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Chapter3 Episode19 集会。

「皆さん、聞いてください。これから重大な話をします」


 ギルドの中央の方でウランさんが声を上げた。

 

 あれから一時間と立たない頃、街中に一斉放送が入り多くの冒険者たちが招集された。無論、中にはここに来ていない者も多いようだがそれでもギルドを覆いつくすほどの冒険者がやって来ていた。


「これから話すことはこの街、ひいては国全体にまで影響を及ばすほどの大事です。無論、それに見合った報酬を約束しましょう。興味のある人は、最後まで話を聞いてください」


 ウランさんの声はよく響き、ギルド全体に通った。実際、ギルドの隅の方にいた私とニーナさんにもはっきりと聞こえていた。


「今回、デッドランドからの魔物の襲撃を確認しました。実際に被害を受けた実例もありました。被害を受けた人の話によれば現れた魔物は見たことも無いような種族であったようです。今回の依頼は大変な危険が伴うことになるでしょう。もちろん王立騎士団への支援要請も出しました。なので、参加を強制することはありません。命の惜しい人たちはすぐにこの街から非難することをお勧めします」


 つまりは、そういうことだった。

 ウランさんは今回のデッドランドからの襲撃に対して冒険者への依頼は出さないことを決めたらしい。言い草的にはボランティアは出来るだけ多く募集しているのだろうけど、恐らくあまり期待はしていないのだろう。

 実際、ウランさんの話が終わる頃にはギルドに残っている冒険者は最初の半分ほどになっていた。


「……今回の襲撃騒動への対応には私が主として参加するつもりです。今回の依頼を受けてくれるという人はこの場で挙手してください」


 ギルド内は普段とは違う騒めきに覆われた。


 招待の分からない魔物なんて危険すぎる。

 ここから逃げるべきだろう。

 いや、一攫千金を狙ってみよう。

 英雄になれるんじゃないか?


 色々な人の色々な呟きが聞こえて来た。暗く不安そうな声から興奮しているような声も聞こえて来た。千差万別ではあるが、今回の一件に対してそれぞれの思いがあるらしい。実際、私もどうするか悩んでいる。

 ニーナさんは嫌がっているし、ブラインさんも重症だ。キールさんだって二人のことを考えたらこの依頼を受けようとは思えないだろう。


 だけど、私はどうだろうか。確かにキールさんたちと行動を共にして来たけど、今、この街を見捨てて逃げるなんてことはあんまり考えたくなかった。数か月程度しか滞在していないけど私が初めて訪れた外の街だし、何より冒険者として頑張り始めた街でもある。

 それよりなにより、目の前で怒っている悲劇を見逃すことが出来なかった。


 私は、静かに手を上げた。


「ぺ、ペルナちゃん?」

「ニーナさんは気にしないでください。私はただ、逃げる勇気が湧かないだけです。だから目の前の敵に立ち向かうことに決めました。まだ、はっきりとした目標があったほうが前に進めるような気がするんです」

「そっか。……私は応援してる。キールとブラインもきっと、ペルナちゃんを尊重してくれるよ」

「そうだといいですね」


 上げた手をそのままに、私はニーナさんに微笑んだ。

 改めて周りを見渡せば、手を上げている冒険者は一定数いた。私の他に十人程度だろうか。予想していたよりは多かったかもしれない。


「ご協力、ありがとうございます。参加してくれる方はここに残ってください。これから以来の詳細をお伝えします。もちろん、話を聞いた後で辞めていただいても構いません。今回の依頼で発生する全ての責任は私が負います」


 ウランさんのその発言から五分が経つ頃。ギルドの中は少し前までのざわめきが嘘かのように整然としていた。残されたのは十数人の冒険者。その中には私とニーナさん、そしてキールさんが含まれていた。


「ペルナは、残ることに決めたのか?」

「はい。勝手なことだというのは自覚しています。けれど、どうしてもここから逃げる気にはなれませんでした」

「そうか……俺の方はブラインの怪我があるから一先ずペグアに戻ることになると思う。往復する頃には間に合ってないかもしれないけど、俺一人でも戻ってくるつもりだよ」

「そ、そんなことは許さない! その時は私も一緒に戻ってくるからね、ペルナちゃん!」

「お二人が来てくれるのなら心強いです。お二人が戻ってくるまで、この場所はなんとしてでも守って見せますね」


 静かになったギルドの中で、冒険者たちはそれぞれグループを作って固まっていた。元々パーティー単位での参加が多いのだろう。そのほとんどが三人以上で構成されており、皆一様に明るい表情で楽し気に話をしていた。

 どうやら報酬の話で盛り上がっているみたいで、お金に目が無い欲に忠実な人々が残っているようだ。


「お集まりいただきありがとうございます。それではこれから、今回の依頼の詳細について説明を――」

「そんなことよりウランさん、まずは報酬の話をしましょうよ」

「だな。それを先に知れないと話を聞く気にもなれやしないぜ」

「そうだそうだ! 危険な依頼なんだろ? それくらいは許して貰わないとな」


 ウランさんの話を遮るように、一つの冒険者パーティーが声を上げた。


「――仕方ありません。では、最初にこちらが提示できる報酬の話をしましょうか。今回予算として我がギルドで用意できるのは総額三億になります。これらを参加してくださった冒険者の方々で分配する、という形になるかと思います」

「分配だあ? たったそれっぽっちの金の為に命かけろって言ってるのか?」

「もっと用意できないのかよ? 国のピンチなんだろ?」

「もうちょっとねぇと参加しようって気になれねえよ。なあ?」


 そのパーティーの一人が同意を促すように周囲を見渡すが、どうやらいい感触は得られていないらしい。私が見渡してみると、他の冒険者たちは皆呆れたような視線で言い出した冒険者を見つめていた。


「お、おい、どうしたんだよお前ら。お前らだって報酬が無いと困るだろ?」

「ま、もちろんその通りなんだけどな」


 空気が悪いのを察してか再び口を開いた男にそう返したのはキールさんだった。


「どうやらお前たち以外は過程と目的が逆みたいだな。お前たちが分かっていないようだから言っておくが、今回の依頼は今までお前たちが請けてきたようなお遊びとは全く違う。最悪、この街が地図上から消えるって言うような大事なんだ。誰も金や名声に興味がないなんて言わないだろう。けどな、まず第一にこの街を守りたいって思ってるから残ってるんだよ。金も名声も二の次だ」


 きっぱりと言い切ったキールさんに、他の冒険者たちが深く頷いた。中には少し目を逸らしている人もいて、お金や名声に目がくらんだ人も少なからずいることは確からしいが、それでも確かに正義の心でここに残った人がたくさんいるのだと知って、私の口元は思わず緩んでいた。


「どうしますか? 今からでも帰って貰っても構いませんけど」

「……茶化して悪かった。安心しろ、元々タダで命かけるくらいの覚悟はあるんだよ。分かってくれるだろ?」

「そうですね。あなたたちもこのギルドによく貢献してくださっているパーティーの一つですから」


 ウランさんはそう言って微笑んだ。彼らは質の悪いクレーマーかと思ってみれば、普段とは違う状況に浮足立っていただけらしい。ウランさんの口ぶり的に、きっと実力にも問題はないのだろう。それからは真剣に、ウランさんからの話を聞いていた。


「異常が詳細になります。不明な点は後程改めて伺います。また、明日の朝このギルドに集合してください。もちろん、話を聞いたからといって必ず来なくてはならないなんてことはありません。各々よく考えて決めてください」


 ウランさんがそう締めくくり、今日は解散となった。

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