Chpater2 Episode7 祝福。
押しさしぶりですシファニーです。とんでもなく久方ぶりの更新ですが、読んでくれると嬉しいです
魔力照明が照らす部屋の中、ささやかながらもレナの誕生日祝いの準備が進められていた。ヘランとペルナお手製のケーキやチキン、サラダなどの料理を囲みながら、今、祝杯が上がった。
「「お誕生日おめでとう、レナ(ちゃん)」」
『ありがとうございます』
ヘランとペルナの祝福に、レナはとびっきりの笑顔で応える。
並べられた料理を前に、三人は両手を合わせて静かに目を閉じた。
「レナにアテネ様の祝福がありますように。いただきます」
「『いただきます』」
「さあ、食べよっか」
ペルナが、そう言って祈りの言葉を紡ぎ、ヘランとレナも続く。それから目を開いたペルナの言葉で皆はフォークを手に取った。
先程のペルナの言葉は、アテネ教に伝わる祝い事の際に使う簡単な祈りだ。ヘランもペルナもアテネ教徒ではないが、ペルナがアテネ教に所以のある勇者が好きなことと神の祝福を祈るのは誕生日には定番と言うことがあって行ったのだろう。
「レナ、たくさん食べてね」
「あんまり大騒ぎは出来ないけど、今年の目標とか、色々お話ししましょう」
『ありがとうございます。そうさせてもらいますね』
それからしばらく続いた食事と談笑。終始楽しげな雰囲気で続いた誕生日会も、終盤に差し掛かっていた。料理も残り少なくなり、話題も付きかけてきた頃。ペルナが不意にレナに問う。
「あ、そう言えばレナ。冒険者就任おめでとう!」
「そうね、おめでとう!」
『ありがとうございます……あれ? 私、試験に合格したと伝えましたっけ?』
素直に礼を言ったものの、そう言って小首を傾げたレナにペルナは明るい笑顔で言った。
「だって、レナなら絶対に大丈夫だって思ってたからね」
『そ、そうですか? ええっと、何と言ったらいいか……』
口ごもるレナに、ペルナとヘランはただただ温かい視線を送った。
「本当におめでとう、レナ。これから、頑張ってね!」
「でも、健康には気を付けるのよ? 怪我したり、困ったことがあったらいつでも頼っていいからね?」
『はい。ありがとうございます。もし、何かあった時は真っ先に頼りにさせてもらいますね』
「うん! お任せだよ!」
そうして、レナは楽しい誕生日の夜を過ごした。
その日、レナは夢を見た。ペルナと共に、宿屋で働く夢だった。毎日が楽しく、お客さんから聞く話は面白い。それでも、どうしてだろう。レナはどこか、窮屈そうにしていた。
翌朝、レナは再び宿の仕事をしていた。手慣れたもので、流れるような動作で部屋の掃除を進めていく様は、正職員のそれと変わらない。魔法を使える分、経験と言う面で劣っていたとしても効率面ではレナが勝っているかもしれない。
すっかり掃除係が板についたレナは、しかしこれまでとは違うルーティンを組んでいた。
今までであれば部屋を掃除して回った後は自由時間、その後お昼ご飯でまた自由時間。接客、夜ご飯だった流れの一部を魔法練習の時間としたようだ。と言っても自由時間を、魔法を練習する時間に変えただけなのでそこまで変化はない。
具体的な練習法としては、部屋の中で使っても安全な生活魔法等を中心に何度も使いより早く扱えるようにする、と言うものだ。
ちなみに、生活魔法と呼ばれる魔法はその名の通り生活で使えると便利な魔法の事だ。照明や掃除、換気や乾燥。温めたり冷やしたり、水を出したり着火したり。そのすべてを扱えたら魔法だけで日々を生活できるほどだが、種類が多すぎてすべて扱えるものはなかなかいない。
もちろんレナも全体の三分の一程度しか扱えておらず、また日常生活で呼吸するように扱える、と言えるのはほんの数種類だ。たまに扱う荷物運びの魔法や布のしわを熱で無くす魔法なんかはそれなりの集中を要している様子。
『さて、部屋の掃除も終わりましたし、魔法の練習をしますか』
そう言って自分の部屋に戻ったレナは、ベッドに座って両手を顔の前に持ってくる。そうして両手で空中に小さな丸を作り、そこに魔法で水を作り出した。
そしてその水を浮かべたり、空中でかき回したりする。猫の形にしてみたり、花の形にしてみたり、自在に形を変えて良く。
『もっと大量の水をうまく扱えればお洗濯やお湯はりなんかもできるでしょうか。馬車を洗ったり……いつか、水のなくて困っている人たちを助けられるほどの水を出せるようになったり、は流石に無理ですよね』
苦笑いしながら、レナは手元の水を霧吹きのようにして窓際の植物にかけてやる。赤色の花の花びらで、一滴の水が太陽の光を浴びて小さく煌めいた。
『大それた、強い魔法使いじゃなくても誰かの役に立てたなら。やっぱり、今みたいにペルナさんたちとこういう仕事をするのも、悪くない気がしてきますね。私の魔法を、たくさんの宿泊客の人たちのために役立てるのも、悪くない気がします。でも……』
小さく微笑んだレナの瞳の奥の方で、何かが暗く淀んだ。
『私のやるべきことは、もっと違うようなことのようなこともしてしまう。不思議ですね、何か目標があるわけでもないのに友達と働くことより世界を旅することの方が大切に感じてしまう。これは、私の子ども心からくる好奇心、何でしょうか……』
やがて苦笑いに変わった表情は、しかしすぐに真っすぐとした笑みに変わった。
迷いのない瞳は、しっかりと前を向き拳は小さく握りしめられていた。
『ペルナさんも応援してくれていますし、私はやっぱり冒険者として色々なところを旅して、成長します。そして、いつかお母さんのような魔法使いになるんです。昔の話はあんまりしてくれませんけど、なんとなくわかります。お母さんは、皆に褒められて、皆を助けられる凄い魔法使いなんだって!』
自分に言い聞かせるようなその言葉は、誰に聞かれることもなく部屋に響いた。
『そんな魔法使いの娘の私が、くすぶってなんていられません!』
小さく決心した後で、レナは黙々と魔法の練習を続けた。何度も光った輝きは、絶えず空気を震わせた。魔法を使い続けるレナの周りの空間は、かわるがわる変化する。魔力と言う名の眠れる力は、実態を持って捨ててを繰り返して循環する。
付与した力を散らせば再び魔力は循環する。その循環は、繰り返されるほどに濃縮され、力を増す。魔力を研磨し凝縮させる。それが、一定以上の技量を持った魔法使いが行う魔法の修業、と言うものだ。
魔法使いが腕を上げる手段としてもっとも単純で主流とされるのは、何度も魔法を使って体内の魔力を練り上げること。そうすることでより正確に、そしてより高性能に魔法は辺りに働きかけるようになる。
『特に、私は大量の魔力を持っていますからね。鍛えれば鍛えるだけ、周りの人よりも早く成果が表れやすい。堅実な努力は、きっと報われるはずですからね』
呟きながら、レナは手元に集中する。
そんな時間がしばらく続いた後で、時計の針が仕事の時間を示した。
『そろそろお仕事の時間ですね』
レナは部屋を出て、厨房へと向かう。そこではペルナとヘランが昼食の支度をしており、忙しそうにしている。
『お疲れ様です。食器を用意しますね』
「あ、レナ。よろしく」
挨拶を交わして仕事を始め、お客が来たら手に馴染んできたお盆を握って料理を配って回る。注文を受けては伝えてを繰り返し、その日も仕事を終えていく。そんな日々が、数日続いた。
そんな日常の片隅で、あるものが動き出していた。
「いひひ、あはは、くひひひひッ! あはっ、あははははははっ!」
一人の少女と、多数の黒い影。ペグアに向かって進んで行く。黒い光を伴って。暗い霧を伴って。
次回の更新も未定ですが、面白いと思っていただけたら待っていてください!
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