運転手は君だ、車掌は僕だ 3
ナレーター(以降、「>」と表す): さあ、前回、実質半分に割った残りの部分です。今週も短めになるのでしょうか? むしろ、これくらいのサイズがちょうどいいという声も聞こえてきますね。実際どうなるかは、最勝寺先生のさじ加減と、私の脱線具合に掛かってきます。あ、今回は電車関連のお話だから、「脱線」じゃなくて「逸脱」でしたね。……そう言っているのが既に逸脱? えへへへへ。逸脱しないのは無理ですが、控えるよう気を付けますね。
>トレンチコートのノーパン刑事が、高く投げて戻ってきたミントタブレットにパクついた所から再開です。おっと、いきなり立ち上がりました。そして両手をコートのポケットに入れて歩き出す。電車の通過後に遅れてやってくる風にコートがはためきます。えーと、声は遅れてやって来ません。
>そういえば、声が遅れて、聞こえてくる――のネタについて、「意味が分からない」という声がありました。わからなければわからないで「読み飛ばしてください!」が当番組の基本方針なのですが、スタッフの間で「そういえば、近頃は音声と映像が合わない現象って起きないよね」と話題になりました。一応、放送業界なので、その理由もわかっておりまして、その話題も「だよねぇ」とだけで終わってしまったんですが。
>おっと、ノーパン刑事についてでしたね。……え? そこまで話したら、気になるから理由も話せ、ですか? でも、逸脱になりますよ? ……そのもったいをつけるのが余計に逸脱になる、ですか? そうですね。では、さらっと解説いたしましょう。
>いわゆる衛星中継で音声と映像が合わない最大の理由は、別々の経路でそれぞれの情報を届けていたからです。映像は情報量が大きいので、時間当たりの使用料金が高くても衛星回線を使うしかなかったのですが、音声は従来型の地上回線を主に使っていました。結果、音声情報が届くのが遅くて、「声が、遅れて……」現象が生じていたんですね。
>近年では、通信環境が世界的に整い、情報のパッケージング技術も進歩し、音声と映像を合わせたファイルで送っているので、「声が、遅れて……」現象が生じなくなっているわけです。しかし、通信元と通信先が長距離であれば情報が届くのに時間がかかる点は変わっておらず、ラグの間に双方が話し始めてしまう衝突現象は起きていますね。
>テレビ番組でもリモート参加が試されていますが、この遅延で間延びしてしまい、ちっともうまくいきません。一方的に話すだけなら、衝突現象が生じず問題にならないのですが、それっていわゆるVTR参加と変わらなくなりますからね。放送業界の一員としては、リモート参加は無理があると考えざるを得ません。
>もう、いいですね? すっきりしました?
>あ、目を離している隙に、ノーパン刑事居なくなってしまいました! ……ということはありませんのでご安心ください。まだ、コートの裾がヒラヒラした状態での再開です。
>ノーパン刑事の見据える先は、……どうやら一人の駅員。過ぎた列車の後方を指差し確認している人です。駅員もズイズイと近づいて来るノーパン刑事の存在に気づきます。まあ、夜にでっけえサングラスをかけた男に近寄られると妙な威圧感ありますからね。それに、ノーパン刑事自身、どちらかというとそういうオーラがある人なので……あ、「強そうな人オーラ」じゃないですよ。「近寄りたくない」あるいは「近寄られたくない人オーラ」です。
>駅員はノーパン刑事から離れるように歩き出す。それを見たノーパン刑事の口元に笑みが浮かぶ。「やはり、な」という感じでしょうか。いつも本人の了承無く他人の心を読んでいる身としては、ノーパン刑事の心情をあまり変わらない表情で読むのは歯痒い限りです。
>……え? さりげなく人権無視な発言がありましたか? ええ、サラッと言えば気づかれないかなぁと思って言ってみましたが、案外多くの「ちょっと待て」の声が届きました。しかし、ご安心ください。ゴツゴウ・ユニバースの皆さんは勝手に心を覗かれている事実を知りませんから、気にしていません。視聴者の皆様も、実はネット検閲部に通信内容を傍受されているのに気づいていないから毎日のんびり過ごしているんでしょう? あ、これ、意識させちゃダメなやつでした?
>では、ネット検閲部についてはウソです。そんな組織は存在しません。
>と言っている間にも、逃げる謎の駅員。追うノーパン刑事。そして大量に流れるエキストラじゃなくて一般の方々。このあたり実写ではお金が掛かりますね。エキストラへの人件費って量が増えるとバカにならない額になりますから。テレビより映画が人気の黄金期だったら、むしろ「チョイ役でも映画に出られるなら」と無料で出演してくれる人ばかりだったのですが、今はむしろ「画面に入ってしまったなら顔を消してください」と言われる始末。業界の人の本音としては「消さなくても、誰もてめぇの顔なんざ見ねぇよ」なんですが……あ、私の意見ではありませんよ。だからと言って、誰の意見だと暴露すると大変なので……えーと、業界の人もそんな生意気な事は考えていません。間違えでした。
>ともかく、音声多重(以下略)活劇ではこの「エキストラを雇うのが大変」問題やプライバシー配慮の顔消しなんかは関係ありません。なんせ、異世界丸ごとの盗撮ですからね。悪いことも大規模にしちゃうとナントカというやつ……あ、イメージが悪いので、盗撮あらため観察としておきますね。
>逃げる駅員は、エスカレーターに乗って上っていきます。これも珍しいシーンですね。横に階段が併設されていると、専ら階段を利用するはずですからね。個人的には、もちろん駅員もエスカレーターを使って労力を軽減すればいいじゃん、と思いますが、「お客様を差し置いて、なんで利用しているんだよ」という輩がいますからね。公務員もこういう難癖つけられやすいそうです。「公僕といっても、市民全体の手助けをしているだけで、あんたの手下じゃないんだよ」と思っている……んでしょうね。えーと、断定すると「誰がそんな事を言っているんだ」と角が立ちますので、あくまで私の予測としてください。身の回りにいる友人や知人の意見なんかではないですよ。
駅員: ちょっとすみません。道を開けてください。
>これまたおかしな言動です。エスカレーターを利用しているだけでなく、隙間を抜けてさらに進もうとしています。東京の利用客はマナーが良いことで有名ですから、「何だよ」という顔をする人もいますが、「よっぽど急いでいるんだろうな」と気遣って片側を開けてくれます。しかし、電鉄会社側は「エスカレーターは歩かず立ち止まってご利用ください」という声掛けをしているくらいなので、それに反する行動はやはり不可解です。というか、もうはっきり言ってしまっていいと思いますが、この駅員は偽物ですよね?
>対するノーパン刑事は階段を上ります。駆けるほどではないのですが、運動能力が高いのでスイスイと進み、相手はエスカレーターを上っているのに距離を詰めて行っています。そして階段を上ると、やっぱり行き交う大量の人。逃げる駅員に、追うノーパン刑事。
>なんかさっきから同じ内容を繰り返しているのじゃないか、と思われているでしょうが、場面は変わっていっているんですよ。具体的な描写をしていくと、「この駅はあそこだよね」となって迷惑をかけるので控えると、もう同じ内容の繰り返しのように思えるだけです。しかし、皆さんはここまで奥地まで到達した、いわば音声多重(以下略)活劇の熟練者。きっと、勝手に頭の中では、最寄りの駅なり好みの駅なりに変えて、追跡劇を展開できているでしょう。すごいですね!
>追われて焦っているせいか駅員の足がもつれます。そして、そのまま自動改札機を通り抜け……るんですが、その最中にチョコチョコっとある動作をしています。そうすることで、遮断されて警報が鳴らないようにできるんですね。知っている人は知っているあの操作です。しかし、ここで公表すると悪用される可能性があるので……
いえ、もちろん、パンツイッチョマンを愛する視聴者の方々がそんな反社会的な行動に手を染めるとは思っていませんが、「こういう操作をしたら自動改札機を抜けられるんだよ」と知識を披露した先で悪用されるかもしれません。いや、知人や友人にも悪の心に染まった者はいない、と断言できる方でも、その話を近くで聞いた人が悪い人かどうかはわかりませんよね。そんな話題は周囲に人がいたらしないよ、と警戒をしてお家の中で話しても、実はその家に盗聴器が仕掛けられているかもしれません。そう、絶対漏れないという保証はないのです。問題になった時に、当番組は社会の暴風に晒されて、あっさり吹き飛ばされる脆弱な存在ですから、自衛のための手段です。ご了承ください。
>ちなみに、とある路線バスの扉の開け方もありまして、最勝寺先生が図付きで資料を送ってくれているのですが、こちらももちろんお伝えすることはできません。元アイドル……いや、今もアイドル枠でしたっけ? まあ、どっちでもいいのですが益子ぷらむさんが襲われた手段といい、犯罪に使える知識を豊富に有しているんですよ、最勝寺先生。それをバカなお話に対して浪費して、社会にとっては良かったですね。
>ノーパン刑事は懐から出した手帳を押し付けて、自動改札機を通ります。電子カードが入っていたのでしょうけれど……今の手帳、警察手帳じゃありませんでした? そこに交通ICカードを挟んでおくのはルール違反ではないですが、ついさっき話題にした、公務員系の人たちにやたらと噛みつく連中にとってはまた攻撃対象が増えてしまいますね。「不届き者だ!」とか言われそうです。ですから、先程の手帳は警察手帳ではなかったことにします。
>改札口を出ても、そこは駅構内。はい、この駅は複数路線のハブ駅でして、駅の建物の中でそれらの路線を乗り継ぐことができるんですね。……え? 最寄り駅に設定していた方から「俺の最寄り駅は単線なんですけど!」とちょっと待ってくれコールが聞こえてきましたね。「ハブ駅なら最初から言ってくれよ」と言われましても、ホームで話が終わるかどうか最初からはわからないので予めお伝えしておくのは難しいです。余計な情報は放送時間を圧迫しますからね。……はい、今も圧迫中ですね。というわけで、「改札口を出ずに路線変更できる場合があるのに、わざわざ改札口を出たということは……」と鉄道知識から候補駅を絞ろうとしている方も、それ以上推理を進めず付いてきてくださいね。
>えーと、想像していた駅と違うよ、という方は、もうこの際、その駅をハブ駅化しちゃってください。最寄りの駅がついに複数路線のハブ駅になったんだ! という強制変化ですね。ちょっと嬉しい気分ですね。この際、新幹線の停車駅にしちゃってもいいですし、なんならリニアモーターカーを走らしてもいいですよ。空想するのは自由だ!!
>と、少数派意見にも対応している間に、さらに狭まる駅員とノーパン刑事の距離。もう十メートルもありません。それにプレッシャーに耐え切れなくなったのか、ついに駆け出す駅員。またまた不自然な姿です。小学校の廊下ほど「走っちゃいけません!」と注意されませんが、駅構内も原則走行は禁止です。人が多くてぶつかっちゃいますからね。それを反する駅員は駅員の風上にも置けねえ、って事で、やっぱり偽者でしょう。うんうん。
>ノーパン刑事は余裕です。やれやれと言いたげに首を左右に振ると、歩幅を広くします。早足でもかなり速いのです、この人。それでいて、地方出身者の方からすると動揺させられるあの人混みの中をスイスイと渡り歩けるのですから――っと、駅員が角を曲がって姿が見えなくなりました。これはいくら距離が短くなっていても不安な要素です。曲がった先に階段の上りと下りがあればどちらに行ったのかわからなくなりますからね。さすがに、駆け出すノーパン刑事――が、それは数歩も進まないうちに、咳払いによって中断させられます。不自然な「エヘン、エヘン」という咳払い――というかもう咳払いではなくて話し声ですね、これ。――に足を一旦止めてそちらを見るノーパン刑事。ちょっとくらい余所見をしても追いつけるという自信がそうさせたのかもしれませんが、向いた先の対象に、動きが止まります。
>ノーパン刑事が振り向いた先に居たのは、やはり怪しい駅員の姿。先ほど消えたのとは全く反対から現れていました。これは、瞬間移動!? ……とさせたいのかもしれませんが、これはもう分身トリックですよね。
>あの枚鴨ワンダーランドの人気マスコットキャラ、ワンダー・ダックが分身したのと同じです。トリックとして「分身」と言っていますが、そのタネは最初から二人いるだけです。他にマジックのタネはないのでしょうかね?
>もしかすると、あの少年探偵のいる世界で、やたらとワイヤートリックが流行っているのと同じく、ゴツゴウ・ユニバースでは分身トリックがデフォルト奇術として認識されているのかもしれません。……おっと。私が余計なことを言っちゃったばっかりに、「そういや、犯人が変わっているのに、どいつもこいつもワイヤートリックを使うってどういうこと?」と、他人様の作品に文句を言う声が聞こえました。えーと、もちろん我々部外者はわかりませんが、「そういう世界」という事で納得していただければ幸いです。
>もしかすると、小学校の図工時間に「ワイヤートリックを考えて作ってみよう」という授業内容がある世界なのかもしれませんね。……「ワイヤートリックが主流なのはいいとしても、女子供でも長いワイヤーをうまく引っ張れるわけがないだろ!」という声も上がりましたね。余計な部分に火を投げ込んでしまったようです。それについては、ワイヤートリックが盛んな世界だからこそ、摩擦係数が低くて軽くて丈夫なワイヤーが開発され、普及しているのでしょう。……「そんな繊維があるなら――」えええーい、うるさい! もう文句はこっちに投げずに、直接向こうに投げてください。だけど、ファンが多い作品ほど、「黙ってろ!」と投げ返される石が増えますから、投げるなら覚悟を決めて投げてくださいね。
>はい、駅員分身トリックに戻ります。これは、ゴツゴウ・ユニバースならではの認識能力の低さを利用した、という分析はできるのですが、今回は分身トリックとして、とても質が低いです。似ているのは服装だけで、片や細身のノッポ、もう片方は低めのポッチャリですから。お笑い芸人や、コメディ映画の相棒のパターンとして多い組み合わせですね。そして、この落差ならゴツゴウ・ユニバースであっても抜きん出た認識力を持つノーパン刑事は惑わされないかもしれません。
ノーパン刑事(以降、「NPD」と表す。): 何っ!
>あ、そうでもなかったようですね。驚いて、新たに登場した駅員の方へ近づいていくノーパン刑事。ちなみに、こちらがポッチャリの方です。近づいて来るノーパン刑事に怯えるポッチャリ駅員は、パタパタと走って太い柱の陰へと隠れていく。すると、背後から手を打ち鳴らす音が!
♯ パフパフ
>あ、はい。白い布手袋をはめているので手を叩いてもうまく音が鳴りませんでしたね。これでは引き付ける役目を果たせないのですが、幸いノーパン刑事の鋭い聴力に助けられます。
NPD: ぬっ! いつの間に……。
>ノッポの駅員が現れたのは一度曲がって見えなくなった角。そりゃあそうですよね。仕組みが分かっている私たちにとっては当たり前の事実ですが、ノーパン刑事は驚いているようですね。……昔はこういう場面を見てこちらが恥ずかしくなっていましたが、もういい加減ゴツゴウ・ユニバースのひどさに慣れてきたので、「そうですか」とニュートラルに見られるようになってきました。これは成長と言えるのでしょうか。
>そして、また消えるノッポの駅員。ノーパン刑事はそちらへ向か――わず、急に反転します。まるでフェイントをかけるような動き。当然、近くを通り抜けようとしていた人はノーパン刑事の急な動きに対応できず立ち止まります。その若い男の人は文句の一つも言いたそうな顔をしていたのですが、相手が大きなサングラスを掛けた妙に威圧感のある男だと気付くと、言葉を呑み込んで通り過ぎます。うん、それで良いと思いますよ。皆さんも、なるべくアブない人からは距離を置きましょうね。
>柱の陰から再登場したポッチャリ駅員は、ノーパン刑事が離れておらず、むしろ少し近づいているのに驚いて、後ろによろめきます。ああ、危ないですよ! あっ、やっぱり尻もちを着いてしまいました。元からバランスが悪そうな体型でしたからね。……と言うと差別表現になるので、みなさんも言わないように気をつけましょう。
>しかし、このノーパン刑事の行動は解釈が難しいです。「分身トリックを試みているようだから、一度は乗ってあげたけれど、もうタネはわかっているから惑わされず、片方を確保に行った」と考えるのが、普通というか、いや普通ではないのですね。普通は「いや、そんなのに引っかからないし」とフェイントを装わずにポッチャリ駅員へ近づくでしょう。しかし、ノーパン刑事がそもそも普通じゃないですから。というわけで、ノーパン刑事は「分身の術の裏をかくフェイントだ」と試みている可能性があります。どうも、分身トリックに騙されていたようなので、こちらの方がノーパン刑事の思考を当てている気がしますね。
>……ということは、結局のところ、ゴツゴウ・ユニバースでも分身トリックは有効的ではないんですよね。大丈夫ですか? こんな手を多用して。ワイヤートリックは、万が一読者や視聴者に「またか」と思われていても、トリックとして成立していますからね。ゴツゴウ・ユニバースでは通用しない分身トリックにこだわっている場合じゃないでしょう。……今のは最勝寺先生への苦言です。
>では、進みましょう。
ポッチャリ駅員: あ、あわわわ。
>言葉同様、口から泡を吹きそうに慌てているポッチャリ駅員。ノーパン刑事は右手をポケットから出すと、拳で自分の左肩を軽く叩く。
NPD: 少し事情を聞かせてもらおうか。
>二人の間はまだ数歩の距離がありますが、もう逃げ切れる間合いではありません。単に拳で肩を叩いたと見過ごすわけにはいかない相手です。手を開いていなかったということは、きっとその中にはパチンコ玉が握られているはずですから。これまでの放映内容から推測できるとおり、これはもう完全にノーパン刑事の射程圏内。いわば「俺の間合い」です。
# ジリリリリリリ……!!
>突如、周囲に響く|けたたましいベルの音。これに、ノーパン刑事も周囲の人々も足を止めます。が、それも一瞬。すぐに、人々がざわめき始め、うねり動きます。個々で見れば、変わらず今までの行動を続ける人、一旦この場を離れようとする人、音がする方向を確かめようとする人、そしてやっぱりいるスマホを取り出して撮影を開始する人など、が現れます。つまり、混乱です。その混乱に乗じて、ポッチャリ駅員は立ち上がりながらよろめいて逃げ出す。
NPD: おい、待て!
>いつも言っていますが、それで止まる人いませんから! ノーパン刑事が追おうにも、すぐに間に行きかう人が入ってくるので、背の低い駅員はたちまち見えづらくなります。
ノッポ駅員: みなさん、落ち着いてください。警報が鳴りましたので、慌てず避難を開始してください。
>先ほどの角から現れたノッポの駅員が声を張り上げる。それに事情を尋ねる人は何人かいますが、多くの人が指示に従い、駅構内から出るように行動を開始する。
NPD: ちっ!
>ノーパン刑事は舌打ちをすると、ノッポの駅員へと近づいていく。服装が目立つせいもあり、頭さえ出ていれば人混みに紛れても追跡しやすい。が、その時、ノッポの駅員がニヤリと口角を吊り上げた。
ノッポ駅員: みなさん、あちらから避難をお願いします。
>指差す先はノーパン刑事の方角。バラバラに乱れていた人の波が、その一声で一致したうねりに変わる。押し寄せる人の奔流にたちまち呑み込まれるノーパン刑事。それを見届けて、ノッポの駅員は悠長にノーパン刑事へ敬礼を投げかけて、角の向こうへと消え去る。
NPD: くそっ、待て!
>その呼びかけは、人々のざわめきに消されて届かない。まあ、さっきも言いましたけれど、届いても止まってくれません、ですが。ノーパン刑事は流れに足を止めながら、胸ポケットから手帳を取り出すとそれを掲げる。
が
NPD: 道を開けてください。警さ……
>そこでノーパン刑事の言葉が詰まる。そう、今は実質謹慎期間だった。出歩いている事すら咎められかねない状態なのに、警察官としてその身を明らかにすべきではない、と躊躇しているようだ。しかたなく、ノーパン刑事は流れに逆らって自力で突破する道を選んだ。ポケットへ手帳をしまうと、身を横に細くして、人とは逆に歩きだす。人の密度に幾らか余裕があり、ノーパン刑事の優れた体力もあり、しばらくするとノッポの駅員が消えた角へとたどり着く。しかし、ノッポの駅員が消えた方角でも混乱は起きており、ノッポの駅員の姿はすぐには見当たらない。代わりに、何事かと出てきた別の駅員が、戸惑いながらも動き出している避難活動の補助を始めていた。
NPD: ちっ。逃したか……。
>ノーパン刑事はポッチャリ駅員がいたあたりを振り返り、そしてまたノッポの駅員が消えたあたりを確認する。それから小さく頷くと、人の流れの波に乗りつつも、どこか目的を意識しているように一定の方向へ進んでいった。
>騒動の起きている駅近くの某所。そこは駅構内と言い切るには微妙な建物の中だった。元々は駅舎とは別の建物だったが、駅の拡大化に呑み込まれた形になっていた。しかし、骨組みは別になっていたので、巨大な駅舎の中にある建物と言っても良い。しかし、それがこれからも分離した形で残されるかどうかも微妙だった。工事中の建物だったからだ。あまりに巨大な施設だと、内部のどこかがメンテナンスや拡大の工事行われている。この場も、そうした「成長を続ける駅」の細胞分裂の地点と言えた。
>そこに扉を開けて、入って来る二人。ノッポの駅員とそれに続くポッチャリの駅員。通路は薄暗い。幅は広いのだが、所々、資材などが置かれ狭くなっていた。
>他に人影はなかった。工事がずっと続いている状況なので、「早く完成させて静かな通常運用にしなくては」という圧力が弱く、かつ工事関係者の工期見積もりも適切なので、深夜にも作業を続ける必要がなかったからだ。言い換えると、無人となるべき場所だった。入り口には、キーバッド入力が必要な鍵がかかっていたのだが、この二人は関係者しか知らないその番号を知っていた。
ポッチャリ駅員: ふう。危なかった。何なの、あの男の人。
ノッポ駅員: さあな。鉄道警察なんじゃねえのか?
>その発言に怯えるポッチャリした駅員。
ポッチャリ駅員: え! ……じゃ、じゃあ。もう止めようか?
ノッポ駅員: 何でだよ! 別に悪い事してねえじゃねえか。
男の声: いや、イタズラが過ぎたんじゃねえのか?
>突然、割り込んできたもう一人の男の声に、二人の駅員は驚いて、声のした奥へと目を向ける。そちらから現れたのは、この暗がりの中でもまだ大きなサイングラスを掛けている男。そう、ノーパン刑事だった。
ポッチャリ駅員: え? どうして? もしかして、あなたも――
ノッポ駅員: ――バカな! そんなわけねえ。先回りしたな?
NPD: そのとおり。
>ノッポの駅員の指摘は、当たっていた。ノーパン刑事は五メートルほどの距離を置いて立ち止る。ノーパン刑事にとっては間合いに入っていたが、普通の人にとっては不意を突いて攻撃するには遠すぎる距離だ。
ポッチャリ駅員: で、でも、どうやって? 鍵だって掛かっていたし。
NPD: 扉は、乗り越えた。
>ノーパン刑事はあっさり答えたが、偽駅員の二人はポカンとしている。そう、キーパッド扉が付いているのは、工事の防音もかねて建物の周囲を取り囲んでいる三メートルほどの高さのある壁に一部だったのだ。その壁をノーパン刑事は乗り越えたようだ。確かに、異能者として覚醒している彼ならば可能だろうが、ゴリッと力技ですね。
NPD: それ以外は、簡単な推理だ。別々にさっさと逃げず、互いにかばい合っていたってことは、合流するつもりじゃねえかと思った。その服装じゃ、駅から離れた場所じゃねえ。しかし、着替えて逃げるんだろうから人通りがある場所でもねえだろう。そのうえで、お前たちが向かった方向の出口を考えて、その中間にあたる場所で人が居ない場所となると、自然とどこかは決まるだろ。
>これは、たまに見せるノーパン刑事の鋭い推理。普段は体力バカにしか見えないんですけれどね。
ノッポ駅員: ……鉄道警察か?
NPD: いや。だが、その知り合いだ。
ポッチャリ駅員: ぼ、僕たち、捕まるのかな。
>不安に震え出すポッチャリした駅員をノッポの駅員が叱るように声を掛ける。
ノッポ駅員: ビビってんじゃねえ。さっさと準備をしろ。
>言われて、ポッチャリした駅員はジャケットの内側から何かを出そうとする。それに警戒するように、ノーパン刑事が両手をポケットから出してだらりと下げる。もちろん、その両拳は軽く握られている。指弾の準備ができているのは間違いないだろう。が、ポッチャリした駅員が取り出したのは一本の紐だった。それをノッポの駅員の腰へと回すと、自身も中に入るように輪を作り、繋ぎ目を握る。
NPD: ん? 何のつもりだ?
ノッポ駅員: はっ。おっさんにはわかんねえよ。
>言いながらノッポの駅員は腰に当てられた紐を両手で持って支える。そして、ポッチャリした駅員は場の雰囲気とは合わない、調子っぱずれな歌を歌いだす。
ポッチャリ駅員: ♪ 運転手は君だ、車掌は僕だ。
ノッポ駅員: ……出発、進行~!
>本当は、「出発進行」の宣言前に路線と列車種別をアナウンスしていたが、これも既存の鉄道に迷惑をかけないよう伏せておきますね。皆さんは地元の鉄道を合わせてもいいですよ。
>偽駅員はそう言いだすと、二人でえっちらおっちら足並みを揃えて進みだす。もう、わかっていただけているとおり、これは電車ごっこ遊びですね。服装がほぼ本物で大人がやっていると、もう異様です。怖いです。その怖い電車はノーパン刑事へと進みます。
>これに、腰を低くして……どうやらノーパン刑事は対応を迷っているようです! 襲い掛かってくるなら、迷わず指弾を浴びせたのでしょうが、まさか電車ごっこ遊びで迫られるとは予想外過ぎたのでしょう。これに本気の折檻で応じるのは大人として正しいのかどうか、考えさせられますね。対応としては「何、ふざけているんだ!」と声を掛けるのが一番なのでしょうが、ふざけている雰囲気がないのが不可解というか……はい、怖いです。
>ついに、ノーパン刑事は片足を引くと、片手を前にして構えます。やはり警察官、後輩刑事ほどの腕前ではないにしても柔道で応じるのでしょうか。
>……え? 偽駅員の二人は三歩ほど進んだところで急に消えてしまいました!
>ノーパン刑事も呆気にとられたように動きを止めます。それから後ろを振り返りますが、もちろん二人の姿はそちらにもありません。
>偽駅員のいたあたりまで、ノーパン刑事は歩きますが、透明になった二人に当たるという事も起きません。再び振り返り、闇に伸びて行く通路を見ていたノーパン刑事はしばらくするとスマートフォンを取り出し、どこかへ連絡し始める。
NPD: ああ、俺だ。今、いいか? ……いや、それは俺が直接したわけじゃあない。……いや、まあ、待て。まず、こちらの話を聞け。……いいか、お前の言っていた謎の駅員だが、あれは物の怪のたぐいだな。――
>え? そうなんですか? 人間じゃなかったんでしょうか? というか、ゴツゴウ・ユニバースに妖怪はいるのでしょうか? ……いるのかもしれませんね。というか、異能者でしたけれど、桜ちゃんを痴漢したヤモリ人間はもう妖怪の類といっても良かったですね。
>というわけで、今週はここまで。物の怪電車ごっこ事件は無事解決するのでしょうか? 「妖怪」と「電車ごっこ」というヘンテコなものが組み合わされてしまったので、今後の展開について私はすごく心配です。
>では、また来週~。




