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Chapter2 Episode12 対策。

『具体的な数の調査、ですか?』

「ああ、とても危険な依頼だ。俺だって一度ゴブリンシャーマンに負けた、出来ればレナに任せたくはない」


 最初のゴブリン騒ぎから一夜を跨ぎ日が昇った頃。皆出張っているせいで人気(ひとけ)のない冒険者ギルドの中にいたのはほんの数人だけだった。

 

 冒険者ギルドの一角、角席に腰掛けるレナに、リルスは対面から依頼書を見せながら頬杖を突き、カウンターの方へと視線を向けた。


「ただ、今この街にいる有能な魔術師はお前くらいだ。少なからずゴブリンシャーマンが複数体確認されている状況で、臨機応変に魔法を使い分けられる魔法使いなしに調査は自殺行為だ。お前の実力はルガルドフのじっちゃんも認めてる。俺が軽く見積もったって、D級は下らない」

『ルガルドフさん……あの試験官さんですか。あまり、期待されても困るのですけど』

「……そりゃ、分かってるさ。こんなことを言うのを許してほしいが、レナの母さん、レイナさんの面影に、どこか縋っているところがある。ただ、レナにも実力はあるし、頼ったのはレイナさんの娘だから、ってだけじゃないのは、信じてほしい」


 そっぽに向けていた視線をレナの瞳に向けながら、そんなことを言うリルス。レナは困ったような笑みを浮かべた後で、静かに瞳を閉じて呟いた。


『これは独り言なんですけ』

「……」

『私、お母さんが憧れです。凄い魔法使いだって、心から尊敬しています。この街に来て、本当に凄い英雄なんだって知って、もっと大好きになりました。でも、だから追いかけるのは母の背中じゃなくて、自分の夢でありたいんです。それでも、母のように優秀な魔法使いと言って貰えるのなら、嫌な気分はしないんです』


 言い終えて、瞳を開くレナ。その顔に浮かんでいた表情は、朗らかな笑みだった。


『この街には、もう守りたい理由があります。お友達がいます、思い出もあるんです。もちろん、協力させてください』

「そうか……ありがとよ」

『当然のことを、するまでです』


 複雑な表情を崩したリルスの感謝に、レナは気にもしない風に微笑んでそう言った。


「おい、その話俺にも嚙ませろよ」

「ん? ああ、お前は」

『えっと……おはようございます』


 どこか荒々しく声をかけてきた青年は、その肩に白と黒の槍を抱え、不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「嚙ませろ、つってもこれはだな」

「話は聞いた。要はシャーマン共の策にかからず、実力がありゃいいんだろ? 俺はシャーマン共の術は食らわなかった。それに、感覚は敏感だから不意打ちは受けないぞ」

「……ちょっと待ってろ、ギルマスと話してくる」

「ああ、待ってるぞ」


 リルスを見送りった後レナへと視線を向けたイグニスは、どこか居心地の悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「昨日は、悪かった。態度が良くなかったと自覚している。すまなかった」

『えっ、あっ、いえ、そんな……別に、そんなことはありませんでしたよ!?』


 急に腰を曲げて深々と頭を下げるイグニスに、レナは頭を上げるように促すもイグニスは顔を上げぬままに続けた。


「いや、謝らせてほしい。昨日の俺は、別件で機嫌が悪くてな。元々気性が悪いってのはあるが、ここ最近碌に休めていなかった。性格が悪いとは自負しているが、お前には何の非もなかった。そんな奴に八つ当たりするのは、俺の人情に反する行為だった。本当に、すまなかった」

『その……そう言うことでしたら、気にはしませんし、本当に大丈夫ですが、その……これから気をつけてくれれば、それでいいです、はい』

「そうか。それなら、俺としても荷が下りるというものだ」


 慌てながらもなんとか言葉を紡いだレナに、至極真面目な表情を浮かべたイグニスは顔を上げた。


「改めて自己紹介だ。俺はイグニス、Fランク冒険者で槍使い。年は十八、敬語は不要だが……お前はもとより敬語なんだろうな」

『はい、そこら辺は、気に病まないでいただけると嬉しいです。噂くらいなら、聞いたことがあるかもしれませんが、私はレナ・クライヤ。この際隠しませんが、レイナ・クライヤの娘です。Fランク冒険者で、魔法使いです。年は十歳ですが、あまり子ども扱いされるのは好きじゃありませんね』

「そうか……いや、大英雄の娘だって言うのなら、最初からFランクなのも妥当だな。色々と背びれ尾びれが付いて噂されているような気がしたが、あながち間違っていないってことか」

『え? 例えば、どういう噂でしょうか?』


 納得したように呟いたイグニスに、噂の内容が気になったらしいレナはそう問いかける。イグニスは表情一つ変えることなく、淡々と答えた。


「例えば上級魔法をいとも容易く操るとか、賢者の弟子だとか。どっかの貴族の娘でお忍びで来ている、とかだな」

『……何でしょうね、確かにあながち間違いとも言い切れないのが気に食わないんですけど』

「ほう? と言うと、心当たりがあるのか?」

『心当たりと言うか、確信と言うか……まあ、他言無用でお願いしますよ?」


 椅子に腰かけたまま肩を落とし、どこか疲れたように語りだしたレナの言葉に、イグニスは耳を傾けた。


『まあまず賢者の弟子、と言うことに関しては母があれなので』

「それもそうだな。大英雄、賢者と呼ばれることもあり得るほどだし、その大英雄の習っていたなら、弟子ともいえるな」

『貴族の娘、に関しても実は父が元貴族でして……』

「大英雄の夫ならあり得ることだよな」

『そして上級魔法ですが、一応何個か使えちゃうんですよね……』

「いいことだと思うが、どうしてそんなに嫌そうな顔をしているんだ?」


 無感情的に遠くを見つめるレナに、イグニスはそう言う。

 彼の言う通り上級魔法を扱えることそれ自体は大変素晴らしく、他人に自慢できるようなことなのだがレナはどこか浮かない顔だ。


『実は、母に使用を禁止されていまして。他人を巻き込みかねない魔法なので、少なくともBランク冒険者になってからしか使ってはいけない、と約束しているんです。なので宝の持ち腐れと言いますか、何と言いますか……』

「なるほどな、そりゃ気落ちもするか。自分の本当の実力を存分に発揮できないってのは、むず痒いよな」

『はい……なんか、すいませんね。愚痴を聞いてもらっているようで』

「これくらいは、昨日の非礼に対する謝罪ってことで聞いてやるさ」


 どこかぶっきらぼうにイグニスが言い捨て、レナもそれを聞いて安心したように小さく笑みを浮かべた。

 そしてちょうどその時、リルスがギルドマスターであるキーレイを連れてやって来た。


「レナ、それと坊主、ちょっといいか?」

「調査に件について、話しておきたいことがあるのだ」

『構いませんよ』

「聞かせてくれ」


 四人は机を囲んで座り、真剣な表情を浮かべていた。


「まず、今回の調査についてだが、私からの指名依頼とする。報酬は弾むし、最大限のサポートもしよう。しかしその代わり君たち二人以外に人を使うことは認められない」

「……とりあえず、俺の同行は許可されたんだな」

「まあ、な。俺の方から推薦しておいた。実力は申し分ないし、レナから聞いたが、ネイトの影響でシャーマン共の厄介な術が効かないらしい」

『ですね。まあ、シャーマンたちが他の攻撃を仕掛けてきたとして、構えていれば、私がある程度は防げます』

「そう言うことも考慮して、イグニス君も指名させてもらう。悪いが、最優先で頼む」

「俺から言い出したんだ、当然だろ」


 強面のキーレイに視線を向けられようと、イグニスは少しも怯えることなくそう返した。


「それでは、即時依頼書を発行する。準備が整えば今日から、遅くとも明日までには出発し、一週間以内の成果を期待する」

『最善を尽くします』

「任せておけ。それと、報酬に追加して進級推薦も頼むぜ」

「それくらいの事なら、お安い御用だ」

「俺も推薦しといてやるよ。もちろん、レナもな」


 相手がギルドマスターであろうとも図々しく頼みごとをするイグニスをどこか尊敬しつつ、レナはリルスに向けられた視線に言葉を返す。


『はい、お願いしますね』


 こうして、レナとイグニスは出発の準備を開始した。

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