表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/105

Chapter2 Episode20 同行。

『……何をしているんですか?』


 ペグアの街の警備を始めたレナは、隅々まで探索するつもりで駆け足で街を回っていた。魔法で探知できないこともないが、室内に入られると魔法だけでは捉えきれないかもしれない。

 だからこそその身で確認しようとしたのだろう。


 そんな探索も折り返し地点に到達した頃、目を疑うような場面に出くわした。


「っ!? な、なんだかガキか。あっち行ってろ」

「俺たちは今忙しいんだよ」

『だから何をしてるんですか、って聞いてるんですよ!』


 商店街の一角に荒らされた形跡があり、魔物が侵入したのかと気を張り、身を屈めてゆっくりと近寄っていると話し声が聞こえてきた。まさか誰かが魔物から隠れているのかと確認してみれば、そこではお店の商品やお金を次々と袋に詰める男が二人。

 当然知りもしない相手だが、レナは目に入れた直後には嫌悪感けんおかんを抱いていた。


 その拳を握り締め。怒気どきこめめて叫ぶ。


「ッチ、うっせぇなぁ。あんまし邪魔じゃまするとガキでも殺すぞ」

「いいだろうが、どうせこの街は終わりだ。俺たちが大切に使ってやるんだよ」

『……これだから、大人ってものは』


 俯き、わなわなと肩を震わせながら。

 杖を握りる拳を震わせながら、レナは呟く。


『戻してください』

「あ? なんだと?」

『戻してください、って言ってるんです!』


 怒りに満ちた表情を、鋭い視線を男たちへと向ける。


『みんな、この街を守ろうと必死になってるんです! そんな人たちを信じ、願っている人たちがいるんです! そんな中だというのにあなたたちは! 盗みを働く時点で人として最低ですが、あなたたちのような人を、私は許せません! 今すぐ戻すのなら、仕方がありません。気の間違いだったことにしてあげます。ですがそれをしないなら、容赦はしません!』


 杖の先端を男たちへと向け、レナは声の枯れるも気にせず叫ぶ。普段の落ち着いた声音も、優しい口調もどこへやら。怒気をあらわにしたレナの瞳に籠るのは覚悟。

 

「いい加減にしろよな? 容赦しねぇのはこっちのだ!」

「死ねよクソガキッ!」

『……残念です』


 その呟きは、放つつもりのなかった同情。


『《意識的思念体制御(シャットダウン)》』

「「うっ!?」」

 

 レナの杖から放たれたわずかな光が男たちの顔を照らした直後、その頭上に光の紋章が現れる。描かれた魔法陣が男たちの体を包み込み、弾けて消える。

 男たちは膝を折って崩れ落ち、その場に倒れ伏した。


『あなたたちに罪を償う機会を設けるのは私の優しさゆえではありません。私の不甲斐なさゆえです。そのことを、しかと受け止めてください』


 小さく息を吐きながら、レナはそんな言葉を投げ捨てる。


『はぁ……人を呼んできましょうか。……って、誰か来る?』


 足音が聞こえた。というか鼻歌交じりだ。この逼迫した状況で鼻歌とは相当お気楽なのか、それともこの状況の中で少しでも楽しくいようと思ってか。

 はたまた狂人か。先程犯罪者に出会ったばかりだ。似たような存在が他にもいたとして、何ら不思議ではない。


『二人、ですかね? 女性が二人、片方は私と同年代くらい? まさか、日常から聴覚を鍛えていた成果が出るなんて。言葉を発せないことの唯一の利点ですね』


 幼少期、言葉の話せなかったレナはそれでも相手を理解しようと普段から周囲の音に対して並々ならぬ集中力で理解しようと耳を傾けていた。その結果、言葉を覚えるばかりか足音や声で対象の性別や大まかな年齢、物音だけで距離や大きさを把握できるまでに至った。

 決して万能ではなく、人の身で行える程度の特技ではあるがこうも人気のなく静かな街中であれば音がよく響き、普段よりも正確な情報がレナの耳に集まりやすい。


『……というより、この靴音、ペルナさんの物じゃないですか? 普段から気を付けていたわけではないので、確証はありませんが』


 それでも確信があったのだろう。音の聞こえる道の角へと歩み寄り、足音のする方へと顔を覗かせる。

 その先で、予想通りペルナと、そして活発な雰囲気を纏う軽装の女性。いつかの依頼で同行したニーナの姿も見えた。


「あ、レナちゃんだ! おーい!」

「レナっ!」


 嬉しげに笑いながら手を振るニーナと目元に僅かな涙を浮かべて走り寄ってくるペルナを確認し、レナは曲がり角から姿を現す。

 そして、止まることなくレナの胸元に飛び込んできたペルナを受け入れた。


 突然顔をうずめてきたペルナに驚きを一瞬顔に出したものの、レナはすぐに優しくその背中へ手を回した。


「すっごい、すっごい心配したんだよ!」

『ご心配をおかけしてすいません、ペルナさん。ペルナさんも、無事でよかったです』

「う、うん……ニーナさんが助けてくれたから」

『ニーナさんが?』


 顔を上げ、頬を赤くしながらも振り返ったペルナがニーナを指差し、レナもそれにつられて視線を移す。そこには嬉しそうな笑みを浮かべるニーナがいたが、ペルナの言葉を聞いてか、照れるようにこちらも頬を赤くする。


「えっ!? いやいや! 全然、なんてことはないよ! 冒険者のお仕事だからね!」

「それでも、改めてありがとうございました。こうして、レナも見つかりましたし」

「ま、まあね! 冒険者だからね! D級だからね!」

『私からも、ありがとうございました、ニーナさん。おかげで普段見れないようなペルナさんが見れました』

「え!? レナ、そ、それってどういうこと!?」


 レナの言葉にペルナは驚き、ニーナは小さく笑い声をあげる。


『いえ。今のペルナさんはいつにも増して可愛いな、と』

「ちゃ、茶化さないでよ!」

「あははっ! 二人って仲いんだね! 羨ましいよ!」

「ニーナさんも羨ましがってないで、レナに何か言ってくださいよ!」


 レナの顔に、笑みが浮かんだ。それでもその口から笑いが零れることはなく――


『さて。私は引き続き街の警戒にあたろうと思いますが、お二人はどうしますか? どうせなら、一緒に街を回った後で教会の方へと向かいましょうか。私としてもそちらの方が安心できますから』

「う、うん。そうするね。ニーナさんはどうします?」

「私もそうしようかなぁ。レナちゃんの方が強いし、守ってもらうよ!」

「冒険者とかD級とかはどうしたんですか……」


 呆れ気味なペルナの突っ込みにニーナが罰が悪そうに目を逸らしているうちも、レナは嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。


『それじゃあ、出発しましょうか』


 その合図で歩き出した一行は、街の残り半分を通る道のりで進んで行く。ニーナの《収音(サーチ)》を活用したりしながらゴブリンが侵入していないか探る。もしたくさん侵入してきているようだったら応援を呼ぶ算段を立てながらではあったが、それは半ば杞憂で終わった。

 ゴブリンや逃げ遅れた人を見つけることなく、レナたちは教会に辿り着いた。


「ペルナ!」


 扉を開くと、すぐにヘランがペルナを見つけて駆け寄ってくる。


「なかなか帰ってこなかったから、心配してたのよ!」

「ご、ごめんなさい……その、色々あって。魔物に襲われて、その。レナを探してたの」

「魔物に!? 怪我はない!? 大丈夫なの!?」

「大丈夫! 大丈夫だからそんなに慌てないで!」


 避難した大勢の人たちに見られているからか、ペルナは恥ずかしそうに頬を染めながら母からの拘束を解こうと必死にもがく。それを微笑ましそうに周囲が笑う光景を、レナとニーナは教会の扉のところで眺めていた。


「ふふっ、ペルナちゃんって面白いね」

『そうですね。面白い友達です。いつでも笑わせてくれる、良い人です』

「それいいね。私も今度から一緒に遊ぼうかな」

『なんだかんだで喜んでくれると思いますよ』

「そうだと良いな」


 静かに笑うニーナを横目に見ながら、レナの口元を緩ませる。

 静かに背を向け、扉をくぐる。


「あれ? レナちゃん、どこに行くの?」

『いえ、少し。私にはまだできること――やるべきことが残っているので。気を付けてくださいね。それでは』


 そう言って静かに扉を閉め、ニーナ以外の誰に気付かれることもなく、レナは教会を後にした。


「こっちのセリフだよ、まったく。本当にレナちゃんは凄いなぁ」


 憧れるような言葉を扉に投げかけた後で、笑みを作ったニーナはペルナの下へ駆け寄った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ