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Chpater2 Episode21 義務。

 教会を後にしたレナは、去り際に後ろを振り返る。


『私が持つべき覚悟は、こんなことではないはずなのですが。もう少し待っていてくださいね、ペルナさん』


 小さく微笑んだ口元は、教会から離れるにつれてきつく結ばれて行く。誓いを守らんとする意思を示すように。


 その歩調は静かでいて荒々しく、素早い。目の前まで迫った目的に手を伸ばすように、レナは真っすぐに進んで行く。そうしてたどり着いたのは、冒険者ギルドの裏口だった。

 普段の広場からは見えない路地裏から冒険者協会の扉を開いたレナは、すぐさま正面玄関の方へと向かった。


 そこには、C級冒険者パーティのリーダー、キールとその仲間のブライン。その二人をはじめとした多数の冒険者たちがギルドを守る様にバリケードを張り、現在進行形で外部から攻撃を受けているらしい扉を必死に抑えていた。


『キールさん! 状況はどうなっていますか!?』

「レナか! まだ大丈夫だ。けど、本当にレナの読み通りだったな。街に入り込んだゴブリンたちは、皆ここに集まって来た」

『やはりそうでしたか。先程、辺りを見渡ったところこの周辺以外にゴブリンは確認できませんでした。ちょうどニーナさんも同行して貰っていましたし、収音サーチを持つニーナさんの索敵能力なら確かだと思います』

「分かった! じゃあここだけ守っておけばいいんだな! あとは任せて置け!」

『はい、お願いします!』


 キールとそれだけ言葉を交わし、レナはギルドの奥の方、医務室へと向かった。

 慌ただしく開かれた扉の向こう側では、体を半透明に輝かせる少女、精霊のミナがベッドの上で眠っていた。

 ミナはぐったりと倒れ込んでいるようで、その表情も苦しそうに歪んでいる。


『ミナさん! 大丈夫ですか!?』

「ん……レ、ナ?」

『はい、レナです! これから事前に話していた通り一緒にここを離れてもらいます。お体は大丈夫ですか?」

「……ん」


 ミナは苦しそうな表情を浮かべながらも体を起こし、立ち上がる。フラフラと左右に揺れながらもミナは何度か首を横に振った後に真剣な表情を作って拳を握る。


「行こ」

『はい、こちらです!』


 そんなミナの手を引いて、レナは冒険者ギルドの裏口へと向かった。


 扉を開け、食らい裏口へと飛び出したレナとミナは広場を避けるように大回りをして街の中を駆けて行く。


『では、北門を抜けてそのまま北上しましょう。精霊の森を目指します。長い旅になるかと思いますが……頑張ってください』

「ん、わかた」

『途中襲撃もあるかもしれませんが、お任せください。必ず私が守ります』

「……りがと」


 ミナの手を引いて走るレナは、且つて通った裏路地を駆け抜ける。ただひたすらに北に向かって、出来る限りの一直線で走り続けるレナは杖を掲げる。


『《氷風凝固結晶(フロスタル)》』


 杖の先端に凝縮された魔力が薄水色の形を持ち、やがて宝石のように輝く氷となる。一粒一粒が爪のような小ささの氷が、続けて生まれた風に煽られ散り散りになる。そして、レナとミナの周りを囲うように渦を成す。

 直後、物陰から現れた数体のゴブリンたちが渦に巻き込まれて全身を切り裂かれた。


『ゴブリンも、賢くなくとも無能ではないということですね。回り込んできているとは。急ぎましょう、ミナさん』

「ん」

『たぶん、まだいます』


 これから先に続く細い路地裏を見据えながら、レナは立ち止まる。一瞬間が混む様な素振りを取った後、踵を返して道を曲がる。


『大通りに出ます。目立ちますが、今なら人はいないはずです。広ければ迎撃もしやすいので』

「ん」


 氷を伴った風消えると同時に大通りに出たレナは、辺りに視線を走らせながらミナの手を引いて一心に走る。ミナは、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべながらも足を動かす。

 その淡く透き通る体が段差を一つ下った時、レナが突然足を止め、ミナも驚きながらも立ち止まる。


『っ!? 囲まれてるっ!?』


 周囲を見渡したレナの視界には、建物の天井から顔を覗かせる無数のゴブリン、そして路地裏や物陰からぞろぞろと出てくるゴブリンたちが映っていた。総数五十体程。到底、見慣れた景色とは言えなかった。


『どうしてっ、先程巡回した時はいなかったはずなのに』


 確かにレナはペルナやニーナとともにこの道を通り、怪しいことがないのを確認した。ニーナの収音(サーチ)を活用し、もちろんその眼も使った。そうして危険がないと判断し、この道を使うことを決めたのだ。

 路地裏や密閉された空間など、収音(サーチ)では探索しきれない場所、あえて避けた冒険者ギルド周辺には数体のゴブリンがいるかもしれないと予想はしていた。だからこそもたもたしていたら追い付かれるので先を急いだし、不意打ちを受けないように大通りに出た。


 だからこそ、今こうしてゴブリンたちに包囲されている現状に驚いている。


『街中に隠れていたゴブリンが集まって来た? 新たに侵入してきたとは考えずらいですし、ここにいるのと、後は広場に居るのですべてでしょうが……あまり時間を取られると、広場の方のゴブリンたちもこちらに来そうですね』

「……ゴブ」

 

 冷静に状況判断するレナの横で、ミナは憎たらしそうにゴブリンたちを睨む。レナとミナをじわじわと囲み込む様に迫りくるゴブリンたち。そんなゴブリンの集団を前にしても、レナは落ち着きを失わない。


『ミナさん。早速教わった魔法を使わせてもらっていますが……今しばらく、私の戦場にお付き合い願います、付いてきてください』

「ん」


 レナは片膝を曲げて杖を足元に置き、優しい瞳を浮かべながらその持ち手を右手で撫でる。そして腰裏に手を回し、鋭い視線を眼前に向けて立ち上がる。

 右手を引き抜き、銀色の刃に陽光を映す。


『ミナさん、離れないでください。突っ切りますよ』

「ん」

『行きます』


 ミナの手を強く握り、レナはゴブリンの集団へと、駆け出した。


 そして、レナも知らない町の一角で事件は起こった。まだ尚ゴブリンの波に煽られる南門周辺。リルスを始めとし、パーティメンバーの聖騎士やイグニス。他にも数多の冒険者や街の騎士たちがゴブリンたちを相手に奮闘する中。


「お前ら、もうひと踏ん張りだ! さっきの嬢ちゃんに負けないよう気張ってけ!」

「うっせぇあんたも働け!」


 リルスの指示に、イグニスが怒鳴り返した時。異変は起こった。

 冒険者たちが対峙していたゴブリンたちが一斉に退陣し、街から離れて行った。何人かは逃げるゴブリンたちを追いかけて行ったが、数十体のゴブリンたちはどんどんと街から離れて行った。


「あ? 急にどうした」

「レナがうまくやったんじゃないのか? それか、勝ち目がないと思ったのか」

「……ゴブリンにそんな頭があるのか?」

「どうだろうな。いや、普通に考えたらないんだろうな。ただ、今回はシャーマンも想定されてるし。それ以上の上位種の存在も考えられる。まあ、あれだけ揃った動きをしてるんだ。きっと誰かの指揮かにあるんだろうな」


 去って行くゴブリンたちを見届けながら、リルスは悩ましそうに眉を顰める。


「しかし、ここの戦闘も一旦終いだな。おいお前ら、最低限の見張りだけ残して怪我人の治療や街の巡回に回れ! あとは、俺らの仲間に任せて置け」


 注目を集めるようにそう叫び、リルスは笑みを浮かべて片手を掲げる。


「俺らの勝利だッ!」

「「「うおおおおおぉーっ!!」」」


 リルスの言葉に応えるように雄たけびを上げる冒険者を傍目に、イグニスは街の方を遠く眺める。


「レナ、上手くやれよ」

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