影の仕掛け人 4
# ズーン、ガサガサッ、ズーン、ガサガサッ!
ナレーター(以降、「>」と表す): これは、大地を揺るがしながら進む巨大ロボットの足音!?
>……そんなわけないですよねぇ。ゴツゴウ・ユニバースでそのような派手な事件が起きるわけないですから……あー、最勝寺先生メモです。これって突然、スタジオに出現するんですよねえ。このあたり、創造主らしい魔法を使ってきますね。それでメモの内容ですが……「過去に巨大ロボットが出現した事件は存在した」だそうです! 「しかし、書く予定はない」そうです。これはパンツイッチョマンのエピソードゼロと言われる「動物園でのデビュー戦」より高度な「みんなで想像してみよう」の課題ですね。パンツイッチョマン+動物園はなんとなく想像できそうですが、巨大ロボットだけじゃあ自由過ぎてなかなか思い浮かびませんが……はい、もちろん、みなさんはそのような課題に取り組むつもりはないですね。
>ん? 次の最勝寺メモが……「巨大ロボの背後には大門博士が――」あ、もう、これは関係しない方がいいですね。メモは握りつぶします。
# ズーン、ガサガサッ、ズーン、ガサガサッ!
>では、この音は何なのでしょう!? もちろんメモを握りつぶした音ではありません。
>ま、私は見えているからわかるんですが、その前に、舞台を紹介しておきましょう。
>月光が美しい夜。師走に入ってもうかなり冷えてきます。気温のせいか大気のせいかわかりませんが、冬の月は幽玄に見えますね。
>で、場所は……まず、皆さんご存知の枚鴨市駅から進んでみましょう! はい、降りた先は北口。あの歩道橋網がある側ですね。南口は、パンツイッチョマンのシーズン1で屈指の名シーンと名高い駅前噴水広場がある方です。今回は逆側なので、あちらを思い浮かべていた方は訂正してください。
>その歩道橋を進んで……え? 上から行った方がいいのか、下からの方がいいのか、ですか? えーと、実はどちらでも構いません。行く先は歩道橋を抜けた所なのでどのみち合流するんですよね。でも、上から、つまり歩道橋を渡った方が信号待ちにならないから、進むのは上道をお勧めします。
>歩道橋を抜けると、過日、市長がお祭り前の演説をした公園があって、市役所がありますね。が、今回はここをさらに抜けて、大きな道に出ます。これは前回、幹線道路として紹介された国道N号線ですね。このN号線を渡って、さらに左に進んで坂道を登って行ったところに……え? 別に駅前からのツアーは不要? あ、そうだったんですね。でも、もうすぐそこなので、ちょちょいとお伝えしておくと、丘になっている場所があって、そこに古くから神社があるのですよ。
>蚊門岡神社。その昔、この辺りを治めていた豪族の蚊門氏ゆかりの神社でして、えー、もう勘の良い方がお気づきかと思いますが、歴史家の間では「枚鴨」の地名の由来はこの「蚊門氏」ではないか、という説が有力です。どこかのタイミングで蚊門が鴨になっちゃったんですね。その後、野鴨のキャラクターが出てきたせいで、もう枚鴨市民の大半が鳥の方が由来だと思っています。でも、経済的にはそちらの方が都合はよいので、まあいいんじゃないですか?
>というわけで、舞台は蚊門岡神社。……もう、さっきの部分をぶっ飛ばしてここから始めても良かったんじゃないか、と思っている方もおられると思いますが、そういう箇所は「読み飛ばしてください!」ね。 しかし、いきなり蚊門岡神社と言われても、「なんだよ? それは!」とスッキリしない人もいるでしょうから、やはり説明が必要だったかもしれませんね。
>説明が簡潔明瞭ではない、とか、少なくともウォーキングマップは要らなかった、とか、色々意見があるでしょうが、色んな意見を持つ人が暮らしていくのが社会なので、ここでも「うむ、社会とはこういうものなのだ」と納得したふりをしてみてください。そうしたら、クレーム思念が飛んでくるのを受け止める私の心が安らぎますので。
# ズーン、ガサガサッ、ズーン、ガサガサッ!
>おお、適宜、こうして話を元に戻してくれる効果音。なかなかのアシストです。
>この音は、大きな木が揺れる音でした。蚊門岡神社の御神木の……あ、名前はない? ワガネコですか? ……違う? へぇ、御神木って名前がない方が普通なんだ! 祀っているのに「御神木」という一般名詞で呼ぶんですね。改めて考えるとちょっと不思議ですね。……でもまあ、御神木が「ハセオ」とかいう名前だったらなんとなく嫌ですね。……いや、あの作品の「馳夫さん」はいいんですよ。むしろ、最近は登場しなくなっちゃったと聞いて、寂しい気持ちになりましたからね。
# ズーン、ガサガサッ、ズーン、ガサガサッ!
>あ、はい。揺れる御神木でしたね。揺らしているのは、やっぱり、あの元力士、元プロレスラー、元格闘家の……やっぱりここは岸九浪の方がいいんでしょうね。前回、九龍・騎士で統一しようって言ったのに、最勝寺先生は協調性ないですね。ぷんぷん。「九龍・騎士でいいじゃん」と応援してくれる方もおられると思いますが、状況がそうさせてくれないのです。
>まず、岸九浪の恰好です。上半身は、もう本作品では見慣れてしまった、裸。下半身は、まわしパンツです。
>まわしパンツって何だよ、という声に応えて、説明を加えておきますと、分類としては穿くパンツだけれど、相撲まわしのように帯の盛り上がりが貼り付いている代物です。これは、気絶させた九龍・騎士にまわしを締めるのが非常に難しいから代用された物のようです。
>大相撲を観たらみんながそんな格好ので簡単に着けられると思いがちですが、まわしって、締める本人とそれを手伝う人二人ほどが必要な、非常に手間のかかる着物なのです。しかも、ただの人ではなく、みんな力持ちの相撲取りが三人がかりですからね。頭蓋骨博士と理香珈さんと……あと添谷さんじゃ、ちっともできないでしょうね。そもそも、着けさせる岸九浪がぐったりしているのだから、それを引き起こすだけでも、この三人では精一杯どころか、むしろ難しいでしょう。
>……えーと、「まわしを締めるのは三人ではなくて二人で十分」という視聴者からの指摘がありました。それはそのとおりなのですが、岸九浪は、対戦相手の指が入らないくらいギチギチにまわしを締めるのを好んだので、三人がかりでぎゅうぎゅう締めたわけです。当然、それくらいきついと締められている本人も苦しくなります。なので、まわしは時間ギリギリまで締めるのを待っていたようですね。
>同じくまわしを相手に取られるのを嫌がる、というか、誰も相手にまわしを取られて嬉しい力士はいないのですが、組むのより突き押しで戦いたいタイプ――まさに岸九浪ですね。――だと、まわしに指が入らないというのと逆に、緩く締めるという対策もあります。対戦相手からすると、相手のまわしを引いて、姿勢を浮かそうとしているのに、まわしだけがびろーんと伸びて引く力が伝わり切れない状態になるのです。そういえばそういう映像を見た覚えがあるでしょう? 目的は同じなのに対策が真逆に二つあるって、大相撲の奥深さをわかっていただけたのなら幸いです。
添谷(以降、「添」と表す。): すごい! てっぽうがあの威力!!
>えー、ところ変わって、ここは……コンテナの中。どうやら、頭蓋骨博士の移動研究所のようです。と言っても、コンテナ車のコンテナ内に機械類を並べただけで規模は小さいです。片側にラックと機械類を寄せており、添谷さんがいるのは中央にあるモニターの前。コンテナ内は暗く、液晶モニターの明かりが一番の光源です。その薄闇に浮かぶのが、モニター前に座っている添谷さんと、やっぱりいました頭蓋骨博士です。
頭蓋骨博士(以降、「頭」と表す。): てっぽう? 拳銃か?
>小首を傾げた頭蓋骨博士の顔には、ペイントが施されています。目の周りと鼻の辺りは黒く塗りつぶされて、髑髏感は増しています!
添: いえ。てっぽうは、いわば力士が自分の力量を確認する一つの型のようなもの。中国武術における震脚と同等に考えていただければ……。
頭: は、はあ。
>よくわかっていない返事の頭蓋骨博士。しかし、添谷さんのメガネが光っているので、まともに取り合う必要はないですよ。
>しかし、添谷さんの説明だけでは視聴者の皆様にさっぱりなので、どういう動作を取っていたのか、私が改めて説明いたしましょう。
>まず、単純に片手で柱を突くんですが、それに合わせて同じ側の足も柱に寄せる、という動きです。これを左右交互に繰り返す稽古ですね。慣れた人にとっては、トレーニングというより添谷さんの言うように、自分の動きを確認したり、本番前の体を温めたりするために使用するようです。
頭: では、あのてっぽうとやらは、それなりにすごいやつなのかね?
添: ええ、すごいです! 凄まじいです! このままだと遠からず、あの太い木もへし折ってしまいかねませんよ。
> え、それは困りますね。いや、私たちは困りませんが、ゴツゴウ・ユニバースにとって……いや、そこまで話は大きくなりませんが、枚鴨市にとっては大きな痛手となりかねません。古くからある神社の御神木が折られるという主に精神的な被害だけでなく、折れた木が斜面を滑り落ちていくと国道N号線に至ってしまいます。交通事故が起きますし、止まってしまう交通を回復するのにもかなりの手間がかかるでしょう。
頭: ふむぅ。それで、パンツイッチョマンが来るなら良いのだが……。
>なるほど。それが狙いだったわけですね。また町中へ出て暴れるのは芸がないなあ、と思っていたので、ロケ地がまたレインボー通り商店街にならなくて良かったです。カルガモ母さんももう完全に吊り下げられた状態で固定されちゃいましたしね。
添: 確か、もう一つ、念のための策があるという話でしたが?
頭: うむ。もうそろそろ、来ているかな?
>そう言って、モニター前のキーボードとマウスを操作し始める頭蓋骨博士。画面が切り替わると、お堂に上る階段に座っている若い女性の姿が映る。スマホを触っている照明のおかげで夜でもぼんやり顔がわかりますが……これ、銀子先生ですね。
添: この女性が切り札? もしかして、パンツイッチョマンの関係者ですか?
頭: そこはよくわからないが、こちらが関わってはいけない人物であることはわかった。自称では「パンツイッチョマンの恋人候補」や「パンツイッチョマンを呼び寄せる存在」と言っておった。まあ、オマケじゃな。
添: へえ。……いや、これ、来てませんか?
>銀子先生がスマホを横に置くと、立ち上がって手を振り始める。口はもう呼びかけちゃっていますが、幸い、カメラはセットされていてもマイクはセットされていなかったようで……いや、大声を出しているので、別の場所にセットされているマイクで拾っちゃっていますね。いつものとおり、本人からの名乗りがあるまで待ちましょう。
>添谷さんの指摘で、またカメラを切り替える頭蓋骨博士。すると、闇の中から現れる一人の男がモニターに映し出される。うーん、裸っぽいのはわかるけれど、暗いから何をはいているかはわかりませんね。はいているとしたら黒いパンツなので、余計に闇に溶け込んでしまいます。
>一方、てっぽうを続ける岸九浪は照明が当たっています。というか、この照明、実は岸九浪が目覚めてから、暴走せずここでてっぽうを始める仕掛けとしても機能していたようです。
>先ほどお伝えしたとおり、力士にとって、てっぽうは基本動作。簡単に集中状態に入られるので、緊張した時に目の前に柱があれば、ついついやってしまう習性があるようです。
>というのも、どこの会場かは忘れましたが、力士が入場してくる花道の奥にある廊下の中央に細い柱が立っている場所がありました。その柱には「てっぽう厳禁」という張り紙がされていたのです。これは、そう注意しないとみんながそこでてっぽうを始めちゃって柱をへし折っちゃう、という展開を示唆しています。
>岸九浪が目覚めた時、目が血走った暴走状態にあったようですが、すぐに御神木が目に入り、そこに「てっぽう許可」という張り紙がされていたので、「ひとまず体を動かしてみよう」と力士としての習性が働いたようです。
>卵の殻を破った雛鳥が、初めて見た存在を親と認識して付いて歩くというので有名な刷り込み効果の力士版ですね。この策は、添谷さんの提案だったようです。
男の声: みんなの心を支えてそびえる御神木、それを何度も突き押すとは、不遜が過ぎる行動だな。
>おっと、明るい場所に出てきてくれました。しかも高くなった台に上がっての見下ろし発言。ええ、夜中なのに漆黒のメガネ、そして着ているのは黒パンツのみ。あの人ですね。
黒パンツの男: まして、その御神木が折れてしまえば、下を走る国道が封鎖される事態を招く。道路は黒パンツ文明にとっての大動脈。それをみだりに閉ざさせるわけにはいかない!
>あ、N号線の封鎖について、パンツイッチョ――じゃなくて黒パンツの男も言ってくれましたね。だったら先に説明しなくても良かったかな?
>岸九浪の動きが止まると、ゆっくりと振り返る。
>えーと、すぐにわかっちゃいますから恥ずかしがらずにありのままに説明いたしますと、岸九浪が振り返った先に、これ見よがしに土俵がありました。はい、ゴツゴウ・ユニバースらしいご都合主義ですね。黒パンツの男が勝手に上がったのも、この土俵だったのです。
黒パンツの男: ふむ。言って止めるのであれば、今回は大目に見逃そう。
>あ、いや、それはこちらとしては困ります。……頑張れ、岸九浪!!
>岸九浪は土俵に上がっている黒パンツの男を睨みつけながら、ゆっくりと土俵に近づいていく。そして、隅に盛られていた塩を一掴みすると、土俵に撒く。……塩を盛っているのもゴツゴウですねえ、という声が聞こえますが、これは頭蓋骨博士たちの仕込みなので、ご都合主義とは少し違います。頭蓋骨博士たちの目論見どおり、岸九浪が行動しているという点においては、ゴツゴウと言えなくもないですが、知的活動レベルが低下している暴走状態では習慣化した行動をとりやすいという予測はできていたので、どちらかというと科学の勝利です。
>黒パンツの男は、気が付いたように土俵を飛び降りると、対角線上に盛られていた塩を掴み、それを撒く。……ま、それはいいんですけれど、このまま見合ってはっけよいしちゃうんでしょうか? それもそれでいいのですが、例のアレやってくれないと、楽しみにしている子供たちにとっても肩透かしです。
>黒パンツの男は身軽に土俵に跳び戻ると、両手を叩いて付いていた塩を落とし、腰をやや落とすと、右手を高く上げる。おっ! 良かったですね。例のアレ、出そうですよ。右手の先は、やっぱり人差し指で天を指しています。
黒パンツの男: 私は、文明の立行司、パ~~~ンツ
>高く上げられた右手が、左右へと振られながら下がる。
黒パンツの男: イッチョマン!
>突き出される左手、右手は腰の高さで払われている。おお、これぞ、相撲っぽい動きですね。
♯ バン! バン! ババン!
>左、右、正面の三連ズーム。からの~~
♪ チャラッチャラッチャーチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)、チャラッチャラッチャーチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)……
(略)
♪ パアンツー(チャッチャー)イッチョマーーン
>おおっ!! 久々に決まりましたね。いやぁ、長かったですねえ。テーマ曲、最勝寺先生が譜面を書けないもんだから、頭の中にしか残っていないのですが、使わなかったら忘れちゃうんで、どうなるんだろうと心配していたんですよ。まだ、記憶に残っていたようです。良かったです。
銀子先生(以降、「お銀」と表す。): パンツイッチョマンさ~~ん♪
>ノリノリで手を振る銀子先生。先ほど少し言ったように、姿を見かけてからずっと土俵の脇、いわゆる砂かぶりの場所から声を掛けていたので、実のところ、ずっと行動はほぼ同じでした。興奮して駆け上がらないあたり、土俵の上は女人禁制という不文律を守っているのでしょうか? 養老家、恐ろしい組織ですが、風習を守る姿勢が染み付いているという点では今回ありがたかったですね。
頭: 不思議じゃのう。女がキーキーとうるさく騒いでおったのは気にしなかったのに、パンツイッチョマンの声には反応したな。
>あ、コラ! そこもゴツゴウでしょう。というか、周りが気を遣って、あまりゴツゴウだと言わないようにしているのに、ゴツゴウ・ユニバースの人がそこへツッコミを入れたらダメでしょう。
添: 声が聞こえているんじゃないんですよ。戦士の魂が呼応しているだけです。
>したり顔で頷く、というか、やっぱり添谷さんの目はメガネが光って見えません。
頭: ほほう。そういうものか。
>いや、この人、こういうところはやたら素直なんですね。いや、もう素直すぎます。もっと年を取ったら特殊詐欺に引っかかっちゃうんじゃないかと心配です。
添: そんな事より、パンツイッチョマン! 相撲、知らないんじゃないですか?
>久々に添谷さんの眼鏡の奥の目が見えたが、少し苛立っているように見えるぞ。
添: 行司の最高位である「立行司」を知っているのは良いですが、それを騙るのはおかしいでしょう? 競技者じゃなくて審判ですからね。いや、戦うつもりはない、という意思表示だとしても、じゃあ誰と誰の勝負を審判するつもりなんだ、となりますから。
頭: ふむ。そういえば、塩の撒き方もぎこちなかったような。……まあ、最近の若い人は相撲も見なくなったからなあ。
>いや、そんなことありませんよ。たぶん。大相撲はきっと今も人気のスポーツというか、国技です。少なくとも、これは頭蓋骨博士の個人的な感想です。
添: で、あるなら、仕方がありません。ここは私が代わりに行司を務めさせていただきます。では、まずは岸九浪から映像をお願いします。
頭: ん? あ、ああ。
>なんだかわからないながら、頭蓋骨博士が、土俵へのっそりあがる岸九浪を画面に映します。
添: にぃし~~、岸九浪~~、岸九浪ぃぃ。
>突如、良い声風に声を上げる添谷さん。これを自分で言いたかったんですね。はい、次は、パンツイッチョマンへ画面が変わります。
添: ひがーしぃ~~、パンツイッチョの山ぁ、パンツイッチョの山ぁ~~~。
>パンツイッチョマンという名称は力士らしくない、という判断でしょうが……正直、聞くに堪えない四股名ですけれど。
添: 行司は添谷涼衛門で――と、のこったぁ!
>気分良く大相撲ごっこをしていた添谷さんですが、彼の声は土俵の二人には届いていません。本来、相撲は立ち合いが非常に重要なのですが、岸九浪は攻撃範囲内に相手が入ったと認識したのか、いきなり攻撃を仕掛けてきました。
添: おっと、諸手突き!
>なにっ!? 添谷さん、意外に素早い実況で私のセリフを奪ってしまったぞ。
パンツイッチョマン(以降、「P1」と表す。): イッチョマン・スラップ!
♯ パチン!
>おっと、いきなり必殺技が炸裂! パンツイッチョマン、岸九浪の両手の突きに対し、その間に体を滑りこませつつ躱し、左手で岸九浪の右頬を一閃! これは勝負……いや、効いていない。思ったより効いていないぞ! 岸九浪は軽く頭を振ると、懐に入ったパンツイッチョマンを掴み――おっと、これをパンツイッチョマンはしゃがみ込んで回避。しゃがんで回避と言うのは簡単ですが、相手の胸元を狙った両手の突きからの抱きかかえなので、かなり姿勢を低くしなくては避けられません。それをさっとこなして距離を取り直すあたり、さすがはパンツイッチョマン。常人離れした運動能力です。
添: ん? 今、パンツイッチョマンの片手が着きませんでしたか?
頭: ま、別に相撲勝負しているわけじゃないからな。
>いや、まあ、そうなんですけれど! ここはもう、そういうノリだったじゃないですか。頭蓋骨博士、空気が読めないですね。子供の頃、他の人に馴染めなかったようですが、今になってもその理由が納得できますね。実際、添谷さんは不満そうな顔をしています。
岸九浪(以降、「岸」と表す。): ふぬぅうう!
>岸九浪、両手で連続突きをしながら、パンツイッチョマンへ突進します!
添: これはっ! 岸九浪の得意とする九龍突っ張り! その猛々しさが、岸へ押し寄せる九つの龍のように――
>えー、添谷さんのメガネが光っています。
頭: ほ、ほほぉ。
>お爺さんはまた騙されています。
♯ シュバババ、パチン、パチン、バババ……
>なんだよ、この効果音って感じですが、岸九浪の連続突きをパンツイッチョマンが張り手で叩き落している――いや、間に合わない。あのパンツイッチョマンの連続張り手を岸九浪の連続突きの回転が上回っている。パンツイッチョマン、思わずスピンしつつ、横へと回避。
P1: イッチョマン・スラップ!
# パチン!
>そして、すれ違いながらのイッチョマン・スラップ! うまい!!
>岸九浪、今度は左頬にイッチョマン・スラップを喰らって、連続突きが止まった……が、これも軽く頭を振っただけで、ほとんど効いていないぞ!!
>な、な、なんと!! パンツイッチョマンのとどめ技であるイッチョマン・スラップが効いていません。岸九浪、これは予想していたよりかなり強いかもしれません。
お銀: もしかして、まだ怪我が癒えていないのかしら。
>これまたうまいタイミングで、フォローとなる心配を呟きをしてくれる銀子先生。……そして現れる最勝寺メモ。「いや、たぶん、治っていますよ」ですって。……「たぶん」って何ですか! 自信持って断言してくださいよ……いや、こんな人だから作品をコントロールできていないんですね。
お銀: パンツイッチョマンさん、頑張れ~~!
>そうです! 応援です。ヒーローが苦戦している時は声援が力になるのです。ですから、パンツイッチョマンを応援するお子様たちも一緒に――
頭: これは、いけるやもしれんな。
>って、もう、こちらが話している最中に割り込――
添: ええ、平成最強と謳われた力士ですから。
>……ふう。いや、こっちでストップ掛けられるんですけどね。臨場感が大切だから、なるべく合わせて行きたいわけです。……声が遅れて、聞こえてくる、わけです。……はい、関係なかったですね。再開します。
P1: ならば!
>パンツイッチョマン、いつものハの字の構えだ。これは、新しい技が出てくるのか!? ヒーローアニメでは、中盤から必殺技が効かなくなってバージョンアップが図られるのがよくある展開ですからね。この作品も、バージョンアップロボや新必殺技メカのおもちゃの売り上げなんか関係ないけれど、それっぽく新技が出てくるかもしれませんよ!
P1: イッチョマン・スラップ・タイフーン
>おっと、これは、意外や意外。というか、追い詰められての判断ミスか? イッチョマン・スラップ・タイフーンは皆さんご存知のとおり、対集団技です。さらにいえば、広い空間が必要なので、制限されている土俵上で使うのは悪手。土俵を割って自滅しかねません。
♯ パン!
>ここでパンツイッチョマン、両手を胸の前で打ち合わせた。神社だから景気づけの柏手打ちなのか!? ん? その両手のうち、人差し指と中指だけが立てられた状態で残ると、他の指は組み合わされる。そして、銃のように合わさった両手が前に倒れ、岸九浪へと向けられる。
P1: ……フォー・ユー。
>え? イッチョマン・スラップ・タイフーン・フォーユー!? こ、これは、もしや……おっと、パンツイッチョマンが先に動いた。やはり竜巻スピンから入ります。ふらつくように移動する回転パンツイッチョマンに対して、岸九浪が、添谷さんの言うところの「九龍突っ張り」で襲い掛かる!
♯ シュバ、パパ、パチン、シュ、パチ、パチ、パチン……
>はい、また音だけでは何が何だかわかりませんね。でも実は、私も早すぎて良く分かっていません。巻き戻してスロー再生で見て見ましょう。
>……お、おおぅ! イッチョマン・スラップ・タイフーン化したおかげで、「九龍突っ張り」の回転率を、パンツイッチョマンの張り手が上回っています。それどころか、余剰となった張り手が岸九浪の頬へと打ち込まれます。イッチョマン・スラップ・タイフーンは左右にフラフラ動くのも特徴です。これが岸九浪にとっては狙いをつけにくい。「九龍突っ張り」のギアを上げたことで命中率が低下し、パンツイッチョマンを捉えることができません。その間にも、どんどん打ち込まれるビンタ。
# パチパチパチン、パチパッチン
>岸九浪の動きが鈍る。イッチョマン・スラップのダメージが積算していき、岸九浪の両頬が腫れあがる!
# しゅるるるるぅ~~
>岸九浪の横を抜け、土俵の際で回転をなんとか止めたパンツイッチョマン。さすがに両肩が上下し、スタミナを大いに消耗したようだ。岸九浪はよろめきながらも方向を変え、中央に向き直る。息が荒いパンツイッチョマンの背に進もうとするが、もう目から光は失われている。二歩目が出ずに、そのまま倒れこむ。
# ずず~~~ん。
頭: え?
>時間操作をせずにリアルタイムで見ていた頭蓋骨博士には何が起きていたかわからないようだ。唖然としています。添谷さんは、持ってもいない軍配を右に向けます。
添: えー、勝者はパンツイッチョの山、決まり手は突き倒し。
>今度は、場内アナウンス風に話す添谷さん。楽しそうですね。
頭: な、何が起きたんだ?
添: いやぁ。異能者同士の格闘試合、初めてみましたが痺れますねえ。
>この反応は、もしかすると添谷さんは目で追えていたのかもしれませんね。さすが、格闘技好きだけあって見慣れているのか?
添: とりあえず、録画はしているんでしょう? それを見直したらいいじゃないですか。
頭: そ、そうじゃったな。では、撮影ドローンを撤収、と。
>頭蓋骨博士がポチポチと操作を始めると、画面が動き出した後、ブラックアウトする。すぐに何かのアプリケーションの画面に変わり、博士はそれの操作を続ける。
添: 後でその動画、私にも譲ってくださいね。
>にんまりと笑う添谷さん。うん、これは貝積社長の意図とは違って、添谷さんが完全に個人的に楽しんでいますね。
頭: なぜ、君がこの動画を必要とするのかね?
添: それはもちろん、パンツイッチョマンを倒すべく解析をするために決まっているでしょう。
>きらりんと光る添谷さんのメガネ。うん、やっぱり、添谷さんは普通の笑顔でシーンを終えられないのですね。
>そして、我々の画面はパンツイッチョマンへ戻る。土俵際へと駆け寄って来る銀子先生。そのまま、土俵に上りませんね。読みどおり、土俵に上がってはいけないという教えが効いているようです。なので、もし男の人で銀子先生に追いかけられて困った時は土俵の上へ逃げましょう! ……だけど、養老家からはそんな小手先で逃れきれませんから、覚悟を決めてください。
お銀: やりましたね! パンツイッチョマンさん。私、信じていました!
>パンツイッチョマンは銀子先生に向き直ると、フロントラットスプレッド風の構えで見下ろす。……いやあ、この格好も久々ですね。
P1: 今回も現場にいたのか……もしかして君は、あちらの組織の人間なのかね?
>銀子先生は突然無表情になると、顔の前で片手を左右に振る。
お銀: いえ、全然。偶然、ここに来たら、こんな事になっていました。
P1: 偶然?
お銀: はい、偶然。……というか、パンツイッチョマンさんの怪我が早く治りますように、とお百度参りをしていたんです。
>途中で、良い言い訳を思いついたように顔を輝かせる銀子先生。この人もわかりやすいですね。
P1: そうだったのか。それは、心配をかけたみたいだな。
お銀: 本当に大丈夫なんですか? まだ痛みませんか? 痛いの痛いの飛んでいけ~、しなくていいですか?
>暗に下りてきて触らせろよ、と言っていますが、パンツイッチョマンは相変わらずのマイペースだ。
P1: そういえば、私も、偶然に色々な事件に出くわす機会が多いな。
お銀: ですよね。もしかしたら、私たち、気が合うカップルかもしれませんよ。あ、そうだ! せっかくだから、一緒に記念撮影を……
>そう言って、境内に置いてきたスマートフォンを取りに走る途中で、銀子先生は気付いて立ち止る。そして、振り向いた時には、案の定、黒いパンツの男は土俵の上にはいなかった。岸九浪の巨体は横たわったままだったが、銀子先生の目には入らない。認識とは、物理的な要因だけでなく心理的な要因も大きいんですね。
>銀子先生は、はぁと白い息を吐くと、銀色に光る月を見上げて、叫ぶ。
お銀: もぅ。パンツイッチョマンのバ……
>いつも置いてけぼりにされることについて「バカヤロー」と叫ぶと思いきや、止まってしまう銀子先生。そして、頬を赤らめると、ポツリと呟く。
お銀: やっぱり、好きです。
>知らねぇよ! 勝手にやってろ!!
《次回予告》
線路は続くよ、どこまでも
夢と憧れ、共に乗せて、緑の列車は、今日も行く
されど怪しき影二つ、追っては消える、怪異と謎
次回、パンツイッチョマン弐
『運転手は君だ、車掌は僕だ』
パンツ洗って、待っときな。




