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影の仕掛け人 1

ナレーター(以降、「>」と表す): 薄暗い部屋の中、モニターの明かりを受けてぼんやりと浮かぶ眼鏡。眼鏡にはモニターに映された文字が反射しています。どうやら文字チャットをしているようです。パソコンに向かっている人が着ている白衣も、薄暗がりに朧気(おぼろげ)に見えます。……てか、この展開、前にもありましたね? しかも、同じ頭蓋骨(とうがいこつ)博士でしたよね?

>「パターン、少ねっ!」と思われるでしょうが、これはアニメ化された時に喜ばれる演出ですね。実写だったら、アテレコしても口の動きが合わないので使えない、というか、そもそもアテレコするくらいなら撮った方が早い場合すらありますが、アニメだと口がパクパク動いているだけで、「『あ』の口をしているのに『そ』の口になっている!」と指摘されませんからね。

>「実写であっても、読唇術なんかできねえからわからねぇよ」と思う方もおられるでしょうが、意外にも補助的に読唇術を使っている方は多いんですよ。特に、耳が悪い方は自然と視力で情報不足を補おうとするので、唇の読解力が高いです。……同時に目が悪い人――メガネ大国の日本ではほとんどの人ですね――は残念ながら唇の読解力は伸びていないことが多いですが。


>……えーと、頭蓋骨(とうがいこつ)博士でしたね。はい。脱線文学、いつものとおりです。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士が見ていたのはチャットアプリ『デキるMON』の画面。『デキるMON』は貧弱なUIユーザー・インターフェースから一般には広まっていませんが、ある層には普及していました。その普及の理由は、秘匿性の高いコミュニケーションアプリだから、でした。

>大手のコミュニケーションツールと違い、ソフトウェアとしての本体しかないので、公式運営サーバーなんてものは存在しません。利用者が個人でチャットサーバーを立てて、そこに他の利用者がアクセスする造りです。個人規模サーバーは、脆弱なので、同時アクセス数やログの保存期間に制限が掛かります。チャットのログが一週間で消える設定はザラで、ひどいところは数日で消えます。つまり、何か問題のあるチャット交流があっても、端末側でログが残されていない限り、証拠は失われてしまうのです。さらにややこしいのは、複数のサーバーを介しての交流が可能、という点です。>ある問題発言をした者を辿ろうとしても、三つ先のサーバーからアクセスしていた場合、先端のサーバーのアクセスログを洗い出し、そこから接続元のサーバーに(さかのぼ)り、そこでまたサーバーログの洗い出しをしなくてはならない、ということを繰り返していたら、探求当初は間に合っていたはずなのに、途中でログの保存期間が切れて、道を閉ざされてしまうのです。

>映画の逆探知でよく視覚化される、世界中に張り巡らさせたネットワークを辿って、発信元に行き着くイメージですね。あの糸が途中で切れてしまいやすいのです。

>追求側からすると、「ログを消すんじゃねぇ!」と思いますが、既にお伝えしたとおり、サーバー個々の運営は一市民なので、「ハードディスク容量が限界だから無理です」となるわけですね。

>この仕様上、チャットツールとしてはかなりのタイムラグが発生するのですが、それは悪用しようと思う者からは許容範囲内。セキュリティーと利便性は背反しやすい通例のとおりですね。

>えーと、長く説明されたけれどよくわからなかったお子様も問題ないですよ。ちっとも重要な要素ではありませんから。今更ですが、「読み飛ばしてください!」ですね。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士は『デキるMON』の存在を知りませんでしたが、掲示板で知り合った相手から、話を詰める上でこのアプリを使うよう指定されたのでした。その相手とは――とお伝えする前に、話は数日戻ります。



頭蓋骨(とうがいこつ)博士: どうだ、見たか!? 私のクスリの威力を。ほれ、商店街を暴れまわった男が吊り下げられたニュースがあっただろう。あれは、ただちょっと大きいくらいの男が起こした事件だからな。それなのに、三人力(さんにんりき)くらいの怪力を発揮しておったぞ!


>電話の相手は、世界的アパレルメーカー『オルヒト』の社長、貝積(かいつみ)呉酒(ごしゅ)。世界中を飛び回って忙しくしている相手に直に連絡するのは気が引ける――それは電話先からの威圧感のせいでもある――のですが、気にせずしかも敬語を含めず話せるのはさすが同級生といったところか。


貝積(かいつみ): いや、そんなニュースは知らないし、そもそも表立って行動すべきではないだろう。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: そんな堅いことを言うな。結果良ければ全て良しと言うだろう。


>言った側から、貝積(かいつみ)社長の釘を差す発言があったのだが、頭蓋骨(とうがいこつ)博士にはしっかり刺さっていないようだ。というのも、この二人、学生時代からこんな感じのようですね。人の意見を聞いているような聞いていないような頭蓋骨(とうがいこつ)博士――もちろん、当時は博士ではありませんでしたが、当人談によると当時から骸骨(がいこつ)的な呼び方はされていたようですね――に対して、指摘が響かないことに慣れてしまった貝積(かいつみ)社長――こっちも子供の頃は社長じゃなかったですが……あ、もうわかっているから、いらない?――。


貝積(かいつみ): その結果はどうなんだ。あの男を吊り下げたのか?


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: そんなわけなかろう。聞いていたのか? 吊り下げられたのは三人力(さんにんりき)の男。パンツイッチョマンは、私の見立てでは……五人力(ごにんりき)くらいあるからな。


>三人力、五人力と、おそらく頭蓋骨(とうがいこつ)博士は、一般的な成人男性の出す力に対しての倍率を語っているのでしょう。昔はエンジン出力の単位でもあった馬力は、標準的な馬が持ち上げられる重量と距離からくる物理単位である仕事から求められています。そういう意味では、何人力という表現はわかりやすいと言えばそうなんですけど、おそらく「カッコ悪っ!」と思われているでしょう。

>かく言う私も、昔吸血鬼(バンパイア)ものの小説を読んで、「吸血鬼は十人力を誇り……」という描写に違和感がありましたから。改めて考えると、成人男性の十倍の力は対抗できないほど剛力なんですが、成人男性基準に落とし込まれて、ちょっと引いちゃった思い出があります。アニメやコミックだとせいぜい百人力からスタートですからね。

>あの有名な少年型ロボットは百万馬力が売りの一つですが、そういえばもう「馬力って言われても、ピンと来ないなぁ」と思われているんだろうなあ、と先ほど思いました。でも、安心してください。馬力がアニメやコミックの至る所で唱えられていた世代の人にとっても、百万馬力は「とにかく凄いんだな」くらいしかわかっていませんでしたから。

>それにしても、あのパンツイッチョマンがせいぜい成人男性基準で五倍って、やっぱりゴツゴウ・ユニバースのヒーローってスケール小さいんですね。……いや、凄いのは凄いんですよ。でもねぇ。

>おっと、ここで最勝寺先生からの差し込みメモです。「五人力はあくまで頭蓋骨(とうがいこつ)博士の推定です」って。そういえば、そうでしたね。

>いやぁ推理小説でよく使われる技術ですね。登場人物の主観から提示された情報を公式情報のようにミスリードさせて、その隙に犯人やらトリックを隠す手法です。最勝寺先生もそういう手を……。

>えーと、ディレクターからの差し込みで「五人力以下の可能性もあるから、(あお)るな」とのこと。……そうですね。最勝寺先生なら、視聴者の期待を下回る事なんてやっちゃいけないなんて、まるで気にしませんから。


貝積(かいつみ): ともかく、結果を出してから報告しろ。切るぞ。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 待て。これからが本題。超人化薬『カヤック』は常人であの強さ。ならば、格闘家なら……。


貝積(かいつみ): ふむ。標的を排除できるという事か。……で、私に何をしろ、と。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: わしには格闘家の知り合いがおらぬから――


貝積(かいつみ): ――なるほど。私の方が顔が広いと。……しかし、私の交友関係から暴徒が出ると、こちらまで網に掛かる危険があるな。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: う。そういえば、そうじゃな。……ならば、この線は一旦――


貝積(かいつみ): 待て! 格闘家ではないが、格闘技に詳しい者が居る。そいつをアドバイザーとして派遣しよう。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: おお、さすがは貝積(かいつみ)。頼りになるな。


貝積(かいつみ): ふっ。こちらも頼りにしているぞ、魚図(うおず)。では、良い報告を期待する。


>とっとと電話を切る貝積(かいつみ)社長。仲が良いようで実はあまり仲が良くない女性同士が、なかなか電話を切るタイミングが(つか)めないのとは大違いだ。ま、それはそれとして、「格闘技に詳しい者」ってたぶん「メガネきらりん☆の添谷(そえたに)」くんでしょうね。彼はなかなか女子層に受けがいいんですよ。だって、この作品、頭の良さそうな男の人、少ないですからねえ。

>……ん? そうでもないか。頭蓋骨(とうがいこつ)博士も、ちょっと天然入っているけれど、頭が良いですね。そして、こうして口に出すのも恐ろしいのですが、あの大門(だいもん)博士もいます。今、気付いたのですが、大門(だいもん)って悪魔(デーモン)から来ているのかもしれませんね。

>でも、こうして挙げてみてわかるとおり、お爺さん枠の頭が良さそうな人だけじゃダメなのです。若者枠での賢いキャラ、それが貴重なのです。……まあ、添谷(そえたに)くんはインテリメガネを掛けているだけで、実はそれほど賢くないのでは、という意見もありますが、賢いなんて数値化できませんからね。ファンの女性が「賢い」「尊い」と思えば、もうそれで十分なのです!


>と、いうわけで、添谷(そえたに)くんの登場! ――かと思わせておいて、出てこないのが、このゴツゴウ・ユニバース。ちっとも都合が良くありません。

>助言者がやって来る前に、頭蓋骨(とうがいこつ)博士は独自に調査の手を広げていたのです。そりゃあもう研究者ですから、調べものは得意です。むしろ、調べる手立てがあるのにボーっとしている方が難しいのかもしれません。

>とはいえ、「パンツイッチョマンを倒す者、募集!」と呼びかけたところでなかなか人は集まりません。というか、ちょっと法的にアレな呼び掛けだからストレートにそう言うわけにはいきません。……で、実際のところはというと、頭蓋骨(とうがいこつ)博士本人はちょっとピンボケさせているつもりだけれど、けっこうガッツリそのまま募集を始めちゃったんですよね。「半裸の怪人に恨みのある人、一緒に晴らしましょう」という感じです。

>こういう人集めは難しく、はっきり言って、ネット以前の人脈としてのネットワークに頼るのが一番です。そのためには、そういう道を歩む人生でなくてはなりません。しかし、皆さんも既にお気づきのとおり、頭蓋骨(とうがいこつ)博士は人付き合いが苦手なので、人脈は狭いのです。ただし、そのうちの一人が貝積(かいつみ)社長なので、狭いけれど弱いわけではありません。

>さらに、犯罪を気にしない人を集めるには普通の人脈では難しいですね。いわゆる「(じゃ)の道は(へび)」ですね。しかし、この格言、フリガナを打たないと初めて読む人は間違っちゃいますね。『鉄の城』と同じですね。……「てつのしろ」じゃあないですよ。どう読むかといえば……「Webで検索してください!」

>Z軸への脱線から戻ります。

頭蓋骨(とうがいこつ)博士は、本人こそ気づいていないけれど、なんか研究者としての道は王道から外れちゃっています。いわば研究者の裏街道を歩んでいるわけですが、さすがに犯罪者と直接交わるルートではないです。だから、そっち方面へはどう掘り進めればいいかわからず、結果、電子掲示板でパンツイッチョマンへの恨みを持つ人へ声を掛ける。という正面突破に至った訳です。ただ、先にも話しましたが、本人は直球勝負だと気付いていません。あーでもない、こーでもないと脇道を探り続けた結果、どこが正面方向なのか分からなくなっちゃったんですね。

>食品の新製品開発でも、こういう事、ありますよね? きっといつも酷い味のものを試食しているから感覚が麻痺しちゃって「あ、これはイケる!」と思ったのが、一般からすると「うげぇ」という味になる、という悲劇。特にお菓子系で多い気がします。本来、多重に試食されていて一般の意見に近い舌も用意されているはずですが、そのいわば多重シールドが浸食されるくらい日常的な試食が強烈なのでしょうね。

>と、日夜一般の食生活を豊かにするために、最前線で身を挺して戦ってもらっている方に感謝しつつ、頭蓋骨(とうがいこつ)博士の話に戻りましょう。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士の「助っ人求む!」に対して、それに応じるのに良心の呵責など感じない方々は、レインボー通り商店街の「暴れ馬」事件で破壊者(デモリッシャー)が捕まったばっかりだったので、「これは釣りなんじゃねえか」と警戒されて、相手にされません。一応、日本ではおとり捜査は基本ダメなんですけれど、最終的な証拠として使わないだけで、目星をつけるためにはやっているんじゃねえか、というのがその界隈での噂です。実際にどうなのかは知りませんよ。まして、ゴツゴウ・ユニバースでの警察の捜査手法についてであって、そっちの世界の警察がルール違反をしているんじゃねえか、なんて一言も言っていませんからね。

>相手にされないから、「ちょっとピンボケさせすぎたのかな」と頭蓋骨(とうがいこつ)博士は勘違いして、ついにはもう「パンツイッチョマンのパンツを一緒に剥ぎ取りませんか?」と、怪しいサイトに投稿して、なんか別の嗜好(しこう)の人と思われてしまうんですが、ここでようやく冒頭の、というかタイトル回収の『影の仕掛け人』からの接触があるのです。そして、「こんな場所だとアレですから、こっちで話しましょう」的に、『デキるMON』に誘われたわけですね。

>はい、色々あって、ようやく繋がりました。今日はもう、ここまででいいですか? ……「別に、いいけど」という声が大多数ですね。くぅぅう、じゃあ悔しいので続けます。



影の仕掛け人: 『私もかねがねパンツイッチョマンは社会にとって邪魔(じゃま)な存在だと思っていました』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: いや、そこまでは思ってはいないが……


>博士はそう(つぶ)きながら、ターミナルに文字を打つ。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『倒せそうな人材を知っていま――』


>しかし、タイピング速度は向こうの方が上だったのでエンターキーを押す前に差し込まれる。――え、そこまで緻密(ちみつ)な描写は求めていないし、ややこしいですか? 会話のやり取りだけを抜き出した方がいい? では、そうしましょう。


影の仕掛け人: 『しかし、奴はかなりの腕前。それに対して勝算があるというような事を書いていましたが?』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『いかにも。その切り札は、“超人化薬カヤック”! 戦闘能力を倍増させる秘薬です』


>ネットでは強調するべき内容はダブルクォーテーションで囲む、という情報をどこかで聞いて実践したつもりでしたが、それは英語文化での話。洋画で、ちょっとマニアっぽい人がピースサインを顔の両側に立てて、強調する単語の時に指を折り曲げるやつですね。……あったようななかったような、ですか? では、次からは注目して観てください。ただし、もう古いと思われている可能性があるので、少し古めの作品の方が見つけやすいと思います。


影の仕掛け人: ……『マンガみたいな話ですね』


>まあ、そう思うのが普通ですけれど、それってゴツゴウ・ユニバースの住人が言うとメタ的にアレと言われるので、(ひか)えていただきたい。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『嘘のような本当の話なのです。大発明です』


影の仕掛け人: 『本当だとすれば、どれくらい強化されるのですか? パンツイッチョマンを倒せるくらいなのですか?』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『普通の若者が、とある商店街を壊滅状態にさせるほど、強くなります』


>もうお気づき方が多いと思いますが、頭蓋骨(とうがいこつ)博士はチャットではかなり丁寧な言葉遣いになります。お爺さんに近い年齢の人ですから、慣れていないんですね。


影の仕掛け人: …………『信じましょう』


>おっと、沈黙が長かったので、呆れられていると思ったが、信用されたようです。……いや、呆れたうえで話に付いていこうという覚悟を決めるまでの時間だったのかもしれません。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『しかし、こちらの見込みでは、一般人ではパンツイッチョマンに敵わない可能性の方が高いので、元から“強い”人を探しています。心当たりがありますか?』


影の仕掛け人: 『あります』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: これはこれは。話が早くて助かるのう。


>言いながら、頭蓋骨(とうがいこつ)博士は揉み手をし、サイドに置いていたコーヒーカップから冷めてしまったコーヒーを(すす)る。

>お子様などの若い視聴者の為に言っておくと、パソコンの近くでコーヒーを飲むのは気をつけた方がいいですよ。いつか絶対こぼしますから。もうある程度の期間、パソコンを触ったことのある人にとってのあるあるトラブルですね。


影の仕掛け人: 『枚鴨市出身の元力士、岸九浪』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: ん?


>驚きからコーヒーを飲むのが自然と止まる。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: どこかで、枚鴨(まいがも)市と話していたかな?


>おそらく枚鴨(まいがも)市のどこかに住んでいると思われるパンツイッチョマン。それに合わせるために、頭蓋骨(とうがいこつ)博士は戦いの舞台を枚鴨(まいがも)市にするつもりだったのでしょう。それを先に言われて不思議な気持ちになっているようです。しかし、枚鴨(まいがも)市民にとっては、もはやパンツイッチョマンは密かなローカルヒーローなので、枚鴨(まいがも)縛りになるのが自然と思う人は多いでしょう。……というか、この影の仕掛け人もまた枚鴨(まいがも)市民なのかもしれませんね。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『その方とはどうやって接触すればいいですか?』


影の仕掛け人: 『それはこちらで調整できますが、報酬として幾ら用意できますか?』


>ズバリと切り込まれて、頭蓋骨(とうがいこつ)博士はディスプレイの前で腕を組みます。何を考えているんでしょうかねえ。……ふむふむ。「これは研究予算で下りるのか?」と考えています。

>しかし、どうなのでしょう? 頭蓋骨(とうがいこつ)博士は個人で研究所を運営しているようなので、もう自分のお金じゃないのですかね? 公的資金が投入されていたら、適正使用か問題になるでしょうが、一個人の経営している研究施設にそういう予算はなかなか下りないと思います。もちろん、オルヒトからは素材研究の仕事が来ているのは確実ですが、そこで貰った報酬はもう自分で使っていいものだと思うのですが……。税金の関係で、公私混同した費用の消費状況ではいけない、ということなのかもしれません。


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『私費ではあまり出せません。せいぜい――』


>おっと、ここは検閲(けんえつ)対象です。具体的にどういう価格帯で犯罪の請負がされているかを一般に公開してしまうと、「それだけ(もう)かるなら」と悪の誘惑に負けてしまう人や、逆に「それだけでいいなら、私も誰かを雇って……」と新しい犯罪雇用を生み出す危険があるからです。


影の仕掛け人: 『――万円ですか。あまり食いつきは良くないですね』


頭蓋骨(とうがいこつ)博士: 『他に、“超人化薬カヤック”をいち早く体験できるという特典はあります』


影の仕掛け人: ……『そうですね。それは使えるかもしれません。やってみましょう』


>そこからは、次のセッションについての打ち合わせにすぐ入ります。これは、ちょっと貝積(かいつみ)社長を思わせるスピード感。影の仕掛け人もまた仕事のできる人なのかもしれません。


影の仕掛け人: 『anonymousでは特定できませんので、次からは「宛森」と名乗ります。では、また』


>あ、本当に切断しましたね。早いですね。

>えーと、お子様たちの為に解説をいれておきますね。「anonymous」は「アノニマス」と読みます。「匿名」とかいう意味があるのですが、有名なハッカー集団の名称でもあります。……しかし、影の仕掛け人がその一員というより、チャットソフトの『デキるMON』でのデフォルトユーザー名が「anonymous」なんですね。

>でも、「宛森」は良くないですね。まるで、子供たちにも大人気のあの生活体験ゲームの略称みたいじゃないですか! あの販売元は業界でも有名な圧力会社ですから、そこにわざわざ近寄らなくてもいいんじゃないですかね、最勝寺先生!

>そんな危険なハンドルネームを名乗る、謎の男! ……いや、女性の可能性もありますね。第一シーズンのラスボスも穴穿(あなあ)きという女性でしたから。……もしかすると、そもそも人間ですらないのかもしれない。そう、AIです!!

>おっと、AIという話をすると、最勝寺先生からのメモが届けられました。

>えーと、なになに……AIの評価テストのひとつに、対応している人が相手の事を人間かAIかと判断する、チューリングテストというものがあるそうです。詳しいことは「Webで検索!」してもらうとして、この試験からわかることとして、人の魂は――あー、また訳の分からない話に入って行くパターンですね。ここは追随(ついずい)しないで放置しましょう。

>ええ。最勝寺先生は作者ですけれど、現場を取り仕切っているのは私ですから。最勝寺メモをどう扱うかは私の判断で決めていいんです! ……いいんですよね? ……ディレクターが目を反らしましたね。いいですよ。私の責任でやりますから! でも、きっと大丈夫ですよ、ある程度は指示に従いましたから。最初っから無視すると、来週からナレーターがしっとりした美声で語り掛けてくれる大人な女性に変わっちゃうかもしれませんからね。やっぱり基本的には「長い物には巻かれよ」で生きていくのが正しいと思います。特に家族がいる人はね。


>また本線に戻ります。

>パンツイッチョマン、次の相手は力士になりそうですね。えーと、名前は「岸九浪」……「きし くなみ」のようですね。どういう力士だったのかという分析は、おそらく登場するであろう添谷(そえたに)さんに任せましょう。では、彼が来るまでの時間は音楽でも流しますか?

>いつもは映画音楽。特に洋画の音楽を流していましたが、ここは相撲ということで、古典の和楽を流してみましょう。『こきりこ』なんかはどうですか?……え? 時間が中途半端だから、もうここで終わる? じゃあ、お別れのミュージックとして……それもない。うーん、残念。

>では、また来週~。

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