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参上! かたじけない侍 5

>ついに五週目に入ってしまった今回の騒動(そうどう)。始まる前は「戦闘(せんとう)シーンがちょこちょこっと入って、それも大して長くないから二回ほどで終わっちゃうかもなあ。次回のお話、どうしよう……」と言っていた|最勝寺先生でしたが、「五週目に突入しましたよ」と話しかけると、(まど)から摩天楼(まてんろう)(そび)える空を見上げて、「思えば、遠くまで来たものだ」と(つぶ)いていました。

>いや、それほど遠くはないです! むしろ、こちらは「あ、また言っている。どうせ……」から「うん、知っていた」という変化は予想できていました。それに、なんとなくそれっぽい発言をして、責任を回避(かいひ)しようとするのも止めてください。


>と、問題のある方の指揮(しき)の下、今週の放送も続けます。

>大きなダメージを負ったパンツイッチョマンに、無慈悲(むじひ)なロボットが(おそ)いかかる! という所で週(また)ぎでした。

>パンツイッチョマンが指示した花鳥風月(かちょうふうげつ)は間に合うのか!? いや、(のぞ)(うす)だよねぇ。という話もしましたが、そもそも花鳥風月(かちょうふうげつ)がどういう連絡ルートで出動(しゅつどう)となるのか、を説明しましょう。


複数(ふくすう)のルートがあるのですが、最も使われるルートが警察(けいさつ)、あるいはメディアからの連絡です。緊急(きんきゅう)連絡先として、多くの方が警察署(けいさつしょ)消防署(しょうぼうしょ)への電話番号を知っていますが、花鳥風月(かちょうふうげつ)への連絡先は一般人に公開されていません。だって、ほとんどアイドルですからね。ただでさえ、警察署(けいさつしょ)消防署(しょうぼうしょ)への不要な電話が問題になっているのに、花鳥風月(かちょうふうげつ)と直接話せるかもしれない、という電話番号はひっきりなしに不要な電話がかかってしまうのは明らかです。

>とはいえ、情報(じょうほう)伝達(でんたつ)の手段が多数ある今の世の中、花鳥風月(かちょうふうげつ)の電話番号だけ漏洩(ろうえい)が起きないかといえば、やはりそんなことはありません。だから、やっぱり迷惑(めいわく)電話は発生しています。これについては、受け手側でソフトウェア処理されています。具体的には、決まった電話番号からの送信以外は全てすぐ切れてしまう、という対応です。番号非通知ももちろんアウトです。

>入手する為にそれなりの金銭を払ったファンがいたとしても、「すぐ切れてしまうから、この電話番号はやっぱり正しい!」とだけでは満足しません。本物の番号でも(つな)がらないと意味がないですからね。ですから、今ではもう、花鳥風月(かちょうふうげつ)の電話番号に大した金銭的(きんせんてき)価値(かち)はありません。

>相手にしない事が迷惑(めいわく)電話への対策、としている花鳥風月(かちょうふうげつ)陣営(じんえい)ですが、いくらすぐに切れるようにしたとしても、回線が(つな)がっている時間、他の通知が(さまた)げられる事態(じたい)が発生しています。

>そこで、別の連絡手段も存在し、今ではこちらが主流となっています。政府主導(しゅどう)で開発が進められた、あの連絡アプリ『CoCoMI-L0(ココミロ)』です。これのアドオンとして花鳥風月(かちょうふうげつ)への緊急(きんきゅう)連絡が――え? 「『ココミロ』って何?」ですか? ……あれ? そちらではココミロは普及(ふきゅう)していない? それじゃあ、どうやって日常的に――いや、そちらの生活の不便さについて話している場合じゃなかったですね。

>では、ココミロについて説明をします。元々はセキュリティを重視した公共情報を通知するアプリとして開発された『CoCoMI(ココミ)』の機能限定版(きのうげんていばん)として世に出た『CoCoMI-L0(ココミロ)』ですが、メッセージツールとして使いやすいということで普及(ふきゅう)……え? そんな話はどうでもいい? 脱線(だっせん)していますか? ……でも、「もっと聞きたい」という声も……ああ、そういうお仕事をされている方のようですね。だったら、確かに一般的ではない(・・・・・・・)領域(りょういき)()み込んでいたのかもしれません。


>今回のお話の現時点で関係のある部分は、「花鳥風月(かちょうふうげつ)への連絡、どうすりゃいいんだよ」という点です。前述(ぜんじゅつ)のとおり、警察(けいさつ)側からのルートはあるのですが、緊急事態発生きんきゅうじたいはっせいの通知が現在されているところで、警察組織(けいさつそしき)としての増援(ぞうえん)は早いかもしれません。しかし、その増援(ぞうえん)でもこのロボットに歯が立たないとわかってからようやく、花鳥風月(かちょうふうげつ)への救援要請(きゅうえんようせい)が出ます。それまで、ボロボロのパンツイッチョマンが持つはずがありません。

>そして、花鳥風月(かちょうふうげつ)が来たところで勝てる保証もありません。日本一のヒーローといっても、ゴツゴウ・ユニバースですから、素手で鋼鉄(こうてつ)をぶち抜くほどのデタラメな強さはありません。デタラメぶりでいえば、勝てる可能性が高いのはフリップフロップ・チェリーです。しかし、彼女の『出るか出ないかわからないビーム』そのものの成功確率が低いので、勝てる見込みも当然低くなります。

>もう、いくらヒーローといえども個人レベルでどうこうできる問題ではない! ということで、自衛隊しか対応できないかもしれません。しかし、市街地(しがいち)緊急出動(きんきゅうしゅつどう)は、とてもじゃないが緊急(きんきゅう)と言えないほど、時間がかかるでしょう。

>……「日本人の国民性としてマニュアル化されていない事態(じたい)には弱いから?」ええ、一部の視聴者の方の意見には同意しますが、実はマニュアル化されています(・・・・・・)。もちろん、「異世界から攻撃的存在が発生した事態(じたい)」については想定されていませんでした。……「異能者がいる世界だから、むしろ異世界侵略(しんりゃく)くらい考慮(こうりょ)されているだろう」ですか? うーん、そういう見方もありますね。だけど、ゴツゴウ・ユニバースにとって異能者の実在は当たり前(・・・・・)の事として認識(にんしき)されており、「異能者がいるから、異世界侵略(しんりゃく)もあるだろう」とはならないのです。外から見える内容と、内側で感じる内容は違うんですね。

>「それならどうしてマニュアル化されているのだ?」という問いについてですが、それはテロ対策のマニュアルとして、市街地(しがいち)への緊急出動(きんきゅうしゅつどう)の手順が(ととの)っているわけです。……が、それが運用された事はないので、ここでまた日本人の手堅(てがた)い気質が影響(えいきょう)し、マニュアルを確かめつつ手順を進めていくので、迅速(じんそく)な行動になりえないのでした。

>今回の襲撃(しゅうげき)がミサイルやらレーザーによるド派手(はで)攻撃(こうげき)だったら、「悠長(ゆうちょう)にやってられない!」と即時(そくじ)応答したかもしれませんが、今のところせいぜい「自動車一台が(こわ)れただけ」なので、所有者に悪いですが、自衛隊が(あわ)てるレベルに達していませんでした。

>その後の予想される被害(ひがい)も、いこい君とお父さんと、そしてそれを守ろうとしたパンツイッチョマンが轢死(れきし)するだけでしょう。これって、幼児(ようじ)と保護者が死亡する部分は同情を集めますが、半裸の男が死んだという点は、むしろネットなんかじゃ「なにそれ、受ける(笑)」となる事件(じけん)ですよね? 現場を知る我々は、未来ロボの恐ろしさとパンツイッチョマンの勇気が痛々しいくらいわかるのですが、それがネット記事になると笑いの対象になるって……(こわ)いですね。


>と、パンツイッチョマンが()き殺されるシーンを()けるべく、色々語ってみましたが、時間を止めたところで、結果を先送りにしているだけで、問題の解決には(つな)がりません。……ん? いや、問題解決に動いている人がいましたね。しかも、期待(きたい)ができる人です。それは――


お銀> 叔父(おじ)さん? 銀子です。


>パンツイッチョマンがイッチョマン・スラップを未来ロボへ叩きつけながら、()ね飛ばされた直後、銀子先生はスマホで征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんへ連絡を入れていた。いろんな職場(しょくば)で、就業中(しゅうぎょうちゅう)の人は個人用スマホを携帯(けいたい)すべきではない、というルールが実施(じっし)されていると思いますが――例えば、私もスタジオ内には持ち込み禁止です――銀子先生たち保育士はむしろ携帯(けいたい)(すす)められていました。なにか事故があった時にすぐ連絡を取れるようにです。……もちろん、今回の事態(じたい)想定外(そうていがい)です。子供が怪我(けが)をしたり連れ去られたりした時に、救急車(きゅうきゅうしゃ)を呼んだり警察(けいさつ)を呼んだり、または証拠写真(しょうこしゃしん)()ったりする場合を想定(そうてい)していたのです。子供たちが元気に過ごしている状態(じょうたい)()ってウェブへアップロードするというサービスもたまにしています。もちろん、誰でも閲覧(えつらん)できる先ではなく、セキュリティの掛かった場所へのアップロードです。


征十郎: どうした?


>おそらくですが、一般的に業務中(ぎょうむちゅう)(めい)から電話が掛かってくる事態(じたい)はそう起きませんよね? それは養老(ようろう)征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんにとっても同じでした。その時、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんは部下から報告(ほうこく)を受けている最中。普通(ふつう)であれば「仕事中だから」と時間を(あらた)めるよう告げるものですが、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんは違いました。部下の方へ片手を上げて(さえぎ)り、銀子先生からの連絡を優先(ゆうせん)させます。銀子先生がこんな時に連絡を入れるのはよっぽどの事態(じたい)だと判断したからです。


お銀: 今すぐ、花鳥風月(かちょうふうげつ)を呼んでください。


征十郎: ふむ。


>聞きながら、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんはメモにその指示を記す。


お銀: このままじゃ、パンツイッチョマンさんが……死んじゃう!


>銀子先生は(すで)(なみだ)を流していた。パンツイッチョマンが大きなダメージを受けた事もショックだったでしょうが、言われたとおりに花鳥風月(かちょうふうげつ)を呼んだところできっと間に合わない事を(さと)っていたからでしょう。しかし、養老家(ようろうけ)の人間は、ショックで呆然(ぼうぜ)となりそうな状況でも、感情とは別に行動を続けるのです。


征十郎: ……お前は無事なのか?


征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんは言いながら、メモを部下に(わた)す。(わた)された部下は、その内容に(おどろ)きの表情を浮かべたが、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんと目が合うと、(あわ)ててその場を退散(たいさん)する。征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんが(にら)んでいたわけではありません。確かに目が合った人はヒヤリとさせられる視線ですが、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんの蛇睨(へびにら)みはこんなものじゃありません。


お銀: はい。パンツイッチョマンさんがみんなを(かば)って、逃がしてくれたおかげです。


厳密(げんみつ)には、おそらくいこい君たちはまだ攻撃(こうげき)到達(とうたつ)可能域かのういきに入っているのだろうが、銀子先生から見た限りでは十分避難(ひなん)できている距離(きょり)があった。そもそも、あのロボットが疾走(しっそう)するなら、どこかへ(かく)れない限り安全圏(あんぜんけん)に入ったと言えないだろう。


征十郎: よし。では、そこはどこだ? GPSからわからなくもないが、直接聞いた方が早い――


>という具合に、養老家(ようろうけ)花鳥風月(かちょうふうげつ)召喚(しょうかん)に動き出していたのです。資金力もあるにはあるのですが、(かね)よりもコネが強い養老家(ようろうけ)は、この活動にうってつけです。花鳥風月(かちょうふうげつ)とは直接(つな)がってはいないのですが、養老家(ようろうけ)のコネなら、現状、最も早く花鳥風月(かちょうふうげつ)を現場に呼び出せると言っても過言(かごん)ではありません。

>シーンの切れ目に、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんがさらりと怖い事を口にしていましたが、養老家(ようろうけ)について踏み込むと色々(こわ)いので無視しておきましょう。

>しかし、現実には、養老家(ようろうけ)の力を(もっ)てしても間に合わないでしょう。パンツイッチョマンがロボットにやられるのは、分どころか秒の単位の未来ですからね。まさにパンツイッチョマンの命は風前(ふうぜん)灯火(ともしび)


>そこにふらりと割り込む、(きたな)らしい身なりの男。そう、(かたじけな)(ざむらい)です。パンツイッチョマンとロボットを結ぶ線上のちょうど中間あたりに、死線を(また)いでいる自覚など見えず、まるで通りがかったようにまっすぐ前――パンツイッチョマンとロボットを結ぶ線とは直角方向――を向いていた。背筋は伸び、左手は刀を差している帯に()えられており、右手は(いま)だ着物の中の胸のあたりにしまわれている。


忝: 僭越(せんえつ)ながら、浦島(うらしま)丙衛門(へいえもん)一飯(いっぱん)恩義(おんぎ)(ゆえ)助太刀(すけだち)に入る。


ロボ: 異物(イブツ)割込(ワリコ)確認(カクニン)……作戦行動に支障(シショウ)なし。


>少なくとも、(かたじけな)(ざむらい)は、ロボットが状況(じょうきょう)確認(かくにん)をする少しの時間は(かせ)いだようだ。


P1: お気持ちは(うれ)しいが、竹光(たけみつ)()れる相手ではない。……私なら、まだ一撃(いちげき)


>左の脇腹(わきばら)から手を(はな)し、()の字の(かま)えをとるパンツイッチョマン。これは、相打ちの覚悟(かくご)だ!

>しかし、(かたじけな)(ざむらい)は立った位置を動かない。視線をどちらへも向けず、まだ前を向いている。ただ、右手は(そで)を通して出し、刀の(つか)へと置く。


忝: 実のところ、この月の民より(さず)かりし刀はただの竹光(たけみつ)ではござらぬ。(まこと)の名は、妖刀(ようとう)光竹(ひかりだけ)御恩(ごおん)(むく)いるための一刀(いっとう)ならば、天下無双(てんかむそう)の――


>そこで、(かたじけな)(ざむらい)は左手の親指で刀の(つば)を押す。そうして少し(のぞ)いた刀身から、(まばゆ)い光が()れる。


忝: ――業物(わざもの)()る!


(かたじけな)(ざむらい)抜刀(ばっとう)しながら、体を回転させ、ロボットへと向き直る。その右手には、輝く光の刃を持つ刀があった。


若い警察官: ら、ライトサーベル!?


>本当は少し違った呼称(こしょう)をしていましたが、あの映画作品の象徴的(しょうちょうてき)なアイテムなので、少し違った表現へ変えました。まあ、あっちでも昔はこう呼んでいたんですけどね。


ロボ: ビビビ! 想定外(ソウテイガイ)事象(ジショウ)発生。作戦行動に支障(シショウ)(ショウ)じる可能性あり。排除(ハイジョ)優先(ユウセン)


忝: 鉄の(いのしし)(それがし)手加減(てかげん)ができぬ(ゆえ)覚悟(かくご)


>あ、「鉄の(いのしし)」ってカッコよい表現ですね。以降は、これを使わせてもらいましょう。


忝: いざ!!


>おっと、(かたじけな)(ざむらい)が先に仕掛(しか)けた! 右手をまっすぐに伸ばし、光の刀の先が地面を(かす)めるようにしながら、鉄のいのししへと()け出す。


ロボ: 排除(ハイジョ)、実行。


>そして、鉄の(いのしし)の方もこれまでどおりの急加速! たちまち、両者が激突(げきとつ)――と、その前に、(かたじけな)(ざむらい)が左へ()んだ!


♯ ブゥゥン


>おそらく、光の刀が振られた音。その太刀筋(たちすじ)は早すぎて見えませんでした。

>鉄の(いのしし)の行動線上から外れた(かたじけな)(ざむらい)は、眼前(がんぜん)に光の刀を水平に(かか)げる。光で()かれないためか、両目は閉じていた。鉄の(いのしし)はそのまま直進し……いや、パンツイッチョマンにぶつかるかと思いましたが、急速に減速しています。一メートルほど残して、ついに動きを止めます。


忝: 御恩(ごおん)返了(へんりょう)


(かたじけな)(ざむらい)がそう宣言(せんげん)すると、光の刀の先からチリチリと音を立てて、光の粒子が空へ上り()けていく。それに呼応(こおう)するように鉄の(いのしし)は体の(はし)から、黒ずみ、灰のようにボロボロと(くず)れ落ち始める。


ロボ: 解析(かいせき)……不能(ふのう)


>見る間に光の刀は竹光へと戻っていき、鉄の(いのしし)は灰になり、その灰も風に吹かれるように(ちり)となり消えていった。光が消え去ると、(かたじけな)(ざむらい)は両目を開け、()れた手振りで刀を(さや)に納める。


忝: 風塵(ふうじん)無残(むざん)(なり)


一瞬(いっしゅん)一瞬(いっしゅん)の出来事でした。(かたじけな)(ざむらい)圧倒的(あっとうてき)勝利。

>周囲の人々と、おそらく視聴者の方々が、呆気(あっけ)にとられている間に、(かたじけな)(ざむらい)はパンツイッチョマンに振り返ると、そちらへ歩み寄る。


P1: ありがとう、助かった。君は命の恩人(おんじん)だ。


>あ、ここに平常心(へいじょうしん)に近い人がいましたね。自身が普通ではない存在ゆえに、普通ではない事象(じしょう)への抵抗力も高いんですね。


忝: うむ。これで貸し借りなしでござるな。


(かたじけな)(ざむらい)はボリボリと頭を()くと、両腕を(そで)から引っ込めて、着物の中で腕を組む。パンツイッチョマンはフロントラットスプレッド風の構えだが、胸を張ると痛めた脇腹(わきばら)(さわ)るらしい。姿勢(しせい)が少し前屈(まえかが)みだ。


忝: 南蛮(なんばん)(ふんどし)御仁(ごじん)の立派な(さむらい)(だましい)。この丙衛門(へいえもん)感服(かんぷく)(いた)しました。


P1: (さむらい)(だましい)か。……私は必死だっただけだ。


>意外にも、謙遜(けんそん)めいた発言をするパンツイッチョマン。そのまま、考えるように視線を下げて、続ける。


P1: ただ、これで死ぬのかと思った時……


忝: ほう。


>いきなり深刻(しんこく)な話題に入ったので、こちらは(おどろ)きましたが、(かたじけな)(ざむらい)はまるで日常会話を続けているような(すず)しい顔で受ける。


忝: 死ぬのが(こわ)かった、のかな?


>発言の方でも、重い内容を軽く言う(かたじけな)(ざむらい)。それに、パンツイッチョマンは顔を上げる。


P1: (こわ)い? そうだな。(こわ)いと思うべきだったのかもしれない。だが、私は、残された者の事を考えて……。


忝: ほほう。それは後悔(こうかい)ですな。


P1: 後悔(こうかい)


忝: (しか)り。()いを残す。(ぞく)の者ならば、「ああしておけば良かった」「こうしたかった」という(おも)いを残すものだが、残された者へ(おも)いを()せるのもまた後悔(こうかい)であろう。


P1: そういうものなのか――


年長の警察官: ――いや、ちょっと待て!!


>何やら哲学的(てつがくてき)展開(てんかい)をしていた会話に割り込んできたのは、(いま)だに(じゅう)(かま)えている年長の警察官。トリガーに指を掛けていないが、銃口(じゅうこう)(かたじけな)(ざむらい)へ向いている。


若い警察官: あ、あの、もしかして『宇宙の聖戦士』さんですか?


>こちらは、(じゅう)を持っているけれど、銃口(じゅうこう)を地面に向けています。聞いた内容はもう露骨(ろこつ)に他人様の作品に迷惑(めいわく)がかかる固有名詞(こゆうめいし)だったので、検閲(けんえつ)しました。


忝: じぇ、じぇ……現代(じぇんだい)? 今様(いまよう)ということであるか?


(かたじけな)(ざむらい)は自分の姿(すがた)を見おろすと、頭を()く。


忝: いやはや、ついに拙者(せっしゃ)今様人(いまようびと)、いや現代人(じぇんだいじん)とやらに(みと)め――


年長の警察官: ――ともかく――


盛大(せいだい)勘違(かんちが)いを続ける(かたじけな)(ざむらい)に、どうツッコめばいいのか正直私は(なや)んでいたところでしたが、強引に止めてくれました。


年長の警察官: その刀を(すみ)やかに(わた)しなさい。


P1: 市民の命を救った功労者(こうろうしゃ)にその態度(たいど)は失礼だな。


>パンツイッチョマンが間に入ろうとしたところ、(かたじけな)(ざむらい)が右腕を(そで)から出して軽く挙げた。待て、という仕草(しぐさ)に、パンツイッチョマンは動きを止めると、指摘(してき)だけ続ける。


P1: それに、その拳銃(けんじゅう)にはもう(たま)が入っていないはずだ。


>これは、いつもながら所々で発揮(はっき)されるパンツイッチョマンの(するど)観察力(かんさつりょく)窮地(きゅうち)に追い込まれていてもその実力(パフォーマンス)は変わらなかったようだ。

>年長の警察官(けいさつかん)は舌打ちすると、(じゅう)を下げ、ホルスターへ戻す。


年長の警察官: 知っている。だが、こうして威嚇(いかく)でもしないと――いや実弾(じつだん)が入っていたとしても、その刀とでは()り合わない。はっきり言って、銃刀法(じゅうとうほう)違反(いはん)というレベルを超えているぞ。


P1: ふむ。……その点に関しては、同意できるな。


>パンツイッチョマンが腕を組んで(うなず)いた後、ふと、首を(かし)げた。


P1: パトカーのサイレン……一台か。


>まだ他の人には聞こえていないようだったが、その段階(だんかい)で台数を聞き分けられる聴力(ちょうりょく)。身体能力だけでなく、この変態(へんたい)、五感も優れています。


年長の警察官: だから、その刀を早くこちらへ寄こしなさい。


忝: と言われたところで、(すで)に語ったとおり、刀は武士の(たましい)(ゆえ)手放すことはせぬ。


警察(けいさつ)権力(けんりょく)など意に介していないかのように、あっさりと答える(かたじけな)(ざむらい)。しかし、顔を(くも)らせると、陰鬱(いんうつ)に付け加える。


忝: ……それに手放すと、実に(おそ)ろしいことが……。


>パンツイッチョマンさえ手も足も出なかった鉄の(いのしし)を、(おび)えることなく(ほふ)った、というか消滅(しょうめつ)させてしまった(かたじけな)(ざむらい)恐れる(・・・・)事態(じたい)……。それに怖気(おじけ)づかされたのか、警察官(けいさつかん)の二人が一歩下がる。が、職質(しょくしつ)を掛けたり、補導(ほどう)をしたりする時に、恫喝(どうかつ)されるのは()れている。すぐに立ち直る。


若い警察官: 素直に(したが)ってください。じきに応援(おうえん)が来るので、抵抗(ていこう)しても無駄(むだ)ですよ。


>これは失言(しつげん)だった。相手がそれなりに知恵が回りやる気のある者なら、「応援(おうえん)到着(とうちゃく)する前しか、強行突破(きょうこうとっぱ)する機会(きかい)がない」と告げているようなものだったからだ。実際、パンツイッチョマンが()の字の(かま)えになり、(かたじけな)(ざむらい)に語り掛ける。


P1: ()げるなら、私が時間を(かせ)ごう。


>ギョッとしてまた一歩下がる警察官(けいさつかん)たち。しかし、(かたじけな)(ざむらい)()め息を付きながら、首を左右に振る。


忝: せっかくの御厚意(ごこうい)ではあるが、お断りいたす。元来(がんらい)拙者(せっしゃ)は他人に借りを作るのは嫌いでしてな。一杯(いっぱい)の水は、やむを得ずの歎願(たんがん)


P1: そうであったか。……だが、一杯(いっぱい)ではなく三杯(さんばい)だったぞ。それに、食べ物も……


容赦(ようしゃ)ない訂正(ていせい)。貧しい者に貧しいぞ、と言っているのに近いですからね。悪気はなくてもアウトです。


忝: ……いずれにしても、やむにやまれずの窮地(きゅうち)であった。


>おぉ! さすがは、それなりに放浪(ほうろう)生活を続けているような人物です。パンツイッチョマンの指摘(してき)に気まずい空気を出したのは警察官(けいさつかん)だけで、(かたじけな)(ざむらい)平然(へいぜん)と押し通す。

>おっと、こちらでもはっきりわかるようになってきましたね。パトカーの音が近づいてきました。パンツイッチョマンの方の残り時間も少ないぞ。


忝: 二人を叩きのめして()げる手もあるが――


(かたじけな)(ざむらい)が左手も(そで)から出すと、帯に差した(さや)(にぎ)る。それに応じるように、警察官(けいさつかん)(あわ)てて警棒(けいぼう)を抜く。


忝: ――医躑躅(いつつじ)殿(どの)に、奉行(ぶぎょう)には手出しをせぬと(ちか)った(ゆえ)、それもできぬ。


>若い巡査(じゅんさ)はホッと強張(こわば)っていた肩を落としますが、もう一人の警察官(けいさつかん)は気を(ゆる)めない。が、(かたじけな)(ざむらい)は、そちらを気にせず、ふいに虚空(こくう)彷徨(さまよ)わせる。


忝: やはり、(ほたる)が出たか……。


(かたじけな)(ざむらい)がうんざりといった感じで言う視線の先に、確かに、光る粒子(りゅうし)(ただよ)っています。これは……(ほたる)と言っていましたが、もちろん違いますよね。(ほたる)の光はもっと弱々しいですからね。夜でもやっと見えるくらいなので、昼間に見えるのはおかしいです、それに虫の本体が見当たらず光だけ――ん? 光点の数が増えてきました。


年長の警察官: な、なんだ? 何が起きている?


>聞いた先は(かたじけな)(ざむらい)。そして、問われた本人は重い溜め息を吐く。


忝: 拙者(せっしゃ)も何が起きておるのかはわからぬが……何処(いずこ)かへ()ぶのは明白。


P1: ()ぶ?……空間(くうかん)転移(てんい)か?


>なるほど! 確かに、光点は(かたじけな)(ざむらい)を取り巻くようにフワフワと(ただよ)っています。これはいわゆるワープ前の反応なのでしょうか?


忝: ほほう。今様(いまよう)では、そう呼ぶのでごさるか。


P1: いや、呼ばない。空間(くうかん)転移(てんい)実現(じつげん)していない技術(ぎじゅつ)だ。おそらくは、君の言うところの月の民の技術(ぎじゅつ)


忝: やはり、光竹(ひかりだけ)妖術(ようじゅつ)であったか。


年長の警察官: いや、ちょっと待て。(のが)すわけにはいかない。


警棒(けいぼう)を持っていない手に、新たに取り出したのは手錠(てじょう)だ。


忝: 手枷(てかせ)か。無駄(むだ)とは思うが、気の済むようにやってみよ。


(かたじけな)(ざむらい)が右手を出すが、年長の警察官はその手に鉄の輪を()めるのを躊躇(ためら)った。その理由は、行動をはじめとする再開した時の発言から(うかが)い知れる。


年長の警察官: 公務(こうむ)執行(しっこう)妨害(ぼうがい)容疑(ようぎ)逮捕(たいほ)する。


手錠(てじょう)を掛けるには正当な理由がいるんですね。銃刀法(じゅうとうほう)違反(いはん)容疑(ようぎ)直接的(ちょくせつてき)だと思いますが、先ほど「銃刀法(じゅうとうほう)違反(いはん)のレベルを超えている」と言っていたから、取りあえず公務執行(こうむしっこう)妨害(ぼうがい)処理(しょり)したのでしょう。

>年長の警察官はもう片方の輪を自分の手首に掛けて、(かたじけな)(ざむらい)(つなが)る。これに、(あわ)てたのは若い警察官(けいさつかん)だ。


若い警察官: え! もしかして、これって延則(のべのり)さんもワープしちゃいません?


>年長の警察官(けいさつかん)覚悟(かくご)の上の行動だったようだ。改めて(おどろ)いた様子は示さなかった。


年長の警察官: その時は、報告(ほうこく)(たの)んだぞ。


若い警察官: え! ちょっと、それは……待ってください――


>あたふたする警察官(けいさつかん)とは対照的(たいしょうてき)に、(かたじけな)(ざむらい)は静かにパンツイッチョマンに語りかける。


忝: 南蛮(なんばん)(ふんどし)御仁(ごじん)(たの)みがあるのだが……


P1: 何だ?


忝: もし、()んだ先で拙者(せっしゃ)を見かけたなら、また水を一杯(いっぱい)(たの)む。()ぶと、とにかく(のど)(かわ)くのでござる。


P1: うむ。一杯(いっぱい)ではなく三杯(さんばい)になりそうだが、遠慮(えんりょ)は無用だ。


忝: で、あるな。


(かたじけな)(ざむらい)微笑(ほほえ)んだ。光の乱舞(らんぶ)(はげ)しくなり、外からでは、もう(かたじけな)(ざむらい)姿(すがた)(かす)んで見える。ほどなく、光の爆発(ばくはつ)が起き、数秒後、辺りが再び見えるようになると、(あん)(じょう)(かたじけな)(ざむらい)のもう姿(すがた)はなかった。残された光の粒子(りゅうし)が二三、打ち上げ花火の火花のように糸を引いて消えた。


若い警察官:あ。


>若い警察官(けいさつかん)が見る先には、(つな)がる先に誰もいない手錠(てじょう)を片手に付けた年長の警察官(けいさつかん)がいた。彼は、若い警察官(けいさつかん)(うなず)いた後、パンツイッチョマンを見る。しばし見つめあう二人。互いの行動を(うかが)っているのかもしれないが、その間もサイレンの音は近付いてくる。


年長の警察官: そちらの市民の方は、そのままでよろしいのですか?


>パンツイッチョマンは数秒(だま)った後、小さく頭を下げると、背を向け走り――いや、もういつものように疾走(しっそう)できないようですね。一応、走ってはいますが、わりと普通の速さです。そのまま、(やぶ)の中へと消えていく。


年長の警察官: 諏訪(すわ)


>パンツイッチョマンの消えた先を見つめながら、同僚(どうりょう)に話しかける。


年長の警察官: パンツイッチョマン、(つか)まえられねえ理由、よくわかるな。


>若い警察官(けいさつかん)もまだ()れる(やぶ)を見つめて応じる。


若い警察官: ですよね。あそこまでされると、ワッパ掛けられないですよね。……でも、どうします? 応援(おうえん)が来ましたけれど、証拠(しょうこ)ってあれくらいですよね?


>若い警察官(けいさつかん)(こわ)れた軽自動車を指差した。


年長の警察官: どうするって、正直に言うしかねえだろう。ま、パンツイッチョマンは勝手に逃げたことにしておくか。


>年長の警察官(けいさつかん)は、大破(たいは)した軽自動車から、堤防(ていぼう)の上からスロープを下りて来るパトカーへと目を向けると、帽子(ぼうし)(かぶ)り直した。



>こうして、前回最勝寺先生が「あと少しだけだから」と言っていた事件は、やっぱりいつもとほぼ同じ分量まで(ふく)らんで終わった。はい、皆さんもご一緒に言いましょう。「うん、知っていた」

>では、次回予告――え? まだワンシーンある? だけど、もう放送時間は過ぎていますが……はい、延長(えんちょう)ですね。というわけで、もう少しだけ、お付き合いください。




>時間は少し(さかのぼ)って、(かたじけな)(ざむらい)が鉄の(いのしし)(ちり)()えた直後。(はな)れた堤防(ていぼう)の上で、その様子を見守っている人がいた。銀子先生だ。


お銀: あ、叔父(おじ)さん。もう、花鳥風月(かちょうふうげつ)さんは必要ありません。


征十郎: ん?


お銀: 良くわかりませんが、パンツイッチョマンさん? ……ううん、パンツイッチョマンさんのお知り合いのお(さむらい)さんが暴走車(ぼうそうしゃ)を片付けてしまいました。


征十郎: ……事件は終結(しゅうけつ)したのか?


お銀: はい。そのようです。……お騒がせして申しわけありませんでした。


征十郎: ふむ。……緊急度(きんきゅうど)の高い危険(きけん)だったのは確かなのだな?


お銀: はい。


征十郎: なら、(かま)わぬ。後で報告書(ほうこくしょ)を送ってくれ。


お銀: はい。わかりました。それでは失礼します。


>電話を切ると、銀子先生はその場でへたりこむ。スマートフォンを胸に()くと、ほっと息を()く。


お銀: 良かった。パンツイッチョマンさんが無事で。


正確(せいかく)には、かなりの深手(ふかで)()っているので、決して無事ではなかったが、殺されていたかどうかという基準(きじゅん)からすると無事と(ひょう)しても、間違っているとは言い(がた)い。

>銀子先生の横に、ふわふわ保育士さんが立つと、パンツイッチョマンたちがいる方向を指差す。


女性保育士: ねえ、銀子先生。やっぱり、あれって後片付けした方がいいかなぁ?


>示した物は、広げたままのピクニックシートやお昼ご飯の残りだ。緊張感(きんちょうかん)のない質問に、銀子先生は脱力したように肩を落としたが、顔には笑顔が戻る。


お銀: そうですね。もう大丈夫でしょうから、(もど)りましょう。


>しかし、銀子先生の期待(きたい)とは裏腹(うらはら)に「パンツイッチョマンさん! 死ぬかと思いました!!」の抱きつきが発生する前に、パンツイッチョマンはその場を去ってしまうのであった。



苔石(こけいし)銀行の東京支店――正確(せいかく)にはもう少し詳細(しょうさい)な地名が付きますが、その地元の方の迷惑(めいわく)にならないよう()せておきます。――では、養老(ようろう)征十郎(せいじゅうろう)支店長が、難しい顔をしていた。どちらかというといつも難しい顔をしているので、(はた)から見ていた人がいたとしても、その心の内は読みづらかっただろう。銀子先生と(つな)がっていたスマートフォンを机に置くと、固定電話に手を伸ばす。


征十郎: 今、いいか? ……先程の件、クローズだ。(すで)に複数の連絡先に広がっていると思うが、直ちに停止を掛けてくれ。……情報が集まり次第、本件について通知する予定だが、その前に質問や苦情があるなら、直接私に回せ。……うむ。(よろ)しく(たの)む。一通り通知が終了したら、戻って続きをしよう。


>通話を終えると、征十郎(せいじゅうろう)叔父(おじ)さんは肘掛け椅子にもたれかかる。


征十郎: 銀行強盗(ごうとう)護送車(ごそうしゃ)襲撃(しゅうげき)の次は、テレポートする暴走車(ぼうそうしゃ)か……。確かに、ヒーローに動いてもらわないといけない事態(じたい)のようだな。



>えーと、ポロっと物騒(ぶっそう)な事件についての情報(じょうほう)(こぼ)れましたが、さすがにもう追跡(ついせき)すると時間オーバーがひどくなるので、無視しましょう。

>では、次回はどうなるのか? パンツイッチョマン、まともに活動できるのでしょうか? 突然、休載(きゅうさい)とかしないでくださいね。パンツイッチョマンの大怪我(おおけが)は最勝寺先生とは関係ありませんから!




<次回予告>

深手を負った 半裸の英雄

次なる舞台は いずこなりや

あれやこれやの 何かが起きる!


次回、パンツイッチョマン弐、…………

パンツ洗って、待っときな!!

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