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Chpater3 Episode13 信徒。

 

「お久しぶりねヘルナ・イヴェルナ。先程まで別のお客がいたようだけど、もう帰ってしまったの?」

「ああ、オンリーがね。ただ、彼は君に嫌われているからと帰ってしまった。よろしくと伝えてくれと言っていたよ」

「あらそう。わたくし、別に彼を毛嫌いしていたリはしないのだけれどね」


 三回のノックの後、私が返事をすると彼女が入って来た。私は立ち上がってカップを片付け、新しいカップを取り出して紅茶を淹れる。


「まあ、一先ず座りたまえ。今日は君にも語り手になってもらうわけだが、気楽にしてくれ構わない」

「もとよりそのつもりよ。わたくしに固くなれと言う方が、むしろ無理なことよ」


 そう言って私の淹れた紅茶を飲んだ彼女の外見を、大雑把に説明しよう。

 彼女と私が言う通り、そしてわたくしと一人称を使う通り、彼女は女性だ。黒髪のハーフツインテール赤い瞳。黒と白のゴスロリ衣装。童顔の持ち主で幼さとは無縁な不気味な笑顔がよく似合う。そんな女性だ。むしろ女子と言う言葉の方が適切かもしれない。

 そんな彼女は、この世界で二千年近くの時を生きる、異世界からの住人にして、魔人だった。


「わたくしたちも出会ってから、もうそろそろ千年が経つのかしら」

「ん~? どうだろう、随分前に千年は経過していたと思うけど」

「そうだったかしら。ごめんなさいね、記憶力はいい方なのだけれど、こと時の流れにはあまり興味が無くてね。ああ思い出した、私たちは千と二百六十九年、六カ月と三日前にこの地で出会ったのだったわね」

「そこまで詳しいことを思い出されてしまうと、私に同意はしかねるけどね。まあ、そんな話は後でにしようじゃないか。今は読者の皆様に、物語を紹介している最中なんだから」

「そう、まあいいわ。では、始めましょう」


 落ち着いた声音、乱れない佇まい。余裕のある態度と威厳に溢れるオーラ。その童顔が掠れてしまうほどに、彼女は絶対的な美と力をその身に宿していた。

 そんな彼女の名をルミナス。姓は、果たして何だったか。しかし口上は覚えている。初めて会ったその日に告げられ、印象が強くてよく覚えていた。


 冥界からの使者にして、時空を操る邪神教最高司祭ルミナス。

 彼女の言葉を信じるのならば、彼女は一個人ではなく現象だ。冥界に住む、邪神と言う存在に使わされた者。時空を操り、世界を越えて訪れた宗教の伝達者。ある意味では私と似ているのかもしれない。

 彼女は、邪神に仕える語り部なのだ。その信仰を求め、布教するための語り部。そして、世界の魂の調和を保ち、生命の輪廻の潤滑油となる存在。あらゆる世界に顕現すると言う、俗に言う死神らしい。


 そんな彼女だが、この世界での立場は先程話題にも出た魔王となる。詳しいことを述べるのなら、前期魔王にして序列二位、魔人ルミナスである。


「わたくしの紹介はそれくらいでいいでしょう。それで、確か魔王についての説明だったかしら。ヘルナ・イヴェルナ、わたくしとあなたの仲ですし、そのくらいのことは喜んで引き受けさせていただくわ」

「ああ、よろしく頼む」


 そう言うわけで提携先ががオンリーからルミナスに変わりはしたが、私は相も変わらず受け売りの知識を披露させてもらうとしよう。


 前期、後期、それぞれの魔王についての話は済んだのだったか。ならば、序列についてになるのだろう。私も詳しいことは知らなかったのでいい機会だったと言える。


 序列、それは言葉の通り魔王たちに付けられた数字。純粋な実力、権力、影響力。人間社会では創意工夫を施されるらしい序列制度も、魔王間では至極簡単。戦い、強ければ数字が小さく、弱ければ大きいのだ。

 

「でも、オンリーは大事なことを忘れているわね。いえ、あえて言おうともしなかっただけでしょう。時期を意味する前期、後期がただの分類分けに使われている言葉なわけはない、ヘルナ・イヴェルナ、あなたも分かっていたでしょう」

「疑問には思っていたね。その口ぶりだと他に理由があるんだろうし、教えてくれないかい?」

「もちろんそのつもりよ、何も渋るような話でもないわ」


 その手でカップを私に向け、お代わりを要求しながらレナは語った。


 前期と後期、それは確かに個人か団体かの棲み分けも行っているが、最も大きなその名の理由は魔王と呼ばれ始めた時期にある。正確には、生まれた時期、か。

 前期魔王、それはある出来事を境にそれより前に生まれた魔王に与えられる名。後期魔王はその逆で、それより後に生まれた魔王を指すものだ。ある出来事と言うのは……そうだな、今回は割愛させてもらおう。話が大きくそれてしまう。


 そう言うわけで分類された前期、後期魔王たちだが、まず最初に序列を決めた時には前期魔王内だけの物であった。


「と言うより、その出来事の直後にわたくしたちは序列を決めることにした。それぞれの力を示し、互いを牽制する、もしくは、監視し合うと言った目的もあったわ。それがわたくしたち人外の世界を統治するための最善手だと、誰かが言い出したのがきっかけだったわね」


 レナは続けた。


「前期魔王と呼ばれる魔王は、現在四人。それはその出来事が起こった頃も変わらなかったわ。だから上から四人、数字を決めた。それから生まれた後期魔王については、また別の決め方をした」


 と言うのは、後期魔王は基本的に集団の王だ。人間たちに周知させるために魔王を自ら名乗るし、他の魔王たちにも魔王を名乗ることを宣言する。


「その際、今いる魔王の誰かに挑むことを許したわ。そうしてもしその魔王に実力を認めさせることが出来たのなら、負けた者を降格させ、代わりに新しい魔王がその位に入るようにしたの。ちなみに、例えば一位が負ければそれ以下の順位の者たちも一つずつ下がる、と言った方式よ」

「なるほどね。それで、確かレイが五位で、君が二位だったか。結構な差があるんだね」

「どうかしら。実際の実力差が明白ってわけでもないわ。挑んだ側と挑まれる側、相手を選べるのは挑んだ側だもの。有利な相手に挑んで勝つ。それならば数字が絶対的な実力差を表すとも限らないでしょう?」

「確かにそうだ。でも、前期魔王には君、ルミナスや確かメルトスが該当するはずだ。そんな曖昧なことを許すようにも思えない」

「それこそどうなのかしらね。あまり詳しいことは言えない、と言うよりは分からないわ。魔王を賭けた決闘には見届け人が必要だと言い出し、その任を自ら買って出たのはメルトスだもの。彼に聞くといいわね」

「彼と私が仲良くないを知っているだろう?」

「そんなことはわたくしの知ったことではないわよ」


 ルミナスはそう言って嘆息し、紅茶を飲んだ。


「わたくしがこの世界の住人でないことは、ヘルナ・イヴェルナ、あなたも知っていることでしょう? わたくしはあくまで世界の輪廻を能率的に熟すための存在よ。あまり、この世界の秩序には興味がないわ」

「そのくせ、魔王の名を拒否しているわけではないようだけど?」

「甘んじているのよ。立場として、人外を統べる王と言うものはあまりに魅力的だもの」

「なるほどね~」

「なによ、そのにやけ面」

「いや、別に」


 先に語った通り、ルミナスは幼女体系の童顔少女だ。傍から見ていれば、ただただ愛らしい幼子なのだ。

 到底、こんな子が序列第二位の魔王と恐れられているとは思えない。


「まあ、魔王の序列はそんな感じよ。それより、本題に移りましょう。あんまり暇はないのよ」

「ん? 本題? 何のことだい?」

「……ふざけているの? 新しい魔王候補についてよ」

「冗談だよ。分かっている。それじゃあ、ここからは調停者のお仕事だ」


 すまない読者の皆々様。私はこれから仕事があるので、今回はこれくらいにしておこう。

 ああ、安心してくれ。本来の目的であるレナの心の代弁はやり遂げるのだから。ただ、今回私自身が語らうのはここまでだ。次回以降を期待していただこうか。


 語り手はヘルナ・イヴェルナでお送りさせていただいた。それでは、また会う日まで。

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