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Chapter2 Episode14 報告。

『キーレイさん、失礼します』

「ああ、レナか。どうかしたか?」


 冒険者ギルド支部長室に、レナはキーレイを訪れるためにやって来ていた。


『精霊の件ですが、何か進展はないかと思いまして』

「ああ、なるほど。すまないがまだ進展はない。現在は医務室で寝かせているが、人の体とそもそもが違い過ぎて、どのような状態にあるのかすらはっきりしない。目覚めるまで待つしかない、と言うのが現状だ」

『そうですか……いえ、ありがとうございました。何かあったら、教えてくれると助かります。私も、精霊には興味がありますので』

「ああ、もちろんだ。……用はそれだけか?」


 淡々と答えたキーレイは、続いてレナにそう問い返した。レナは小さく首を横に振ると、口を開いた。


『ゴブリンたちの件、何ですか。何が目的か、分かりますか? 私なりに、考えてはみたんですけど、分からなくて』

「なるほど、そう言うことか。確かに、本能に従って、と言うわけではないだろう。状況的に統率が取れているだけではなく、計画性がある。様々な場所で同時にあれだけのゴブリンが現れたのだ。何らかの目的があり、それに合わせた行動をしていると考えるのが自然だろう」


 しばらく考え込んだキーレイは、鋭い目を開いて言う。


「私も、当然考えていたさ。団結し、協調性を持った行動をとる。それはシャーマンによるものであろうが、この規模での行動はシャーマンたちが独自に取り組んでいるものではないだろう。シャーマンをまとめる何者かがおり、そしてそいつらは帝都行の馬車を襲った。そして、今回の事件だ。恐らく、人間を狙っているのだろう」

『そうでしょうね。でも、その理由が分からない』

「本能に従っている、と言うだけならまだいいのだが。まあ、そう言うことも含めてしばれてもらうために、君たちに依頼を出したのだ。こちらとしても情報を活用して対策を講じるがそのためにも頑張ってもらわねばならない」

『分かっています。ありがとうございました、これで失礼しますね』

「ああ、頑張ってくれたまえ」


 一礼してから、部屋を出る。小さくため息を吐き、後ろ手に扉を閉める。

 

『何も、起こらなければいいのですが……』


 そう言って呟くレナは、不安気な表情を浮かべていた。


「で、ゴブリンたちには目的があって、そのための準備をしているんじゃないか、ってことか?」


 その日の夜、再び雑木林へとやって来たレナは、イグニスへと事情を説明していた。


『恐らくは。確かな意志と、計画性を持った行動をしているように思うんです』 

「確かにな。これだけの規模のゴブリンが統率を持って行動しているんだからそう考えるのが自然だが、目的はなんだ? ただ人間を襲う、ってのが目的にも思えない」

『そうですね。だったら先日のタイミングで攻め入ってくればよかったはずですし……帝都行の馬車を襲ったのもこの集団だったとして、ここら辺に住み着いた理由にはなりませんし』


 辺りを警戒しつつ暗がりを進む二人は、しばらく黙って考え込んだ。

 

「……考えても仕方がない、な。理由は原因は俺たちが考えたって仕方がない。大事なのは目的と、それに対処するために俺たちがやるべきことだ。それを明らかにするためにも、今こうして調査をしているんだろ? ただ人を襲うのが目的なら、大体の数を把握できるだけで対策の仕様はある」

『そうですね。今は与えられた役割を全うしましょうか』


 喋るのをやめ、真剣なまなざしを浮かべたレナは、魔法の維持に専念する。先日ゴブリンに襲われた開けた場所を素通りし、ゴブリンたちが逃げ帰ったほうへと向かう。


「ゴブリンが住み着くとして、洞窟か廃墟か。はたまた自作の集落か。どれにしたって、そこら中にあるはずがない」

『あれだけのゴブリンを収容できる場所が、果たしてあるんでしょうかね』


 ゴブリンたちは最低でも数百体、と言う規模で存在するという。幾ら体躯が小さくとも、これだけの数が寝泊まりし、生活するだけの拠点をどう確保しているのか、は気になるところだ。食料の問題もあるだろうし、そこら辺も調査内容になって来るだろう。


「自然消滅してくれるのなら一番だが、あまりに達観的過ぎるな」

『期待はしないほうが良いでしょうね。……あ、あれは。待ってください、何かあります』

「何? どこだ」

『あそこです』


 レナが見つけた何かを見ようと、イグニスはレナの隣に並んだ。そうして、目を見開く。そこには、馬車へと群がるゴブリンたちと、その周りに倒れるゴブリンたちの死骸が、広がっていた。


『これは……いったい……』


 思わず口元を塞ぎ、嫌悪の籠った瞳を浮かべるレナと、微笑を浮かべ焦りの表情を浮かべるイグニス。


「これはつまり、そう言うことだな。あいつら、共食いしてやがる」

『何らかの原因で数が急増し、お互いを食べるしか生き残る道がなかった? まあ、そう考えれば急にシャーマンが大量出現した理由も付けれます。あくまで希少種、一定数以上のゴブリンが生まれれば、それに比例してシャーマンの出現確率も上がりますからね』

「でもって食料がないから馬車を襲い、元々一つの部族だったのだから統率が取れていたり、似たような手法で戦闘を仕掛けてくるのも当然、ってことか? 確かにつじつまは合うが、あり得ることなのか?」


 苦笑気味に言うイグニスに、難しい表情を浮かべてレナは答える。


『あり得ない、とは言い切れませんね。私の知る限り前例はありませんが、急激な繁殖、と言う理由があれば共食いせざるを得ない、ということはあります。実際、個が弱く、繁殖能力が高い昆虫類には共食いをする種もいますし……でもそれは、あくまで虫の話なんですけど』

「……報告、だな。どうやらここに居るだけでもゴブリンは三十を超える。死骸を含めれば、五十ってところか。こんな集団が複数あるなら、数百じゃ済まない可能性も出てくる」

『はい。本当なら、少しでも数を減らしたいところですが、ここで私たちが相手をしても焼け石に水ですし、数が多いから返り討ちにあう可能性もある。キーレイさんと話し合い、対策を検討しましょう。あと、この事は他言無用ですよ。パニックになります』

「分かってるさ。帰るぞ」


 その場を静かに離れ、レナたちはペグアへと向かう。真夜中の街は、やはり静まり返っていた。

 ギルドへと向かい、扉をくぐる。明かりの灯らぬギルドの中でレナの照らす炎を頼りに階段を上がり、支部長室へと向かう。すると、扉の隙間から明かりが漏れていた。


「マジか……あの爺さん本当に起きてやがる」

『言った通りでしょう? あの人は私たちが働いている間に寝るような方ではありませんよ』


 小さく微笑みながらレナはいい、そのまま扉をノックする。


「入っていいぞ」

『失礼しますね』

「邪魔するぜ」


 声に応えて中に入れば、そこには事務机で何やら書類処理を行っているキーレイの姿があった。


「む、レナたちだったか。今日は早いな、何か収穫があったのか?」

『はい。では、私から説明しますね』


 そう言って語りだしたレナの言葉に、キーレイは目を見開いた。


「まさか、そんなことが。大繁殖による影響、と言うことか。確かに、これだけの規模の集団出れば、意志がなくともスタンピードくらい起こりそうなものだ。しかし、これでさらに分からなくなったな。統率が取れているのなら、共食いなどあり得ないだろうが、指揮者がいないとしたら以前の同時襲撃はあり得なかっただろう。すまない、今は考えがまとまりそうにない」

「ま、しゃあねえな。しかし、どうせ数が数だ。戦力の蓄えくらい、支度しておいたほうが良いぞ」

『そうですね。あの規模で攻めてこられたら今ペグアにあるだけの戦力で対抗できるかどうか……それに、もう一つ懸念するべき点があります』

「ふむ、聞かせてもらおうか?」


 緊迫した雰囲気の中、それに追い打ちをかけるようにレナは言う。


『以前私たちが依頼で訪れたあの洞窟。あそこにも通常ではあり得ない数のゴブリンと、シャーマンがいました。それに、私がこの街に来た時に、スラナ村方面にもゴブリンの集団がありました。もしかすると、ゴブリンたちはこの街を中心に繁殖し、既に囲むような形で進行してきている可能性があるんです』

「……確かに、あり得るな。外に助けを求めようにも、すでに手遅れの可能性がある、と言うことか」

「なんだそれ、上等じゃねか。この街には外壁だってあるんだ、ゴブリンたちが何千集まったって簡単に攻略できるわけがない。それが分かっていて、この街を狙っているんなら、返り討ちにしてやるぜ」


 自信ありげにそう言うイグニスと、目を伏せ、考え込むキーレイ。レナは静かに、彼の言葉を待った。


「今後の対策に関しては、私が検討しよう。レナ、そしてイグニス。君たちへの依頼もこれで完了だ。これ以上は危険だと、判断した。報酬は後日支払うが、その前にもう一仕事頼まれてもらおうか」

『ええ、喜んで』

「街が危なそうってときに、文句垂れるほど傲慢じゃねえよ」

「感謝する」


 頭を下げ、威厳高く、しかし誠意を見せたキーレイに二人は笑みを浮かべた。


「冒険者ギルドペグア支部支部長キーレイ・ヴァナ・フィアスからの指名依頼だ。精霊から、情報を聞き出してくれ」

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