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青海桜は傾(かぶ)かない

ナレーター(以降、「>」と表す。): 今週は、ディレクターからの「チェリーを探せ!」の指示を受けて、歓楽街に来ています。日本有数のあの歓楽街ですね。日本どころか、もしかすると世界的に見ても規模が大きいかもしれません。

>最勝寺先生は、「みんなが良く知る場所をロケ地に」なんて言っていましたが、ここは……良い子は知らない場所ですよね。

>詳しい描写は()けますが、皆さんの地元の同じような通りと基本的には変わりません。もちろん、こちらの方がより大規模に成っていますが、(ただよ)雰囲気(ふんいき)は変わらないですよね。……あ、「こっちじゃ、場末感が臭っていて、女性も落ちぶれてきたようなオバサンしか――」……えーと、強い思念が飛んできましたが、ちょっと暗い展開になりそうなので、無視しましょう!

>しかし、一言で規模が大きいと伝えても、実感はないかもしれません。地方から出てきた大学時代の学友の言を借りると、「通りじゃなくて、面で広がっているから、文字どおり、次元が違う!」と驚いていました。それぐらい違うものなのですかね。少しは伝わったかな?


>しかし、こんな場所に、どうして桜ちゃん、じゃなくてフリップフロップ・チェリーがいるのでしょうか? ……先走ってフリップフロップ・チェリーと言っちゃいましたが、もしかすると桜ちゃんとして働いているのかもしれません。正規の職業が他にあるのは私も知っているのですが、お金に困る事態が起きて、臨時収入を狙っているのかなぁ。少なくとも、これまで壊した物がいくつかありますから、それの弁償(べんしょう)費用は必要です。とはいえ、あのチェリーが急に払う気になったとは考えにくいですよね。真面目な人なら気に病んでいてもおかしくないですが、なんか図太いところがありますからね、桜ちゃん。


>おっと、見つけました! これはやっぱりフリップフロップ・チェリーの方でした。目のあたりを(おお)うように頭に巻かれたバンダナ。もちろん、目に重なる部分は(あらかじ)め切り抜かれていて周りが見えるようになっています。身軽な格好にバックパックもいつもと同じなのですが、違う装備も付いています。

>わかりやすく説明すると、片耳ヘッドセットを付けているのですが、カスタマイズされているようです。おそらく既製品ではありません。マイクが耳の辺りから口元へ伸びているのは普通ですが、その逆サイドに小型カメラが付いているのです。その間を繋ぐ帯は後頭部を(おお)っています。帯の半ばからは、下にコードが垂れており、バックパックへと入っています。電源などと繋がっているのでしょう。わざわざこのような装備をしている理由は……。


フリップフロップ・チェリー(以降、「FFC」と表す。): ちゃんと見えてる?


>キョロキョロしつつ、マイクの先にいる交信相手に話しかけていると思われるフリップフロップ・チェリー。はい、もちろん皆さんも誰と話しているのだろう、と興味がありますね。……「どうせトモちゃんだろ」という声が多いようですが、そして私もそう思いますが、確かめてみましょう!

>実はこの異世界観測万華鏡システムには、ロックオン相手の交信先も覗き見――じゃなくて、観測できる都合の良い、おっとまさしく御都合(ゴツゴウ)な機能が付いているのです! ……ちょ、ちょっと待ってくださいね。機能がある、というのとすぐ使えるというのは同じではないのです。

>皆さんも職場でこんな経験はありませんか? 事務所に掛かってきた電話を取ったところ、同僚宛だったから転送しようと思ったけれど、機能があるのは知っているだけで、やり方がうろ覚え。仕方ないので、結局本人に子機ごと渡す、という経験です。転送慣れしている人にはわかってもらえないかもしれませんが、普段営業で外を出歩いていて、たまたま戻った時に近くにあった電話に出てみたら、という境遇の人なら……あ、あんまりいないですか? そうですね。と、繋いでいる間にスタッフさんが交信先の座標を突き止めたようです。飛んでみましょう。……あ、音声だけ。まあ、それでもいいですよ。必要ならこちらで適当に場面を当てて行くので……。捏造(ねつぞう)? 違いますよ。演出です!


女声: うーん、暗いし、変わりすぎると画面が追い付いていかないかなぁ。もっと、ゆっくりしてくれる? 画面酔いしそう。


FFC: あ、ごっめーん。……でも、パトロールだから、あちこち見るのが普通だしなぁ。


女声: うん。それはそうだけど、ゆっくり向いてくれたら助かるな。あんまりキョロキョロし過ぎていると――


軽薄そうな男: お、その格好、イケてるね! いや、イケてるのかな? ハロウィンはもう終わっちゃったよー。アメコミのヒーローのコスプレ?


>フリップフロップ・チェリーに近寄ってきた男が馴れ馴れしく話しかけてくる。


女声: ほら、カモだと思われて声かけられちゃったね。


>私たちは通信相手――この声はやっぱり友庫(ともこ)さんですね。――の発言はわかりますが、当然声を掛けてきた男にはわかりません。続けて話しかけてきます。


軽薄そうな男: あれ? それ、カメラ? もしかしてキミ、チューバー? うそ、マジで。これでオレ、有名人の仲間入り。つーか、有名になりすぎ困っちゃうかも。いや、それ以前にプライバシーのナンとかになるんじゃない? オレの許可なく撮ってさぁ。そこんとこ、ちょっと話し合わない?


>うん。ペラペラまくしたてるので入りづらかったですが、やっぱりナンパみたいですね。


FFC: ちょっと興味ないので、退()いてください。


軽薄そうな男: おっと、つれないねぇ。本当は興味があるのに、恥ずかしいんだろ? だから、そうやって顔を隠して――


FFC: ――いや、ほんっっとに邪魔なの。どこかへ行って。


軽薄そうな男: 何だよ! 優しくしたらつけあがりやがって、このブス! どうせまともに出せねえ顔をしているから――


FFC: なんだとぉ?


>歩き続けるフリップフロップ・チェリーに男がつきまとう構図だったが、フリップフロップ・チェリーが足を止めると、男を(にら)みつける。


軽薄そうな男: ンだよ! やるのか?


>これに応じた男の言葉に思わず鼻息を吹いてしまうフリップフロップ・チェリー。彼女にとっては、幼児が大人に喧嘩(けんか)を売っているのに等しい力量差だから、ちゃんちゃらおかしい、という感覚なのだろう。


友庫(ともこ): ちょっと、チェリー! 相手にしなくていいよ。無視!


> フリップフロップ・チェリーの表情は見えていないので、必要なさそうなのに(たしな)める友庫(ともこ)さん。


FFC: わぁってるって。ほら、シッシッ!


>手振りであっちへ行けと示すフリップフロップ・チェリーに、男は機嫌を損ねた様子です。まあ、鳩とか野良猫を追い払うような態度をとられれば当たり前と言えます。


軽薄そうな男: はっ、どうせ男の指示で変な格好をして歩いてるんだろ。けっ、おかしなプレイに付き合う気はねえ。


>捨て台詞と共に男が去りかけますが、そこにフリップフロップ・チェリーが訂正の一言を投げかけます。


FFC: 残念でした。話している相手は女の子です。


軽薄そうな男: 女ぁ? だったら、罰ゲームか度胸試しか? どっちにしろ、モテねえブスの遊びに――


FFC: ――おい、調子乗ってるんじゃねえぞ、コラ!


>こういうセリフって、内容そのものより、そんな言葉がするりと出てくる人柄が怖いですね。軽薄そうな男も、そんな相手とは思わず驚いたようですが、すぐに振り返ると詰め寄ります。


軽薄そうな男: おい! てめぇこそ、調子乗ってんじゃねえぞ。


>簡単に脅しに屈しないあたり似た文化で育った二人のようですが、友庫(ともこ)さんは慌てふためきます。


友庫(ともこ): ちょっと、チェリー! 落ち着いて。


FFC: いや、ちょっと考えついた。ここで私の実力を示しておいた方が――


軽薄そうな男: おい! 人に喧嘩(けんか)売っておいて、無視してんじゃねえぞ。


>胸倉を(つか)もうとした男の手は、果たせず、フリップフロップ・チェリーに(つか)まれて止まる。


軽薄そうな男: 離せよっ!


>男は身体を揺すって(つか)まれた手を()がそうとするが、フリップフロップ・チェリーは揺れもせず、手を離しもしない。

>わちゃわちゃしている二人を周囲の人は迷惑そうにチラ見しては過ぎていく。道はそれなりの幅があるので流れが止まりはしないが、二人が止まっている地点は迂回が必要になるので、当然流れが悪くなる。迷惑なのは事実ですね。

>この通りは歩行者専用だが、その中では自然と左側通行になっている。日本では車が右側通行なのはみなさんご存知のとおり。なのに、駅構内とか、自由に往来させると左側通行になる場合多くないですか? 実はそちらの方が人間にとって自然な行動なのかもしれません。左側通行社会と比較すれば、事故の発生率に有意差が見つけられるかもしれませんが、その理由が「人にとって左側通行がより自然なため」とはなかなか断言できないんですよね。事故を発生させている年齢層や、そもそも道路の広さなどに違いがあるから、単純に比較できないのです。社会行動学の難しい所です。


>と、小難しい話をして、子供たちを初めとする視聴者の方々が「それがどうしたの?」と思うのと同じように、フリップフロップ・チェリーの行動も冷たい目で見られています。フリップフロップ・チェリーは「実力を示す」というような事を言っていましたが、大東京では――えーと、枚鴨(まいがも)市も東京都内ですが、大都市とは言えませんもんね――まるで相手にされないようだぞ!


FFC: 私に(つか)みかかることさえできないんなら、やっても無駄ってわかるよね?


>しかし、フリップフロップ・チェリーは周囲の冷たい視線には気付いていないようだ。実力差は歴然(れきぜん)としているが、それでも相手から目を()らしていないのは、ヒーローとして成長しているのを感じさせますね。例えば、一般人枠でも理香珈(りかか)さんが相手なら、(すき)を見せた途端、スプレーからの三連コンボで完封勝利をきめられかねませんからね。


軽薄そうな男: ……て、、手加減してやったのに決まってるだろ! ブスでも女は女だから――


♯ シュッ!


>風を切る音と共に突き出されるフリップフロップ・チェリーの(こぶし)。それが、軽薄そうな男の眼前で止められる。


>あ、そういえば、「寸止め」という言葉は空手家と一般では認識のずれがあるようです。一般では、「当たる直前で止めて、当たらない(・・・・・)」ものだと考えがちですが、空手家は「当たる直前で止めて、ダメージを抑える(=つまり、当たる)」と考えます。そもそも、相手が動いていて、かつ繰り出す攻撃も速ければ、相手に当たるギリギリで止めるのは、現実的ではありません。

>一撃必殺を信条とする空手家は、例えば正拳突(せいけんづ)きを相手の顔面に放つ際、本気であれば、(こぶし)が相手の頭にめり込む勢いで打ち込みます。それじゃあ相手は死んでしまうので、そうならないよう表面に当たった所で止めるのが「寸止め」なのです。

>別の所で、プロボクサーが「プロと素人のパンチで一番違う点」として挙げたのが、「素人のパンチは当てた所で止まってしまう」という指摘でした。これに従うと、素人のパンチは既に空手家の寸止めになっている、ということですね。だから、一般人の方は「寸止めは相手に当たる直前に止めて当てないこと」という、非現実的な解釈に落ち着くのでしょう。

>非現実的と言いましたが、フリップフロップ・チェリーのパンチは、一般人認識の寸止めでした。はい、当たっていません。相手が動いていなかったら、技量があれば実行可能なんですね。


FFC: 見えた? 私も手加減したんだけど。


>軽薄そうな男がブルリと(ふる)えた。ようやく実力差を実感したからか、それとも単に近づいた(こぶし)を認識した反射的回避行動か。……え? 表層思考を読み取ればわかる、ですか? その通りですが、実はこの機能それなりにコストが掛かるので省略できるならばしたいんですよね。


FFC: ま、どっちでもいいや。


>フリップフロップ・チェリーが軽く突き放すと、軽薄そうな男はよろめく。後ろを通っていた人に軽くぶつかったが、相手は顔をしかめてちらりと向いただけで過ぎていく。

>そうそう、地方から出てきた人にはこのあたりの感覚も信じられないらしいですね。「ぶつかっても(あやま)らないんだ」と驚いていました。そりゃあガッツリぶつかってしまったらもちろん(あやま)る人が多いでしょうが、ちょっと触れ合ったくらいならよくある事なのでスルーしがちだな、と学友から言われて初めて気付きました。

>……えーと、狙い撃ちで女性にぶつかってくる、ぶつかりおじさんは今関係ありません。が、あれもぶつかっても(あやま)らない点は関連がありますね。(あやま)るどころか逆に文句を言ってくるそうですから。みなさんも遭遇(そうぐう)しないよう、気をつけてくださいね。


軽薄そうな男: けっ!


>ごく短い捨て台詞を吐くと、男は背を向けて立ち去る。グチグチと言い訳がましく言う方が小物感は増しますし、逃げられるうちに逃げるという考え方も悪くありません。敗北しても失点が少なくなる方法を知っている人だったようです。まあ、それでも小物であることには変わりないのでしょうけれど。


FFC: さてと。


>ぽん、と両手を(はた)いてから気を取り直したように周囲を見たフリップフロップ・チェリーは、そこでほとんど注目を浴びていない事実に気付いたようです。


FFC: あれ?


友庫ともこ: どうしたの?


FFC: ううん。なんでもない……。


>言いながら歩き始めるフリップフロップ・チェリー。しかし、「なんでもない」と言われて事実そのとおりではない事の方が多いのを多くの大人は知っています。友庫ともこさんも気になって食い下がります。


友庫ともこ: 大丈夫? どこか怪我をしたの?


FFC: そういう事じゃなくて……都会って冷たいなーって話よ。


>こっちではっきり言ってしまうと「私、スベっちゃった」という内容になりますね。その意図が伝わった反応はなかったが、深刻な問題ではない事は伝わったようだ。友庫ともこさんもそれ以上は追及せずに流す。

>しかし、ここからフリップフロップ・チェリーの予想しなかった流れが起きるのであった。


>世界有数の都会人たる東京人は、ちょっとした騒動では足を止めないものですが、最初から足を止めている人はずっとフリップフロップ・チェリーの行動を眺めていました。道の端やお店の前にいる、いわゆる客引きや黒服と呼ばれる人たちです。もみ合う二人がやって来たら退避(たいひ)したり押し返したりしないといけないので、(ひま)つぶしに(なが)めていたというより、ちゃんとお仕事として――あ、別にかばってあげなくてもいいですか? はい、ほとんどの感覚としては(ひま)つぶしだったようです。だけど、フリップフロップ・チェリーが強そうだとわかると、「こりゃあ話題になるな」と得意の声かけ攻撃が始まったのです!


「おねえさん、強かったねえ。セキュリティやらない」

「お、ヒーローコスプレ? いいねえ。ウチで働かない?」

「貴女みたいな人が一緒だと心強いわ。ひどい酔っ払いが来るのよ」


>などと、色々話しかけられます。おっと、中にはミニスカ・サンタもいましたね。まだちょっとクリスマス・シーズンには早いのですが、ここでは季節を先取りしているようです。

>フリップフロップ・チェリーは最初のうち困惑しますが、それが続いてくるとまんざらでもない顔をします。「時給幾ら?」と質問し、その答えが今の収入より高いと――


FFC: うーん、悪くないかなぁ


>と心が揺らいでいる様子。そこに友庫(ともこ)さんが、「ダメよ、水商売なんか」と(いさ)めにはいるのですが。ここはこれ以上スポットライトを当てると職業差別的な話が飛び出しそうになるので、無視しましょう。友達同士の話って、そのまま公共に流せない内容って多いですよね。まあ、それほど気心が知れた同士と言うことで済ませておきましょう。


>一応、フリップフロップ・チェリーは勧誘を断りつつ歩き続けますが、妙なことに声掛けはなかなか止まりません。軽薄そうな男を追い払った現場近くならまだわかりますが、交差点を曲がって直接現場が見えない場所に行っても、「あ、あの子だな」という感じで狙い撃ちされます。これは、この業界で横の繋がりがあるせいです。個々の店舗はライバルなので、有用な情報を敢えて流すことはしたくないのですが、働いている従業員は顔見知りや友人関係にあり、そこで情報の交換が生まれているのです。その背景には、従業員が店舗に対する忠誠心が高くないからこそ、興味深い人材についての情報が他へ漏れるという要素もあります。

>ちょっと離れても勧誘が収まらないとわかったフリップフロップ・チェリーは一旦雲隠れします。路地に入っての壁上りはパンツイッチョマンから教わった技と言ってもいいかもしれません。が、そこまでしなくても、手近な建物に入って階段を上っていけばひとまず視線は切れるので、フリップフロップ・チェリーもそうします。そこで行ったのは、変装です。と言っても、覆面を外してバックパックから取り出したスカジャンを羽織るというだけの変化。しかし、もうこれでゴツゴウ・ユニバースの面々からは認識されません。うーん、改めて、この設定はご都合主義だと思わされますね。重力のあたりもこれくらい緩いとこちらも解説が簡単になるのですけれど。


>こうして一般人に戻った桜ちゃん、夜の街を歩き始めます。パトロールならこの姿でも果たせますが、何か事件が起きても、そのまま駆けつけると顔バレしちゃうので、即応力はないですね。着替え――というか一応ヒーロー変身――と一応言っておきます。――するのにそれなりに時間が掛かります。特に、覆面の穴から目が見えるようにする位置調整がなかなか手間取るようでして。

>……いや、それ以前にパトロールって何なんでしょうね? 枚鴨(まいがも)市ならいつもの事でわかるのですが、わざわざこんな場所まで足を延ばした理由……もしかするとそれなりの情報を(つか)んでいるのかもしれませんね。今のところ、フリップフロップ・チェリーにはパンツイッチョマンのような事件発生を事前に察知する能力があるとは思えませんので。そのあたりは、フリップフロップ・チェリーより友庫(ともこ)さんに当たった方が分かりそうです。というわけで、友庫(ともこ)さんの表層思考を読み取ってみましょう!

>と言いましたが、現場にいないのですぐにはできません。異世界観測万華鏡システムで声のリンクはしましたが、表層思考を読み取るツールはこれまた別の機構でして、座標合わせをこっちでもしないといけないんですよねえ。しかし、安心してください。それまでの時間はこちらで繋ぎますから!

>えーと、ミニスカ・サンタあたりにカメラを向けましょうか。こういう画像は男性視聴者に受けがいいのです。かといって、露骨な寄りやアングルで攻めなければ、女性にもそれほど嫌われないという好素材です。むしろ「あ、あのあたりカワイイな」と勉強にする方もおられるようですからね。

>と、ここで変化がありました! 友庫(ともこ)さんの思考合わせより先に桜ちゃんの方に動きが!


桜(※FFCと同じ人物なのにややこしいですが、一応オンとオフで使い分けてみます。): え! あれって花鳥風月(かちょうふうげつ)さんじゃない!?


花鳥風月(かちょうふうげつ)といえば、ゴツゴウ・ユニバースの日本で最も有名な認定ヒーローです。それがふらりとこんな場所にやって来るのでしょうか? 女好きという(うわさ)はありますが、曜日彼女(ウィークデーガールズ)と呼ばれる複数股交際をしている人なので、さらに風俗街へとやってくる余力があるのかなあ。もしかすると、そのあたりも英雄級なのかもしれません。


友庫(ともこ): ん? どういう事?


>やはり、友庫(ともこ)さんも()に落ちない様子です。


桜: ほら、そこのお店の掲示にあるじゃん。「あの花鳥風月(かちょうふうげつ)来店」って。ちょっと行ってみようかなあ。こういう所ってカードで行けるのかなあ。


>もうパトロールの事は忘れていますね。いや、ここで指摘しても「そこを含めてのパトロール」という言い訳もできますね。


友庫(ともこ): ちょっと私にも見せてくれない? ……ああ、あれ。……ってチェリー、落ち着いてよ。あれ、最後に「!?」って書いてるじゃない。それってこういう広告で明らかに(うそ)って事じゃないの?


>た、確かに。看板の上にポップを重ねて貼り付けているので気づきにくいですが、確かに「あの花鳥風月(かちょうふうげつ)来店!?(・・)」ってなっていますね。


桜: あ、本当だ。……でも、そういうのを含めて調べる価値はあるかもね。もしかすると、忙しいからいつも来れていなくて、来れる日だけ来るって事かもしれないし。


友庫(ともこ): でも、あの人は女(あさ)りに来るって感じじゃない?――


桜: ちょっと、その言い方はひどいな。出逢いを求めて来ている、と言い換えるべきよ。


友庫(ともこ): ああ。そうかも。でも、どちらにしても、それだったら、ホステス? キャバ嬢? そういう女の人に会いに来るってイメージじゃない。でも、その広告、ホストとして働いているって意味でしょ?


桜: うんうん。だから、価値があるのよ。えーと、このお店は、ここから入っていけばいいのかな。


友庫(ともこ): だから、落ち着いてって! って、もう……


桜: あ、この店なのかな。……男の人の写真がたくさん並んでいるね。でも、花鳥風月(かちょうふうげつ)さんはいないかな。……うん、肖像権の問題でネットニュースとかでも写真じゃなくてイラストの時もあるからね。


>勝手に写真を使えば使用料を払うように請求する、と影響力が強い芸能事務所は振る舞っているようですね。皆さんもご存じの通りだと思います。花鳥風月(かちょうふうげつ)は確か個人事務所なので、そこまで幅を利かせているのかどうかは、ちょっとすぐにはわかりません。


桜: あ、やっぱり、ここにも花鳥風月(かちょうふうげつ)さんについて書かれているね。「本日来店」ってあるよ! うわっ、どうしよう。ああ、さっきバンダナを外した時に髪型が乱れちゃったなあ。先にどこかお手洗いに入って――


友庫(ともこ): ストップ!!


桜: え? 何。


友庫(ともこ): その掲示、もう一度良く見せて。…………あ、やっぱり、桜ちゃん、「恋は盲目」って言うけれど、やっぱりよく見ないといけないよ。それ、花鳥風月(かちょうふうげつ)じゃなくて、花()()だから。


桜: え、ええっ!! ……ほ、ほんとだ。……え? これ、フォントのずれ、とかじゃないよね。


>夢破れたショックからか、桜ちゃんはすぐに現実を呑み込めないご様子。一方、桜ちゃんの暴走が止まったと確信した友庫(ともこ)さんは、分析を続けます。


友庫(ともこ): これ、どう読むんだろうね。(からす)は「う」とも読むから、「かう」? それとも「はながらす」なのかな。下は、「ふうか」なのかな。女の人の名前みたいになるけれど。


桜: いや、偽者(にせもの)だったら、どうでもいいし。つーか、呼ぶことないし。


>徐々に怒りが込み上げてきたらしい、桜ちゃん。声にその心理変化が(にじ)み出てきています。


友庫(ともこ): あ、でも、似た源氏名――って言うんだったけ? それを名乗るくらいだから、花鳥風月(かちょうふうげつ)に似た人なのかも。さっきのパネルで確認しようよ。


>はい、これはアダルトビデオでも時折出荷される、芸能人ソックリさん作品と同じですね。ファンにとっては、偽物とわかっていても似た人なら何か満足できるものが得られるのかもしれません。個人的には、ソックリさん作品より、アメリカ産で多いと言われる映画のパロディのアダルト作品に興味があります。タイトルがパクリ元に似つつもエロい言葉で作られていて、例えば……あ、具体的にはダメ? そもそも、文科省推薦作品への障害となるから、こういうお話はダメなんでしたね。はい、忘れてください。


桜: えー! ……まあ、出て行くついでだから、別にいいけれど……。


>そう言って、建物の入り口にあるパネルの前に立つ桜ちゃん。友庫(ともこ)さんの指示に従い、ゆっくりと視点を動かしていきます。


友庫(ともこ): あ、あった。それじゃない。……そういえば、どことなく面影が――


桜: ぜんっぜん、似てないじゃん!


>吐き捨てるような物言いに、友庫(ともこ)さんはレッドゾーンを超えたと判断したようで黙り込みます。「いやー、似てるって」とイジるのも友達らしいあしらいですが、それは顔を見合わせているからこそ許されるものなのかもしれません。通話だけだとなかなか意思疎通がかみ合わないことってあるですよね。


友庫(ともこ): ……ま、お店に入る前に気付けて良かったよね。……あ、これって私の功績よね。感謝してもらっても――


桜: シッ!


>急に、桜ちゃんが自分の(くちびる)に人差し指を当てて、友庫(ともこ)さんを制します。


桜: 今、何か聞こえなかった?


友庫(ともこ): いや、私は聞こえなかったけれど、そもそもマイクが――


桜: ほら、また。……怒鳴り声? これは、事件の気配ね!


>どうやら、超人的な聴覚を発揮したようです。ノイズが多い環境なのですが、誰かが助けを求めている状況なら的確に感じ取れるのかもしれません。そうだったらもうフリップフロップ・チェリーはヒーローといって差し支えないでしょう。

>早速走り出す桜ちゃん。近くの建物を仰ぎ見ながら進みます。


>――と、今週はこれまで。ホストクラブに入ったらどうしようかと思いましたが、無事事件が発生したようで良かったです。……あ、「無事」とは言えませんね。

>ではまた来週~。

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