そこのけそこのけ、お馬鹿が通る 2
ナレーター(以降、「>」と表す。): 以前、『イッチョマン・RADIO』の収録前に最勝寺先生が言っていた事があります。「作品の舞台は、なるべく皆が想像しやすい場所にしているんだよ。映画だったら一流ホテルのロイヤルスイートルームは見栄えするけれど、文章だとそういう場所に入ったことがない人は思い浮かばないだろう?」と。その時、私が「それって先生が入った経験がない、ということですよね?」と返したところ、先生は黙りこんでしまいました。
>あの時の最勝寺先生の発言どおり、今回のシーンも視聴者の皆様に馴染み深い場所です。他の映像作品でもたまに目にする場所ですが、日常での使用頻度はその比ではありません。日に何度も利用する場所ですから。
>その場所で、腰掛けているのは大きな黒メガネが特徴のノーパン刑事。彼は少し呻いていました。
>そうです。勘の鋭い視聴者の方が思ったとおり、ここはトイレです。他の作品でも目にするのは先ほど言ったとおりですが、まさか最中をねじ込んでくるとは……最勝寺先生はやっぱり変人ですね。
>ふと思ったのですが、ノーパン刑事とトイレの相性は良さそうです。だって、いつも取り除かなくてはいけない最後の一枚がないのですから、スピーディに解決できます。漏れそうになってトイレに駆け込めたけれど、便器を前にしてホッと気が弛んで、膀胱で「ウホホーイ、突撃だ!」となったけれど、最後の一枚のパンツ関門を解放するのに手間取って、「いや、ちょ、ちょっと待て、おまいら(原文ママ)」と不覚にも漏らしてしまったエピソードはよく聞きますからね。……いや、改めて考えたらよくは聞かないですね。
>……ん? 「今のノーパン刑事は大だから、小の時の失敗は関係ない。そして、大の時はパンツの有無は影響ない」というご意見があるようですが、いえいえ、関係大ありですよ! 激しい便意に苛まれつつ、なんとか便器に辿り着き、パンツもろとも一気に脱ぐつもりが、指が引っかからず、予想外にパンツが残ってしまった時なんか、頭では未だだと思っても、一旦気が弛んだ反応から、直腸で「ウホホーイ、突撃だぁ」と始まっちゃって、「い、いや、おまいらちょっと待て!(原文ママ)」(以下略)という事態も起こりえますからね! ……いや、改めて考えると、そんなに起きそうにないか。
男の声: ディテクティブ・バンドー。
>おっと、更なる型破り。用便中の相手への語りかけです。しかも、外からではなく、隣の個室から。学生時代によくあった連れションで、小用便器に並んで話を続ける状況はわりとありましたが、個室間の会話はない、というか御法度ですよね? 話しかけてきたのはやはり非常識な人です。声からもわかるでしょうが、ノーパン刑事に「ディテクティブ・バンドー」と呼び掛けるのはあの人しかいません。ですが、いつものとおり、名乗り上げがあるまで、一応特定はしないでおきましょう。
>ここで少し訂正です。先ほど「皆様にも馴染みがある」と申し上げましたが、その性質上、男子便所の内装をほとんどの女性は知りません。ですから、女性にとっては、このシーン、知らない部分を想像で補わないといけません。しかし、それこそが音声多重(略)活劇の醍醐味と言えますので、頑張ってください!
>ちなみに私は、女子便所の中をチラッと見た経験があります。あ、覗きではなく、不意の事故です。学生時代の教室移動の際、廊下を同級生と話しながら歩いていて「そういや、トイレ行っておくか」と思って入った先が、男子トイレの隣の女子トイレでした。入ってすぐ、ピンク色の世界で異常に気づき、誰も利用者がいなかったため、すかさず出て事なきを得ました。私が間違えた原因は、話している向きがトイレは背後にあって確認しづらかったからです。しかし、話し相手は女子トイレが視界に入っていたわけですから、出てからすぐ「入る前に止めてくれよ!」と言ったところ、「あまりの予想外の行動に声を掛けられなかった」と返されました。事実、彼はそこでようやく驚きの顔からニマニマ笑顔に変わり、私も「そういうものか」と納得しました。こうして、私はこの経験から二つの教訓を得たのですが――あ、私の個人的な過去エピソードには興味なかったですか。そうですね。
>ともかく、多くの女性には馴染みのない場所だから、「想像で補ってください」と言いましたが、よく考えると、ノーパン刑事のいる個室は、男性女性ともさほど変わらない場所と思われるので、困るほどではないと思います。違う部分としてパッと思いつくのは、ノイズ発生装置の有無でしょう。ボタンを押すと、鳥の鳴き声や水の流れる音が鳴る装置ですね。女性にとっては意外に思われるかもしれませんが、男性はそういう配慮はなく、むしろ盛大にひり出す……えーと、これ以上は止めておきます。
>ちなみに、あの時の私は小用だったので、小用便器がない事に少し違和感を覚えましたが、小用便器がない男性用トイレも少なくないので、「あ、ここはそうだっけ」と頭の一部で判断しました。しかし、別の考えで「いやいや、ピンクだぜ。ピンク!」と警告を発したので、退出できたのです。友人曰く「全国統一的に男子用女子用のカラーが決められているのは、こういう事故を最低限の被害に抑えるためだ、と聞いたことがある」との事でした。何となく当たり前に決まっている内容にも理由があるのだな、と考えさせられました。
>……結局、追加で体験談を披露しちゃいましたね。では、次へ進みましょう。
男の声: 今日と明日あたり、やや遅い時間に『天華』でランチを摂ることをお勧めする。
>天華? ……えーと、では、喬橋さん、お願いします。あ、喬橋さんは当番組のスタッフの一人です。天華についてご存じのようなので、今、収録室のあちら側で画用紙にメモを……ん? 「中華料理店の名前」……ああ、わかりました。ノーパン刑事たちが利用していた近くの商店街の中華料理店ですね。そこで事件が起こるというのでしょうか!? それとも、実はパンツ――じゃなくて、ノーパン刑事の隣に居る男は『天華』でアルバイトしていて、今のは客引きなのかもしれません。
>客引きは、相手の進路を塞ぐように立ったら違反となるのですが、「トイレの中での声掛けは違反」とは定められていないでしょう。これは意外な盲点ですね!
>しかし、ルール違反ではなくともマナー違反だ。実際、話しかけられたノーパン刑事は無視です。
♯ ポチャン。
>あ! これは、ノーパン刑事側の音でした。さらに対象を絞るなら、便器から聞こえた音でした。もちろん、その音の正体を覗きに行くつもりはありませんよ。というか、今のノーパン刑事は基本的に、首から上しか映していませんから、皆様ご安心ください。
ノーパン刑事(以降、「NPD」と表す。): ふぅ。いきなり、そんなお勧めをするとは、事件が起きるって勘でも働いたか?
>場違いな声掛けにノーパン刑事が怒って対応しないのかと思っていましたが、普通に話し出しましたね。これは、もしかすると「上と下と同時で何かを出すのは難しい」という、知られざる人体の仕組みなのかもしれません。あ、「連れションはそんな事ないのにな」と思った方がおられるようですね。それはきっと出す穴が違うから……いや、こういう話はもう止めましょう。ずっと語ってきておいて申し訳ありませんが、品が下がります。せっかく、文部科学省が推薦してくれる番組を目指しているのに――あ、それは無理? だったら、子供たちも楽しんで鑑賞できる番組として……いや、むしろ、この手の下ネタは子供たち、大好物ですね。特に、幼稚園から小学校低学年の頃の子供相手だとかなりの打率を誇れます。だけど、その子供たちをコントロールするのは親御さんたちなので、そういう意味で、下品な番組は嫌われちゃうのです。……誰ですか! 「もう手遅れじゃん」とか言っている人! ……ま、まあ確かに、「半裸の男が出てくる時点でアウト」とは……そのとおりですね。
>いや、今回は半裸じゃないかもしれません。以前、「エプロンはありかなしか」という議論をしていて、二人とも「(おそらく着用について)あり」という意見の一致を見ていました。ですから、ノーパン刑事の隣の男は今回も『天華』のエプロンを腰に巻いているかもしれないですよ。……あ、はい。「それでも半裸には違いない」については、その通りだと思います。だから、きっと今日もあの人は半裸なのでしょう。
>しかし、ノーパン刑事の呼びかけに隣からの返事はない。
NPD: どうした? 今度はそっちが気張る番か?
>うーん……いや、私が息んだのはもちろんひり出す為ではありませんよ! 今のは、トイレの個室間の会話は、マナー違反だけというわけではなく、効率の面からも良くないんだなぁ、と考えさせられた唸り声でした。お互い顔が見えていないと、トランシーバー会話のように、同時に話し出して被ることが多発するから、話し終わった後に「ドーゾー」と言うように相手に会話権を委譲するルールを導入した方がスムーズにいきます。トイレ個室間会話は、そういう問題に加えて、踏ん張る間は話せないという問題を抱えているので、マナー以前に会話に向いていない環境だったんですね。今回のシーンを観て初めて気づきました。馬鹿馬鹿しい場面だなぁと思っていたんですが、それでも新しい気づきってあるものなのですね。ちょっと感心しました。
NPD: ……おい、パンツ!
>返事がないことに痺れを切らしたノーパン刑事がさらに呼び掛ける。それはそうと、ノーパン刑事って、パンツイッチョマンに対しては「パンツ」って呼び掛けるんですね。……え? 名乗り前のフライング・パンツイッチョマン発言、ですか? ええ、口を滑らせたわけではなくわざとです。「これは今回、名乗りがなさそうだなぁ」と思いまして。
♯ ガタン!
>突如、扉を開けて、個室を飛び出すノーパン刑事。すぐに声のしていた側の個室を覗きこむが、扉が開いていた事から予想されたように誰もいない。続けてさらに隣の個室を確認するが同じく誰もいない。トイレでジタバタ動くのもマナー違反だが、幸い今はノーパン刑事以外に利用者はいなかった。声がしたはずのパンツイッチョマンもいない。
NPD: ちっ!
>舌打ちをするとノーパン刑事は、突き当たりの窓へと歩み寄る。上下に開くタイプの窓は開かれており、そこからは警察署の脇を流れる小川が見える。ノーパン刑事は上半身を窓から出し、周囲を見回すが、怪しい人影は見あたらなかった。ここは地上三階、常人であれば飛び降りるのに躊躇われる――良い子のみんなはチャレンジしたらダメだよ!――高さだが、あの変態ならば、無事で済むかもしれない。特に、この辺りは低木の植え込みとなっていた。普通であれば届かない木に跳び移った可能性もあるし、ノーパン刑事から見て右にある、建物に沿って上下に伸びる配管も、普通であれば手は届かないが、ヒラリと跳び移り、スルスルと降りた可能性もある。
>……おぉ、やはり皆さんもかなり音声多重(略)活劇に慣れてきましたね。先ほどの私の説明を、黒パンツの男の動作として再現された方が多数おられるようで……あれ? 全身黒ずくめでつり目だけがギョロリと光ったキャラクターで再現された方もおられますが、それだと番組違いですよー! 当番組では、都合の良い気絶はイッチョマン・スラップで、時計型麻酔銃ではありませんからね!
♯ キィィ~~
>押し開けられたトイレのドア。そこから現れたのは――
後輩刑事: あ、アニキ――って、どうして下半身丸出しなんですか!!
>はい。私は見えていましたが、いろいろ問題があるため――特に文部科学省推薦がらみで――敢えて説明していませんでした。実は、個室を飛び出してきたノーパン刑事は、ノーパンと言われて皆さんが想像する姿になっていたのです。むしろいつもが「パンツははいていないけれど、スラックスをはいていたらわからないよね」というある意味ノーパン刑事のタイトル詐欺状態だったので、こっちが正しいのかもしれません。……うん、そんなわけありませんね。社会人的に。
NPD: ん?
>声を掛けられて、窓から突き出していた上半身を戻すと、ノーパン刑事が入り口に振り返る。――って、ダメでしょ! あっちを向いていたからケツで済んでいたのに……というわけで、今の構図は後輩刑事の斜め後ろからの見下ろしです。はい、アソコは後輩刑事の後頭部が隠している構図ですね。本人の知らないところで、先輩の為に文字どおり体を張っている素晴らしい後輩ですね。
後輩刑事: ほら、だから出てますって。
>既に語った理由から、後輩刑事が指差す先のモノは皆さんには見えないぞ。
NPD: ん? 便所じゃ出すのが当たり前だろう。
後輩刑事: ……そういえば……。法が「局部を出すな」と禁じたら、そもそも用が足せないですからね。となると、トイレは公共の場として成立していない、ということなのでしょうか……。
>た、確かに、公共利用の場だけれど、公然の場ではないですね。……って、法律うんぬん以前に、マナー違反なんですよ! このシーン、そればっかりになっていますから!
>しかし、パンツイッチョマンを捕まえるため(?)に個室から出てきた時点で、ノーパン刑事は下半身丸出しでした。こう説明したところ、膝のあたりまで脱ぎかけのズボンがなくて不思議に思われている方も視聴者の中にいるようです。お、同意の方が増えましたね。不思議に思われなかった方の中には……飛び出してから足が引っかかるから脱いだのだろう、と考えている人がいますが、それだったら普通穿いてしまわないですか? ……はい、確かに、ノーパン刑事は普通ではないから、という考え方もあります。しかし、現実には……やはり、一部の視聴者の方はここで話している問題についてそもそも理解できていませんね。不思議とは思っていない、ノーパン刑事と同じ派閥の方のようです。
>そうではない、多数派の方は驚かず聞いてくださいね。実は、便器に腰掛ける際、ズボンを途中までずり下げるという方法を採用せず、全て脱いでしまう派閥が存在しているのです! 「どうして?」「効率悪いのではないか?」などと疑問は多くあるでしょうが、おそらく最も適した答えは「単なる習慣の差」です。ノーパン刑事だったら、きっと「こっちの方がスッキリするぜ」と思っているのでしょうが、その行動をとる度に「スッキリするためだ」という意識はなく、無意識で全脱ぎをしているのだと思われます。毎日の習慣ってそんなものですからね。
>このいわば半脱ぎ派か全脱ぎ派かという差は、独りで密室にて選択されるものなので、厳密にはどちらがどの程度多数派なのかわかっていません。私の感じるところ、半脱ぎ派が多いようですが、それは当番組にアクセスしている方からの反応なので、社会全体ではどうなのか不明です。
>日常的な行動や名称は、歴史に残りにくいものです。当たり前すぎる事柄は詳しい説明をつけて文献として残っていることが極めて少ないからです。このトイレにおける半脱ぎ派と全脱ぎ派の違いも、後の学者が知りたくても知りようがない事象なのです。
>なお、脱がれたズボンは丁寧に折りたたまれて、便座横の小さな荷物スペースに置かれています。パンツイッチョマンは、脱いだ衣服を畳んで唐草模様の風呂敷に入れているようなので、この辺りもこの二人似ているのかもしれませんね。
後輩刑事: ――って、法律の事より、アニキは何しているんですか!? トイレの中で丸出しなのは譲るとして、窓から外を見ていましたよね?
NPD: ああ。……この便所、警備がなっちゃいないな、と思ってな。
後輩刑事: 警備?
>後輩刑事は首を傾げながらも、奥の窓へと近づいていく。
後輩刑事: 確かに。警報機は付いていませんが……そもそも、窓の下へ来るまでに、塀や柵を乗り越えてこないといけないから、そこで引っかけられますよ。
NPD: なるほど。そこは一気に跳び越えたのだろうな。
>ノーパン刑事は独り言を唱えた。それは、後輩刑事にはっきりと聞こえなかった。
後輩刑事: ん? 何ですか?
NPD: いや。……もし、誰かがここまで入ったとすると、まさかの警察署への不法侵入だ。恥さらしもいいとこだな。
後輩刑事: そうですね。普通はそんな大それた事をする奴はいませんが、証拠品が紛失する事件は過去に別の場所で起きていますから――
NPD: ん? あれは内部犯じゃないのか?
後輩刑事: シーッ! そうかもしれませんが、市民に聞かれたら大変ですよ。外で口を滑らせないでくださいね。 ……ともあれ、ここの防犯装置の不備について、保安課に連絡しておきますか?
NPD: 止めておけ。どうせ、ヒヨコ太鼓持ち――
後輩刑事: ――費用対効果ですね。確かに、言われそうですね。
>後輩刑事は、言いながら端にある小用便器へと近づく。よく考えたら、彼も用があって入ってきたんでしたね。
NPD: タカ、今日の昼は『天華』に行くぞ。
後輩刑事: あ、はい。いいですよ。この後出ますか?
NPD: いや、一仕事終えてから行こう。
後輩刑事: はい。ピークを避けて、ですね。……アニキもいつまでもの仁王立ちしてないで、とっとと穿いてください。
NPD: うむ。
>後輩刑事に促されて、ようやく出てきた個室へと引き上げるノーパン刑事。帰るタイミングを失ってしまったのは少しわかる気がしますね。日常ルーチン化してしまった行動は途中で中断されると、元のルートに戻りにくいものですから。
NPD: ……ん? ケツ、拭いてたか?
>知らねえよ!!
♯ キ~~ッ、バタン!
>今の音は、ノーパン刑事の個室の扉が閉まった音ではありません。こちらから接続を切った音です。
>一応、パンツイッチョマンと同等の扱いをしなければ、と気を遣って、なかなか法律に触れる方の半裸を隠さない態度についてフォローを入れたのに、フォローして損をした気分です。あのまま続けても、お尻を拭くシーンが続いただけでしょうから、見限って正解ですよね。
>……せ、世界は広いですね。微弱ながら「ノーパン刑事の生尻が見られて良かった」と思う人がいるんですから。ま、まあ、喜んでもらえたら、放送した甲斐がありました。でも、今後はトイレの中は放送禁止対象にした方が良さそうですね。あとで、設定を変えておきます。
>では、また来週~。




