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そこのけそこのけ、お馬鹿が通る 3

ナレーター(以降、「>」と表す。): 薄暗い部屋に大柄(おおがら)な男が座っています。右手首にはギプス。……これは、以前、銀子先生にイタズラしようとして、折檻(せっかん)された男ですね。目の前にはちゃぶ台。その上には、ジャンクフードの空き容器と丼鉢(どんぶりばち)が載っています。丼鉢(どんぶりばち)の中には液体が注がれています。それを見つめる男の(ひたい)には汗が浮かぶ。男の脇には空になった点滴(てんてき)パックが転がっています。

>おそらく、これは頭蓋骨(とうがいこつ)博士と理香珈(りかか)さんの話していた「盗まれた薬」のようです。頭蓋骨(とうがいこつ)博士は『超人化薬カヤック』、理香珈(りかか)さんは『チョー人薬(じんやく)』と呼んでいた代物です。呼び名が違っていることから、配合等の差異がある可能性はありますが、単に正式名を決めていない物をそれぞれが勝手に名付けている可能性の方が高いでしょう。こういう物事は科学者ならパシッと最初に決めていても不思議ではないのですが、ゴツゴウ・ユニバースの人たちなのでその辺り(ゆる)いのですね、きっと。

>もし、丼鉢(どんぶりばち)(たた)えられている液体が、その薬なら、男がこれからしようとしていることも、緊張(きんちょう)している点も納得できます。確か理香珈(りかか)さんは「チョー人薬(じんやく)の使用は痛みが伴う」という話をしていましたね。その痛みが分かっているからこその、手を出す怖さがあるのでしょう。

>「だったら、手を出さなければいいのに」という意見も……やはりありますね。これについても理香珈(りかか)さんは「実験動物なら手を出さないのに」というような話をしていましたね。これは、知能が高い人間だからこその葛藤(かっとう)なのだと考えられます。

>二人の呼ぶ名称が異なってややこしいので、ここは「筋肉増強剤」として進めますが――え? 三つ目の名称はもっとややこしい? ……では、たんにクスリ(・・・)としておきましょう。このクスリ(・・・)を使用することで得られる「俺ツエー」感が、痛みに対する恐怖を上回っていたら、手を出すことを試みるでしょう。あるいは、銀子先生やパンツイッチョマンに対する恨みかもしれません。なんにせよ、高等知能を持つ動物だからこその精神的理由です。

>とはいえ、怖いもんは怖いんだもん、という汗と手の(ふる)え。男は両手を伸ばして丼鉢(どんぶりばち)(つか)みました。右手はギプスをしているから、()えるだけですが――あ、そういう細かい描写はいらないですか?

>お、ついに(あお)った。そして、やっぱり流れる、口角からの水滴。みんな好きですねえ。お水を(こぼ)すのが。男はコトリと音を立てて、丼鉢(どんぶりばち)を戻すと片腕で口元を(ぬぐ)った。……え? 右手か左手か、どっちだ、ですか? ……さっきは「細かい描写はいらない」って言っていたじゃないですか。右でも左でも好きな方を想像してください! とは、立場上言えません。言い出すと、仕事がなくなってしまいます。今回は右手でした。不自由になっていても利き手をとっさに使うのは変わらないんですね。

>そして、訪れる激痛!! ……は、なかなか来ません。ええ、これ、来ないんです。

臨場感(りんじょうかん)を出して説明してきましたが、実は今までの映像は録画でした。だから私は「すぐに何か起きるわけじゃないんだな」とわかっていたのです。でも、いきなりこの男が暴れているシーンから入っても、流れがわからないじゃないですか。 ……え、それでも良かった? むしろ、そうして欲しかった? 映画ではそういう入り方でしょ!……な、なんか反論がものすごいですね。では、その後は駆け足で説明いたしましょう。

>ギプス男はその後数分間は(おび)えて待っていたのですが、一向に変化がないとわかると、盗んだクスリ(・・・)三パック全てを丼鉢(どんぶりばち)にぶちまけます。……あ、誤解を招く言い方でしたね。盗んだのは三パックでしたが、既に一パック消費していたので、残りはニパックです。そして、一度に注いだように思われたかもしれませんが、それでは(あふれ)れてしまうので、一パックずつでした。一パックは五百ミリリットルなので、三つで一.五リットルです。続けて飲むには苦しい量ですね。お腹がタプタプになっちゃいます。それでも、変化が訪れてなかった男はふて寝します。

>えーと、ここで、最勝寺先生からの資料メモです。……これも細かい内容なんですけれど、従わない事には次週からナレーターがすげ替えられる可能性がありますから、読みますね。

>……はい、お客様あっての放送業ですが、現実問題、客よりも雇用主の顔色を見ないといけないんですよ。(はた)から見ていたら、「そんなの間違っている!」と雇用主の指示に反発して、「間違った事を強要されるくらいなら、こっちから出て行ってやる!」と言った方がカッコイイと思われるのでしょうが、普通はできません。若ければ、理想に燃えていることも多く、また別の道も開けていますが、年を取るとそういう突破的行動をとる気力が失せてしまいます。そして何より、家族です!

>お家に帰ってから「気にくわない事をさせられそうになったから辞めてやったぜ」なんて言おうものなら、「バッカじゃない!」の一言で切り捨てられます。本当にそうだよな、と自分で思う所もありますし……というわけで、最勝寺先生からのメモです。殴り書きみたいな内容なので、補足しながらお伝えしましょう。


>お腹の中に入れてしまったら「体内」と思われがちで、事実、表現としては間違っていないのですが、発生学的に言えば、消化官は()です。結合組織や血管などの()とは根本的に違います。ピンと来ない人のために科学工作課題も用意してくれました。子供たちは大人の人と一緒に作って楽しんでくださいね。

>用意するのは、ハサミとテープとビニール袋。袋は大きい方が加工しやすいですが、頭が入る程度の大きさがあれば問題ありません。――って、本当に頭を入れたら危ないからダメですよ!

>はい、ではまず、袋を軽く(ふく)らませてから、底へ片手を入れます。……はい、普通はそうしますね。しかし、今回は逆に、外から底を押し上げるようにして、片手を入れていきます。……めくれ上がっていきますが、完全にひっくり返さず、押しこんだ先が袋の端から少し出る辺りで止めてください。で、その先をハサミで切ります。切って輪になった部分を、外側にある袋の口にあたっていた部分とテープで貼り合わせていきましょう。……難しいですね。大体の形がわかればいいので、所々切れ目が残っていてもかまいませんよ。

>はい。それで完成です! 作っていなかった人にもわかりやすくどんな形が出来たかというと、ドーナツみたいな形ですね。ビニール袋の深さによっては、ドーナツ形の柱、バームクーヘンみたいなものができていると思います。

>その構造の内側の筒が、消化管――口から肛門にあたる部分になります。筒の外側は表皮ですね。くっついている袋に封入されている部分が、体内に相当するわけですね。わかりましたか?

>え? 科学工作とやらなどをせずに、最初からバームクーヘンだけで説明できただろ、ですか? ……そうですね。袋に閉じ込められた空間より、「バームクーヘンの中心穴が体内」という方が想像しやすいですからね。

>えーと、最勝寺先生によると、手間を掛けてまで説明させたのは、「体内と称しているが結局()についてのことをひっくるめて話している事例に、みんなが(まど)わされなくて済む」からだそうです。まどろっこしい表現をしていますが、いわゆる解毒化(デトックス)についてですね。

>いや、当番組としても「デトックス全てがインチキ」というつもりはありませんが、「おなかをキレイ」にしたところで直接「血液サラサラ」には(つな)がらないよ、という科学的解釈(かいしゃく)をお伝えしたということですね。そんな事くらい知っていたよ、という方は今までの部分をマルっと「読み飛ばしてください」で良かったです。……え、それなら始まる前に言え、ですか? ……そうでしたね。でも、ある程度聞いてからではないと「読み飛ばしてください」に当てはまるか判断できない難しさがありますね。そういうことです。

>ん? 最勝利先生メモの最後が袋とじになっていますね。……袋とじ本の意味が分からないお子様はお父さんに聞きましょう! お父さんもはっきり分からなそうな顔をしたら「大人な写真週刊誌で採られていた手法」と伝えれば思い出すかもしれません。思い当たらないほど若いお父さんなら、お祖父さんに聞いてください。っていうか「Webで検索!」した方が早かったですね。

>ともあれ中身は……「科学的根拠(こんきょ)がない実質詐欺(さぎ)被害に()っていたとしても、本人に自覚がなく、むしろ『体調が良くなった』と思っていたら、それはそれでいいんじゃないの?」…………って、コラ! だったら最初から言いやがれってんだい! こちとら視聴者のみなさんから不満を受けても、仕事だからと思って突破(とっぱ)したんだ。それを今更「ま、どっちでもいいや」じゃねぇだろうよ。

>……失礼しました。ちょっとイラッとしまして。はい、ちょっと(・・・・)だけです。

>まあ、というわけで、ギプス男にクスリ(・・・)が効かなかったわけですね。経口(けいこう)と注射は違いますから。ですが、全く効かなかったわけではありません。消化管からの吸収を経て、時間もかかり効果も弱くなりますが、クスリ(・・・)はジワジワとギプス男の身体を(むしば)んで――いや、一応悪い効果とは言い切れないから――強化(・・)していたのです。


ギプス男: イデェェぇ!!


>痛みからギプス男が目を覚ました時、時刻は午後を少し過ぎた頃であった。



>ここで、場面は外へと移ります。そこはアーケードの下に広がる商店街。かつて、パンツイッチョマンが、ジャック・オー・ランタンの扮装(ふんそう)でノーパン刑事(デカ)と接触した場所でもあります。枚鴨(まいがも)市駅前レインボー通り商店街ですね。

>商店街のメインストリートから枝道に入る奥に、古いラーメン屋があります。店の(のぼり)には「中華そば」とあり、近頃流行(はや)りのこだわり志向のラーメン屋と違う、古風で割と安めの中華そば(・・・・)を売っているお店です。はっきり言って人気はあまりありませんが、変わらぬ味を求めるお年寄りと、どちらかというと今風のこだわりラーメンの方が好きだけどお金がないから仕方なく来ている若者に支えられて細々と営業していました。

>実は、ギプス男はこの中華そば屋のある建物の上に住んでいたのです。一階部分が料理店なマンションですね。こういう住居を見て、「いいなぁ」と思っていた方もいるでしょう。しかし、実際住んでみると、なかなか大変なものらしいですよ。

>まず、匂いです。階下の飲食店が営業している日はずっと匂いが立ち上ってきます。休みの日でも料理人が仕事熱心な人なら、新メニューの開発でやはり匂いが発生します。もし、階下の飲食店がお気に入りの店でもずっと匂いを()いでいると、食べていなくても()きるものです。

()きたと思っていても、なんだかんだで利用してしまう点もうんざりさせられます。例えば、「今日は何か買って食べるか」と思っていると、どしゃ降りになってしまい、「仕方ないから下で食べるか」となります。なんせ近所のコンビニに行くより便利(コンビニエンス)ですからね。そして、()きに拍車(はくしゃ)が掛かるわけです。

>しかし、この環境で住む人が最も恐れるのは、匂いや()きではありません。それは、Gです!

>……ほとんどの方は正しい対象を思い浮かべてくれたようですね。はい、あの黒いカサカサゴソゴソです。

>世界的に有名なファンタジー小説あるいは映画には、名前を口にするのも(はばか)れる魔王が出てきます。「なんでぇ大袈裟(おおげさ)だなぁ」と思いながら、読んだり観たりした方もおられると思います。特に、実体化してから、よりその思いが強くなったという人もいるでしょう。

>「怖かった存在が怖くなくなった」問題は、よくわからないからこそ怖さが増大する、という恐怖の特性も関係していると思います。そのあたりわかっていないから、何でも白黒つけたがるアメリカ産のホラーは、ビックリ箱やスプラッター指向の怖さになりがちで、怖さがやや弱いと言われるんですね。

>えーと、……ああGの話でした。あの恐怖の魔王が大袈裟(おおげさ)だったと思う方は、どっこい現実にはGがいる、と思い出してください。これも、「口に出すのもおぞましい」と思う人がたくさんいます。うっかり名前を口にしたことでトラブルになることあります。

>しかし、私は立場上はっきり伝えなくてはいけません。はい、ゴキブリですね。

>あのお(じい)さん先生も「過剰に恐れるから恐怖が大きくなる」というようなことを言っていました。当番組には、播磨ポツ太さんというあの作品がまるで公式にサポートしてくれているんじゃないかと思える存在もいますし、怖れず発言していこう派でいきます。

>それはそうと、Gと表現して、「ヒーローっぽいロボット」を想像した方もいたようですね。ロボットといえば、告知がありましたね? あ、こっちでの確認です。……番組中は問題があるからCM中に流す? はい、わかりました。では、別のGについてですが、比較的多数派は音楽関係でした。コードあるいは譜面(ふめん)。Gと言われてそれらが真っ先に思い浮かぶのは、熱心に音楽に打ち込んでいるからでしょうね。

>しかし、極めて弱い反応ながら、「お(じい)さん!」という声も聞こえました。弱い声は無視しろ、って考えている方もいるでしょうが、弱い声って少数派という意味です。そして、少数派ながらこちらで感知できたということは、その人がかなり強く「Gと言えば、(じい)!」と思っているという事です。

>わかってもらえましたか? いつも複数の声が聞こえているのをある程度無視してきた私が(おどろ)いて立ち止まってしまった理由が。耳を澄ますと今も聞こえますよ。「Gと言えば、(じい)! Gと言えば、(じい)! サイボーーーグ!!」 ん? サイボーグって何でしょうね? ……まあ、いいや。


>賢明な視聴者の皆さんは既にお気づきの事だと思いますが、今日はいつもより脱線多めです。中華そば屋さんが出てきたから、脱線マシマシの方が良いですか? ←こういう部分がそうですね。

>この工夫は、次のシーンに入ってしまったら今週分の放送量を(あふ)れてしまう。さりとて、すぐに終わると味気ない、という状態をごまかすためでした。中途半端ということですね。


♯ ガシャーン!!


>窓ガラスを突き破って、飛び出してくる人影。それは、獣のように四本の手足で着地すると、すぐさま顔を上げる。その目は血走っている。


ギプス男: うおぉぉぉーーー!!


>雄叫びを放つギプス男。いや、これはもう、かつて頭蓋骨(とうがいこつ)博士が名付けた怪人「破壊者(デモリッシャー)」だ!

>が、先程説明したとおり、容量オーバーの可能性が高いため、今週はここまでです。というわけで、久々にCM入りのキャッチを流しておきましょう!


>画面が暗転。画面の上半分に一つずつ浮かんでいく「PANTS」の文字。それに応じて、流れる音声。

ロボット音声: パ~ン~ツ~~~


ギプス男: イッチョマン!(怒)


♯ シャキーーン!


>効果音と共に、画面下半分に横からカットインしてくる「ICCHOMAN」の文字。



※初版では、当時コンテスト中だった保紫(ほし)奏杜(かなと)先生の新作SF『ウェーブ&ムーブ』の宣伝CMが流れていました。


最勝寺「興味のある方は、『保紫 ウェーブ』で検索!」

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