや出現、最勝寺メモです。なになに……「理香珈さんを救ったのはパンツイッチョマンではありません」って、本当に!? じゃあ、だったら誰ですか? どうせ、それについては「ぬるっとカット」なんでしょう? それならもうこのまま「パンツイッチョマンがやった」という体で進めてしまったらいいじゃないですか! このシーンでもらい泣きしてしまった視聴者の方は、きっと今のメモの内容を知って「涙を返してくれ」と怒っていると思いますよ。
>皆さん、最勝寺先生に苛立つところもあるでしょうが、ひとまずは私が言ってやったので留飲を下げてください。今回は、最終回だから、最低もうワンシーンを終えないといけないんですよ。次はそちらへ参りましょう。
>頭蓋骨博士の伸ばしていた魔の手は――パンツイッチョマンの力ではなく、誰かの介入によって――解消しました。あとは、それを指示した貝積社長の方ですね。こちらはノーパン刑事が担当という話でしたが、まさかこの直接対決で命を落とすような危険が待っているというのでしょうか?
>ノーパン刑事を上回る存在は、あのパンツイッチョマンを苦しめた未来(?)からのやって来た卵戦車と、それを一刀両断してしまった忝い侍しかいないんじゃないですか? もちろん、パンツイッチョマンを除けばの話ですが。……あ、花鳥風月はいますが……はい、そうですね。「出る出る詐欺」なので今回も出ないでしょう。……おっと、今、ある視聴者の方から送られた思念がなかなか興味深いものでした。その方が推す存在は、「アナベル切山」です。あのレリレリ砲を放つヨーデル歌手ですね。あの方なら、ノーパン刑事を……ん? 「服を剥ぎ取るだけだから、倒せないじゃん」という声が届きましたが、よく考えてみてください。ノーパン刑事が服を剥ぎ取られたらどうなりますか? そう、普段は隠されていたノーパンが白日の下に晒されるのです。これは確かに、社会的に抹殺となりますね。むしろパンツイッチョマンがそうなるように画策されていたのですが、まさかここで急な方向転換か!?
>おっと、また最勝寺メモの出現。……「あまり予測をされると、やりにくくなるので止めてください」と。た、確かにそうでしたね。でも、きっと最勝寺先生なら、「ああ、事前にネタバレされちゃったから別の手で行こう」とならずに、そのまま続行するほどの厚顔無恥ですから大丈夫なはずです。ん? また最勝寺メモ。……「ネタバレでも続行は平気でするけれど、それだったら読者が詰まらなくなるから、それ以上は辞めてください」。あ、先生、文字が間違っていますよ。「辞める」だと職を辞する意味で使うので、ここは一回目と同じで「止める」の方が正しい……も、もしかして、これは圧力!? えーと誰しも急なクビ宣告は怖いものですから、話を進めましょう。はい、ぬるっと、です!
>というわけで、貝積社長の居場所へとやって来ました。ここは……え? 地名を言っていいんですか? では、お伝えしましょう。なんと、ここは表参道です。最後はまさかの枚鴨市を離れてのロケです。
>地方在住の方は表参道についてわからないでしょうから解説いたしますと、東京でもトップレベルのオシャレ街、というイメージです。東京で一番オシャレとなるともう国一番どころか、世界でもトップクラスになりますね。世界に事業を展開するアパレルメーカーの社長の居場所としては似つかわしいです。
>その表参道にあるオープンカフェの席に貝積社長が座っています。……ええ、そうですね。冬です。真冬です。
鉞草夫: 冬、まっさかり!
>ああ、やっぱり出てきちゃいましたね。鉞さん。いつも元気ですね。
>「伊達の薄着」という言葉は、本来は「見栄えばかりを気にして実用性について考えが及んでいない」と揶揄する意味で使われていたのですが、オシャレな方々の間では「オシャレに気を遣うなら、それくらい我慢できるくらい気合を入れろ」という、むしろ気概を示す言い回しとして使われているそうです(当スタジオ調べ)。ですから、もちろんオシャレの最先端ストリートたる表参道では、オープンカフェの屋外席は……うん、やっぱりあまり人は居ないですよね。むしろ、他のシーズンでは屋外席を設けていても冬場は規模を縮小したり撤去したりしているカフェもあるくらいです。
>ちなみに、欧米では冬でも屋外席は結構あります。それは元々欧米人が寒さに強いという特性があるせいだと考えられます。やはり、「冬場に外は寒いよ」と思う方は、いくらオシャレのためとはいえ、無理して外で飲食しなくてもいいと思いますよ。はっきり言ってしまえば、屋内でもオシャレはできますから!
>では、貝積社長はなぜそんな席に座っているのか? やはり根性の座りが違うので、日本の関東程度の寒さでは彼の心を折ることはできないのだろうか? これで、寒いから防寒具をモコモコに着込んでいたら、むしろ「カッコ悪い」になるのですが……意外に薄着です。ロングコートは確かに着ているのですが、ファーでモコモコポカポカではありません。
>はい、今回は、内面を調べるのは躊躇なく試みられるので、答えは分かっています。実は、このコート、内側に特殊な素材を用いられており、断熱どころかむしろポカポカする、優れた防寒具だったわけです。
>この特殊素材の開発者こそ、あの魚図博士です。ただし、オルヒトの商品としては一般化されていません。コストが高すぎるからです。そういう意味では失敗作なのですが、こうして限られた人にだけ特注品として製作されているのです。日本に身分制度はありませんが、お金という部分で階層化しているという事実を見せつけられちゃいましたね。
>貝積社長は、今日もノートパソコンを開いて仕事をしています。席には一人だけ。しかし、そのテーブルにカップが二つ乗ったトレイが置かれます。ほとんどそちらを見ずに小さく頷いた貝積社長は、ほどなく顔をしかめます。手を伸ばして届く場所にカップが置かれなかったからです。さらに言うと、トレイが置かれた場所ほぼテーブルの中央、彼が頼んだ飲み物がどちらかはすぐにわかりませんでした。
>貝積社長は険しい顔でトレイを持ってきた相手を見上げた。そして、それが彼の知らない男だった事に驚かなかった。
>店によっては、店員が運んでくるので来るので、知らなくて当然なのですが、ここはカップを見ればわかるとおり……と、この部分は迷惑が掛かるから敢えて隠していたのでしたね。では、お店のシステムについて説明しますと、客はカウンターで注文して品を受け取る仕様になっています。だから、本来であれば貝積社長もカウンターに並んでいるべきなのですが、そこは連れの者がまとめて担当していました。
>そう、いつの間にか正月がぬるっと開けて、でもまだ世間はどこか正月気分で、職場によっては「まだお休みですよ」という時に、実質呼び出されて働かされているのは、やっぱりあの人。秘書、添谷くんです。一応、ちゃんとお給料は発生しているから、「わたし、大きくなったら添谷さんのお嫁さんになるんだ」という女の子は安心してくださいね。ただでこき使われているわけではないですよ。
>それ以前に「お嫁さん」という言葉がもうまともに使えなくなってきています。一応、「百姓」の表現と同じで自分で言う分にはセーフという基準があるのですが、もう時代によってガラッと変わるので、もしかすると視聴者の方が見返した時には完全にアウトかもしれません。その際、時代に応じて文言を修正することなんか、面倒臭がりの最勝寺先生にはできませんので、その時にはもうそっとしておいてください。
貝積(以降、「貝」と表す。): 失礼ですが、どこかでお会いしましたか?
>言葉は丁寧だが、雰囲気はむしろ「お前、失礼な奴だな」と言っているかのように冷たい。しかし、相手はまるで動じた様子はない。
男: 相席させてもらっていいですか?
>こちらも、言葉は表面的でしかない。相手の返事を待たずに向かい側に座りだしたからだ。
貝: 困るな。連れが来ているんだ。
男: ああ、だからそれを預かった。
>貝積社長の前に座った男は、トレイを顎で示しながら、懐から手帳を取り出してテーブルに置いた。警察手帳。そう、その大きなサングラスを掛けた男は、貝積社長は会ったことなどなかったが、我々は良く知っているノーパン刑事であった。姿がずっと見えなくとも、もうこのシーンで登場するに違いない、と思っていたから予想的中ですね。
ノーパン刑事(以降、「NPD」と表す): あなたの部下は、あちらで私の後輩に止められています。いわゆる職質ってやつですね。
>貝積社長は軽く腰を浮かすと、もっと来られたカップを確かめて、自分が頼んでいた方を手に取った。そして、また席に座ると一口飲――もうとしてまだ熱かったようで、それを手元へ置く。
貝: 警察がどういう用件で?
NPD: そうだな。手短に言うと、パンツから手を引け。そうすれば、こちらもこれで終わりにしてやろう。
貝: 何の事だかさっぱりわからないが。
NPD: 貝積五酒。お前の下着嫌いについてはもう調べが付いている。そして、枚鴨市のオクトーバーフェストであいつに遭遇したことも確認済みだ。おおかた、そこで許せなくなったんだろう。まあ、それはわかる。俺も最初はそう思ったし、今でも本音を言うと気に食わない。だが、あいつを排除するために周りを巻き込み過ぎた。だから、俺の目に留まった。
>ノーパン刑事はここでサングラスを押し上げる。
NPD:さらに言うと、俺を怒らせた。
>サングラス越しでもノーパン刑事の威圧感はすごいのですが、さすがは大企業の社長。全く動じた様子はありません。
貝: 証拠は?
NPD: ない。
>ノーパン刑事があっさり答える。それを鼻で笑った後、貝積社長は逆にノーパン刑事を睨み返す。
貝: 話にならんな。さっさと帰ってください。邪魔です。
NPD: 気が早いな。いや、偉い社長様はみんなそうかもな。だが、気になるだろう。「こいつはどこまで知っているんだ?」と。
>貝積社長の目が細くなった。確かに、警察にパンツイッチョマン排除計画を悟られたのは意外だった。もし、悟られたとしてもバカバカしくて動かない可能性もあったはずだ。そう思った貝積社長だったが、心当たりもあった。先日、その対処を任せていたはずの魚図から「下りる」という話を聞いたからだった。今になって、魚図がその詳しいわけを話さなかった理由に思い当たった、と考えた貝積社長だったが、すぐにそれを否定する。魚図が簡単に自分を売るとは信じられなかったからだ。もし、魚図が警察に事情を話したのだとしても、それなら「下りる」とだけ言わずに、自分に警告するはずだった。
>ふむ。さすがに四十年以上ずっと付き合いのある友人ですね。貝積社長の魚図博士への信頼は揺るぎありません。
NPD: こういう事も知っているぞ。とある服飾メーカーの社長は、その世界的に有名な会社だけでなく、それと取引している会社のオーナーでもあると。役員報酬だけでなく、そちらからも実質金が回っていることになるな。
>貝積社長が笑った。楽しいそうな笑みではなく、相手を蔑むような笑顔だった。
貝: それが秘密だと思っているなら、君はそのあたりの法律に詳しくないようだな。私は社長になる前からそうした働き方をしているし、それについてメディアが取り上げたこともあった。まあ、まださほど大きくない会社だったので、変わった運営の仕方としか思われなかったようだが。
NPD: そうか? しかし、傍から見ると、まるで収入を少なく見せようとしているように見えるぞ。それについては、俺よりももっと興味を持つ者がいるだろうな。例えば、国税庁とか。
>貝積社長が不機嫌な表情になった。元より、不機嫌だったが今は面倒臭いという気持ちが増えたため、表情が変化したのだろう。
貝: 税金についても問題はない。確かに法人税を通じて、収入をごまかしているように見る者もいるだろう。しかし、そこの線引きはきちんと問題ないように処理されているし、何より、全ての収入が一括で入っていた時にかかる税金以上のお金を、寄付という形を通じて国に納めているからな。それなのに、追徴課税を取ろうとするのはおかしな話だろう。
NPD: さあな。そのあたりは専門家に聞いてみるのがいいかもしれないな。
貝: 脅しをかけているつもりか? バカバカしい。確かに、君がこの場にやって来た事に幾らか驚きはある。しかし、国税庁にも優秀な人間はたくさんいる。そういった連中は君がやって来るずっと前に、その件について調べに来ていた。結果、問題ないとわかっているのだよ。むしろ、下手に動けば恥をかくとすら思っているのかもしれないな。
NPD: ……試してみるか?
>貝積社長はため息を吐いた。伝えた内容は事実だったが、国税庁の調査が入るとその対応に時間を割かれるのが面倒臭いのだ。
貝: いいかな。一般には知られていないが、私の会社に対する貢献は、他の会社とは比べ物にならないくらい大きい。それに見合う報酬をそのまま払われると目立ちすぎる。だから分けただけだ。しかし、貢献度からみると、今の収入でも少なすぎるくらいだ。なんだったら、会社の者に詳しく聞いてみるがいい。その手配をとってもいい。
NPD: いや、そのあたりの話は、俺も国税の知り合いから教えてもらって知ってはいる。
貝: だったら……何が目的なんだ?
NPD: 近頃世間は色々と息苦しくなってきているとは思わないか? 昔はなんでもないことだったのに、今ではやたらと叩かれる。炎上、ってやつだ。
貝: ……それがどうした?
NPD: だから、社長さんの問題ない事情を世間のみんなが知った時、どうなるかな、と思ってな。一般人は法律に詳しくないからな。単に、やっかみから燃え上がることはあるかもしれないな。そうなると、会社の評判も……ま、上りはしないだろう。
貝: 脅しか。警察のすることではないぞ。
NPD: いやいや、独り言だ。そちらも、何か独り言を言うなら聞くぞ。パンツに関して何かないのか?
>貝積社長は答えなかった。今の内容を録音しておけば良かったと思いながら、今からでもこの男を吊るし上げる方法がないかを考える。
NPD: そうか。では、こちらも進むしかねえな。
>ノーパン刑事は立ち上げると、スマートフォンを取り出してどこかへ電話する。
NPD: あ、課長。すみません。例の件、進めてください。……はい。ありがとうございました。
>通話はすぐに終わった。国税庁の関係者に掛けたようではない、と貝積社長は判断したが、安心する前に意図が読めずに気持ち悪かった。さらにノーパン刑事はスマートフォンを操作し続ける。しばらくしてニヤリと笑うと、片手を上げた。すると、離れた場所で小柄な男に止め置かれていた添谷さんが困惑した顔をして、貝積社長の元へと駆け寄って来る。
添谷: 社長、すみません。いきなり質問されて。……社長もでしたか?
>添谷さんが怪訝そうに見るのは、立ったままのノーパン刑事だ。
>貝積社長は添谷さんに答えずに、ノーパン刑事へ問う。
貝: 何をした?
NPD: ん? 国税がたぶん動くと思うから、準備をしておいた方がいいぞ。
貝: バカな。恥をかくだけだ。執行の指揮を執った者を権力の乱用だと非難してやるからな。
NPD: そりゃあ嫌だろうが、たぶん奴らは「無能だ」とか「権力者の言いなりだ」とか言われる方が嫌だろうから、やっぱり動いて来ると思うぞ。
>貝積社長は、ノーパン刑事の語った内容について少し考えたが、わからない部分があった。だからもう一度同じ問いを放つ。
貝: 何をした?
NPD: さっきの話を週刊誌に売った。年明け一発目の大ニュースとして飛びつくだろうな。
貝: 警察失格だな。まずは貴様から排除してやる。
NPD: まあ、そうするよな。だが、あいにく俺はもう警察じゃねえ。先ほど、前に出していた辞表を正式に受理してもらったからな。
>なんと、さきほどの電話はそういう意味だったんですね。ノーパン刑事の為ならクビを掛けて守ってやると上司が言っていましたが、なるほど、考えてみればノーパン刑事なら、そんなことをさせずに先に自分のクビを差し出すでしょう。それが今だったようです。
貝: だったら、尚更。職務上知りえた知識を、離職した後も守秘する義務があるはずだ。
NPD: おお、社長さん、詳しいな。そういう事らしいが、それで俺を撃つつもりなら、さっきの言葉を返しておくぜ。「証拠はあるのか?」ってな。
>そうして、ノーパン刑事は背を向けて去っていく。いや、もうノーパン刑事ではなかった。元ノーパン刑事だ。先で待っていた後輩刑事に、取り出した手帳と手錠を渡すと、後輩刑事はそれを泣きべそ顔で受け取る。受け入れたくはないのだろう。しかし、元ノーパン刑事の背中は背負っていたものを下ろしたように軽そうに見えた。
>こうして、世間の隅でひっそりと始まり、世が世なら、というか作り手がもっと違っていれば、世間を揺るがしかねない大事件へと繋がって収束しえなかった「狂暴化薬」にまつわる事件は、一人の刑事のクビと引き換えに終わりを迎えた。元ノーパン刑事へ怒りを募らせた貝積社長であったが、その後続く動乱の中で、その恨みを果たす機会を長く失ってしまう。それらの騒動については、またいつか語られる時が来る――いや、来ないでしょうね、最勝寺先生ですから。
>はい、ついに終了です。最後なので、パンツイッチョマンのテーマソングでも流しておきましょう! では、音響さん、お願いします。
♪ チャラッチャチャッチャチャチャラー(デケデケドンデケデケドン)チャラッチャチャッチャチャチャラー(デケデケドンデケデケドン)
《中略》
♪「パァアンツー」チャッチャー「イッチョマーン」
《《 『パンツイッチョマン 弐』完 》》




