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Chapter4 Episode9 再寝。

 この世界にも当然夜がやって来る。夜がやって来れば暗くなり、本来であれば人間は眠る頃だ。

 そうだというのに、荒野に立てられた家にはなおも明かりが灯っていた。


 時間は夜も半ばを過ぎた。それでも、少女二人は笑っていた。


「お姉ちゃん、次は!? 次は何をすればいいの!?」


 興奮気味に尋ねるのはキオナ。

 レナとキオナは入り口からすぐに作られたリビングで土と葉によって作られた即興のソファに腰掛けていた。


 家の中は荒野の赤っぽい土による一辺倒の殺風景な物だったが、周囲に落ちていた物を拾い、合わせて作り直すことで様々な装飾を施し、一通りの家具も用意した。市販されている物に比べれば使い心地が良いとは言えないものの、劣悪な環境、なんて言われる筋合いは無いくらいに快適だ。


 そんなソファの上で、キオナは両手を大きく広げて天井へと平を向けていた。その両手の上には、水色の魔法陣が浮かんでいる。キオナの膝の上に乗せられた杖の先端が、その魔法陣と共鳴するように淡く輝いていた。


「《水付製術(すいふせいじゅつ)》? って唱えればいいの? 分かった! 《水付製術すいふせいじゅつ》っ!」


 キオナが唱えると同時、キオナの頭上に浮かんだ魔法陣から水が僅かに飛び出す。それを、レナが用意していたコップがキャッチした。


「わぁっ! すごいすごい! ほんとに私、魔法使えたの!?」


 キオナはソファを弾ませながら両手を叩いて嬉しそうに笑う。


「お姉ちゃん、ありがと! 私、魔法使えたよ! ……え? これじゃあまだ戦えない? うん、そうだね。でも、今はとりあえず魔法が使えたことが本当に嬉しいんだ!」


 実はここまで、何度か試行錯誤を繰り返していた。

 最初は初球魔法から始めようと思ったレナだったが、あとあとになってどうやらキオナの魔力では少なすぎて初球魔法すら扱えないらしいことが分かった。そこで生活魔法と呼ばれる、初球魔法よりも簡易的で魔力消費も少ない魔法をまず習得してもらうことにした。

 《水付製術すいふせいじゅつ》。コップ一杯分程度の水を生み出す魔法。


 他にも着火魔法や微風を起こす程度の魔法も試したのだけれど、二つとも無理だった。キオナはどうやら、水を操る魔法にのみ適性があるか、それだけがずば抜けて上手いのだろう。炎も風も、雷もピクリともしなかったのだが、水の魔法陣だけはすぐに浮かんだ。

 そうしたら後は呪文を唱えるだけで水の魔力が形になる。


 今回は杖を握っていないが、触れているだけで扱えるのが杖のいいところ。魔力に属性の色さえ付けてしまえば、後は杖が勝手に魔法を発動させてくれる。

 今のキオナはこれが限界であったが、まず一つ、魔法を扱えるようになったのは確かだ。


「あ、もうこんな時間」


 はしゃいでいたキオナだったが、窓の外の景色が映って暗くなっているのに気付いた。


「ごめんねお姉ちゃん、夜遅くまで。本当にありがとう。明日も試合があるよね? 私が付き合わせちゃってなんだけど、早く寝ないと」


 にこにこ笑顔のままでキオナに言われてしまえば、何か反論するつもりも失せると言うもの。レナはキオナに一つ頷いて、その日は眠りに就くことにした。


 翌朝。キオナはレナの手を引いてエルグミアの街を闘技場に向かって駆けていた。


「お、お姉ちゃん急いで! もう始まっちゃうよ!」


 今朝、レナとキオナはかなり早くに目覚めた。レナは宿の番をやっていたこともあり、朝早くに起きる習慣が出来ていたし、キオナは生まれが猫獣人。どんなに弱くたって人間よりも必要な睡眠時間が短い。揃って起き、適当な魔物を狩って朝食にした二人は……二度寝した。

 そして今、時刻は九時に迫っている。ちょうどバトルコンテストの試合が始まる頃だ。


 レナがまだ少し眠そうに目を擦る中、キオナは必死にレナの手を引き、二人は闘技場にたどり着く。すると、入口の所に大きく手を振る人影が見えた。尖った狼の耳を付けたケルトだった。


「おい嬢ちゃんたち! もう試合が始まるぞ! 急げ!」

「わ、分かってる! 舞台はどっち!?」

「こっちだ!」


 本当に時間が迫っているのだろう。慌てた様子のケルトに案内されて、キオナは必死に走る。まだ寝惚け顔のレナは付いて行くのがやっとの様子だ。


 ケルトに案内されるまま舞台に上がったレナの目の前には、猫の耳を付けた獣人が立っていた。


「あれ? 猫獣人? 参加できるの?」

「あーいや、あれはハーフだ。猫と、熊か?」


 キオナは舞台の下からレナの対戦相手を見上げて小首を傾げ、ケルトも息を切らしながらに答える。


「猫獣人は純血以外砂宮都市エルグシアに入れないからな。というか嬢ちゃん、純血かどうか見分けられないのか? 珍しいな」

「あっ、いやそのお、エルグシアを離れてから大分経つからね。都の中でも引きこもりだったし……」

「ほう、猫獣人にも内気な性格の持ち主がいたんだな。確かに、ここまで落ち着いた猫獣人も珍しいな。人間の嬢ちゃんを連れてくるようなもの好きってとこで察せばよかったかもな」


 がっはっは! などと豪快に笑って見せるケルトに対して、キオナは苦笑い。

 猫獣人は相手の強さで自分と同じ種族かどうかを見分けられる。しかし自身が弱いキオナにとってそれは至難の業だ。


 実際、猫と熊のハーフであるレナの対戦相手の力量を見定められずにいた。


「へぇ、あんたが話題の人間の魔法使いかい。随分寝惚けたかじゃないか」


 そうやって挑発的に笑う猫熊は、若い女性のようだった。いや、獣人は寿命がまばらであるから、見た目通りの年齢とは限らないか。ただ、人間でいうのなら十七、八と言ったところの年齢だろうか。白色と茶色の混ざる毛並みを持つ、人よりの外見を持った彼女は視線を鋭くさせてレナを見る。


「噂になっていたよ? ウチの前に二人、軽く捻ったらしいじゃないか。だが、ウチは相手が人間の魔法使いだからって油断はしないよ? 怪我したくなければ、さっさと舞台を降りな」


 その言葉は獣人にとっての挨拶なのだろうか。少しだけ聞き飽きた様に感じていたレナは、小さく首を横に振る。


「はっ、いい度胸だ。早速やろうじゃないか、魔法使い!」

「うむ、両者準備は出来ているようだな。……あ、あー、キオナの嬢ちゃん、レナの嬢ちゃんは本当に準備が出来ているのか? えらく眠そうだが」

「う、うん、大丈夫!」

「そ、そうか? なら……」


 ケルトは手を掲げ、開始の合図を口にした。


「初め!」

「……たぶん、ね」

「え、何がだ?」

「準備。その、お姉ちゃんから何も意識を感じなくて」

「ちょっ!? それって寝てるんじゃ!?」


 ケルトの合図の直後、不穏なことを口にしたキオナは不安そうに舞台の上を見上げ、ケルトも慌てた様子でレナを見る。そうすれば、猫熊がすでにレナへと迫っている最中だった。


「オラオラオラァアッ!」


 猫獣人も熊獣人も、元来より共謀の強い種族。その二つが合わさったところで中和されることはないらしい。猫熊は勢いよくレナへと襲い掛かる。

 対するレナは、両手で緩く杖を横に構え、ぼーっとした様子で瞼を静かに下ろしている。


 そんなレナに向かって、猫熊の右手に輝く長い爪が振りかざされる。


「お姉ちゃん!?」

「こ、こりゃ不味い!」


 二人とも、レナが眠っていると思っているのだろう。いや、実際に眠っていた。なんせエルグミアは温かい。陽気に照らされ二度寝から目覚めたばかり。足を止めれば、たちまち眠気に襲われる。しかしそんなことを知る由もない猫熊はそれが特殊な構えか何かだと思っているようだ。

 構わず突撃する。


 ケルトは止めようと考えたが、時すでに遅し。爪は、レナの目と鼻の先まで迫っていた。

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