パンツイッチョマン VS ノーパン刑事 2
ナレーター(以降、「>」と表す): ここは魚図博士の研究所の会議室。……はい、独り運営のはずですが会議室なんかあったんですね。設計当初は他の科学者とディスカッションするための部屋が必要と考えていたのかもしれません。そして、どうやら実際運営スタートしてからしばらくは科学実験を手伝ってくれる人がいたようですが、辞めてしまったようです。せっかく専門的な知識を得られたのに、それを使って自らの手で新境地を切り開くというわけではなく、言われたまま実験手技を実践するだけではやりがいがなかったのかもしれません。
>ちょっと違いますが、士官と下士官の違いに似ていますね。一部、というか多数の少年漫画では、階級は強さを表しているにすぎませんが、実際には役割がかなり違います。その大きな区切りとなるのが士官と兵士です。
>士官は、大まかに言って指揮をする立場です。尉官、佐官、将官と位はたくさんありますが、担当の範囲が広くなっているのがわかりやすい違いですね。
>一方、兵士は戦うのが仕事です。士官の命令に従って戦う、という行動が求められています。
>では、下士官とは何か、になりますが、順位を見て思いつくとおり士官と兵士の間の仕事をする、という側面もありますが、専門家という側面もあります。特定の技術知識に秀でた兵士、というわけですね。例えば、戦車を操る兵士は役割にもよりますが下士官が相当するでしょう。
>というわけで、魚図博士が必要としている人材は、科学における下士官に相当します。兵士だと指示をしても全く理解できないので、知識のある下士官が必要になるのです。が、科学界はこの下士官の育成が行き届いていません。士官ばかりなのです。だから、下士官相当の仕事を押し付けると嫌気がさして出て行ってしまうわけですね。
>ざっとで分類しますと、大学がいわゆる士官学校になります。そして下士官の学校は専門学校になるでしょう。と、いうことは薬学系であれば下士官も育成していますよね。だから、そのあたりへ求人を仕掛ければ反応はあるのでしょうが、魚図博士の専門が有機繊維素材なので、「薬学とは違うよな」と思い込んで、そちらへ求人を募集するという発想がないようです。薬学を学んだ専門学校生でも、薬品の扱いに長けているから少し指導すれば使い物になるんですけれどね。そのあたりは、やはり魚図博士の人づきあいが苦手な面が関係しているのでしょう。
>と、いつものように脱線したところで、魚図博士が発表をしている相手は誰かと言えば、……理香珈さんでした! いわゆるウェブ会議をする時もこの部屋を使う事が多いので、誰も居ない部屋で魚図博士が一人で話している場合もありますが、今回はちゃんと同じ部屋で理香珈さんが話を聞いていました。魚図博士が演台の向こう側に立っていて、幾つかある長テーブルの一つに理香珈さんが腰を掛けていました。……あ、もちろん、テーブルに合わせて置かれている椅子に座っていますよ。理香珈さんだったら、テーブルのそのまま載っていそうな雰囲気がありますからね。本来、不要な説明ですが、敢えてしておきます。
>具体的に何を話しているかについては、深く踏み込まないでおきます。前回、議論について触れたら意外に長引いてしまった失敗例がありましたからね。概要だけの説明に留めておきましょう。
>説明しているのは、パンツイッチョマンとの戦いについてであった。これまで具体的にどういうプランを組んで対処し、その結果がどうであったかを話していた。改めて、それらの事例を振り返ったところで見えてくる反省点についても挙げている。当然、理香珈さんにしてみれば、そういう方針になった背景についての疑問が浮かんだろうが、非公表と示していたら、意外にもそこには突っ込んでこなかった。……おそらく理香珈さんの方でも、詳しく話せない事柄をたくさん抱えているんでしょうね。なんといっても、あの大門博士の組織に属しているのですから。『リヴァイアサン計画』とかいう怪しい話もしていましたよね。もちろん、私はそれについて興味はありませんよ。大門博士には近づきたくないのです。
>ちゃんと説明しておいた方がよいと思われる点があります。通常の会話では、疑問が浮かべばその場で聞くのが普通ですが、今回の説明会では発表が全て終わった後に質問をしています。学校の授業なんかでは「質問があったらすぐに聞いてください」という対応が多いと思いますが、科学の世界ではそうではないんですね。……まあ、だからといって、この特徴で何か結果が大きく変わるわけではないのですが。
>あと、魚図博士は発表資料を電子媒体で作成してスライド説明していました。この資料って、作成するのに結構時間が掛かるんですよね。我々も会議をする場合に作成する機会があるのですが、十数分のプレゼンテーションでも半日から丸一日掛かる時があります。しかし、魚図博士はさらさらっと数時間で作成してしまいました。慣れているからのようです。変態科学者のようですが、科学者としてのキャリアはそれなりに積んできているんですね。
理香珈(以降、「リカ」と表す): で、次はどうするの?
魚図博士(以降、「魚」と表す): 素体が決まらないとどうしようもない。選別は添谷くんにやってもらわなくてはならないが、今は海外に出かけておるからしばらくは中断だな。
リカ: ソエタニって誰?
>ま、そうなりますよね。そして、失言に気づいたかのように黙り込む魚図博士。依頼人については秘匿しなくてはならない、と思っていても、常に意識できるのとは限らないのだ。前にもこういう失言はあった気がするので、魚図博士はうっかり口を滑らせやすい人のようです。
魚: ま、まあ、さる組織に属する格闘技……いや、格闘家の専門家だな。
リカ: いや、格闘家の専門家って何よ! 異種格闘技戦の解説をする人?
>私も理香珈さんがツッコミを入れて初めて、「そういえば『格闘家の専門家』って変だな」と思いました。そう思わなかった方も格闘家を別の職業に変えるとわかりやすいですよ。「料理家の専門家」……ほら、料理の専門家あるいは批評家で良くない、と思いませんか?
>でも、理香珈さんが直後に「異種格闘技の解説をする人」と言われると、「ああ、なるほどな」とわかりました。先程の料理の例えで考えるなら、料理一品に対して批評するのではなく、「あの料理家はフランス料理の流れを汲んでいるから……」という感じになるんでしょう。
>賢い人は話しているうちに自己解決しちゃうんですね。すごいですね。
魚: ……うーん。もしかすると、そういう仕事もしておるのかもしれんな。今度聞いてみるか。
>おっと、理香珈さんのツッコミは魚図博士にも刺さったようだ。ふとした一言が周囲の人に思考を促す。そういう女性ってなんだかトラブルの種を蒔きそう気がしますね。……いや、そういう特性がないとしても理香珈さんは完全にトラブルメイカーでしたね。
リカ: ふーん。まあいいや。海外って学会?
魚: いや、仕事だろう。年末はヨーロッパへ行くと言っていた気がするな。
リカ: ヨーロッパか。同僚のハニーはあっちの出なんだよね。でも、まだ遠いよね。
魚: 昔に比べればずいぶん早くなったぞ。渡米も船だったら何日も掛かったからな。
リカ: え! マジで? オジサン、船でアメリカへ行ってたクチ?
魚: いや、私ではなく、私の先生にあたる世代の話だが――
>ああ。やっぱり雑談が始まってしまいましたね。まあこの二人は親戚同士なので。親族の会話って基本は雑談ですからねえ。このあたりは飛ばしましょう。代わりに、久々に映画音楽を――
※注釈: 映画音楽もサクッと飛ばします。
リカ: でもさあ、その人が戻ってくるまで待っていたら研究が止まっちゃうじゃない? それでも良さげ?
魚: もちろん良いわけではないが、仕方がないだろう。別に、それだけを進めているわけでないからな。別の研究も――
>えーと。二人ともヌルッと会話を進めていますが、「パンツイッチョマンを倒せ」って計画は研究じゃないですよね。理香珈さんは直接この計画を担当しているわけではないから、「計画」とか「仕事」とかいう感じで、言い慣れている「研究」って単語をつい使ってしまったのかもしれませんが、魚図博士にとっては「研究じゃないだろう」と感じないと変です。……ということはもしかして、研究の一環の感覚なのでしょうか? そうだったら、さすがはマッドサイエンティストという感じですね。
リカ: ダメだなあ、オジサンは。そんなんだから、うちのボスから最終的にハネられたんだよ。
魚: うっ、そうか。……そうなのか。
>落ち込む魚図博士を見て、ケラケラと笑う理香珈さん。
リカ: 受けるぅ。真に受けちゃって、オジサン、騙されやすいよねぇ。
魚: ん? しかし、結果から見るにリカの言う説は筋が通っておるぞ。
リカ: ま、そうなんだけど、一度聞いたことがあるんだよね。もちろんボスに直接じゃないよ。ハニーに「親戚のおじさんも候補に入っていたんじゃなかったっけ?」と聞いたら、その時は彼女、ちっともオジサンの事を知らなかったけれど、後日「別の組織に近い存在と見られたみたいよ」と教えてくれたの。で、今、オジサンが受けている依頼もきっとその近い組織なんでしょ? ここは独立した研究所にみえて、御用聞ってヤツだったんだ。
魚: ……ふう。大門さんは、どうやってその情報を掴んだのだろうなあ。
リカ: いやいやいや。そんなの聞かれても、リカも知らないし。知りたくもないし。ついでに言っておくと、オジサンの近い組織ってのも知りたくないし。リカ、か弱いからさ。ゴーモンとかされたらすぐ口を割っちゃうじゃん? だから、最初から余計なことを知らない方がいいのよね。
魚: 拷問とは物騒だな。貝……あいつは、そういう事はせんぞ。だが、大門さんは……
リカ: あ、そういう事もリカに聞く? いや、知らないに決まっているでしょ。でも、賭けでどっちかに張らないといけないなら、もちろんありに賭けるけど。
>また、あっけらかんと笑う理香珈さん。いや、笑うべき内容じゃないと思いますよ。
魚: いや、それ以前に、深く考えると、あいつもそういう事をやらないとは言い切れない気がしてな。
>なんか、こっちも感覚がおかしいですね。幼馴染が恐ろしい存在かもしれない、と動揺せずに考えている点でもおかしいですが、大門博士も恐ろしい存在だという点についても本来コメントしておくべきだと思いますよ。
リカ: あ、そ。でもね、リカはもう、今ある情報の中だけで次の素体? うん、素体を誰にすべきか、もうわかったよ。
>考え込んでいた魚図博士が顔を上げる。
魚: 何? それは本当か?
リカ: こんなところでオジサンを騙しても仕方ないじゃん。
>いや、さっき騙していましたよ。さらに、その反応を見て、笑っていましたよ。
魚: むむ。では、いったい、誰が素体に向いている思う。
リカ: えーとね。じゃあ、スライド戻してくれる?
>理香珈さんの指示に従って、一旦発表を終えたスライド資料を映し直されます。
>まさか、こんな形でまた映されるとは予想外でした。これだと説明資料をすっ飛ばしたのは成功だったとは言えなくなっちゃいましたね。しかし、放送時間的には飛ばすしかなかったのも事実なので、成功とは言えないが、間違ってもいないというところでしょう。
>そうして、映し出されるのはあのカルガモ母さんが活躍した「レインボー通り商店街暴れ馬事件」に関するスライド。この事件について記されたスライドは数枚あるのですが、最後の一枚ですかね? ……あ、すいません。視聴者の方々に聞いてもわからなかったですね。……スタッフからの反応では、おそらくそうだろうという事です。みんな、放送しない部分だから意識して覚えていないようですね。
リカ: ほら、この、チョージン薬で強化された実験体は、標的、パンツイッチョマンだっけ? その変態にぶつかる前に倒されたんでしょ?
魚: うむ。だから、カヤックの有効性を確認できず、次の相撲取りに――
>えーと、どうやら双方意識して譲らないようですが、「チョージン薬」と「カヤック」――確か正式、というか魚図博士の考える正式名称は「超人カヤック」でしたね――は、同じ強化剤を指示しています。
リカ: いや、そのデブについては知らないけれど――
>えーと、岸九浪、および力士について「デブ」という暴言を吐いたのは、当番組が意図した内容ではありません。あくまで理香珈さん個人の感想です。
リカ: 少なくとも、この吊り下げられた強化人間一号? うん、一号より強い人がその場に居たって事でしょ?
>ハッとして、自分の作成したスライド画像へ振り返る魚図博士。
魚: た、確かに。つまり――
リカ: そう。そいつを次の素体にすれば、バッチリ、ピンポンパンじゃん♪
>えーと、ピンポンパンの意図する内容は理香珈さんの個人的な感性によるもので、当番組では把握できていないのですが、おそらく「当たり」という内容に近いと予想されます。
>というか、ええっ! それって、ノーパン刑事の事ですよね? そうか、それでタイトルの『パンツイッチョマンvsノーパン刑事』へ繋がるのですね。なるほど! いやあ、またパンツ談義でもするんじゃないかと思っていましたが、意外や意外、最勝寺先生もきちんと両雄が激突するシチュエーションを考え付いていたのですね。……もしかしたら、ついさっき思い出したのかもしれませんが、そこはこちらも詮索しないでおきましょう。
>では、次のシーンは……。おおっ、ノーパン刑事を暴走化させる役目は理香珈が担当するようですね。立案者が最前線で計画を遂行するという姿勢はなかなかできることではありません。一般的には「言いだしっぺのお前がやれよ」という押し付けはありますが、社会においては立場や責任の所在がはっきりしていれば、立案者はそれだけで自身の責任を果たしたといえますからね。事実、理香珈さんは「パンツイッチョマンを倒せ」の依頼を受けたわけではないから、魚図博士に任せるべきなのでしょうが……。はい、皆さんの想像するとおり、どちらの方が成功率が高いかはっきりしていますね。そういう意味では、番組としても理香珈が最前線に立っていただけるのはありがたいです。もしかすると、理香珈さん自身、気絶洗脳三連コンボを決めるのを楽しんできているのかもしれませんね。……それはそれで、大いに問題ですが、番組としては目をつぶりましょう。
>そもそも、絵面としても理香珈さんの方が映えますから。そんなにアップにして目尻とか指先とかに注目しなければ、若くて美しい女性ですからね。萎びたお爺さんより、需要があります。……という内容を公に言うのは問題がある時代になってきています。皆さんも発言にはお気を付けください。
>しかし、事前の予想では、ノーパン刑事が有利と出ています。というと街角アンケートでも採ったようですが、そうではなく、我々スタジオスタッフの間での予想です。そのあたり、理香珈さんはどう壁を超えてくるのでしょうか? あんな恰好をしていますが、理香珈さんはかなり賢い女性なので、何か策があるのでしょう。楽しみですね。
>…………
>えーと、残り放送時間に収まりそうにないので、今週はここで一旦切るようです。まあ、一般的にはこれでも長い分量なので「おなかいっぱい」なのかもしれませんね。
>それでは、また来週~~。




