人生万事、塞翁が馬
>中央に映る爽やかな印象のスーツ姿の男。
男: 人生バンジー!
>男の横へと画面が移り、次に画面中央に据えられたのは明るい笑顔のスーツ姿の若い女性。
女: 最高が――
> 画面が引くと、男女の後ろには五人の男女が並んでいる。
全員: マー!!
> 声と同時に全員が片手を突き上げた。
中央の男性: さあ、今週も始まりました。ドキドキクイズショー『人生バンジー最高がマー』。今日も司会は私、冷若彰敏と――
中央の女性: ZEBアナウンサーの温界静音でお送りします。
>二人がぺこりと頭も下げると、後ろの人たちは拍手をする。
冷若(以降、『冷』と表す): 収録は、今週もZEB玄関ホールを兼ねる特設スタジオです。
|温界《おんかい》(以降、『温』と表す): そして後ろに聳えるのは、当番組の誇る二十四・三メートルのバンジータワー! 収録のない日はアミューズメント施設としてご利用できますので、皆様是非お越しください。
>女子アナがぺこりと頭下げると、後ろで抗議のような声があがり、カメラがそちらへと向けられる。
ベレー帽を被った男: いや、局のお偉いさんは「多目的イベント会場として使えるよう設計したのに、ずっとバンジーで占有されてる」ってボヤいているらしいやん!
冷: おっと、紹介前に喋り始めてしまいましたから、今日の挑戦者の紹介に移りましょう。向かって左端の、先に話してしまった方は、「幾つになっても初心忘れるべからず」肉体派芸人の山案子貴史さん!
山案子(以降、「山」と表す): そうそう。笑いの腕が上がらんから、いつまでも体を張った芸で――って、ヤマカシわ! じゃのうて、ヤカマシわ!
冷: はい。早速、持ちネタギャグの披露ありがとうございます。
温: ナントカの一つ覚えですね。
山: ちょっと! 静音ちゃん、一言多いんちゃうか?
温: 続いてはグラビア界から、鹿野キキさんです。
鹿野(以降、「鹿」と表す): はぁ~い、キキでぇす。よろしくお願いしま~す。
山: いや、この季節、グラビアの子にはしょっちゅう聞いてるんやけど、キキちゃん、その姿で寒くないの?
鹿: はい、大丈夫です! 耳はないけれど、バニーガール姿はけっこう寒くないんですよ。
山: うん、みたいやね。でも、羽織るのはアリみたいやから、肩とか寒くなったら、スタッフさんに言いや。
鹿: はい、ありがとうございます。
温: 山案子さん、下心見え見えだと好感度上がりませんよ。
山: ヤマカシわ! じゃなくてヤカマシわ! いや、でもいつも思うよね。グラビアアイドルってエラいなぁ、って。
冷: グラビア界の皆様、いつも当番組への貢献ありがとうございます。
山: そもそもはアイドル枠やってんけどな。いつの間にかグラビアアイドル独占枠になって……。やっぱ海月ちゃんの件からか?
温:でも、暁海月さん登場以前からも、男性アイドルの登場は減っていましたね。……最初は男女比半々くらいだった気がしますが。
山: ちょっとちょっと静音ちゃん、暗に、女より男の方が根性ない、とディスってない? いや、そうかもしれんけど、アイドルの男の子たちはみんな勇敢やからね。……知らんけど。
冷: 続いては、番宣枠の益子ぷらむさんです。
益子(以降、「益」と表す): よろしくお願いしま~す。益子ぷらむです。 私も一応アイドル枠に入ると、自分では思っていますが、オールシーズン薄着対応のグラビアアイドルさんはやっぱりスゴいですね。
鹿: ありがとうございます。
山: ぷらむちゃんも水着になったりはしないの?――いや、セクハラ発言とかいうつもりじゃなくて、需要だったり、経験だったり、そういうつもりで……。
益: 私はグループアイドル。しかも小劇場アイドル――一般には地下アイドルと言われますが、そこが出身なので、水着のお仕事もあったんですが、歌とダンスがメインでしたね。
山: え! そうなん? それでここまで来たって大出世やね。たくさん階段登って来たんやろなぁ。でも、今からもっと高みに行けるから、頑張ってな。
益: 高み、って、ちょっと意味が変わりますけどね。
>後ろのタワーを見上げて苦笑いをするぷらむさん。
冷: ところで、益子さんは、番宣枠の出場ですから、宣伝の方はいいのですか?
山: よそでは、「そういえば……」と繋げてくるけど、ここでは「宣伝どうぞ」と直球やからね。本当はヤらしくなりそうやけど、逆に清々しいね。
益: あ、言っていいですか?
温: はい。今のは山案子さんなりの、間持たせですから、どうぞ。
益: テレビ番組ではなく、舞台劇なんですが、『真っ直ぐ伸びる松』で、主演の王球元武さんの姉役を演じさせていただいています。「明日もがんばるぞ」と気にさせられる、笑いあり涙ありのお芝居です。全国主要都市での公演を予定していますので、皆様、是非ご来場ください。
♯ パチパチパチパチ(拍手の音)
山: バンジージャンプさせられるかもしれないから、大御所さんが来ないのはわかるけれど、そっちの現場ではどうやってこの番組に来る人決めたの? 他では、事務所同士で決めたり、中にはジャンケンで決めたとかあったけれど――
益: 私は志願です。
山: 志願って、勇気あるねぇ!! たくましいねぇ。……それって、やっぱり、あれ……
益: はい。ストーカー事件で、ちょっと吹っ切れたところがあります。だけど、あ、キキちゃんも一緒に――
>ぷらむさんとキキちゃんが顔を寄せ合うと、カメラに目線を送る。
益、鹿: 「ファンになってくれるのは嬉しいけれど、ストーカーになったらダメだぞ!」
>女性二人が唇に当てた人差し指を、カメラへと向ける。
山: ホンマ、たくましいねぇ。事件を持ちネタに変えてもうたからなぁ。
温: 実際、痴漢撲滅系のキャンペーンガールをされていますよね?
益: ええ、東京都の。
温: でも、公共機関からのお仕事はギャラ額としては――
山: コラーー!! そういうのは言っちゃダメなの! 冷さんも隣やねんから止めなさい。
冷: 私は問題発言についての対応より、進行を意識していますから。では、お待たせしました。一般出場枠からは、太鼓福郎さんです。
太鼓(以降、「太」と表す): よろしくお願いします。枚鴨市から来ました。七十二歳無職、太鼓福郎です。
♯ パチパチパチパチ(拍手の音)
山: これはまた、遠い所から――
鹿: ――ちょっと、山案子さん、枚鴨は東京都内ですよ。
山: あ、そうなん? いつもわからんところやったら「遠いところから」って言うのが決まり文句やから……。っていうか、え? 七十二歳やった? ちょっとスタッフさん、大丈夫? お年寄りにバンジーさせたら、落ちるどころかアッチに逝ってしまわへん?
冷: いつものように、当番組は医療スタッフを配備していますので、もしもの時にも安全です。
山: いやいや、何かが起きてからの事やのうて、そもそも、もしもが起きたらアカンやつやん。お蔵入りになるで。
温: 現に、視聴者の皆様が知らないだけで、何回かお蔵入りになった収録はありましたね。
冷: しかし、タレントさんや事務所の都合上、放送を見合わせただけで、犯罪的な行為が行われた訳ではありませんので、その点はご安心ください。
山: いや、俺らからすると努力の成果が表に出ないのが問題やねん。
温: 未公開分もギャラは変わらず払われているはずですが?
山: ギャラの問題じゃなく、やる気の問題。せっかくウケたのに――
温: ――その点については、未公開分の収録でも、山案子さんの笑いは、いつもと同じそこそこだったのでご安心ください。
冷: ご安心ください。
山: アカン、この二人に言っても無駄や。……おじいちゃんも、なんでこんな危ない番組に来たん!?
太:……今回、ぷらむさんがゲスト出演されると聞いて応募しました。
益: あ、もしかして太鼓さん、私のファンですか?
太: はい。こんなに間近で会えて感激です。
♯ パチパチパチパチ(拍手の音)
山: えー、ぷらむちゃんって老人まで人気あるんや? いや、おじいちゃんの方が若い子の文化に興味あったんかな?
太: いや、実は、何と言うんですか? 俄か? ええ、ニワカファンです。
>太鼓さんと握手していたぷらむちゃんがちょっとよろめく。
益: いやいや、ニワカでも関係ないですよ。ファンは大切です!
山: ずっこけてからじゃ説得力ないけど、俺たちは人気商売。うん、ファンは大切やね? でも、どうして? テレビで見た益子ぷらむちゃんが好みのタイプやったん?
太: いや、そういうわけでは……。私はどちらかというともっとグラマラスな……
>またよろめくぷらむちゃん。
山: いや、今度はそれでええで、ぷらむちゃん。でも、だったら余計に、何でなん?
太: 私は興味なかったんですが、町内会から回ってきたコンサートチケットが――
山: うん、そこは言わんで良かったで、おじいちゃん。イベント運営側が空席でるよりかは、とチケットを格安とか無料でバラまく事があるって話は聞くけど、アーティストの方はそれを聞かされても――
益: 大丈夫です! どんな理由でも、会場に来られたらお客様ですから。
太: 本当にそうなんですよ! 私も『最近の若い子の音楽を』と深く考えずに行っただけなのに、もう……元気いっぱいな姿に感動して……
山: ちょっと、おじいちゃん! 思い出して涙目になってるやん!
益: ありがとうございます! これからも……頑張ります!
山: ちょっと、ぷらむちゃんも涙声……って、キキちゃんまでもらい泣きしてるやん! でも、こんな事ある? 興味ない人がぷらむちゃんのパフォーマンス見て、ファンになったって事やろ? スゴいやん!
太: しかも、その時のぷらむさん……暴漢に襲われた……
山: 頑張って、おじいちゃん! 泣いたらアカン! ……え? もしかして、おじいちゃんが行った日って、ぷらむちゃんがストーカー事件に遭った日やったん?
鹿: そういえば、あの事件、枚鴨市だった気がする。じゃあ、ぷらむさんは、おじいちゃんが枚鴨出身と聞いた時に、事件の事を思い出したんじゃ……。
益: うん。……でも、大丈夫。助けてくれた人に勇気をもらったから。
太: え? もしかして、助けた人は……
>太鼓さんが、自分の腰のあたりで、両手の親指と人差し指と大きな逆三角形を作り出す。それを見て、目を見開いたぷらむさんは、返事とばかりに目の前で同じように親指と人差し指で横向きの長方形を作り出す。まるで、パンツとバイザーを示すジェスチャーだ。
山: ん? 何それ? 何かのサイン?
益: い、いえ。……ヒーローってスゴいなぁ、って話です。
山: いや、ヒーロー言うよりヒロインやろ。そら、事件後にもライブしたいう話は聞いてたけど、動揺してたはずやろうから、言ったら悪いけど、ハズレ回やったんちゃうかな、思っててん。
太: 全く。大迫力でした。
山: 素晴らしい!!
♯ パチパチパチパチ(拍手の音。山案子一人だったのが大きくなる)
山: ファンでもない人をガッチリ掴むだけじゃなくて、それが逆境の中でやってたなんて……いや、これ俺も感動するわ。……あれ? この番組って、こんな感じやったっけ?
温: 違います。クイズ番組です。
冷: では、大変お待たせしました。最後のクイズ王枠は、お笑いコンビ「ハッスルマッスル」の御涙兆大さんです。
御涙(おなみだ。以降、「涙」と表す):♪ハッスル~マッスル~、の御涙で~す。
>右向き左向きに素早く駆け出すようなポーズを見せた後、人差し指を折り曲げて少しだけとび出させた拳を目元でグリグリするジェスチャー。
涙: ――って、長い!! ここに来るまで、どれだけ尺取ってるんですか! 僕も参加したかったのに、紹介が未だだから、グッと堪えて待ってたんですよ。
山: 紹介なんか待ってたらアカンで。この業界、ガンガン前に出て行かんと。
涙: それは、山案子さんがレギュラーだからできるんですよ。僕なんか準レギュラーなんで、冷若さんの機嫌を損ねたら、次の出番がないかもしれないんですよ。
>ニコリと笑う冷若。
冷: 紹介される前に話し出すのは、マナー違反ですね。
涙: ほら! 目が笑っていないでしょ。……あ、太鼓さんはいいんですよ。長話をしたと怒っていませんから。素敵なエピソードありがとうございます。関連して、益子さんもいいんです。キキちゃんも、肩を出してくれて、ありがとう。悪いのは全部お前じゃ! 山案子!
山: おいおい、事務所は違うけど、お笑いの先輩やで。呼び捨てはないやろ。
涙: だったら、なぜ、その先輩は、こっちで後輩が「巻きで」と手を振っていたのに無視したんですか!
山: それは、スマン! ……いや、本音を言うと、バンジータワー上るの怖いねん。それを少しでも先延ばししたいって気が、俺を普段以上に饒舌にさせるねん。
涙: 怖いって……何年やってるんですか?
温: 六年です。当番組は七年目に入っています。
冷: いつも御視聴ありがとうございます。
>カメラに向かって頭を下げる司会の二人。
涙: 七年もやってたら、慣れろ!
山: いや、涙。それが違うねん。本当に怖いもんは慣れずに、恐怖が増大していくもんやねんで。お前やって、何回か体験してるから分かるやろ。
涙: 怖くても、それが仕事でしょ。
山: そやそや。だからな、もう告白するけど、俺は万が一があっても良いよう、実は大人用紙オムツ付けてるねん。
>突然の告白に、周囲が驚いて――というか引いていると、突然、太鼓さんが手を挙げる。
山: え!? おじいちゃんも? ……素晴らしい。前言撤回します。もう十分準備できています。スタッフさん、心配御無用です。
>プツリと画面が切れるように切り替わり、温界アナが中央に映る。
温: 今の山案子さんの発言は完全にセクハラ発言として編集対象ですね。
山: あ、やってもうた? 思わず口が滑ってもうて。ごめんなぁ。
鹿: 私たちは、慣れているから平気ですけど――
>キキちゃんが隣にいるぷらむさんへと顔を向ける。
益: ええ。でも、コンプラ的にはNGです!
山: ノー! グー!
>大袈裟に、両手を腰の高さで左と右へ振り、顔は手と関連させて逆向きに動かす山案子。
冷: はい、もう良いですか? では、それぞれタワーへ向かってください。
涙: え? もう最初のフリートーク終わり? 僕はほとんど喋られていませんが。
温: 尺は十分です。もし、これ以上話された場合、新たに話される内容か、これまで話した内容のいずれかがカットされると思いますが、それでも発言したいですか?
山: お前、止めろよ! 俺の映りが減るから、俺は協力せえへんからな。
冷: はい。では、解答者の方たちが準備をされている間、当番組のシステムについてご説明しましょう。
温: 当番組では、様々な分野の知識を求められる問題だけでなく、ひらめきを必要とする問題もお出しします。幅広い知識と、柔軟な発想が勝利に近づきます。
冷: 見方を変えると、幅広い知識はなくとも、特定の分野に対する深い造詣と、ここ一番の閃きがあれば、一位を穫る事も不可能ではありません。逆転を引き寄せる仕組みも幾つかございます。
温: 出題形式は、おなじみの早押しだけでなく、記述式も含まれます。
冷: そう。反射神経が圧倒的な差を生まないので、若い人が有利というわけではないですよ。
温: ただし、記述式問題で空白回答、あるいはそれと同等な回答をしたと見なされた場合は、現在のポイントが半減するというペナルティーが与えられますのでご注意ください。
冷: テレビ番組として、ノーリアクションはノーグッドですね。意味不明な記号や文字の羅列も有効回答と認められませんので、慌てず、しかし確実に回答をお願いします。
温: 全ての出題が終了した時点で、獲得ポイントがトップの解答者は、ポイント倍増を賭けてのバンジーチャンスが与えられます。
冷: バンジーチャンスのルールは、番組タイトルのとおり、落下した解答者がゴムの力で跳ね戻った最高点で「マー!」と叫ぶこと。それだけです! ただし、三つの注意点があります。
温: 一つ目は、バンジースタートから最初に発した言葉が「マー」以外であった場合、バンジーチャンスは失敗となります。
冷: 怖くても悲鳴は厳禁! でも、その悲鳴が「マー」なら問題ありません。
温: 第二の注意点は、落下スタートから跳ね返り、初めに通過する最高点でのみ、マー判定がなされます。
冷: 何度も行ったり来たりした後で落ち着いた後の「マー」は無効です。
温: 第三の注意点は、「マー」と発して良いのは、最初の一往復の半分から上に相当する、マーセーフゾーンだけになります。
冷: 落ちると同時、あるいは落ちる前から「マー」と叫び続けるのは無効となります。ちゃんとタイミングを見定めてマーシャウトしてください。大丈夫。最高点ぴったりでなく、半分から上なのでだいたい合っていたらオーケーですよ。
温: クイズ正解者に与えられるポイントは、番組終了時に、一ポイントあたり五千円の賞金として換算されます。既に話したとおり、バンジーチャレンジに成功したチャンピオンは賞金二倍となります。
冷: これも再度の説明になりますが、バンジーチャレンジに失敗すればポイントは半減。賞金も半減となります。
温: せっかくバンジータワーに上っていただいた解答者の方のうち、一人しかバンジージャンプができない、というのは申し訳ないので、追加要素としてバンジージャンプができる権利が途中で付与されます。
冷: 通称「バンジーボム」! これを独り占めするのも押しつけあうのも自由。途中で爆発させて、相手を動揺させるという手段としても使えます。ただし、最後まで爆発しなかった場合は、チャンピオンのバンジーチャレンジの前に強制的に爆発します。
温: バンジーボムによる落下でも、マーチャレンジに挑むことになります。成功すれば、獲得ポイントとは別に、十万円の賞金が確定します。しかし、失敗すれば、獲得ポイントへの影響がないのは同じですが、追加の十万円報酬は全て消え去ります。
冷: チャンピオン報酬もバンジーボム報酬も欲しいと考える欲張りさんには朗報。二連続のバンジーチャレンジになった場合は、一度の試行が二回分と見なされます。成功二つか失敗二つ。二つに一つ!
温: それ以外の詳しいルールについては随時お伝えします。
冷: そろそろ、解答者のみなさんの準備が整ったようです。山案子さん、どうですか?
山: いっつもここから色んな事ツッコませてもらってるけれど、今日はこれにしよか。「そろそろ整った」とか言うてるけど、本当は結構時間かかってるからね。
温: 色んなツッコミと仰っていますが、もう聞き飽きた内容ですね。
山: そら、七年? 六年? それだけの間ずっと新しいツッコミしてたら、この番組、穴だらけってことやねんから無理やろ。聞き飽きたと言うても、パターンは十くらいあるんちゃうか?
冷: 鹿野キキさんはどうですか?
山: って、こっちの返しは無視かい!
鹿: あ、私、話して良かったんですか?
山: うん。そこは、キキちゃんも無視した方が良かったんやけど、まあ、いいよ。どうぞ、この高さからの景色はどうですか?
鹿: いや、思っていたより高いですねぇ。高い景色だったら、もちろんビルとかタワーとかの方が高いんだけど、もっと迫力があって――
山: そうそう。今にも落ちそうな気になるよね?
鹿: あ、そっか。……ホントに、これ大丈夫なんですか? 途中で落ちたりしないですよね?
>そういって、席を上下に揺らす鹿野キキちゃん。同時に、胸も上下に揺れ、そこにズームインするカメラ。
冷: はい、ありがとうございます。今日も、いつものサービスショットいただきました。
山: 俺、最初に海月ちゃんがこれやった時、本当に「危ないで」と心配してもうたんやけど、まさかこういう流れができるとは、ホンマ思いつかんかったわ。そもそも、テレビの前の人にはゆさゆさ見えるんやけど、俺は安全バーがじゃまで横からは見えへんしな。
鹿: 体を張って、グラビアアイドルの道を開いてくださった海月先輩には感謝です!
山: ホンマホンマ。海月ちゃんはそのままえらい勢いで階段上っていってもうて、今じゃ冠番組持つくらいやからな。俺なんかあっさり越されて、今じゃ「海月さん」いや「暁さん」言うて頭下げなアカンくらいやからなあ。
温: グラビアではないですが、同じアイドルとして、高みに上られている益子さんはどうですか?
山: それ、さっき俺が言ったネタやん。しれっとパクるなぁ……って、ぷらむちゃん、顔色悪くない? 大丈夫?
益: はい、大丈夫です。……でも、高いってのは覚悟していたのですけれど、思っていた以上むき出しで、それがちょっとショックです。
山: そうそう。テレビの前の皆さんには立派な解答席って見えているやろうけど、前の部分はハリボテみたいなもんやからね。いや、それが悪いってわけじゃなくて、バンジーする時に危ないから、簡単に除けられる造りってのはええねんで。ただ、ホンマ、俺たちにしたら、ゴムついた席に座らされているだけやから、そら最初は心細なるで。
温: 最初といえば、太鼓さんはどうでしょう?
太: …………は、はい。
山: ちょっと、おじいちゃん! 声、ちっちゃいでぇ。
太: ……はい。がんばります。
山: いや、無理せんでもええで。本当に怖かったら棄権でもええねんし。声が出えへんのやったら、それでもええからな。俺たちプロに任せとき。でもな、書かなアカン問題はちゃんと何か書きや。さもないと、爆弾抱えている時やったら爆発してしもうて、落ちることになるさかい。「あ」とかじゃ許してくれへんから……そやな、今のうちに、頭真っ白になって答えが浮かばへん時に何書くか決めとこか? ……「ぷらむ」でええんちゃう?
太: はい。「ぷらむさん」と書きます。
山: 「さん」はいらんと思うけど、まあ、ええわ。頑張ろう!
益: 太鼓さん、頑張りましょうね!
太: はい、頑張ります。
山: うん、元気出てきた。
温: では、最後の御涙さん、何かありますか?
涙: あれ? ちょっと僕には冷たくないですか?
山: 大丈夫。お前だけちゃうから、素人さん以外には基本、冷たい。一応、世間では冷温コンビって言われているけど、実態は、冷冷コンビやからな。いや、もう冷酷コンビでええやろ。
温: 山案子さん、控えてもらっていいですか? 御涙さんの話が聞けませんから。
山: ほら、冷たっ! でも、確かにちょっと黙っといた方がええかな。涙くん、どうぞ。
涙: どうぞ、と言われて話すほどの内容じゃないですけど、僕、国立大卒という事で、ありがたいことに、色んな番組でクイズを答えさせてもらっています。そうした中で、ホンモノのクイズ王の方とマッチアップさせてもらった事がありますが、正直全く歯が立ちませんでした。だから、ここはクイズ王枠という事ですけど、本当はおかしいんです!
冷: そうですね。本来、その席はもう一つの一般枠でしたが、いわゆるクイズ王の方々は参加したがらなかったので、今ではクイズのできる芸能人枠となっております。
温: 芸能人枠ではありますが、俳優の方々もあまり参加したくないようなので、現状やむなくお笑い芸人を中心に参加していただいています。
涙: その原因、わかりますよね?
冷・温: ……。
涙: 一位になったらバンジージャンプが確定するシステムのせいです! それじゃあ、「よし、頑張って一位を穫るぞ!」とはならない!
温: しかし、そのシステムこそが当番組の魅力ですから。
冷: 視聴者の皆様に受け入れられていなかったら、六年も続いていません。
> 司会の二人がまたカメラ目線でお辞儀する。
温・冷: いつも御視聴ありがとうございます。
山: 郷に入れば郷に従え、や。涙、喋ってええか?
涙: はい、どうぞ。
山: 俺ら芸人の声を、番組が聞いてくれるわけないねんから、もう自衛するしかないって。他の参加者の方も聞いてくださいね。この番組、バンジージャンプしたくないんやったら、二番手を狙うのが一番。そしたら、賞金が多くて、バンジージャンプしなくて済むからね。爆弾は下に流れやすいから、よっぽど狙うか押しつけられない限り、爆弾については心配しなくていいし。そいで、一位の人がバンジー失敗し時なんかは、最終一位になることも多いねんから。
涙: でも、山案子さんはそうやって、暁海月さんに嵌められたんでしょ?
山: ヤマカシわ! じゃなくてヤカマシわ! ……いや、ホンマあれはアカンで。でも、もう同じ手を使ってくる人はおらへんから、あれは例外。
冷: 暁海月さんの『ダイナマイト爆発』事件。巷ではそう呼ばれているそうですね。
温: 当番組は、過去放送分を都度払いで御視聴することも可能です。詳細はホームページをご確認ください。
冷: では、皆さんの心の準備も整ったところで――
山: どこがやねん!
温: クイズスタートです。
冷: 人生バンジー――
温: 最高が――
>カメラが六分割し、五つの塔の上で片手を振り上げる解答者たちが、司会の二人のフレームを囲む。
全員: 『マー!!』
>カメラがズームアウトし、液晶テレビのフレームが入ってくると、さらに引いて、リビングのソファに寝転んでテレビを鑑賞している中年男性が映る。テレビの中はコマーシャルが流れている。
男: これって、アレだろ? 中国の昔話が元なんだよな?
>中年男性が顔を向けずに話しかけているのは、一続きになっているダイニングテーブルに向かって腰掛けている中年女性。
女: ん?
>中年女性は答えながら、手元にあるタブレットから顔を上げない。彼女は魔方陣パズルを解いていた。
男: だから、……えーと、『人生万事、サイコーが馬』だっけ? 『マー!』は関係ねえよな。
女: ん? ……でも、確か、中国語では「馬」は「マー」と呼ぶんでしょ?
男: そっか。
女: うん。
男: だったら、いいか。
> って、ちっとも良くなぁい!! 番組内の御涙兆大さんと同じく、最勝寺先生の指示があったから黙ってましたが、いつまで続くんですか、この番組の垂れ流し。そもそも、私の自己紹介すらまだですからね。
> 申し遅れましたが、私、「音声多重総天然色3D脳内構築活劇」のナレーターです。以後、よろしくお願いします。
ナレーター(以前からずっと「>」と記していました): 視聴者の皆さんは、初出のヘンテコなクイズ番組より、半裸のヒーローの登場を待ち望んでいるのです。なのに、どれだけ時間を取っているんですか!? もう時間足りないから、パンツイッチョマンの登場を待ってられません。これじゃあ、今回はもう『パンツイッチョマン セカンドシーズン』と公言すらできませんね。なんて、事でしょう!
>では、来週こそ、半裸のヒーローが現れるのを祈りつつ、皆様とはお別れです。……ええ、次回予告のおじ様も無しです。私の中ではこれは始まってもいないので。では、さようなら~。
>じゃ、私たちはせっかくだから、『人生バンジー、最高がマー』の続きを観ましょうか? ぷらむちゃん、頑張れるかな~。