白雪舞う聖夜の決闘 5
ナレーター(以降、「>」と表す): 今週こそはエピソード終了まで辿り着く不退転の気持ちで始まりました『パンツイッチョマン弐』。飛ばしていくので、いつもの「だいたい一万字」という放送時間の遙か前で終了するかもしれませんが、ご了承お願いします。……ん? なんですか? 「うん、知ってる」って、まるで「どうせむしろ延びるんだろ」っ感じの反応は! ……あ、でもそれは私たち放送スタッフの問題ではなく、最勝寺先生の問題でしたね。だったら、その時がくれば、私も「うん、知ってた」という顔をしますね。
>カメラは、動いているコンテナ車の上にヒーロー着地しているパンツイッチョマンの姿からスタートです。うん、決まっていてカッコいい……というか、風に当てられて寒そうですね。……え? その前に「ヒーロー着地って何?」という声が届きました。
>ヒーロー着地とは、……えーと、今回は巻きなので省きますね。これまでに何度かやっているはずなので、見返していただいたらハッキリすると思います。
>桜ちゃんと共闘した時は、着地シーンが多かったから……いや、それはそうでしたが、桜ちゃんを受け止めていたから、ヒーロー着地はなかったかもしれませんね。むしろ、ボロボロ着地でした。
>であれば、あの殺人的技『イッチョマン・ストンプ』の後ではヒーロー着地をしていそうです。あ、あと、桜の花見の際、樽酒を振る舞っていた囮役の太鼓さんにパチンと決めた時も、ヒーロー着地していたのではないでしょうか?
>しかし、あの太鼓お爺さんが、クイズ番組『人生バンジー、最高がマー!』にまで登場するとは、あの時誰が予測できたでしょう。
>……なんか、ヒーロー着地を普通に説明した方が早かった気もしますが……おっと、ここで解説です。巻きとは業界用語で、押しているから――「押す」も業界用語でしたかね? えーと、時間が詰まって余裕がないから、手早くまとめて進行をして、という意味でした。解説無く使ってしまって申し訳ありませんでした。
>では、パンツイッチョマンに戻ります。……ん? また別の疑問が割りと強めに届いてきますね。コンテナの中にいたはずのパンツイッチョマンがどのようにして、コンテナの上へ出られたのか、疑問に思う方が多いようです。
>確かに、動線としては、跳び乗ろうにも足場がありません。真っ直ぐではなく、グニュっと曲がって跳ぶ……なんてことはゴツゴウ・ユニバースでも普通できないそうです。それなら、後続車の屋根に飛び乗る方が簡単そうです。……えーと、あくまでパンツイッチョマン視点での話です。良い子は走行中の車から飛び出すような真似はしちゃいけないよ!
>パンツイッチョマンがヒーロー着地をした後は、そのまま低い姿勢を保ち……え? どうやってコンテナ上に出たのかわかってないままなのが気になりますか? ……「ドチテ、ドチテ」と舌足らずに聞いてくる声もありますね。……え、これは古い優良アニメからの混線?
>あ、あくまで混線でパクりじゃないですからね。
>じゃあ、仕方なくお伝えしておきますと、開いた扉の縁と言えばいいのかな? 扉板の上へ乗ってから、コンテナ上へ移ったのでした。コンピューターグラフィックスのポリゴン板とは違い、薄いといえども扉板の厚さはゼロではありません。そこを足場にしたんですね。そういえば、一応アイドルの益子ぷらむさんのレイプ未遂事件――レイプって言ったらダメでしたね。では、暴行未遂……いや暴行自体は発生していたので暴行事件からの脱出の際、詰め掛けたスタッフの皆さんを突破するのにも、この扉上への一時退避を利用していましたね。日常における盲点を突いたトリックのように見えますが、パンツイッチョマンのずば抜けたバランス感覚と、裸足と足指の握力が揃ってこその技です。現実的な解決策ではないので、実際に試したり、自分が書いた作品へ転用したりするのは避けた方が良いでしょう。
>……では、お忍び姿勢パンツイッチョマンに戻ります。
>低くした姿勢が忍び歩きのようですが、ちっとも忍んでいません。モロ見えです。ですが、ゴツゴウ・ユニバースの皆さんにとっては、意外――いや、もうゴツゴウ・ユニバースの人達の特性を知る視聴者の皆さんにはちっとも意外ではないのですが、一般的に考えたら意外という意味で、ほとんどパンツイッチョマンの姿は認識されていません。「走行中の車の上に誰かいる」という意識がないので、そこへ目が向かないのです。そして、ゴツゴウ・ユニバースの人々は、まるで望遠鏡を覗き込んでいるように、注目対象周辺の物しか基本的には目に入らないようですね。最勝寺メモによると、「等倍望遠鏡アイズ」ということです。
>結果的に、パンツイッチョマンの忍び歩きは忍べているわけですが、見ていると、見つからないように姿勢を低くしているというより、風に当たる面積を小さくするための姿勢変化のようにも思えてきました。……まあ、いいや。ともかく、運転席の真上までやって来たパンツイッチョマン。そこで、ちょっと考えてから、這いつくばり、運転席の横の窓から中の様子を窺います。
>大変危険な行為なので、皆さんは決して真似をしないでください! 上にいる人よりむしろ運転している人が危険です。だって、何気なく運転していて、ふと気配を感じて横を見たら、サングラスの男が上から首を出してこちらを見つめている、って恐怖体験ですから! 急にハンドルを切ってしまい、反対車線に飛び出してしまおうものなら、重大事故です。っていうか、今まさにその危機じゃないですか!
P1: むっ!
>おや? 覗き込んだパンツイッチョマンの方がむしろ、驚いたように唸った。……なるほど。これは確かに驚かされます。
>運転席には、帽子を被った男性がハンドルに手を置いて前を向いているように見えます。しかし、その男は微動だにせず、何より時折チラつきます。そう、立体映像ですね。虚像の人物ならば、変態の出現に動揺するわけがありません。いや、むしろ実体がなければ運転できませんね!?
>おや、運転席側の窓が開いていきます。そして、車載のスピーカーから聞こえてくる声。
頭: ふふふ。恐れ入ったか、パンツイッチョマン! このトラックは自動運転だったのだ。
P1: ならば、こちらで止めれば良いだけだ。
>クルリと運転席の窓枠を鉄棒のようにして、頭から運転席に入り込むパンツイッチョマン。頭蓋骨博士の立場からすれば、窓を閉じたままの方が良かったのですが、声が聞こえないのを心配したのが裏目に出たようですね。あっさり利用されています。
>さすがにこのパンツイッチョマンの動きは目立つはずだが……特に周囲からの反応はない。たまたま見ている方のいない数秒間だったのだろう。ならば、いざ座った場合、立体映像とパンツイッチョマンが重なるとかなりの異常に見えるのではないか……とも思ったが、映写機をパンツイッチョマンがお尻の下に敷いたため、パンツイッチョマンオンリーになった。……まあ、それはそれで問題だが。皆さんも、上半身裸で運転している人を見かけたことないでしょ?
>パンツイッチョマンはまず入ってきた窓を閉めた。吹き込む風が寒いのだろう。そして、ハンドルを握るが――
P1: むむっ!
>再びの唸り声。
頭: ふふふ。いかにも、そのハンドルもペダルもただの飾り。実用性はない。みなはそのシートが運転の要だと思いこんでおるが、そもそも車を動かしておるのは車輪やエンジンだ。そこへの指令がそのシートからと縛られておる理由などない!
P1: では、あの扉の奥がコントロールルームだと。
頭: 大凡正解だな。実際には、世間で言うところのAIが動かしておるが、それへの介入コンソールを設置しておる。
>おおっ! 「自動運転」と言っていたからそうであろうと思っていましてが、現実社会で実験段階の未来技術がここでは実践されているようです! もちろん、道路交通法違反です!
>パンツイッチョマンは溜め息を吐くと、一旦閉めた窓をまた解放する。急に吹き込んでくる風に、ブルリと体を震わせてから、ヌルリと運転席の上へと出て行く。このあたりの映像は見ていておもしろいのですが、後がつかえているので、飛ばしましょう。
>はい。再び、狭くて薄暗いコンテナ内の前室です。奥への扉は大きなレバーをガチャリとするタイプですね。レバーの動きで圧着させる構造は、気密性を重視しているということで、この奥が枚鴨ワンダーランドでいうところの「極寒の世界! 氷の驚異」状態なのでしょう。 ……え、わかりにくい? まあ、確かに、皆さんが目にしたのは、閉園後のちっとも寒くない状態――というか、内部は丸々カットでしたね! じゃあ、冷凍庫状態と言えば伝わりますね。最初からそう言っていれば、時間の無駄じゃなかったという声もあるでしょうが、何事も時間的効率優先という思考だと……あ、この流れが無駄? では、パンツイッチョマンに戻りましょう。
♯ ガチャリ。
>どこか気が進まないが仕方なし、という雰囲気を背中から醸し出しながら、パンツイッチョマンが扉を開けた。そして、やはり流れ出てくる冷気。いや、本当のところ、温度変化はこちらでは把握できないのですが、もうハッキリと白い煙状の空気が見えます。あれは空気の中の水分が小さな氷の粒になっているのでしょうかね。疑問に思った科学的好奇心が旺盛な子供たちは、「Webで検索!」してくださいね。
>冷凍庫の中は薄暗いが、奥にモニターがあるのはぼんやり光って見える。あれが、車の操作ができるというコンソールなのだろう。
頭: あ、ちょっと待て。そのまま入ると、足の裏が床に張り付いて大変なことになるだろうから、ほれ、そのあたりに置いてある長靴を履きなさい。
>パンツイッチョマンが視線を下げた先、開いた扉の脇には、確かに黒い長靴が置いてあった。すぐ見つけたあたり、パンツイッチョマンは気づいていたのだろう。
♯ バタン、ギュッ。
>一旦扉を閉めて、さらにドアレバーを絞るパンツイッチョマン。冷気に当てられているだけで寒かったのでしょうね。半裸だから当然だ。
P1: そう言って、私の機動性を阻害するつもりだな。
>なるほど。小さな子供たちが大好きな長靴は、確かに歩くとポッコンポッコンするほど隙間がありますね。あれを履いて格闘戦を挑もうものなら、途中で抜けて飛んでいきかねません。その後、足の裏が凍った床に張り付いて……うぅ、考えるだけで痛そうです。
頭: いや、そうはならんぞ。それはただの長靴ではないからな。その名も、『ジャストフィットフット』、ワシの発明品だからな。
>パンツイッチョマンは特に反応を返さないが、やっぱりこんな状態の人は聞かれていないのに説明を始める。
頭: 『ジャストフィットフット』は履いた後、その縁にあるボタンを押すと、瞬時に筒部分が窄まり、足に「ジャストフィット」する優れものなのだ。ほれ、試してみろ。
>言われるがまま、長靴に足を入れるパンツイッチョマン。普通は罠の可能性を考えて警戒する、というか警戒すべきなので、良い子のみんなは怪しい人の発言は鵜呑みにしちゃイケないよ。
頭: そして、ボタンを押す、と。……少し固いが――
♯ シュッ!
>頭蓋骨博士が説明している途中に、パンツイッチョマンは実行してしまいました。うん、やっぱり警戒心は多少あった方がいいですよ。
P1: む。
>驚きなのか何なのか、感情が読みづらいパンツイッチョマンは、ナレーター泣かせです。長靴の方は、頭蓋骨博士が言ったとおり、パンツイッチョマンの脚にフィットしたようですが、薄暗い部屋に黒い長靴なのでわかりづらいですね。あ、音声多重(略)活劇では、言ってしまったもの勝ちでした。だから、ジャストフィットした! と言っておきます。
頭: ふふふ。驚くべき効果であろう。しかし、商品化はコスト面から見送られた。見かけによらずかなりの高級品なのだ、それは。あと、フィットするのは筒部分だけで、靴のサイズは変わらない。それが会議ではややこしいと――
♯ ガチャリ
>パンツイッチョマンは、頭蓋骨博士の話を聞かずにまた扉を開く。
P1: ふぅ。
>大きく息を吐くと、パンツイッチョマンはスタンディングスタートの構え。一気に駆け抜けて、制御コンソールを操作したら直ちに駆け戻るつもりだろう。
P1: とあっ!
>走るパンツイッチョマン! 速い!
頭: のあっ!
♯ カンッ!
>遅れて鳴らされる金属音。直前に頭蓋骨博士が慌てていたので、博士が鳴らしたのでしょうね。それ反応して、パンツイッチョマンの行く手に何かが立ち上がる!
>薄暗くてわかりにくかったが、部屋の奥、コンソールへ至る前に小山が築かれていたのだ。それは、被せられていた羽毛布団を跳ね飛ばし――
謎の男: フガフガ、フガハガガガフガフガ
※注釈: 「ようやく、チャンプのお出ましか」と言っています。
>えー、何を言っているのかわかりませんが、これはマウスピースを着けているためだと思われます。そう、立ち塞がってファイティングポーズをとった男は、添谷さんが推薦し、魚図博士たちが準備を整えた刺客、下柳光円!
>ん! お、明かりが点きました。四方からLED照明に照らされて、前室に比べればかなりの明るさです。そして、明らかになる下柳の異様な姿!
>下柳は全身タイツに身を包んだような格好をしていた。しかし、それはおそらくタイツではない。まるでゴム製であるような艶が表面に認められるからだ。
>駆けていたパンツイッチョマンは当然停止している。長靴のグリップは良かったらしく、新しく現れた下柳より、長靴の底を片足を上げて感心したように頷いて見ている。
頭: ふふふ、恐れ入ったか。断熱性の高い特殊樹脂で作られた全身スーツ『暑くても寒くてモン』。もちろん、これもワシの発明品だ。
>全身スーツと聞けば、おそらく皆さんは頭部分も幾らか覆われていると想像しているかと思いますが、そんなことはありません。頭部は丸出しです。これは実写化の際は有利な点ですね。役者は顔を出すのが仕事、ですから。
>「スタントが代わってくれてもギャラがこちらに入るならいいや」と思うサボリ屋さんも、俳優の中にはいるでしょうが、それを許しておくと、「スタント部分は全部CGでいいよね」「てか、AI作製のキャラで良くない」と成りかねないのです。
>AIに我々人類の居場所を侵食されないよう、我々はこれからも活動を――
>――あ、反AI活動家はお呼びじゃなかったですよね。
頭: しかし、これも高コストから販売はされていない。あと、汗で蒸れるのも問題で、名前と裏腹に実質暑いのには対応――
P1: イッチョマン・スラップ!
>早速出ました。先制攻撃。もはや、不意打ちと言ってもよいほどの一撃を、下柳は上半身を後ろに反らして避ける。そして、すかさず反撃! 放たれたパンチをパンツイッチョマンは頭をずらして回避する。
>行動だけを説明すると、それほど変化はないようですが、実はパンツイッチョマン、回避行動をとる前に右腕を動かしていました。そう、いつも相手からの攻撃をイッチョマン・スラップで迎撃していて、今回もそうするつもりだったが、間に合わないと判断したようです。それだけ、下柳のパンチが速く、何より回避からの攻撃の隙がない、ということを示しています。
>あともう一点付け加えますと、パンツイッチョマンとボクサーの相性はあまり良くないようです。だって、パンツとパンチは一字違いでしかないですからね。パッと見た感じどちらについて言われているのかわかりにくいでしょう? いや、私は良いんですけれど、視聴者の皆さんにとっては相性の悪い組み合わせですね。
P1: イッチョマン・スラップ・エーンド・スラップ!
>お、新しい技――のように見えて、単なるイッチョマン・スラップの連発。しかし、こういう技もパンツイッチョマンがいちいち技名を発してしまったことで、マニアの間では新技として認めるべきか否か、新技なら呼称をどうすべきか、論争が巻き起こりそうです。……え? 呼称については、パンツイッチョマンが発言したそのままで良いから、論争にならないはず、ですか? いや、甘いですね。彼らは論争をする事が半ば目的な部分があるので、今回で言えば「エーンド」と言った部分を「アンド」と変えるべきか、あたりであーでもないこーでもないと言い合うのでしょう。しかし、安心してください。彼ら、呼称統一委員会の活動は、近頃下火になっているようで……ん? それって当番組の人気の反映?
>……ともかく、パンツイッチョマンの連続攻撃も下柳はあっさりかわし、逆にワンツースリーパンチまでのコンビネーションで返します。かつて、桜ちゃんが見せたワンツーとはまるでキレが違います。
>狭い空間なのでパンツイッチョマンはイッチョマン・スラップを避けられても押し込めば、相手に逃げるスペースを与えずチャンスを作れるはずです。いわゆるコーナーポストへ追いつめる戦い方ですね。だが、下柳のパンチのキレと正確さから、左右にかわすだけでなく、踏み込んだ分の後退を余儀なくされます。
P1: くっ。
>おっと、パンツイッチョマン。いつものハの字の構えから、ボクシングのファイティングポーズへ切り替えた。……ええ、あまり変わっていないといえばそうとも言えます。ですから、変更点を詳しくお伝えしましょう。平手が拳になったのが、一番わかりやすい変化ですね。そして、戦闘面での大きな変化は腕の位置が少し上がり、前傾姿勢になったことです。
>自身の頭部の攻撃に対して、パンツイッチョマンのこれまでの選択肢は、回避とイッチョマン・スラップによる迎撃が主でしたが、後者が通用しなくなった今、拳から腕にかけてのラインを使った防御が選択肢に加えられました。
>そして、ボクシングスタイルに統一された打ち合いが始まるが……これは一方的な戦いか。双方、避け合った展開だが、下柳には余裕がある。パンツイッチョマンの攻撃は紙一重でかわされる一方、下柳の攻撃をパンツイッチョマンは十センチ近くの空間を残して避ける。ここだけを見ると、どちらも当たっていないから一緒なのだが……あ、やっぱり。反撃への無駄が少ない下柳の攻撃がパンツイッチョマンに当たり始めましたね。有効打ではないが、ガードの上や浅い被弾でもヒットはヒット。判定に大きな差が生まれます。……ええ、判定なんかこの戦いでは直接関係ないのですが、判定とはそもそも「このまま戦いが続いたら、どちらが有利か」という評価している面もあり、現時点の有利不利を表しているといえるのです。
>そして、下柳の回避行動がみるみる最適化されていきます。パンツイッチョマンの動きを見切り、ギリギリで回避しているのです。さすが、添谷さんが評価した見切りの天才! 回避に余分が生まれなければ、その余りは攻撃へと回されます。至近距離からの攻撃にパンツイッチョマンの被弾が増えていく。
頭: ふふふ。どうだ、パンツイッチョマン! どうやら『ラバーマン』には勝てなさそうだな。
>お、『ラバーマン』とは下柳の怪人名でしょう。早速こちらでも採用しますね。実は、光円が今回の悪役になってしまい、全国の下柳さんに申し訳ないなあ、と思っていたのです。あ、一応聞いておきますが、『ラバーマン』に類する本名の方、居られないですよね? ……まあ、当たり前ですね。居ません。良かったです。
ラバーマン(以降、「ラ」――いや「ラバ」の方が面白いので「ラバ」と表す):フガ、フガガフガガガ。
※訳: 動きも鈍くなっているんじゃないか?
P1: イッチョマン・パンチ!
>かつて桜ちゃんを苦しめた異能者、通称ヤモリ男を一撃で黙らせた鉄拳も、当たらなければ意味はない。……え? こういう時は「『意味はない』じゃなくて『どうということはない』と言うべき」なんですか? 何故でしょう? ……返事はありませんから、無視して続けます。
>しかし、パンツイッチョマンはここで意外な才能を見せてくれています。何となく見よう見まねなんだろうな、とわかるボクシングの構えでしたが、みるみる様になってきているのです。これはおそらく、目の前に本物のボクサーがいるからというのが影響していると思います。
>事実、頭部への被弾は急に減ってきました。しかし、それはもちろん対戦相手のラバーマンも気づいています。腹部への攻撃を混ぜ始め、パンツイッチョマンは強烈な一撃を受けて後退させられます。強靭な腹筋のおかげで一発ダウンはしませんでしたが、ボディブローはじわじわ効いてくるとよく言われるとおり、蓄積が恐ろしい攻撃です。パンツイッチョマンは依然不利な状態なままです。
ラバ: フガ、フガフガガガ。
※訳: どうした? もう終わりか。
>ラバーマンは深追いせず、両グローブを打ち鳴らす――お伝えできていませんでしたが、ラバーマンはボクサーらしく両手にグローブを装着しています――と、掛かってくるように示します。これなら何を言っているのかわからなくても、意図は伝わりますね。
>パンツイッチョマンはブルブルと肩を震わせます。素人目には動きが悪くなっているかはわかりませんが、寒さが堪えているのはわかりますね。
頭: この狭さでは、一発逆転を狙ったイッチョマン・スラップ・ハリケーンも使えまい!
>……おそらく、「~ハリケーン」ではなくて「~タイフーン」でしょう。そうだとして進めると、確かに、このコンテナ内でイッチョマン・スラップ・タイフーンを使おうものなら、肌が側壁に触れて、恐怖の張り付き事故が起きかねません! さらに言うなら、破壊力ではイッチョマン・スラップ・タイフーンに匹敵しうるイッチョマン・ストンプも、天井が低いため使えません。こちらは頭蓋骨博士は知らなかったのでしょうから、ラッキーヒットでしたね。
P1: ならば、イッチョマン・グースピンポルス!
>え? パンツイッチョマンが謎の英単語を唱えると、またラバーマンへと襲いかかる。パンツイッチョマンからの頭部を狙った連続バンチを、ラバーマンは右に左へとギリギリにかわし、アッパーで反撃! パンツイッチョマン、それをのけぞってなんとか避けましたが、上半身が伸びきった所にボディブロー!
>おーっと、これは効いたようだ。パンツイッチョマンはよろよろと下がると、お腹をさすった。
>……これはマズいですよ。まさに手も足も出ない状態です。ここまでの苦戦は、あの鉄のイノシシの次くらいと言えるでしょう。鉄のイノシシの時は殺される寸前だったので、それよりましですが、敗色は濃厚。大技は封じられ、閉鎖空間なので援軍も見込めない。謎の技も不発に終わったようです。万事休すか!
頭: ……ふむう。ここまでか。あと数分でこのトラックは目的地に着くぞ。ラバーマン、パンツイッチョマンを倒しきれないなら、脱出せよ。
ラバ: フグッ! フガガガフ!
※訳: バカな! すぐに決めてやる!
>構えたラバーマンは、初めて積極的に前に出る。そうしながら何気なくグローブで頬を拭い、グローブに付着した物を目にすると、思わず立ち止まる。慌てて逆の頬も確認するが、グローブに付着した物は同じだった。
>緑のグローブに黒い染み作ったそれは、血だった。いつの間にかラバーマンが付けられていた両頬の擦り傷から、血が滲みだしていたのだ。
ラバ: フガッ、フグガッガガフガ!
※訳: バカな、攻撃は全てかわしたはずだ!
P1: 紙一重でかわす、という性分が裏目に出たな。
>パンツイッチョマンはそう言うと、左手で右腕を擦った。……ん? どういう意味のジェスチャーでしょう?
>あ、今、パンツイッチョマンが技名として言っていた英単語の意味がわかりました。「グースピンポルス」とは「鳥肌」という意味だそうです。
>……まさか! ラバーマンはパンツイッチョマンのパンチを紙一重でかわしたつもりだったのですが、鳥肌で一時的に盛り上がった毛穴が、高速パンチの影響で、相手の頬に擦り傷を作っていたようです! って、やっぱりかなり寒かったのを我慢していたんですね。
>本来、擦り傷を負わされれば痛みで気づくのですが、その知覚は極寒の環境が邪魔をしていました。すごく寒い場所で肌を晒したことがある方なら納得いただけるでしょうが、そういった環境ではそのままでいるだけで、肌が露出している場所は痛いのです。痛い場所に同程度あるいは痛みレベルが低い痛みが来ても、人は気づきにくいものです。
ラバ: フヘ? フンガフッフ。
※訳: え? ち、ちょっと待って!
>明らかにラバーマンは動揺しています。まさか鳥肌にそんな威力があるなど、想像だにしていなかったに違いありません。そして、出血をすると試合が一旦停まるものだというボクサーならではの感覚が、停戦を促しているのでしょう。
>しかし、残念ながら、我らがパンツイッチョマンには油断は禁物です。
P1: イッチョマン・スラップ!
♯ パチン! ……バタン。
>ほら、言ったのに! 動揺が収まらず狼狽えている間に、ラバーマンはパンツイッチョマンに詰め寄られ、左手を一閃されました。フラついた後、バタンと倒れる。
♯ カンカンカン!
>今の音は、こちらの効果音でした。……勝負ありのゴングだった、という音響さんから説明でした。
>しかし、まさかの逆転劇。目の当たりにしていたのに、まだ信じられません。ラバーマンが呆気なすぎて実感がないのもあるでしょう。やっぱり勝負の場では、メンタルの強さ、冷静さが重要なのですね。そこも、下柳光円の弱点でした。
>観客からガッカリブーイングがされかねない事態なので、他メディア化の際には大いに演出を盛って良い部分だと思います。
P1: それで、これを壊せばいいのか?
>こちらが呆気にとられている間に、奥の操作端末まで進んでいたパンツイッチョマン。近寄って見てみると、液晶モニターにキーボードとマウスという普通のパソコン構成です。本体は、モニターなどが乗っている台の内部にあるのでしょう。
頭: あ、いや、それは困る。解除、というかトラックの停止方法は、だな……
>あっさりと教え始める頭蓋骨博士。私たちは詳しい操作を知っても意味がないので、外の様子を確認してみましょう。
>えー、放送時間はいつもの基準を超えていますが(「うん、知ってた」)、あと少しなので、本当にかいつまんで駆け抜けてしまいましょう。
>暴走トラックが迫る中、クリスマスツリー下でのプレゼント回収をしていた市民の中に、なんとというか、ある意味やっぱりというか銀子先生の姿がありました。調べによると、いつもの保育園の園児の一人がクリスマスを家族で祝えない状況になったので、一部の希望者と一緒にサンタさんに祝ってもらおう! と銀子先生が企画しました。そして抽選と相成ったのですが、当選します。ええ、養老家に対する忖度ですね。東京でも、養老家の魔のネットワークが――というか、恐怖の伝播が広がっているのです。
>そこにクラクションを鳴らしながら突撃してくるコンテナ車。しかし、これはお約束と異なり、ギリギリではなく結構手前で止まります。
>もしこれが時限爆弾なら、多くのフィクションでは、残り一秒――そこまでギリギリ度が露骨でなくても、たいていが一桁秒――で停止するものなのに、今回は数十秒前に停まってしまったようです。他メディア化の際には、この点も変更推奨です。
>そして、ラバーマンを肩に担いで降りてくるパンツイッチョマン。保育園の子供たちはサンタ以上に大興奮しますが、パンツイッチョマン恐怖症なのではないかと心配される憩良くんだけはショックを受けて硬直します。
>半裸で寒そうにしているパンツイッチョマンを見かねて、サンタさんがパンツイッチョマンに帽子を渡すと、パンツイッチョマンはそれを被って――
P1: メリークリスマス!
>――と挨拶して、いつものように走り去っていくのでした。
>……皆さん、恐ろしい事実に気づきましたか? 本エピソードは「白雪舞う聖夜の決闘」なのに、白雪が舞いもしなければ、夜にもなっていないのです!
>はい。ズバリ、タイトル詐欺です。
>最勝寺先生に問い合わせたところ、「でもその日、夜には雪が降るからいいじゃん」と言っていました。……いや、放送内容外に起きても意味などありませんから!
>ふう。もういいや。では、次回予告お願いします。
《次回予告》
倒せぬなら 倒せるもので挑むべし
次に白羽の矢が立つのは
「暴れ馬」を倒せし者
次回、『パンツイッチョマン弐』、「パンツイッチョマンvsノーパン刑事」
パンツ洗って、待っときな。




