表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/51

参上! かたじけない侍 1

タイトルにルビ打ちができない仕様なので、「かたじけない」の部分はひらがなにしています。

ナレーター(以降、「>」と表す。): 枚鴨(まいがも)市を流れる遊鳥川(ゆうちょうがわ)堤防(ていぼう)に、一人の男が立っていた。真っ昼間からボーッと、というか、どことなく偉そうに立つその男は、これから川でひと泳ぎするのではないか、という格好(かっこう)をしていた。ただし、はいているのは水着ではない。……はい。「え! 初っ端(しょっぱな)から?」と(おどろ)かれている視聴者のご想像のとおり、はいているのは黒パンツだ。素材は……よくわからないが、銀子先生が放映時間外に言っていた表現を借りるなら「トュルットュルで気持ち良さそう」という素材です。……あ、触り心地のことですよ、たぶん。……って、この発言も結局のところ、パンツの素材についてよくわかっていない勝手な想像に基づく感想でしたね。ま、まあ、ヒーローには(なぞ)が多いものなのだ。

>視聴者の方にはもうどういう姿勢なのか説明不要となったフロントラットスプレッド風のポーズをとり、黒パンツの男は自然公園と化している河川敷(かせんじき)を見下ろしていた。そこでは、主に幼児が遊んでいた。親子連れだけでなく、保育園からと思われる集団もいた。健康増進のためと思われる、歩き、走り、自転車の移動をしている人たちもいる。平日の昼間なので、運動(エクササイズ)勢にはお年寄りが多い。

>というか、じゃあ、黒パンツの男のお仕事は大丈夫のかな? と思っちゃいますね。平日お休みのお仕事なのか、ある程度自分で時間を自由にできるお仕事なのか、それとも働かなくてもよいほどのお金待ちなのか? ……いや、お金持ちって逆に、忙しくしていますよね。結果、さらに資産が増える、というか、むしろ(さかのぼ)って、そういう人たちだからお金持ちになれる、という方が正しいのかな。観察する限り、黒パンツの男はヒーロー業でお金を(かせ)いでいないと思いますが……あ、思いついちゃった! 実は、あの職業ヒーローの花鳥風月(かちょうふうげつ)が、「人助けをして謝礼(しゃれい)(もら)うなんて(きたな)い」という批判(ひはん)をされている一方で、別人として無償(むしょう)のヒーローを……いや、やっぱり雰囲気(ふんいき)がかなり違いますね。あと体格も。向こうの半裸は見たことがありませんが、たぶん細マッチョでしょう。こっちはマッチョですからね。なお、パンツ筋肉(マッチョ)マンは、太マッチョです。あ、最後のパンツ筋肉(マッチョ)マン情報は不要ですか?


パンツ筋肉(マッチョ)マン: フン!


>今のは別に、パンツ筋肉(マッチョ)マンが通り掛かったわけではなく、過去映像からパンツ筋肉(マッチョ)マンの決めポーズ、サイドチェストをした時の再掲(さいけい)でした。……パンツ筋肉(マッチョ)マン情報よりもっと不要でしたか。やっぱり。


>さて、日常と言えば、枚鴨(まいがも)市の日常もかなり(ゆが)んできています。放映前に、当然現場の状況を確認するんですが、その時、サイクリング用の身体にフィットするスーツを身にまとった男の人が、自転車を()ぎながら「おう!」と知り合いに出会ったかのように声を掛け、黒パンツの男もそちらに振り返り、偉そうなポーズのまま(うなず)き返すという場面があったのです。もう、枚鴨(まいがも)市民にとっての日常になっちゃっているじゃん!

>しかも、堤防土手の上での往来(おうらい)挨拶(あいさつ)って、昭和の青春ドラマかよっ!

>でも考えてみたら、アニメでは平成以降もこの場所(ロケ)は使われていますね。昭和アニメではなかった、とまでは言い切りませんが、あまり印象にありません。もしかすると、「光」の表現力が向上したのが原因かもしれませんね。しかし、その技術向上がピカピカの別の問題を生み出すわけですが……。って、当番組には関係なかったですね!

>もしかしたら、自転車で挨拶(あいさつ)した人は、パンツイッ――じゃなくて、黒パンツの男が装着していたバイザーが、自分が着けている物に似ていたから、「休憩中(きゅうけいちゅう)の同好の士かな」と思ったのかも知れませんね。

>「いやいや、半裸の男相手にその間違えはないだろう」と思われるかも知れませんが、認識能力に欠陥(けっかん)が認められるゴツゴウ・ユニバースの人達はそれがあり得るかもしれません。何にせよ、問題があるのは間違いありません。そんな問題だらけの番組を視聴されている皆さんは、きっと広い心の持ち主なのでしょう。いつもありがとうございます。


>と、ペタペタと土手を下りだしたパンツの男。どこか目指す場所があるようだ。なお、芝生に達すれば、ペタペタという足音はなくなる。少し(さみ)しいですね。

>目指す向こう側には、股下(またした)からへそのあたりまでの高さの草が広がっている。一部は色を変え始めていた。一年生の草木は、冬には枯れる定めだ。朝夕は肌寒くなっている季節だが、パンツの男が鳥肌になっていないことから、昼間、日に当たっていると半裸でもまだ暖かいのでしょう。

>……いや、実際に試した事はないからよくわかりません。皆さんも「今日は陽気だから、半袖(はんそで)でも過ごせるね」と話すことはあると思うが、「~(前略)~半裸(はんら)でも過ごせるね」とは話さないでしょう。言葉にすらしないのだから、当然実践(じっせん)した経験もないと思われる。

>だけど、帰宅すればほとんど裸で過ごす、という半裸族は現代社会の陰で密かに存在する。もう一枚上手の、というかもう一枚少ない、「帰宅したら、(もっぱ)全裸(まっぱ)」という全裸族も実在する。いや、ホント、ノーベル文学賞候補と言われている大作家のエッセイで書かれていたんですもの。私は信用無くても、そっちは信用ありますよね。

>我ながら、変化の少ない場面において、とにかく(しゃべ)りまくって間を(つな)ぐのは上手いと思います。ええ、自画自賛(じがじさん)です。


>黒パンツが近づいたのは、一本の木。その根元に、一人の男が(みき)を背に座り込んでいた。長い髪の毛を後ろに引っ詰め、傷んだ着物をまとっていた。着物は一部が()り切れているだけでなく、汚れている。遠慮(えんりょ)なく言わせていただくと、臭そうな外見だ。音声多重(おんせいたじゅう)(中略)活劇(かつげき)は、迫力ある飛び出す映像ですが、臭覚はお届けしていません。五感全てを刺激(しげき)しないという仕様は、こういう場面ではプラスになりますね。……あ、熟練(じゅくれん)者の方の中には「臭いも再現できるぜ!」という方もおられるようです。……やりすぎはよくない、という例ですね。

>しかし、他の作品ではあまりフォーカスされない臭さ(・・)が度々登場しますね。花見の時の黒牛さん、パンツ一緒(いっしょ)マン、今回で三人目ですよ。社会が見て見ぬを振りをする側面へ鋭く切り込む最勝寺先生! うーん、そんなに(こころざし)が高そうには見えないのですがねぇ。

>ともかく、着物の人と外見を一部描写しただけでもう、想像がついていると思いますが、もう一つコアとなるべきアイテムをお伝えしましょう。この着物の男は、刀を肩にもたれかけるようにして抱えていたのです。

>これって、タイトルの『(かたじけな)(ざむらい)』でしょうね! ……しかし、大丈夫なのでしょうか? 貧しさに対する社会への指摘だけでなく、冒頭からパンツの男が登場しています。そして、次のシーンではタイトルの回収。グダグダ脱線が特徴の最勝寺先生とは思えない展開です。もしかして、今回は別人が書いているのでしょうか!? ……あ、私の喋り方はいつもどおりだから、「きっと最勝寺だろう」って読みですか。お客さん、鋭いですね!


黒パンツの男: もしかして、助け(・・)を呼んだのは君か?


>黒パンツの男の呼び掛けに、木にもたれ掛かって寝ているのではないかと思えた着物の男が顔を上げる。先ほど、髪を後ろに引っ詰めたと表現しましたが、(たば)(そこ)ねた前髪が幾らかあり、それを(すだれ)のように透かして、弱々しい目が黒パンツの男を見上げる。


着物の男: み、水を……


>かすれた小さな声。深刻にのどが渇いているのは間違えなさそうだ。黒パンツの男はフロントラットスプレッドから、両腕を胸の前に組むポーズへ変えた。


黒パンツの男: ふむ。その要求には応えたいところだが、見かけのとおり、私は水筒(すいとう)もペットボトルも持っていない。買って来ようにも持ち合わせが――


>確かに携帯(けいたい)している所持品は皆無(かいむ)ですね。しかし、たまに見る逃走――じゃ悪者みたいですね。だから――立ち去り際に、唐草模様(からくさもよう)風呂敷(ふろしき)を持っているところから考えるに、所有物は近くに隠されている可能性が高そうだが……、お財布は携帯(けいたい)していないのかな? ……もしかして、この黒パンツの男も黒牛さん側の人で、その手の人の登場が多いのは、類は友を呼ぶ状態なのでしょうか……。

>あ、気になって止めてしまいましたが、黒パンツの男の発言は着物の男に(さえぎ)られる。


着物の男: ――川がある。


>着物の男が指さす方向には確かに、遊鳥川(ゆうちょうがわ)があるが……。


黒パンツの男: しかし、川の水をそのまま飲んで大丈夫なのかね?


>着物の男は、言われた内容が理解できないように、首を(かし)げ、(まゆ)をひそめた。そして、数秒後、何かに思い当たったように、ハッと目を見開く。


着物の男: もしや、川の水も……(ぜに)()るのか?


黒パンツの男: いや、無料だ。……まあ、気にしないなら構わぬが……何か器がないとな。両手に(すく)うのでは、そばに川があるとは言え、ここまで戻る時には()めとれるほどしか残るまい。


>銀子先生なら黒パンツの男に対して「だったら、口移しでお願いします」と要望しそうだが、幸い着物の男は(そで)から、(ふち)の欠けた木製の茶碗(ちゃわん)を取り出し、突き出す。


着物の男: これで……頼む。


黒パンツの男: うむ。心得た。


>黒パンツの男は、(わん)を受け取ると、走り出す。運動能力は極めて高い。風のように去ると、見えなくなった。着物の男は力尽きたように、がっくりと頭を垂れて丸くなる。が、その姿勢(しせい)が苦しかったのだろう。ほどなく、先ほどの木にもたれる体勢に戻る。

>戻ると言えば、黒パンツの男の帰還は、飛び出していった勢いから予想していたよりも遅かった。……あ、それはそうですね。帰りも疾走(しっそう)していたら、(わん)に溜めた水が(こぼ)れちゃいますからね。だからと言って、「のどが渇いているからたくさん運んであげよう」とタプタプの器から水を(こぼ)さないよう、ゆっくり慎重(しんちょう)に歩いて帰るのも、「は、早く水を……」という要望に答えていないため良くありません。

>この運ぶ水の量を適切にするのはなかなか難しく、数学界では「最短経路問題」と並ぶ「運び水問題」として――あ、私は詳しく知りません。最勝寺先生から次の放映時に触れるべき内容として幾つかキーワードが提示されているんですが、その『最勝寺メモ』に「運び水問題」と書いていたので、テキトーにこじつけただけです。課題を一つこなしたので、話を進めましょう。

>黒パンツの男から渡された(わん)を一気にあおる着物の男。こういう場面で、口の(はし)から水が(あふ)れて流れる、というのはもはやお約束ですが、実際にはどうなんですかねぇ? 私はそういう映像作品を見ていると、一応業界人なので「演出として映えるからな」という理解はありながらも、「あぁ、水がもったいない」と思っちゃいます。しかし、こうしてつぶさに着物の男の様子を見ていると、「のどの渇きが圧倒して、もったいない気持ちが吹き飛んでいるのかな」という考えも浮かびますね。

>と言っている間に、着物の男は飲み終わり、口元を(ぬぐ)ってから、その()れた手を()めとります。……やっぱり、水がもったいないみたいですね。


着物の男: (かたじけな)い。


>おっと! やっぱり出ました。これで『(かたじけな)(ざむらい)』のタイトル、完全回収です!

>当の(かたじけな)(ざむらい)は、ばつが悪いように、目を合わせず小さく頭を下げると――おっと、まさかの、というか(かたじけな)(ざむらい)の喉カラカラ状態だったならやっぱりというべきなのか、お代わりの要求です! (から)になった(わん)を黒パンツの男へ突き出す。パンツの男は、躊躇(ためら)わずそれを受け取ると、また疾風(はやて)のように駆けていく。この人、行動そのものは素早いですね。良い表現と(とら)えられがちな即断即決(そくだんそっけつ)ですが、ミスをしやすいリスクをはらんでいます。行動のミスではなく、判断のミスです。具体的には、スラップは命中してもスラップする相手を間違う、という例が挙げられます。そもそも、スラップが必要だったのか、というレベルの過ちですね。なので、黒パンツの男……いや、この流れだったらパンツイッチョマンでいいのか。この黒パンツの男がパンツイッチョマンというわけではなく、パンツイッチョマンという存在に対する議論ですからね。

>えーと、なのでパンツイッチョマンに(あこが)れている子供たちは、そのあたり気をつけてくださいね。……というか、そもそも(あこが)れる相手を間違っていないか、もう一度考えてくださいね。


>はい。また、黒パンツの男が戻ってきました。同じく一気飲みする着物の男、というか、さっき「(かたじけな)い」って言っていたから、こっちはもう(かたじけな)(ざむらい)でいいですかね? やっぱり、また口の(はし)から水が垂れているのですが、今回の場合は「水源が近いから、(こぼ)してももったいなくない」という状況でしたね。皆さんが、砂漠でカラカラに干上がり掛けた時に水を入手できたら、お約束だからと水を(こぼ)して飲まないようにしましょうね。……で、あ、またお代わりですね。

>こうして、川の水が運ばれる事、三度(みたび)。三度の飲み、といえば石田三成の逸話(いつわ)とされる『三杯の茶』が有名ですね。詳しく語ると長くなるので、気になる人は「Web(ウェブ)で検索!」してもらって、要点をお伝えしますと、三杯連続で要求されたのに対して、飲み手の状態を推し計り、同一の三杯ではなく、質と量を変えて対応した、というお話です。

>一方で、我らがパンツ――じゃなかったですね。早く名乗ってほしいですね。黒パンツの男の『三杯の川の水』に違いはなさそうだ。まあ、変えるとしても量だけで、温度は変えようないのだから仕方がない。変えることが可能な量も、とりあえず運びやすい量での最大という選択をしておけば、受け手が「ちょっと多すぎ」と思ったところで、飲まなければいいだけなので、運び手が先に判断してしまう必要は――というかむしろ、判断してしまうべきではない。

>余裕が出てきて、ゆっくり飲めるようになった(かたじけな)(ざむらい)が、器から黒パンツの男へと顔を上げる。


着物の男(こちらも以降は「忝」と表す): この川の水、なかなか美味(おい)しいな。なんという川でありましょう?


黒パンツの男: 遊鳥川(ゆうちょうがわ)だ。


忝: ほう。さぞかし悠々(ゆうゆう)と流れる長い大河で――


黒パンツの男: いや、遊ぶ鳥と書く。一級河川ではあるが大河というイメージには合わないかな。


忝: ほほう。いずれにせよ、他の川で飲む水と比べて、随分(ずいぶん)美味(おい)しく感じた。


>薄々そうではないかと感じていましたが、(かたじけな)(ざむらい)は日常的に川の水を飲んでいるみたいですね。


黒パンツの男: それは、もしかしたら、(よど)みがちな岸近くとは違い、流れの速い中程の水であるから、新鮮(しんせん)なのかも知れないな。


>おっと、意外にも、カメラの見えない所で、石田三成相当とまでは言いませんが、黒パンツの男なりにおもてなし気遣いを見せていました! これは、普通の恰好(かっこう)の人だったら()れるからと躊躇(ちゅうちょ)してしまいがちなところ、半裸な利点でジャブジャブと入れたという要素も影響しているでしょう。細かく観察していたら、黒パンツの男の足が()れていたのに気付いたのかもしれませんが、(ぼう)女性保育士じゃあるまいし、黒パンツの男の下半身には注目していません! 足跡も芝の上じゃわからないですからね。


忝: これは、ますますもって、(かたじけな)い。


(かたじけな)(ざむらい)(わん)(ふところ)に入れると、片手を顔の前で立てて感謝を示した。


黒パンツの男: うむ。しかし、それほど渇いていたなら、水よりもアイソトニック飲料の方が吸収は良いのではないか?


(かたじけな)(ざむらい)が、(まゆ)を寄せた。


忝: は? あ、あい……愛するとは(はかな)く……


黒パンツの男: いや、それほど難解な話ではない。そうだな、簡単に言うと、少し塩気のある水の方が体に染み渡りやすいのではないか? という意味だ。


忝: なるほど。それについては、心配御無用。ただの渇きではごさらぬからな。


(かたじけな)(ざむらい)はカラカラと笑った後、ハッと気付いたように表情を変え、木にもたれていた姿勢を胡座(あぐら)に組み替え、刀をその上に横たえると、両手を(ひざ)のあたりにつく。


忝: 名乗り遅れて申し訳ない。拙者(せっしゃ)下総(しもうさ)の生まれの武士、糠塚(ぬかづか)丙衛門(へいえもん)(もう)す者。


>これに対して、黒パンツの男も偉そうに、あるいは人を小馬鹿にしているように見えるフロントラットスプレッドの構えを解き、両手を下ろし、会釈(えしゃく)で応える。


黒パンツの男: いえいえ、こちらこそ、名乗りをせず……(いささ)大仰(おおぎょう)になるが、良いかな?


>これは! ようやく来そうですね。さあ、子供たちも用意しましょう! ……あ、でも、その前に。本人も大げさだと自覚があるようですね。

(かたじけな)(ざむらい)首肯(しゅこう)を受けて、黒パンツの男の右手が天を指差す。


黒パンツの男: 飲み水なくして文明なし! 私は文明の給水人(きゅうすいにん)! パァァァンツーー


>高く上げられた右手が、稲妻のように左右に振られて下がる。


黒パンツの男: イッチョマン!


>腰を落として突き出される左手、右手は腰の高さで横に向けられている。


♯ バン! バン! ババン!


>左、右、正面の三連ズーム。


♪ チャラッチャラッチャーチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)、チャラッチャラッチャーチャチャー(デケデケドンデケデケドンデン)……


(略)


♪ パアンツー(チャッチャー)イッチョマーーン


>おお、もうテーマ曲まで流れてしまいましたね。肩の荷が下りた気分です。今回は本当にノルマ消化が早かったですねぇ。もう、このまま終わってもいいくらいです。……あ、それは言い過ぎですか? そうですね。


忝: ぱ、パン……パンといえば、あの南蛮(なんばん)のお揚げのような?


パンツイッチョマン(いつもどおり「P1」と表す): パンだけで言えばそのとおりだが、パンツはこの衣服の(いしずえ)だ。


忝: ほほう。南蛮(なんばん)(ふんどし)のことであったか。では、おぬしは南蛮人(なんばんじん)。それで変わった眼差しをしておったわけか。


P1: いや、これは眼鏡(めがね)の一種だ。ほら。


>えーー!! それ、気軽に外しちゃうんだ。あ、カメラさん、撮っちゃダメですよ。ここは、(かたじけな)(ざむらい)を映して……。期待した視聴者の方には申し訳ありませんが、当番組にはヒーローの秘密を守る義務が……っていうか、言わなきゃバレなかったかな? あ、はい。実はサングラスを外すかなと思ったら、位置を直しただけでした。うん。あ、もう掛け直した。いや、また(さわ)っただけです、はい。


忝: 顔の作りが我らと同じなのは合点がいったが、瞳の色は――


>あーー!! ノイズが。いやぁ、いつもは調整済みだから、視聴者の皆様は意識されていないですが、この異世界鑑賞万華鏡システムはなかなか繊細(せんさい)でして、ちょっと再接続までお待ちください。


忝: いやはや。申し訳ない。なにぶん、拙者(せっしゃ)天保(てんぽう)の生まれにて世情には(うと)く……


P1: ふむ。……では、貴殿(きでん)は江戸時代よりのお方で?


>世間一般的には、はっきり言っちゃって申し訳ないですが、(かたじけな)(ざむらい)オカシイ(・・・・)発言を受けて、まともに進めるパンツイッチョマン。さすが非常識な存在だけあるね。とはいえ、語っていた方の(かたじけな)(ざむらい)(おどろ)きの表情でしばし硬直する。


忝: これは仰天(ぎょうてん)かな。これまで拙者(せっしゃ)(げん)(はな)から真っ当に受け取る御仁(ごじん)はあらずれば、もしや……やや、失敬(しっけい)(おどろ)きのあまり、言葉遣いが古風に戻ってしもうた。拙者(せっしゃ)はもう、今様(いまよう)の言葉を違和感(いわかん)なく(しゃべ)られるようになったというのに。


>あ、はい。厳密(げんみつ)にはなっていませんよ。


P1: 天保(てんぽう)が西暦で何年に当たるのかは存じ上げないが、見かけによらず、かなりのご高齢にあらせられるようで。


>うん、こっちもわかっているようでわかっていないみたいですね。どうみても、(かたじけな)(ざむらい)皴々(しわしわ)のお(じい)ちゃんではないですからね。見かけがバッチイのでわかりにくいですが、まあ三十代かなあという感じです。……はい。視聴者の方が既に想像しているとおり、私もタイムスリップだと思います。


忝: 年齢でござるか……それは、実のところ、拙者(せっしゃ)もよくわからんのじゃ。何せ、昔からそろばんは苦手で。


>いや、もう忙しいな。そろばん勘定(かんじょう)の正確さは必要なくて、ざっとの年数でいっても、パンツイッチョマンの理論を受けたら、えーと二百年くらいでしょ? それだったらもう、一二歳どころか十数歳ですら誤差と言ってもいいレベルなので、「いやいや、かような年寄りではござらん」とか否定すべきです。


P1: つまり、先程の状況は、江戸時代のお(さむらい)が行き倒れていた、という事か。


忝: いやぁ。お恥ずかしながら。


>頭をボリボリと()(かたじけな)(ざむらい)。すると、もはや日本の古典というべき推理小説の名探偵よろしく、ボロボロと白い粉が……お食事中の方は申し訳ありませんでした。ええ、フケですね。

>しかし、なんというシュールな空気でしょう。本人同士は日常会話なつもりですが、半裸の男と、江戸時代からタイムスリップしてきた侍がマッチアップしているだけでもう異常でお腹がいっぱいです。ノルマを的確に果たして、今日の最勝寺先生は違うな、と思っていましたが、カオスっぷりはいつもどおりですね。いや、いつもに勝るかもしれません。


P1: だが、武士といえども所詮(しょせん)は一個人。貴殿(きでん)の危機を救えたのはむろん良かったが、文明への危害としては(いささ)かギャップがある。私が肌で感じた危機とは違うように思えるが……。


忝: ブンメイ、であるか? それは、もしや、「ざんぎり頭を叩いてみれば」という歌であろうか?


>向かい合う二人の異質な男に、微妙な沈黙が生まれる。


P1: 済まないが、何のことだかわからない。


忝: いや、拙者(せっしゃ)も、詳しくは知らぬのだ。今様(いまよう)に合わせたつもりでござったが。


>外す時は同時に外す。この二人、相性はいいのかもしれませんね。


P1: 文明という単語が江戸時代になかったのかもしれぬか。……では、世間を揺るがす大事件、と言えば伝わるかな?


忝: それは、大いに馴染みがある世相でござる。拙者(せっしゃ)は、今様人(いまようびと)の言うところの幕末から現代に至った(ゆえ)に。


>おっと、これは日本人が大好きな歴史区分の一つ、幕末からのお(さむらい)でしたか。最勝寺先生、ああ見えて、ちゃんとファンの期待するような箇所(かしょ)を攻めて……いや、だったらそもそもパンツイッチョマンみたいな存在が出てこないか。まあ、最勝寺先生についてはどうでもいいですね。幕末と言えば、新選組(しんせんぐみ)ですが、それの関係者なのでしょうか?


P1: 尊皇(そんのう)派、攘夷(じょうい)派と別れて、日本の明日を議論したという時代であったな。


忝: いや。尊皇攘夷(そんのうじょうい)で一つの派閥(はばつ)でござる。並べて語るなら、尊皇(そんのう)派と幕府(ばくふ)派、あるいは開国(かいこく)派と攘夷(じょうい)派と言うべきであるが……もしや、幕府(ばくふ)派と開国(かいこく)派という部分を略して――


P1: (いな)! わかっていないだけだ。それぞれがどういう目的かもよく知らない。そして、良く知らない事実からわかってもらえると思うが、興味(きょうみ)もない。


>え! あっさり断言しちゃっていいのでしょうか? 幕末の(さむらい)なら、それぞれの主張に基づいて命を()けて斬り合っていた人たちです。そんな人たちに、「あなたたちの活動には興味がありません」と言うと、その場で斬られかねないですよ!


忝: そうか。実のところ、拙者(せっしゃ)も良くわからぬ。


>そう言って(かたじけな)(ざむらい)はカラカラと笑った。


忝: わからぬから、それぞれの思想とやらがどういうものか、確かめるために話を聞きに行った。それでわかったのは、それについて真剣に考え行動している者は一部の者のみ。他の大勢は、拙者(せっしゃ)と同じく、時代の動乱に乗じて、どうにかして高みに登れないものかと考える、言わば不逞(ふてい)(やから)ばかりじゃった。


P1: ふむ。そうであったか。しかし、いつの世も大衆とはそのようなもの。


忝: そうやもしれぬ。じゃが、理想を掲げ、人の上に立ちながら、実のところ、私利私欲のため、理屈と配下を動かす下郎(げろう)もいた。あれは、自分たちがウツケだとわかっておる、拙者(せっしゃ)たちのような不逞(ふてい)(やから)よりも始末(しまつ)が悪い。いや、単に、拙者(せっしゃ)が気に入らなかっただけか。


(かたじけな)(ざむらい)の目が細められると、危険な光を放つ。私たちはこれに似た目つきを見たことがあります。あの養老家の『蛇睨(へびにら)み』です。しかし、『蛇睨(へびにら)み』でも銀子先生のそれより、征十郎叔父(おじ)さんの『蛇睨(へびにら)み』に近い、鋭さ迫力があります。


P1: それで?


>続きを促すパンツイッチョマンも雰囲気が変わる。体勢はまたフロントラットスプレッドに戻っていたが、いつでも()の字の構えに移行しそうな感じだ。

(かたじけな)(ざむらい)がニヤリと笑った。その笑顔もまた恐ろしい。


忝: 斬った。幕府(ばくふ)派、尊皇(そんのう)派、そんなもの拙者(せっしゃ)には関係なかった。気に入らぬ者は斬り捨て、拙者(せっしゃ)はすぐに両派から追われる身になった。


>顔を上げると、遠くを見つめる(かたじけな)(ざむらい)

>あ、これって回想シーンに入る前兆ですね。しかし、もう放送時間はありません。回想は来週に回しましょう。では、皆さま、お元気で~~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ