パンツイッチョマン VS ノーパン刑事 3
ナレーター(以降、「>」と表す): 世の中には「こんな施設、誰が利用するのだろう」という……いや、そこまでは思わないですね。では、言い換えて、「私なら絶対利用しない施設」というものがありますね?
>わかりやすい例が、風俗系の施設でしょう。ホストクラブをゲストとして利用する男性は少ないでしょうし、キャバクラだとゲストとして利用する女性は少ないでしょう。もちろん、利用してはいけないというルールはないはずなので、興味のある方は勇気を持って試してみるのは良いかもしれません。
>他には、ギャンブル系の施設も体験したことがない方は多いでしょう。そういう方の中には、これから体験するつもりもないという堅い覚悟がある人もいるでしょう。パチンコ、競馬、麻雀。競馬は屋外ですけれど、タバコと相性が良い――というかタバコの印象が強い施設がギャンブル系には多いですね。何か関連性があるのでしょうか? 社会学系の学者に聞いてみたいテーマですね。……あ、どうでもいいですか。
>興味深いことに、この「私は行かないよ」の評価は時を経て変わることがあります。これまた具体例を挙げますと、「マッサージ店なんて、他人に体を触らせてどうしてこっちがお金を払わないといけないのよ!」と気が強いめの若い女性が言っていたのですが、それから十数……いや数十年経つと、「あぁ、肩凝ったぁ。誰かに揉んでもらいたいなあ」とあっさり宗旨替えしていますからね。「じゃあ揉みましょうか?」と揉みほぐしてみたら、「やっぱりプロの方が上手いよね」とか言われます。はい、私の妻の発言です。
>……ついに、私生活まで晒して脱線ぶりが見苦しくなっきたな、という声も聞こえますが、私小説というのも立派なジャンルで、世が世なら四畳半文学として……あ、これが既に脱線でしたね。
>では、本編に関連する場所まで戻っておきますと、格安の理容店があります。今回、それが関係してくるんです。あの施設はファッションに興味がない人が利用すると思われがちですが……まあ、そこのところはそのとおりかもしれませんが、安いからという理由だけで選んでいる人ばかりではないのですよ。あのタイプの理容店は、「早い、安い、旨い」――あ、旨いは違いますね。つい、「早い、安い」まで言うと流れで「旨い」まで言ってしまいますね。……ん? 「上手い」だったら、合うのかな?
>……「いや、ンなことぁないだろ」という声が聞こえますが、手早く仕上げるのは技術が要ると思いますよ。でも、丁寧ではないかもしれません。実際、それなりに値が張る方に頼んだ後、一ヶ月後にいつもの理髪店に言ったら「前に切った方、丁寧な仕事をしていますね」と言われたことがあるので、見る人にはわかるんですね。一ヶ月後なのに。……あ、また、脱線しています?
>ああいう格安理髪店を利用する方はタイムパフォーマンス、いわゆるタイパを重視しているかもしれません。そう考えて改めて見てみると、格安理髪店の立地もそういう時間効率を狙っているようですよ。買い出しの運転手役としてかり出された旦那さん――あ、これも最近は使うのが難しい単語なんですか? ……でも、もうそもそもの意味は薄れて、夫婦の夫の方を少し丁寧に言った感じ、としか受け取られていないですよね? ……それでも一応変えておきます? ……では、――運転手役の夫が、待ち時間を利用して髪を切る、というのが想定されているモデルの一つで、実際大型スーパーではこの手の理髪店を見かけますよね?
>と、いう前提を踏まえた上で、次の発言を聞いてみましょう。
後輩刑事: アニキ、今度の休みに涼ちゃんに勉強を見てもらう事になったんで、ちょっと髪を切ってきます!
>いや、デート感覚だったら、もっとしっかりした所――いや、あの手の店がしっかりしていない、と言っているわけではないですよ。……う~ん、どう言えばいいのかな? ……あ、「丁寧」ね。あの時、いい言葉を教えてくれました。理容師さん、ありがとう!
>というわけで、「もっと丁寧に髪を切ってくれるお店に行っておけよ!」と、皆さんも思いませんか? ……それ以外の意見が強めに聞こえてきますね。
>「もしかして、勤務時間内に髪の毛を切っていない?」というご指摘。それについて、イエスかノーかでお答えしますと……イエスです。
>あ、今の失言? 「税金泥棒!」という厳しい指摘が……。えーと、ですね。一般企業の外回りの仕事と同じような感じで、休憩時間を独自で調整できるんじゃないかな。……あ、これでもダメ? むしろ、休憩をずっと取っている印象が出ちゃいますか? サボりですね。そういえば、サボりの元になるサボタージュはフランス語が元に……。え? 煙に撒こうとしてもダメですか?
>じゃあ、こうしましょう。お昼休憩を利用して散髪をしている、というところで一つ手を打ちましょうか。……ええ、お昼時ではなくもう午後の三時あたりですけれど、この二人は仕事の都合で正午前後にお昼ご飯を食べられない事が多いですから、午後三時になることもままあります。……え? 「では今日のお昼ご飯は未だなのか?」ですか。……えーと、ノーコメントとさせていただきます。
>……いやねぇ、公務員だからと責められますけれど、先にも言ったとおり、営業職の方が喫茶店でサボっている姿はちょくちょくと目にしますよ。いや、サボっているのではなくて小休憩でしょうね。サボりというと不正行為になっちゃいますから。まあ、中にはパチンコをしている人もいるそうで、そうなるともう完全に不正ですが……おっと、どうやら視聴者の中に、まさにこの例に該当する方が居られるようですね。
>……ふむふむ。なるほど、「休んでいる時間が多く見えても、それに伴う、いやそれ以上の成果を上げているから問題ない」と。
>あ、この言いわけでいきましょう。実際、ノーパン刑事はああ見えてものすごい検挙数を重ねていますから。まあ、その大半が本来の管轄外なんですけれどね。……あ、それでもサボりはダメ? サボっていないで仕事をしたらもっと成果を上げられる? ……それについては「充電時間があってこそのパフォーマンスなんだよ」という声が聞こえてきましたね。……って、これ、さっきの人じゃなくて最勝寺先生の意見じゃないですか! さらっと自分の作品にサボる理由をねじ込まないでください。
>ともかく、よく考えてみたら私にはノーパン刑事たちを庇う義務なんかなかったので、あの人たちが職務放棄をしているのでかまいません。はい、あの二人は不良刑事です。不良というと「ちょい悪でカッコイイ」というイメージを持たれる方もいますが、あの二人の場合は不良品の不良ですからね。……よく考えてみたら後輩刑事の方はノーパン刑事に変な方向へ引っ張られてしまった可能性が高いので、不良品の方はノーパン刑事だけに――いや、今回は、勤務時間内に理髪店に入った方が後輩刑事でしたね。じゃあ、もう手遅れです。彼も汚染された不良品でした。
白髪の理容師: では、お客様、どういった髪型で?
>あ、いや、中の様子は放送しなくていいです。そんな余計なシーンを入れたら、私が脱線する余地がなくなってしまいますから。……ん? 何か本末転倒な事を言っている気がしたが、まあ気のせいでしょう。
>後輩刑事がちょちょいとヤボ用を済ませている間、ノーパン刑事の方が何をしていたのか気になりますね。タイトルから考えると、パンツイッチョマンとの激突が控えていますから、邪魔者になる後輩刑事が離れているシーンは要注意観察期間に相当します。
>ノーパン刑事は近くの喫茶店でコーヒーを飲みながら雑誌を読んで時間を潰しているようですね。私が、喫茶店で見かける「ああ、あの人は営業職で休憩中だな」と思える人も似たような行動をとっていますね。もちろん、コーヒーを飲みながらノートパソコンを開いて書類作成をしている感じの人は、「営業先との時間調整中もちゃんと仕事をしているな」と思いますが、喫茶店に備えられている長編マンガを読んでいる人は「絶対、あれを読破するのが目的だよな」と思っちゃいます。
>あ、ノーパン刑事でした。読んでいるのは『ブルズアイ』というあまり聞かない雑誌ですね。……今、スタッフが調べてくれた情報によると、あれはダーツ専門誌のようです。そんな雑誌があるんですね! ――と言ったら失礼ですが、いや、もちろんダーツも立派な遊戯で、むしろ大人でおしゃれな趣味だとは思います。実際、ブームが来ては去ってを繰り返していますからね。しかし、定期的に雑誌を刊行するほどの土壌があるかといえば難しいそうです。そもそも写真週刊誌だって経営危機になっているものが多いくらい、活字離れ、紙離れが進んでいますからね。せめてウェブ媒体なら印刷費がかからないから……こんな事を言ってしまうと、印刷業界の方が怒りますね。
>いや、個人的には、いくら電子化が進んだからと言って紙媒体は不滅のメディアだと思いますよ。だから頑張って欲しいのですが、……まあ電子で置き換えられる余地はまだまだあるでしょうから、パイが小さくなるのは避けられないでしょうね。
>あ、『ブルズアイ』でした。……どうも、中身の半分近くがダーツ関連の広告らしいですね。それなら、まあ記事が付いているカタログとして考えたら、立つべき場所があるかなあ、と思います。しかし、存続している最大の理由はゴツゴウ・ユニバースだからでしょう。こういう、視聴者の方にとってはどうでもいい部分にご都合主義が働くようですね。変わった世界です。それはきっと、作者が変人だということの反映なのでしょう。
>えー、もちろんダーツ雑誌を掘り下げていっても退屈でしょうから、ここは人気コーナーの『名曲の調べ』で時間を過ごしましょう。
※注釈:ナレーターは「人気コーナー」と言っていますが、人気ないですよね? カットします。
>お、後輩刑事が理髪店から出てきました。さすが時短がアピールの一つだけあって早かったですね。後輩刑事は路地へ入ると、通り一つを隔てたノーパン刑事が待つ喫茶店の方へと進んでいきます。
女声: あ、もしかして、あの商店街の騒動を収めた刑事さんですぅ?
>すれ違った女性に二度見されてから、声を掛けられる後輩刑事。
後輩刑事: え?
>後輩刑事は不審そうに眉をひそめます。そりゃそうですよね。いきなりこんな場所で知らない人に声を掛けられると警戒するのが普通です。まして相手は――
女性: あ、私は鑑識のタチバナでーす。例の件でちょっち確かめてもらいたい事がぁ……。
後輩刑事: あ、涼ちゃんの知り合いの方ですか。あれ? 初めて会いますよね。貴女みたいな人が居たら、覚えているんだけど。
女性: えぇ? それってどういう意味ですかぁ。もしかして――
後輩刑事: いやいや、そういうんじゃなくて、美人がいたら印象に残るから――
女性: ああ、それってもうセクハラですよぉ。だから質問に答えてくれたら帳消しってことでぇ。
>立て続けに話しだしたから入りにくかったのですが、もう話し方からわかるとおり、この女性は、決して鑑識課の警察官なんかじゃありません。確かに、白いコートを着ているのでそういう説得力を持つと感じるのかもしれませんが、白いもこもこコートは白衣ではありませんから。しかし、英語で言うとどちらもホワイトコートと同じになってしまうようですから、『パンツイッチョマン弐 英語版』では同一視されても仕方ありません。……えーと、とりあえず言ってみましたが、英語版はリリースされていませんので探しても無駄です。そして、女性のタチバナという名も偽名です。だって、この明るい色をした女性は、あの魚図理香珈さんなのですから。
>女性に弱い後輩刑事は、警戒するどころかむしろ同僚とみなして気を緩めたようで、近づくと、理香珈さんが白衣のポケットから出そうとする物に注目します。掌に収まったそれをよく見ようと顔を向けると――
♯ プシュ!
>はい、一段階目。スプレー式の麻酔。後輩刑事はモロにそれを顔で受けます。
後輩刑事: な、何をっ!
>顔を手で覆い、声を荒げる後輩刑事。しかし、急速にその行動が緩慢になります。しかし、動きが止まったわけではない。優れた武の持ち主であれば、状況さえ把握できれば弱まった力でも相手に容易に制圧されません。が、そこへ至るまでに生じてしまう隙を理香珈さんは見逃しません。次に取り出したのは、銃のような形をした特殊な注射器。垂直方向に飛び出したアンプル部分がいつものより大型のが気になりますが――
♯ パシュッ! チューーー。
>はい、二段階終了。ふらつく後輩刑事の首元に、怪しげな器具を押し付けると操作。やはり大きなアンプル部の影響で注入時間はいつもより長いですね。
理香珈(以降、「理」と表す): はーい、よちよちぃ。いい子でちゅねぇ。
>理香珈さんは、倒れそうになる後輩刑事を支えると、ゆっくりと地面に横たえる。後輩刑事の頬を軽く叩いて、抵抗できる力が残ってないのを確認すると、ついにコンボの三発目が――
男性: え!? だ、大丈夫ですか?
>おっと、ここで突然の乱入。この路地は決して人通りが少なくなく、今の時間帯ならちらほらと誰かが通っているのが普通です。だから、通行人としてコートの下にスーツを着た男性が入って来てしまったようです。短かったとはいえ、後輩刑事の出した声も悲鳴と言えなくはないので、「何か起きたのだろうか?」と思って来たのでしょうね。
理: 大丈夫です。医療関係者ですから。むしろ、救命の邪魔になるので放っておいてくれませんか!
>後輩刑事の傍らにしゃがみこんでいた理香珈さんの眼光の鋭さに、男性は取り出そうとしていたスマートフォンを取り落としかけた。
♯ カツン!
>あ、お手玉して持ちこたえたのですが、最終的には落としてしまいましたね。拾って確かめると……良かったですね。画面は割れなかったようです。そのまま、スマホをコートのポケットに入れると理香珈さんの横を抜けて、そそくさと去っていく。理香珈さんはその男性が過ぎ去るまで睨みつけて、さらに周囲を見回して他に邪魔が居ないのを確認すると、胸ポケットから注射器を取り出す。
>アニメなんかじゃ胸ポケットではなくて胸の谷間から出すような演出に変わるかもしれませんね。しかし、ゴツゴウ・ユニバースでは「体温が薬液に影響を与えるのを懸念」するのと「挟まれた圧力で取り出す際にキャップが外れる危険性」から採用されなかったようです。男の子向けのサービスカットも許されないなんて、どこがゴツゴウなんでしょうね! ……あ、音声多重(略)活劇では受け手側での過度な編集も許容されているので、個人レベルでのそういうお楽しみはありでしたね。では、そういう方々はお楽しみください。
理: は~い、悪い夢を見ているんでちゅねぇ。そういうのはぜーんぶ忘れちゃいましょうねぇ。
>若干唸った後輩刑事に対して優しく呼びかけながら、理香珈さんは後輩刑事の首筋をまさぐる。大きな注射をブスッと打ち込むのでしょうが、場所が場所だけに恐ろしいですね。先端恐怖症の方もおられるでしょうから、この場面は直接写さずに理香珈さんの顔の大写しで対応しましょう。
♯ ヒュン、チッ! カラン!
>小さな音が連続して鳴ったと思ったら、理香珈さんの動きが停止しました。視線の先は、立てるように持っていた注射器の先。そこにあるはずの針がありません。シリンジと針はドッキングさせるタイプなのですが、針部分が外れてしまったようです。それは……。わかりませんね。ちょっと巻き戻して確かめてみましょう。
>……はい、ここで。注射器を持った理香珈さんのバストアップ画面。スローで動かしていくと、画面端から何かが飛んできて、針に命中。理香珈さんは注射器をそちらに持っていかれながらも、取り落とさずに持ちこたえます。何かに当たった針は……えーと、そちらを探してもらえますか? ……あ、ありましたね。コンクリートのブロックが敷き詰められた地面に転がっています。
>理香珈さんは表情を消し、眉だけ少し寄せて、注射器を見つめています。……ああ、これは良くない例ですね。魚図博士は考えを口に出してくれる、我々に優しい方でしたが、理香珈さんは話さずに考える方のようです。一般的にはこういう方がほとんどですね。しかし、我々には表層思考を読み取る能力がありまして、ちょっとコストが掛かりますが、それを発動させてみましょう。
>噂では、年内に『パンツイッチョマン弐』が終了するようですが、予算は若干余り気味なので、コスト増も大きな問題にはなりません。むしろ、予定された製作費を下回って終了したところで、我々の収入は変わりませんので、使い切ってしまわないとなんかそんな気分になっちゃうんですよね。いや、それだけじゃなく、「前回これだけで行けたから、今回もそれくらいでいいよね」と次の予算を削られる危険すらはらんでいますから、使い切らないとだめなんですよ。
>……こういう流れがあちこちの組織で起きているから無駄遣いがなかなか減らないのでしょうね。まあ、それはそれとして――はい、読み取り機構、発動!
理: “何が起きた? ……今の衝撃、針が飛ばされた?”
>理香珈さんが地面に転がったキャップ付きの針を見つけると、すぐさま逆の方向へ顔を向ける。そちらの路地の入口にはいつの間にか一人の男が立っていた。軽く握った両の拳をだらりと垂らしたその男は、大きなサングラスを付けていた。そう、ノーパン刑事です!
ノーパン刑事(以降、「NPD」と表す): お前、タカに何をした?
>こ、怖い。この声色、確実に怒っていますね。理香珈さんはその質問に答えません。しかし、我々には心の覗き見ができるのです!
理: “あの距離からの攻撃? しかも精密射撃。しかし、武器を持っている形跡はない”
NPD: スタンガンじゃねえな。バチバチいう音が聞こえなかったからな。しかし、呻いただけの一撃でタカを倒せるなら、普通の攻撃じゃねえな。異能者か?
理: “異能者! そうか、あの男こそ、異能者か。なら、どういう能力? いや、ここは――”
>理香珈さんは急に立ち上がると、ノーパン刑事の居ない方へと駆け出す。が、数歩進むと、突然よろめき、壁に手を突いた。
理: “何をされた? ……!! ヒールが折られている!?”
>理香珈さんが見下ろして確かめたとおり、右のヒールがなくなっていた。きっと、ノーパン刑事の指弾による結果でしょう。走る時はつま先部分を主に使うものですが、理香珈さんのように高いヒールを穿いているとどうしてもヒールが接地してしまうので、それが突然なくなるとバランスを崩してしまうんですね。狭い道ですぐに壁に手を付けなかったら転ばされていたかもしれません。
NPD: 逃がしゃしねえぞ。次はふくらはぎを撃つ。
理: “「撃つ」、やはり射撃系の能力。しかし、能力発動に発声はなく、精度は極めて高い。思念弾でも飛ばしているのか? そうだとしても、「構え」がない。一体何?“
>理香珈さんは荒い息を吐きながら、ノーパン刑事を振り向く。
NPD: 逃げた、ということは、一発こっきりか、至近距離での効果らしいな。だったら、あいにく、俺との相性が悪いようだな。大人しく、タカの持っている手錠を自分で着けろ。
理: “遠距離系の異能者か。なら、確かに分は悪い。”
理: 「警察なんでしょ? だったら、非暴力主義よね」
NPD: 一般論だな。俺には当てはまらんぞ。
>理香珈さんはしばらく黙ってノーパン刑事を見つめていたが、肩を落として大きく息を吐くと、残っていた方のヒールを自分で地面に打ち付けて折った。そして、両手を上げながら、後輩刑事の倒れている場所へとゆっくりと戻る。その途中、理香珈さんは転がっている銀色の球に気が付く。
理: “鋼球? これを打ち出していたの? 両手から、親指で?”
>球を摘まんで拾い上げた理香珈さんは、ノーパン刑事の両手へと視線を移す。
NPD: 当たりだ。それを弾いている。
>ノーパン刑事は、右の肘を直角に曲げると親指で鋼球を弾いて、それを右手で受け止める。
NPD: 今の俺は、頭にきているからな。本気を出せば、嬢ちゃんの額に風穴を開けられると思うぜ。
理: はいはい。私の負けよ。後は黙秘するけど、その前に一つだけ聞かせて。あなた、この人の相棒みたいなやつ?
NPD: ああ、そんなもんだ。
理: あ~あ、囮になって走っていただけかと思ったけれど、そっちが本命だったのか。マズったなぁ。
>理香珈さんはそういうと天を仰いだ。迫り路地から見える細い空は灰色の雲に覆われていた。
>その路地から少し離れた場所に、怪しい大型車が停まっていた。コンテナの背面に、まるでハワイのような情景が中途半端に描かれたその車は――はい、きっと魚図博士の車ですね。って、背面の絵、落としてなかったんですね。こっちとしてはわかりやすくて良いですが。では、中にアクセスしてみましょう。
>あ、やっぱり、魚図博士がコンソールの前で前屈みになって、モニターに見入っています。内部は冷凍車仕様から、添谷さんと相撲観戦していたレイアウトに戻したようです。もしかすると、こっちの変更で力尽きて、外まで手が回らなかったのかもしれませんね。
魚図博士: こ、こりゃあ、大変じゃ。リカが捕まっておるではないか。
>モニターに映っているのは、合わせた両手首に不自然にコートが掛けられた理香珈さんの姿。その後ろから、後輩刑事を背負ったノーパン刑事が付いて歩いています。理香珈さんの手錠を隠しているコートは、ノーパン刑事の物のようです。
魚図博士: やはり、大門さんに連絡した方がよいのだろうな。……えーと、電話番号は……。
>慣れない手つきでスマホを操作すると、電話を掛ける魚図博士。うーん、もうこのシーンはいいですか? 大門博士が出る前に撤収しましょう! ……あ、ダメ? ん? ああ、そうですか。電話越しだったら大門博士もこちらの声を聞かないだろうから、大丈夫ですかね? だったらもうしばらく様子を窺いましょう。
合成音声: おかけになった電話番号は……
>あ、繋がらなかったみたいですね。そういえば、知り合いではあるようですが、連絡を取り続けている感じではなかったですからね。大門博士からすると、魚図博士は、電話番号を変えた後で敢えて教える必要がある人物と見なされなかったのでしょう。
魚図博士: だったら、メールか! メールアドレスはどこかで記録していたな。
>本人は忘れていても、パソコンに登録していた情報は残っているから便利ですね。検索機能で探してくれるのも助かります。そうやって、なんとか大門博士宛にメールを送った魚図博士。しかしそれは数分後、宛先不明のエラーを吐きだした。そう、魚図博士の知っていた大門博士のメールアドレスは、大門博士がかつて所属していた研究施設で割り振られていたメールアドレスだったのだ。そこを去った大門博士はメールアドレスも切れていたのだ。
魚図博士: ノー!
>コンテナの中でそう魚図博士が叫んだ時、外は暗くなり始め、当然、理香珈さんたちの姿はもうなかったのであった。
>う~ん、もうこんな時間ですねえ。始める前は「今日は内容が薄めなので、無駄話盛り盛りで」という指示が最勝寺先生からあったので、「ホントかなぁ(むしろ信じていない)」と思いながらも、こっちは雇われの身ですから私生活を少し切り売りしてまで時間を稼いだのに、今になって「ラストのシーン入らないよ」と言われても困りますね。……では、少し押しますが――あ、業界用語でしたね。少しオーバーしますが、駆け足で次のシーンも流してしまいましょう。
>そこは暗い部屋。実は警察署の一室だ。ノーパン刑事は、理香珈さんを枚鴨警察署へ連行した後、意識の戻らない後輩刑事をこの部屋へ運び入れていた。その間に、幾つか電話をしている。後輩刑事を病院に連れて行くのが本来すべきことなのだが、それは後輩刑事の経歴に傷が付くと考えているようですね。電話連絡をしていた相手の一人である、鑑識の涼ちゃんと署内で落ち合った時に、そのようなことを話していました。
>他に連絡を付けていた一人が、直属の上司である課長です。課長がこの部屋を手配してくれたようですね。
>理香珈さんは、公務執行妨害の容疑で逮捕となりましたが、住所氏名という基本的な情報すら語らず、黙秘を貫いています。所持していた品は、怪しいものが複数あったのですが、身元を示す物はありませんでした。どうやら、ああ見えて、失敗した時の準備は整えていたようですね。
>涼ちゃんとノーパン刑事の会話シーンは幾らか興味深いものでしたが、前述のとおり、大幅カットです。「気付け薬がないか?」というノーパン刑事の問いに、涼ちゃんは「専門的な医学的知識はないけれども」という前置きをしたうえで、「拮抗剤がある麻酔もあるが、何を利用したのかわからない以上、有効な手は打ちにくい」と返しました。「呼吸や心拍に問題がないなら、時間経過が安全な回復法」「閾値を超える危険を犯していない投与量であれば、一時間が一つの目安だろう」と、どうしてなかなか情報を提示してくれました。
>そして、この部屋の端に、壁を背に後輩刑事を床に座らせると、ノーパン刑事はそこから少し離れたところにある四角いテーブルに座って、煙草をくゆらせ始めます。……はい、ノーパン刑事は元喫煙者、今はもう煙草を吸わなくなっていたはずですが、どうにも「吸わなきゃやってられない」心理状態だったようですね。とはいえ、久々に吸った煙草は堪えたらしく盛大にむせていましたが、そのうち、落ち着きました。
>部屋の光源は、テーブルに置いている照明スタンドの明かり一つのみ。あ、あと、煙草の火ですかね。
>この四角いテーブルと照明スタンドのセットは、昭和の刑事ドラマに見られる取調室のシーンで使われていそうなものですね。実際、ここは取調室としても使われることがあるようです。会議室として利用されることが一番多く、長テーブルや椅子は暗がりの奥の部屋の隅にまとめられているはずです。
>照明スタンドが照らすのは、アルミ製の典型的な灰皿。そこに押し当てられて消されていくタバコの吸い殻が一本ずつ増えていき、それが半ダースになったあたりで、後輩刑事が小さく呻きます。すると、ノーパン刑事は照明スタンドの首を曲げ、そちらを照らし出した後、声を掛けます。
NPD: おい、タカ! 目を覚ませ。
後輩刑事: う、うぅ。ぐ、ぐぐぐ……
>「ぐぐぐ」というあたりは歯ぎしりのようです。ちょっと危険な臭いがしますね。
NPD: ちっ。
>ノーパン刑事は舌打ちをすると、テーブルに置いていた水の入ったコップを手に取り、後輩刑事へ近づくと、その中身を顔へとぶちまけます。
後輩刑事: ぐがっ!
>驚いたように目を覚ます後輩刑事。口から吐き出された言葉と、血走った目はどうみてもいつもの後輩刑事ではありません。どうやら、理香珈さんは『チョー人薬』を既に投与していたようですね。今回、長めのアンプルを使っていたのは、麻酔と同時に打ち込んでも効果があるとわかったから最初から混合していたのでしょう。
NPD: おい、タカ。俺だ。わかるか?
>ノーパン刑事の声掛けに、後輩刑事は動きを止めて、ノーパン刑事を見つめるが――
後輩刑事: ウガーーッ!
>叫び声をあげて飛びかかった! 尻を着いていた状態からの跳躍は、普通ここまでの動きはできません! やはり、身体能力は強化されているようですね。
♯ ガシャッ、ギギギ。
>急な飛びかかりにもかかわらず、ノーパン刑事はそれを回避した。結果、後輩刑事は勢いをテーブルへとぶつけ、照明スタンドが倒れて、テーブルが床を擦って移動させられる。
NPD: ちっ。
♯ ヒュン、ヒュン。
>ノーパン刑事が舌打ちをした直後、何かが空を切る小さな音がした。ノーパン刑事の指弾だ。
後輩刑事: ぐわっ。
>しかし、それを後輩刑事は横に転がって避けた!? この暗がりの中、高速で飛ぶ小さな球はほとんど見えないはずですが、それを察知できているのか!? 頭蓋骨博士たちが話していた「素体が強ければ、強化体はもっと強くなる」の理論は正しいようですね。もしかすると、今の後輩刑事はノーパン刑事やパンツイッチョマン並みの視力を有しているのかもしれません。もし、それほど見えていなくても、何か危険を察知して回避したという動物的な感覚が備わっている可能性もあります。確かに、これは厄介な相手ですよ。
NPD: この程度じゃ避けやがるか。しかし、本気で撃ち込むと――
後輩刑事: グガーーッ!
>おっと、ノーパン刑事の話している最中にもかかわらず、後輩刑事がまた仕掛けた。これは本当に、いつもの後輩刑事の理性が残っていないようです。まともであればノーパン刑事の発言を遮るのはツッコミの時だけですからね。しかし、この攻撃もノーパン刑事はすれ違うようにして避ける。遠距離からほとんど動かずに相手を倒すばかりなので、あまり印象に残っていないかもしれませんが、ノーパン刑事も運動能力はかなり高いのです。
NPD: ――お前に大怪我を負わせちまうからな。だから、こうするしかなかった。
>言い終えると、ノーパン刑事は下がって距離を取る。
NPD: かまわん。やってくれ。
>対象が逃げると感じ取ったのか、ビースト化後輩刑事が差を詰めようとして、ふいに立ち止まる。二人の間に黒い影が割り込んだからだ。
>その黒い影は、ずっとこの部屋の中にいた。全身に黒いペイントを施していたため、目立たなかったのだ。予想をしていなかった乱入者に、ビースト化後輩刑事がうろたえたその一瞬を、黒い影は逃すわけがなかった。
黒い影: イッチョマン・スラップ!
♯ パチン! ……ドサッ。
>今日も、平手打ち一閃で勝負がついてしまった。後輩刑事は、頬をぶたれてそのまま床に突っ伏して動かなくなってしまった。
NPD: これで正気に戻るのか?
黒い影: さあな。それは試してみないとわからないが。……起こすのか?
NPD: ああ、やってくれ。
>えーと、これはもう名乗りはないですね。というか、実は飛ばしているシーンの中に名乗りのシーンがあったようですが、「そこはどのみち飛ばすつもり」という最勝寺先生の指示もあったので、こちらから紹介しておいた方がいいでしょう。もちろん、視聴者の皆様ももうわかっているとおり、この黒い影の正体はパンツイッチョマンでした! 黒塗りのイッチョマン・ミラージュ(シャドウ仕様)で潜んでいたんですね。パンツは元々黒いのでそこはそのままでオーケーでした。
パンツイッチョマン(以降、「P1」と表す): イッチョマン・スラップ!
♯ ペチン!
NPD: ん? そこは同じなのか?
P1: ん? どういう意味だ? イッチョマン・スラップはイッチョマン・スラップだが……。
NPD: いや、動きは同じでも効果が違えば……いや、そもそも動きも違うだろう。いつものはこうで、今のはこうだから――
>また小さな事で身振りを交えて議論が始まる二人。感性が合わないのか、逆に、合い過ぎるからぶつかるのかよくわかりませんね。
後輩刑事: う、う~ん。
>そして、いつものように、今回も後輩刑事はあっさりと目を覚まします。すると、ノーパン刑事は議論を中断して、後輩刑事へと声を掛けます。
NPD: おい、タカ。わかるか?
後輩刑事: あ、アニキ。……あれ? ここは? えらく暗いですね。確か……金髪の女性と路地で――
NPD: ――バカヤロウ、心配かけさせやがって!
>ノーパン刑事が手を振り上げて、後輩刑事を叩こうと――いや、止まった。手を挙げた状態で止まりました。後輩刑事もぶたれるものと思って身構えていましたが、どうもそれをされないようだとわかると身を解きます。
NPD: ……まあ、今回は相手が悪かったから勘弁しておいてやるが、女だからって甘く見るんじゃねえぞ。
>そういうと、ノーパン刑事は……あれ? 今、目元を拭いましたね?
後輩刑事: あ、そういえば、あの女性に何かを吹き付けられて……。もしかして、気絶されられていました?
NPD: 気絶どころじゃねえよ。お前はあの暴れ牛と同じように暴走させられそうになっていたんだよ。
後輩刑事: え? ま、本当っすか!? じゃあ、あの女があの事件の黒幕?
NPD: さあな、まだ口を割っちゃいねえが、俺の勘はそう言っている。事実、お前はさっきまで暴走状態だったんだぞ。あの女、どこかの秘密工作員かもしれねえな。
後輩刑事: え? ……なんか、いや、すいみせん。ご迷惑をおかけしました。
>後輩刑事は床に手をついて立ち上がると、ノーパン刑事へと頭を下げた。
NPD: 俺はいい。礼を言うなら、そいつに言え。
>ノーパン刑事はテーブルまで戻ると、照明スタンドの首を曲げる。すると、暗闇の中から黒い影が浮かび上がる。
後輩刑事: げっ! ええっ! だ、誰……って、アニキ、こいつ、あ、あの――
P1: 私は、文明の影法師、パァーーンツゥ――
>あ、やっぱり、名乗るんだ。
P1: ――イッチョマン!
♯ バン、バン、ババン!!
>いつもの三連ズーム! だけど、暗闇に浮かび上がる黒い影だから、なんだかわかりづらいぞ。だけど、もちろん――
♪ チャラッチャラッチャラッチャラッチャッチャー、デケデケドンデケデケドン……
(中略)
♪ パァアンツゥーーー、チャッチャッー、イッチョマ~~ン!
>はい、やっぱり流されるパンツイッチョマンのテーマ。まだこのシーンは続きますが、ここを区切りといたしましょう。では、また来週~。




