パンツイッチョマン VS ノーパン刑事 4
後輩刑事: ぱ、ぱ、パンツイッチョマン! ――アニキ、確保ですよ!
ナレーター(以降、「>」と表す): もはやそれほど珍しくなくなった。私以外の初っ端発言。……考えてみれば一番多いのは後輩刑事かもしれませんね。
>そして、珍しくなくなったとはいえ、やはりテンポを掴みにくいのは相変わらずですね。……え? 視聴者のみなさんは関係ない? あ、そんなものですか。ともかく、今週も始まりました『パンツイッチョマン弐』。ようやく、タイトル回収の両雄並び立つ状態からの激突か!?
>パンツイッチョマン(黒塗り仕様)は、後輩刑事に指差されても、余裕のフロントラットスプレッドの構え。……いや、いつもの姿勢なので余裕の有る無しは関係ないかもしれない。しかし、むしろいつも余裕綽々の不遜の輩なので、余裕ありの部分は見立てが間違っていなかったと言えよう。
>動じないパンツイッチョマンとは対照的に、ノーパン刑事はツカツカと後輩刑事に歩み寄ると――
♯ パコン!
>――頭を叩いた! 先週は寸前で止めたので、いわゆるコンプラ的なアレを意識したのかと思っていましたが、やっぱりノーパン刑事にそのような配慮はできなかったようだ。
後輩刑事: いてっ!
>反射的に頭を押さえる後輩刑事。
>しかし、良い音が出ましたね。最近では見られる機会が減りましたが、「叩きツッコミ」は熟練者でないと良い音が出ず、ただ痛いだけのようです。痛みについても、熟練者の一発は「音から予想されるほど痛くない」と言われます。
>他方で、あまり知られていないですが叩かれる側の技術についても論じられる事があります。叩かれる直前、頭の角度を微妙変えて、良い按配を生み出しという説ですね。
>実際、頭を叩かれる側の芸人は、よく見ると頭の位置をずらしています。次の機会に皆さんもよく観察してみてください。しかし、その動きは単に「攻撃に対する恐怖感から生まれる防御反応」と見る向きもあります。このあたり、実際はどうなのかを叩き叩かれ芸人にインタビューしてみたいのですが、きっと「どうでもいい」的な答えしか返ってこないんでしょうね。……あ、みなさんも「どうでもいい」ですか?
>あ、いや、私が言いたかったのはそこではなく、このパコンの完成度から、我々が見ていない所でノーパン刑事と後輩刑事は、叩き叩かれ芸人並みにパコンパコンしているんじゃないか、と思ったわけです。
>はい、説明が脱線話の後に、遅れて、やって来る、わけです。
>……あ、腹話術は関係なかったですね。いや、もう「衛星中継の音ズレ」が発生しない現在、たまに入れておかないと優れたネタが失われてしまいますからね。……はい、余計なお世話ですね。
>まあ、それはそれとして、ノーパン刑事と後輩刑事がパコンパコンなら、コンプラ的にパワハラ案件ですね。ハラスメントかどうかは、本人たちがそれでいいならいい、となるはずなんですが、今は外部から通報されてもクロとなる風向きです。ですから、皆さんは決して枚鴨市警に通報しないでくださいね。あと、お子さまたちは真似もしないようにね。プロの技ですから。
ノーパン刑事(以降、「NPD」と表す): バカ野郎。てめぇの恩人じゃねえか!
後輩刑事: えっ!?
>驚いてパンツイッチョマンを見る後輩刑事。パンツイッチョマンは変わらずのフロントラットスプレッド風だが、ちょっとだけ、より偉そうにふんぞり返った気もするぞ。
NPD: そいつに一発で伸されたから、正気に戻れたんだろう。
後輩刑事: あ、そうだったんですか。……では、その節は大変お世話になりました。
>ペコリと頭を下げて、やっぱり偉そうにパンツイッチョマンが頷いた後、後輩刑事はプルプルと頭を左右に振る。
後輩刑事: でも、それとこれとは別です。傷害容疑の男はやっぱり確保しなくちゃいけませんから!
NPD: ……それが正義か?
>ノーパン刑事の声が低くなった。少し怖いぞ。私が気気付いた変化を後輩刑事が気付かないはずはなく、事実、ビクリと肩を震わせましたが、それ以上臆さず話します。
後輩刑事: はい。個人の事情や感情で法は曲げられませんから。
NPD: しかし、その個人の事情や感情とやらが多く集まってくると、間違っているのは法律の方になるんじゃねえか?
>あー、また法律談義、というか正義論が始まってしまいましたね。こういうややこしいのは苦手でして……。では、ここらで映画名曲のコーナーに! ……あ、みなさんはむしろそっちが嫌い!? ええーー!!
後輩刑事: そ、それは……。そういう場合はきちんと手続きを踏んで法律を変えていくべきで――
NPD: そうやってチンタラやっている間は、民衆が認める正義は依然悪のままなんだな?
後輩刑事: そんな事を言っても、社会に吹く風に合わせて風見鶏のようにクルクル向きを変える法律は信用されないでしょう。それに、そういう法と実態の乖離を埋めるためにも情状酌量という手もあるんです。
NPD: そうか。そんなに言うなら、自分でふん縛れ。オレは手を貸さん。
後輩刑事: え! そんな事を言っている立場じゃないんですよ。役目です。
NPD: そういう裏側にある気持ちは何だ? 本当に警察官としての使命感か? 実は、「そういうルールだから」とか「後で見逃したのがバレると警察がバッシングされる」とかいう外からの圧力じゃねえのか?
後輩刑事: ……そうだとしても、それでいいじゃないですか! 警察官はむしろ、自分で考えない法のロボットであるべきなんです。
NPD: ああ。だから止めない。やるならやれ。だが、俺はこいつに借りがあるから手を出さん。お前は俺以上に大きな借りがあるはずだが、気にしないってならやれ。……まあ、勝てるとは思わんが。
後輩刑事: もう、アニキはワガママなんだから。
>後輩刑事は重心を落とすと、手を腰へと伸ばす。が、そこに頼りにするスタンガンはなかった。ここへ運ばれる際に外されていたのだ。ついでに言っておくと、手錠も理香珈さんを捕まえるのに使われ、今は外されてこの部屋ではない後輩刑事の机の上に返されていた。
後輩刑事: くっ。
>やむなく両手を前に出して構えた後輩刑事に対して、パンツイッチョマンは例のハの字の構えを取らずフロントラットスプレッド風の姿勢のままだ。飛びかかられてもイッチョマン・スラップ一閃で倒せると見抜いての余裕か?
>一方、後輩刑事はじりじりと摺り足で右に左にへと位置を変えるが、パンツイッチョマンは音楽室に飾られたベートーベンの肖像画のように、後輩刑事を追う。……いや、何となく言ってしまったが実は、視線が追いかけてくるように見える学校の七不思議的肖像画現象とは関係なかった。パンツイッチョマンは実際姿勢を後輩刑事に合わせて回転していたからだ。むしろ、視線は黒バイザーのせいで見えない。
>改めて言わなくても伝わっていると思いますが、暗い部屋での黒バイザーなので常人では全く見えないぞ。それは大きなレンズの黒サングラスを掛けているノーパン刑事も同じだ。
>しかし、さすがは格闘技に長けている後輩刑事というべきか。一見隙だらけのパンツイッチョマンに飛びかかっても勝ち筋が見えないようだ。ふと、構えを解くと、今更ながらの疑問を口にする。
後輩刑事: っていうか、ここ署内ですよね?
NPD: ああ。第六会議室だ。
後輩刑事: なのに、なんでパンツイッチョマンがいるんですか?
>いやはや、もっともな質問だった。もちろん私もその疑問が浮かんでいたが、そこに至る前にたくさんのツッコミどころが立ちふさがって、未だ疑問を提示できていなかった。が、一番の理由は、疑問点を挙げた所で、最勝寺先生に「いやぁ、なんでパンツイッショマンがぬるっと登場したのかは考えてなかったなぁ。何となく、タイトル回収?」という浅い答えを暴いてしまいかねないと、危惧したからであった。
NPD: 俺が呼んだからだ。
>あっさり言ってのけるノーパン刑事。後輩刑事は数秒呆気にとられた後、ノーパン刑事へ勢いよく首を向ける。
後輩刑事: えっ!? ……もしかして、お知り合い?
>後輩刑事は、驚いた後、恐る恐るという感じで質問を付け加えた。
NPD: まあ、何度か会ったことがあるという意味では、知り合いとは言えるが……。
>ええ、そのあたりは私たちも目にしていたから知っていますが、というか、後輩刑事も同時に居たはずなので、そういうつもりで聞いたのではないと思いますよ。事実、後輩刑事はアワアワして、混乱しているようです。お知り合い感はありません。
>ん? 代わりに、パンツイッチョマンが口を開くぞ。
P1: しかし、私は、ディテクティブ・バンドーの名は知っているが、そちらの若者の名は知らないぞ。
>パンツイッチョマンが、後輩刑事を指差した。
NPD: 赤羽だ。
>パンツイッチョマンのファンの間でも、後輩刑事好きしか知らないという噂もある後輩刑事の苗字を、さすがに先輩同僚であるノーパン刑事は知っていたぞ。
P1: ふむ。募金か。
後輩刑事: ああ、はいはい。赤い羽根募金ですね。そのネタは子供の頃から散々言われました。
>確かに、名前に関連するジョークは、聞いて思いついた方は可笑しく思えても、言われた本人は聞き飽きたネタになりがちですよね。使うなら子供の頃に限るのかもしれませんが、オヤジネタと言われる事もあるとおり、子供の頃は面白く感じないから、やっぱり楽しめないでしょう。というわけで、視聴者の皆様には、今後名前に関するネタは基本凍結するのをお勧めします。
後輩刑事: そっちは多いのに、意外に地名で言われることはないんッスよねぇ。
>ポツリと付け加えたのは、東京ローカルネタだ。一応、全国区どころか全世界へ放送している当番組としては、地方の視聴者の皆様も置き去りにしません! ですから、このネタには触れないでおきましょう。決して「赤羽かぁ、行ったことないなぁ……」と思った訳ではありませんよ! 庶民的な素敵な街と聞いておりますから。
>ん? 語るに落ちた!? ……いや、そんな事より、ノーパン刑事の発言が問題ですよね。だって、勝手に後輩刑事の名前を漏らしたんですから。
後輩刑事: ちょっと、アニキ! それって個人情報保護の観点からアレですよ!
>ほらほら、やっぱり。……でも、混乱していても、ツッコミは出るようですね。ツッコミは反射行動のようです。
NPD: ん? そうか? まあ、それならこいつの名前は伏せておいた方が良さそうだな。
P1: うむ。プライバシー尊重だな。
>ノーパン刑事の言葉にいち早く相槌を打つパンツイッチョマン。こういうあたりの呼吸はバッチリだ。
後輩刑事: いや、むしろ、そっちの情報を教えてくださいよ! てか、アニキ、パンツイッチョマンの名前を知っているんですか?
NPD: 当たり前だろう。知らないと電話も掛けられないだろうが。
後輩刑事: いや、電話は番号さえ知っていれば掛けられますよ。
NPD: しかし、本人が出たかどうかを確認するには名前が必要だろう。
後輩刑事: そ、そう言われてみれば、そうかも――って、電話番号も知っていたんですか? ええっ!!
>驚愕する後輩刑事に対して、その驚きが理解できないようで、ノーパン刑事は眉を顰めた。……サングラスのせいでこの薄暗がりでは眉毛がはっきり見えないんですが、皺で判断できますね。
>パンツイッチョマンは、フロントラットスプレッド風の格好のまま、ウンウンと頷く。驚いた様子はないので、やはり二人は何らかの手段で通じていた――
P1: 私もいきなりコールがあった時は驚いたぞ。
>って、お前もかよっ! というか、その態度の声の調子、ちっとも驚いていませんから。グループアイドルあがりの役者かよっ!
※注釈: グループアイドルあがりの役者が、さも演技が下手なように言われていますが、それはナレーターの個人的な感想です。少なくとも、グループアイドルあがりの役者の全てが大根役者と呼ばれる存在ではない、と作者は考えています。
P1: もしや罠か、と思い、聞いてみたが、そういう事ではなく緊急の要件だ、ということで、こうして馳せ参じたわけだ。
>今度は、ノーパン刑事が「そうだったな」と言いたげに、ウンウンと頷く。……いや、お前ら二人ともおかしいぞ。いろいろ言いたいことはあるけれど、とりあえず、「罠か?」「違う」「そうか」で解決しているのは単純すぎるでしょう。
後輩刑事: では、どうやって? 知り合いではなく、電話番号を聞いたわけでもないなら……。
>ノーパン刑事がまた怒ったように雰囲気が変わった。今度はかなり苛立ったようで、トレードマークのサングラスを少し外してずらすと、直目で後輩刑事を睨みつける。あ、もちろん公式提供画像はその部分ではなく、サングラスをずらしたところから、怯えた後輩刑事の顔のアップに切り替わっています。しかし、当システムは音声多重(略)活劇ですから、視聴者の方々の想像力によっては、不死身の妖怪ハンター妖怪ばりの糸目から、昭和の少女漫画からやって来たウルウルおめめまで、好きな大きさの眼差で塗り替えていただいて結構ですよ。
NPD: おい、タカ! 俺たちは刑事だぞ。知りたい情報は、資料の確認、聞き込み、尾行、そういったもんで入手するもんだ。
>これは意外……。いや、意外でもないんですよね。こう見えて、中身はアレですけれど実績としては敏腕刑事ですから。様子を窺っていると、実際に怪人相手にうまく立ち回っていているのに、「すごい!」「強い!」「カッコイイ!」とか思わずに、「あれ? 何か勝っちゃったね」と思いますからね。雰囲気って重要なんですね。
後輩刑事: え? ……じゃあ、もしかしてちょくちょく「用事があるから」と居なくなっていたのは、別にサボっていたのじゃなくて、その調査だったんですか?
NPD: 当たり前だろう。別に、今日は暇だからちょっと早くフケて、教えてもらったダーツバーとやらに行ってみるか、なんて……
>話している途中で言葉が止まりましたね。ちょっと具体的すぎる例が出てきたあたり、実際にサボり行動をとっていた可能性も……いや、警察官はみんな真面目ですからね、そういう事は絶対にしません。当スタジオは日本の警察を応援しています。
NPD: ま、ともかく、足だ。刑事は足で稼ぐんだ。
>なんだか一般論にすり替えてきた気がしますが、警察への信用を落とさないためにもここは気付かなかったふりをしておきましょう。
P1: 尾行か……。では、私の家も知っているのか?
NPD: 住所が分かれば、電話番号もわかるからな。
P1: 鳴ったのはスマートフォンだったが?
>突然、黙り込むノーパン刑事。そりゃあ、警察だったら、個人を特定すればそれに紐づいている各種の情報を拾い上げる事はできるのでしょうが、無差別にできるはずがありません。それこそ個人情報保護の観点から、いわゆる捜査令状がないことには、一定以上の個人情報にはアクセスできません。もしかしたら、そのあたり勝手に……いや、そんなことはありませんよね。日本の警察は誠実ですから。
>当スタジオは、日本の警察を応援しています!
P1: しかし、私に気取られずに追跡できるとは――
NPD: ――いや、お前、服を着ると、感覚が鈍るんだろう?
>今度はパンツイッチョマンが黙り込んだ。どうやら図星のようだ。そういえば、以前、桜ちゃん相手に「肌で感じとる」というセンサー能力向上について話していたことがありましたね。……気になる方は第一部の桜ちゃん登場回をご確認ください。
>あのエピソードの「ぎょええぇぇ!!」のシーンはシリーズを通して最も人気のあるシーンの一つですから、そのままそこまでご視聴していただいてもいいですよ。その後は……いや、律義に階段を上ってくるつもりの方もおられるようですが、順を追ってここまで戻ってくるのは大変でしょうから、一気に戻ってくるので構いません。ズルい、とか言わないですよ。
>ノーパン刑事とパンツイッチョマンが黙って見つめ合う、ある種緊張感が高まっているシーンを、やっぱりこの男、後輩刑事が咳払いをしてから間に入る。
後輩刑事: コホン。と、ともかく、身元を押さえられているなら、慌てて確保することもないですね。はい、こっちは大丈夫です。
>パチン回避に成功して、ホッした顔をする後輩刑事であった。しかし、ノーパン刑事とパンツイッチョマンは黙って見つめ合ったままだぞ。そういえば、二人が話している間は、どちらかというと後輩刑事は無視されやすかったですね。
後輩刑事: あ、そうだ。だったら、後は、アニキが確保してくれた女性から情報を聞き出して、アニキの見立てが正しければ、この間の商店街暴走事件の黒幕を確保ってことになりますね!
>呼びかけられて、ようやくノーパン刑事が視線を後輩刑事に向けた。
NPD: だが、あの女は黙秘を続けているようだ。ブツがある以上、無関係とはいかねえはずだが、薬の成分がわからなければ、傷害と公務執行妨害だけで背景は掴めないかもしれないな。
後輩刑事: いやあ、あんな女性がそこまで粘りますかねえ。
NPD: お前、まだ反省できていねえな。女をなめてかかって痛い目に遭ったばかりだろう。最悪の事態を想定しておけ。
P1: それについては、些か心当たりがある。
>突然の口出しに、二人の刑事がそちらへ向く。
P1: 私もこのところ、何人かの怪人に出くわしたが、それらはドクター・スカルという悪の科学者に操られていたようだ。
後輩刑事: 悪の科学者? そんな昔の特撮の中にいそうな存在が……
>呆れかけた後輩刑事だったが、その発言が途中で止まる。目の前には、「そんな昔の特撮の中」にすら存在しない存在が半裸で立っているのだ。むしろ、悪の科学者の方がまともに思えてくるのも無理はない。
NPD: ほほう。ドクター……ス、スカ?
>相変わらず、横文字に弱いノーパン刑事であった。
P1: うむ。ドクター・スカル。和名では頭蓋骨博士。
NPD: なるほど。トウガイコツ……中華料理か。
後輩刑事: いや、頭蓋骨です。頭蓋骨の事ですね。検死の時にも頭蓋骨って言う事ありますよね? もしかして、その時にもずっと豆板醬を思い浮かべていました?
>後輩刑事は言い終わった後、パンツイッチョマンに見つめられているのに気付いて、少したじろいだ。
後輩刑事: え、何ですか?
P1: いや、遠いのによくわかったな。
>うん。ですよね。「トウガイコツ」と「トウバンジャン」って「トウ」しか合ってませんからね。
NPD: では、その頭蓋骨とやらについて、もっと教えてくれ。こちらで確保しよう。
P1: ふむ。では、特徴を語っておくと、白衣を着た骸骨のような風貌をしている。
NPD: なるほど。……タカ、メモっておけ。
>言われずとも、後輩刑事は胸ポケットからメモ帳を取り出していたが、書き取ろうとしていた顔を上げる。
後輩刑事: いや、それって書くほどの事ですかね? 痩せているのは名前の印象と一致しますし、白衣は脱げるので、そこにこだわりすぎると見失いかねませんよ。
NPD: そうか。では、ほかに特徴は?
P1: 特徴……絵なら描けそうだが。
NPD: おい、タカ。
>ノーパン刑事の指示に、後輩刑事はメモ帳とボールペンを渡そうとするが、ふと何かに思い当たり嫌そうな顔をする。
後輩刑事: もしかして、鉛筆じゃないとダメとか、あったりします?
>ん? そういえば、これに似た流れがあったような……あ、ああ、なるほど。そうでしたね。過去に、銀子先生がパンツイッチョマンの似顔絵……いや、顔じゃなかったですね、あれ。
>ともかく、絵を描く時に銀子先生はこだわりを見せていました。そうなると面倒臭いな、と後輩刑事が思ったのでしょう。
P1: そうか。……では、Gペンを頼む。
後輩刑事: え? ジーペンって何ですか?
>後輩刑事は差し出しかけた手帳を引っ込める。沼に足を踏み入れる前に止まれた感じだ。
P1: ふむ。Gペンはないか。……では、こういう情報はどうだ? ドクター・スカルは誰かから依頼されて、怪しげな薬で怪人を生み出しているようだぞ。
>ノーパン刑事の片眉がピクリと上がる。
NPD: 何? 悪の科学者の後ろに、さらに黒幕だと!?
P1: ああ、名前を言っていた。
後輩刑事: お聞かせください。
>これこそ意味のある情報だと、後輩刑事がボールペンを握り直す。
P1: あれは確か………………。
>異常に長い沈黙に、期待していた後輩刑事の眼差しがどんどんと冷えていく。最終的に「あ、これ、アカンやつや」と諦めに変わった後、パンツイッチョマンが一つ頷いた。
P1: うむ。埴輪や土偶ではない、他の古代の香りがする名前――
>直接的ではない言い方に、後輩刑事の顔が曇る。
P1: ――に似た名前だった気がする。
>おっと、さらにもう一枚フィルターが被さった。いや「似た」に加えて「気もする」もカウントすると二枚だ!
後輩刑事: ハッキリしないですね!
>『文明の○○ パンツイッチョマン』のツッコミ担当と言われるだけあって、ズバリ言いますね! だけど、仰るとおり、頼りない手掛かりです。
NPD: だが、ねぇよりマシか。
>ノーパン刑事は大きく息を吐くと、左手を自分の右肩に乗せ、その肩を軽く回す。
NPD: よし。そっちは俺たちが押さえる。骸骨はそっちで押さえろ。
>これに後輩刑事が驚いたように、ノーパン刑事に声を掛ける?
後輩刑事: え、共闘するんですか? 相手は暴行事件の被疑者ですよ。
NPD: ……ダイズの前のショウズってやつだ――
後輩刑事: ――大事の前の小事です。あと小さい豆と書きますが、読み方は「アズキ」です。合わせて覚えておいてください。
P1: 今回も、なかなか遠かったように思えたが――
後輩刑事: 大丈夫です。いつもの事なので。
>あっさり答えているが、おそらく日常的な負担はかなり大きいと思うぞ。いつか、ノーパン刑事と離れた日になってようやく、「あれ? これまでの毎日ヒドくねえ?」と自覚する時がやってくるだろう。それまでは……うん、自覚しない方がむしろ幸せだろうね。
後輩刑事: しかし、アニキ……
>後輩刑事は、ノーパン刑事へ近づくと、声を潜めて続ける。
後輩刑事: これって、本当に俺たちが信念を曲げてまで手を組むべき案件なんですか? あの光迅さんなら仕方なかったと思いますが、悪の科学者とやらと、その居るかどうかもわからない黒幕。それに、こっちはもう実行犯を捕えていますから。
>ん? 光迅って人はどこかで出ていましたか? 聞いたことがない名前ですよね?
NPD: ん? 誰の事だ?
>おっと……というか、やっぱりですね、むしろ。ノーパン刑事もわかっていないぞ。
P1: 穴穿きの事だな。
>って、聞こえないように話していたはずのパンツイッチョマンから答えが出てきたぞ。そういえば、この人も地獄耳ですからね。ひそひそ話は無意味です。そして、穴穿きさんの名前を知っていた理由も全く不明。……いや、ひそひそ話を聞いていたなら、その流れで推測したのかもしれませんね。
NPD: ああ、そういうことか。それなら関係ねえ。俺を怒らせたって理由があれば十分だ。
後輩刑事: いや、そういう私的な理由で動いては――
P1: ――いや、十分に文明にとって脅威だと思うぞ。ドクター・スカルの暴走強化薬が社会に出回れば、至る所でテロが起きるのは容易に予想される未来だ。
後輩刑事: た、確かに。あの商店街暴走事件のアイツみたいなのが、毎日出てくると――
NPD: 俺は、毎日でも対処できるぞ。
後輩刑事: まあ、アニキはできそうですね。でも、アニキが日本全国津々浦々居るわけじゃないですから。
NPD: 全国ツアーか……夢があるな。
後輩刑事: いや、夢が広がっているところ申し訳ないですが、管轄がありますから、全国行脚は無理ですよ。
P1: そもそも、次の事件現場がどこかがわからなければツアーも組めなかろう。
>ノーパン刑事は、灰皿の置かれていたテーブルへと無言で歩み寄ると、残ったタバコごと箱を潰して灰皿へと入れた。後輩刑事が回復した今、もはやタバコを吸う必要などない、という事なのだろうが、ちょっと束の間の夢が潰れてしまったことが悔しそうにも見えますね。
NPD: ともかく、作戦はそれでいく。いいな!
P1: 心得た。では、私はこれで……。
>突然の幕引きをしたノーパン刑事に、引いてしまう様子も見せず、パンツイッチョマンが頷くと、ようやくフロントラットスプレッド風の構えを解き歩き始める。道を譲ろうとした後輩刑事だったが、パンツイッチョマンは出入り口の扉へと進まずに、窓へと近づくと、後輩刑事が止める間もなくヌルリと外へと抜けだした。そのまま、夜の闇に消えていく。
後輩刑事: ……やっぱり、保安課に窓からの出入りをさせないように言った方がいいんじゃないですか?
>後輩刑事は、パンツイッチョマンが出て行った窓から上半身を出して、外を見回した後、体を戻し、窓を閉じた。冬ですから、開けっ放しは寒いですよね。そんな外を、半裸で徘徊している人はどうかしています! でも、今夜は黒い塗料の分少しましかもしれませんね。……あ、それが事実かどうか確かめる好奇心は素晴らしいと思いますが、外に出て実践するのは社会的にダメですから控えてくださいね。
>こうして、密やかに社会の闇で進行していた暴徒の増殖を、変態二人が協力することによって……うーん、こう言うと、どっちもどっちですね。まあ、いずれにせよ、タイトルで煽っていた「VS」が示す直接対決は発生しませんでしたね。いやね、もうわかってはいたんですよ。世間でもこれまで発表された「VS」ものが、まともに両雄がぶつかり合ったのはほとんどないですから。
>そりゃあ、一応、「VS」作品は、対決こそしますよ。でもたいてい、そこに至る理由はなんだかはっきりしないし、戦っても消化不良の引き分けで終わりますよね。その後、共通の敵に向って協力し合うってパターンです。
>……対決し合うのが、元々悪役だったらそういう事がない、という声もありますね。それはその通りです。ですが、それでも一方的な結果にはならず、ある環境ではAが勝ち、別の環境ではBが勝ち、となり、最終的な優劣は付けられないで終わります。
>というか、それでいいのです。二人のヒーローにせよ、二人の悪役にせよ、いずれにもファンがいるので、そのファンの事を考えると、白黒つけられないですから。「だったら、そもそも『VS』で煽るな」という話なんですが、それは製作側からすると、「いや、もうパターンをわかっているはずなんだから、それが嫌なら見に来るな」という気持ちがあるでしょう。もちろん、売り上げ低下に繋がるからそういう制作側の上から目線文句が一般に漏れることはないですが、業界では……あ、そういう事は暴露しちゃいけないんだ。……なので、なんというか、難しい話ですね。
>でも、パンツイッチョマンとノーパン刑事なら、有名ヒーローなんかと違って、気を遣うファンなんかいないんだから、白黒つけてもいいじゃない。という思いは、実のところ、私もあったのですが、二人がこう話し合っているのを見ていると、「いや、もうそういう期待もなく、どうでもいいや」と思ってしまいました!
>皆さんはどうでしたか? 消化不良なら、応援している方がもう片方をボコボコにした上書きをしてもいいですからね。その場合――
《次回予告》
闇に蠢く 陰謀残し
それでも新年はやって来る
表と裏の共闘は はたして深淵に届くのか?
次回、第二部最終回、『さらば、ノーパン刑事!!』
次回は、パンツをはかなくてもいいぜ。




