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Chapter4 Episode6 決意。

「う、嘘だろ……」


 戦闘が終わり、真っ先に放たれた言葉はケルトの驚愕に染まった声だった。


「さっすがお姉ちゃん! お疲れ様!」


 レナは壇上から降りると、疲れを一切感じさせない笑顔を浮かべてキオナに頷いた。


「ほらほらケルトさん、結果の報告に行かないと。あと、早く助けないとあの鳥頭さん危険なんじゃない?」

「……はっ!? そ、そうだった! お、俺は救護班を呼んでくるから、嬢ちゃんたちは本部に向かって報告しておいてくれ」

「分かった! じゃあまた後でねー! お姉ちゃん、行こっ」


 キオナの言葉にレナが頷くと、キオナはレナの手を取って走りだし、満面の笑みを浮かべて言う。


「でも本当に凄い! お姉ちゃんは人間なのに、魔法だって使ってないのに勝てちゃうなんて! ……え? 魔法は使った? 強化魔法? へえ! そんな魔法もあるんだね! それは杖が無くても使えるの? 狙う必要がないから、無くてもいい? 魔力もあんまり使わないんだ! やっぱりすごいね、魔法って!」


 レナの勝利を自分のことのように喜ぶキオナを見ていると、レナも嬉しくなってか笑顔を深める。しかしそんな二人の少女の姿を眉を顰めてみる者もいた。


 救護班に声をかけ、本部向けて歩き出したケルトは嬉しそうにはしゃぎながら本部に向かう二人の背を見ながら独り言ちる。


「人間の、それもあの年の少女が格上の獣人を倒してあんな嬉しそうに喜ぶ、ね。人間の子どもはもっと臆病なもんだと思っていたが、逞しくなったものだ。まあ、実力込みであの嬢ちゃんがおかしいことは間違いないがな」


 ケルトからそんな評価を下されているとも知らずに、キオナと共に本部への報告を終えたレナはキオナから預かっていた杖を受け取った。


「それでそれで、お姉ちゃんの次の対戦相手は誰なのかな?」

「それなら、もうすぐ決まると思うぞ」

「あ、ケルトさん! あの鳥頭さんは大丈夫なの?」


 少し遅れて本部に戻って来たケルトは、軽い調子でキオナに話し掛ける。


「そ、その呼び方は止めてやってくれ。確かに俺はそう呼んだが、あいつにはクリオカルトという名前がだな……」

「それで、どこの人がお姉ちゃんの対戦相手なの?」

「興味なしかよ……」


 頬を引きつらせながら言ったケルトは、舞台の一つを指差した。


「あそこの牛頭と猿耳だ。俺の予想だと、牛頭が勝つな」


 ケルトの言った舞台の上では、牛の顔を持った獣人と、猿の耳や尻尾を持っている人間寄りの獣人が戦っていた。大きな盾と太い刃の剣をそれぞれ片手に持った牛の獣人はずっしりとした構えで以て、軽そうなショートソードを逆手に握った猿の獣人を相手にしている。

 だが、猿の獣人は既に苦しそうに歯を食いしばり、焦りが表情に現れていた。


「あの猿耳は俊敏性を売りにしているようだが、火力が無さ過ぎる。牛頭とは相性が良くなかったな。しっかし、初戦で当たるとは運がない。あの猿耳、動きだけは良い線行ってたんだけどな」

「確かに、あのおっかない顔の牛頭が押してるみたいだね……あ、猿耳が仕掛けたよ!」


 猿の獣人は牛の獣人の背後に回るように走り、ショートソードを振り降ろそうとするが既に牛の獣人は振り返っていた。勢いよく振り下ろされたシュートソードは牛の獣人の盾にはじかれ、猿の獣人の手を離れる。

 猿の獣人は盾に跳ね除けられた勢いで尻餅をつく。痛みに閉じた目を再び開けた時には、目の前に牛の獣人の剣が付きつけられていた。


 それを見て諦めた様に脱力した猿の獣人は両手を挙げた後で倒れ込んだ。


「まあ、ああなるだろうな。幾ら猿耳が速いとは言っても、牛頭がその場で開店するよりも速いなんてことはない。妥当と言って問題ない結果だ」

「おお、ケルトさん流石だね。じゃあその観察眼を見込んで聞いてみるけど、お姉ちゃんとあの牛頭、どっちが勝つと思う?」


 舞台上での戦闘を見届け、少し興奮気味に訪ねたキオナにケルトは難しい表情を浮かべて顎を手で抑える。


「いやあ、嬢ちゃんについては未知数過ぎてな……だって、キオナの嬢ちゃんの話だと嬢ちゃんの本職は魔法使い何だろう? まだ実力を量れていない」

「そっかぁ、まあ仕方ないね。私もお姉ちゃんが実際どれくらい強いのかは分かってないし……ちなみに、お姉ちゃんはどう思う? 勝てそう?」


 キオナはケルトに聞くのは諦めて静かに戦闘を見守っていたレナを見上げる。レナはキオナをゆっくりと振り返った後で、少し思案気に視線を上に向けた後で、キオナを見つめる。


「そっか! 勝てそうなんだね! じゃあケルトさん、早速次の試合、やっちゃおうよ!」

「まあ待て待て、試合と試合の間には半刻は開ける規定だ。焦るんじゃない」

「ええ~、お姉ちゃんの格好いい姿、もっと見たいのにぃ~」

「戦えないって言ってるわけじゃない。安心して待っていてくれ、時間になったら声をかけるから」

「はーい! それじゃあお姉ちゃん、あっちのほうで待ってようよ」


 キオナがいうとレナが頷き、二人は闘技場の壁へと寄って背を預ける。


「ねえねえお姉ちゃん、私も強化魔法? を覚えればお姉ちゃんみたいに戦えるのかな? も、もちろん難しいのは分かってるけど、私も強くなりたくて……え? 魔法は才能がよく出るから、やってみないと分からない? そ、そっかぁ、じゃあ私には無理かな……え? どうしてそう思うのか、って? や、やってみなくても分かるよ! だって私、才能ないし……」


 そう言って俯いたキオナを、レナは心配そうに見つめる。そして何か思案した後、キオナを真っ直ぐ見つめる。

 キオナはレナの言葉を受け取ったのか、ゆっくりと顔を上げる。


「どうして、追放されたのか? それは、私が力がないからで……え? どうしてそれで追放されるのか? そ、それは砂宮都市エルグシアを治めるフェルティア様は力こそすべてとお考えで、その考えに添えない私が気に入らなくて……じゃ、ないかな」


 寂しさと悔しさと、ほんの少しの自虐が混じったその言葉にレナは心の中でこう返す。


(それは、直接言われたことなの?)


 キオナは再び顔を上げ、驚いたような顔でレナを見る。


「ち、違うけど、でもだって、そんなことは……」

(そのエルグシアを治めているのはフェルティアって人でも、そこの全部を見ているわけじゃないでしょ? キオナちゃんはフェルティアさんと親しかったの? 何かよく知られるような特別な縁とかは?)

「と、特には……砂宮都市では下級な身分だったし……お会いしたことは、一度もない」

(ならやっぱり、聞いてみないと分からないよ。キオナちゃんのネイトとしての力は、なんだっけ?)

「私の、ネイト……」


 《共感者(シンパシー)》。相手の伝えたい意志を読み解くことが出来るネイチャー。これを使ってキオナはレナの意志を読み取り、会話していた。読心術と違って伝える意思のない者の心の内までは読めないが、例えば他の人には隠したいことを伝えたり、言いたくても言えない本心に気付いてあげることが出来たりする。

 そしてもう一つ。自分の意志を、相手に伝えることだってできる。《共感者(シンパシー)》の力の本質は互いを分かり合えることにある。


(フェルティアさんと一度しっかり話をしてみて、その本心を確かめてみたらいいと思う。キオナちゃんにはそれが出来るでしょ?)

「で、でも、私は本当に強くないから……例えば今回の追放がフェルティア様の知らないところで起こっていたことでも、改めて私を見たら、きっと……」

(じゃあ聞くけど、キオナちゃんは砂宮都市に戻りたくはないの?)

「も、戻りたい! あそこには友達も、お母さんもいるもん! もしかしたら心配してるかもしれない!」

(なら、はっきりするまで諦めちゃダメだよ。私も協力するから、ね、一緒に頑張ってみよ?)

「お姉ちゃん……」


 レナの心からの言葉に、キオナは瞳を揺らす。涙さえ溢れそうな情緒に後押しされて、口から元気いっぱいの声が飛び出した。


「うん! 私、頑張ってみる!」

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