Chapter1 Episode24 買物。
「ねえレナ、この服なんていいんじゃない?」
『わぁ、とっても可愛らしいですね。でも、私に似合いますかね?』
フリルのついたドレスを掲げながら言うペルナに、レナは首を傾げる。そんなレナに、心配するなと言わんばかりの笑みを浮かべてペルナは言うのだ。
「もちろん! だって、レナだもん!」
ここは商店街の一角、子ども用の洋服を扱う服屋の中だ。先程からと言うもの、レナとペルナは様々な服を見ては試し、楽しんでいた。ちなみに、この店の店員もレナとペルナを一目見て嫌そうな顔をしたが、レナが耳打ちした後は手のひらを反すようににこにこと笑みを浮かべていた。
「でもレナ、このお洋服とか高いけど、買えるの?」
『ええ。実は冒険者ギルドからかなりの額の報酬を頂いていまして』
レナの言うギルドからの報酬と言うのは、キーレイが言っていた謝礼金の事だろう。実は、仕事の合間にこっそりと受け取っていて懐に仕舞いこんでいたレナだが、その謝礼の総額は百万ベルを超えていたのだ。なんと太っ腹なキーレイ、と思うと同時にそれだけの投資をしてでもレナを引き入れたいと考えているのだろう。額がその必死さを物語っていた。
それを聞いて、ペルナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「じゃあ、お揃いのお洋服買おうよ!」
『いいですけど、それって私の奢りってことですよね?』
「そうだけど、ダメ?」
『お金の関係にはなりたくありませんが……構いませんよ。ペルナさんはそんな人ではありませんし』
「うん、ありがと!」
ペルナの身勝手な物言いに、しかしレナはため息交じりに頷く。レナはもしかすると、初めての友達に舞い上がっているのかもしれないが、ペルナの無邪気な笑みを見れば、疑ってかかるなんて不可能だろう。
それから二人は一緒に服を探し、色違いのワンピースに目を付けた。
「わぁ、可愛い!」
『うぅ、私には可愛すぎる気がします……』
「大丈夫だよ! じゃあほら! レナがこっちの桃色の! 私がこっちの黄色!」
そのワンピースは白を基調にしているが、所々に入れられた刺繍の色が違っていた。それぞれが一着手に取って、試着してみて鏡の前に並ぶ。
「ふふっ、姉妹みたいだね」
『そう、ですね。こういうのもいいかもしれません』
「ね? レナはもっと可愛い服を着たほうが良いって」
『あはは、それは、ちょっと……でも、この服は買わせてもらいましょうか。ペルナさんのも、一緒に』
「うん、お願い!」
ペルナはそう言って頷いた。
それからレナは店員に声をかけ、二着分の代金を払った。今日は一旦今までの服に着替え直し、ワンピースは大切に袋の中に仕舞った。店を出て、再び人波に紛れる。
「ねえ、次はどこに行こうか。アクセサリーとか、小道具とかを売ってるお店も知ってるよ?」
『また私に買わせるつもりですか?』
「ふふっ、冗談だよ。流石に、これ以上迷惑はかけられないから今度はお金がかからないところに行こうか」
冗談っぽく頬を緩めながら返したレナに、ペルナも笑いながらそう言った。
「じゃ、行こっか!」
『はい!』
二人はまた、しっかりと手を繋いで進んでいく。
そうして二人がたどり着いたのは、ペグアの端の、小さな公園だった。ただ、何か遊具があるわけでもなく、砂場と小さなベンチがあるだけのこじんまりとした空間だ。
『ここは……何をするところなんですか?』
「公園、って聞いたことない? みんなで集まって遊んだりするところだよ」
『なるほど? 色々な人が触れ合える公共の場、と言うことですかね?』
「え? どう噛み砕いたらそんな表現になるの? たぶん合ってるけど……」
至って真面目に答えたレナに、ペルナは引き気味の表情を浮かべながら言い――
「まあ、私が小さい頃に、よくお父さんと遊びに来たところなんだ。最近は来てなかったけどね」
『ペルナさんの、お父さん……気になってはいましたが……』
どこか悲しそうに公園を見渡したペルナを、レナは何かを察したような目で見ていた。そんなレナに、ペルナは弱弱しい目を向けた。
「うん、二年前に。帝都出かけた帰りに、盗賊に襲わた、らしいんだよね。いやぁ、その。一応話しておこうと思ってね? レナは、ほら。色々と秘密はあるかもしれないけど、大切なことは、伝えてくれたと思うからさ。うん、いつかは聞かれれてただろうし」
『……教えてくれて、ありがとうございます。こんなことを言ってもらってしまいましたし、私も近いうちに約束を果たさないといけなくなりましたね。ただ、ちょっとの間だけ許してください。これは、私がペルナさんの前でレナでいるために、必要なことですから』
「ん? よくわからないけど、もちろんだよ。いくらだって待つけど、あんまり待たせないでね?」
申し訳なさそうな、それでも嬉しそうな表情で言ったレナに、ペルナは笑顔で応えた。二人の間で、小さな笑いが零れた。
太陽はもう傾き始めている。紅に色づき始めた空を眺めながら、二人の少女は約束を交わす。
「それまでの間、ううん。これからずっと、友達でいようね」
『はい、そうですね……』
視線を下げて、目を伏せたレナは、一呼吸おいてからとびっきりの笑顔をペルナに向けた。
『ずっと、友達だよ。ペルナ』
夕日を受けて淡く輝いたレナの髪が、そよ風に吹かれて小さく靡く。ペルナは両手を後ろで組んで、前のめりに頷いた。
「約束、だよ」
『ふふっ』
「あははっ」
思わず、と言った感じに零れた二人の笑い声は青い空のように透き通り、夕暮れ空のように淡く輝いた。
「それじゃあ、帰ろうか」
『うん! たくさんお買い物したから、お腹空いちゃった』
「じゃあ、私がパンケーキ焼いてあげる! さっき雑貨屋で、あのお店のとは違うと思うけど、パンケーキのレシピ買って来たから」
『あれ? そんなもの買ったっけ?』
「ううん、私が買ったんだ」
ペルナは鞄から取り出した一冊のレシピ本をレナに見せながら笑う。
「さ、行こ!」
『楽しみ!』
その後、レナの口調は自然と戻ってしまっていたけど、確かに変わった事実が残されて。二人の思い出の中に焼き付いた夕暮れは、暗闇に瞬く星々のように鮮明で。
ペルナの手作りパンケーキを美味しく食べた後で、二人は月明りに照らされた部屋の中語り合っていた。
「ねえ、レナ。私もさ、冒険者に、なってみたいかも」
『急にどうしたんですか? でも、私は応援しますよ』
「ありがと。その、ちょっとね。今日レナと一緒にお出かけして、もっと一緒に、色んな所に行きたいって思えて。レナは、もうすぐ冒険者になって、ここを離れるかもしれないけど、私もそれに、付いて行きたいなって」
あけ放たれた小さな窓から涼し気な風が吹き込んできて、二人の頬を優しく撫でる。
『すぐに離れる、なんてことはありませんよ。でも、きっといつかはそうなります。それでもここに戻ってくることはありますし、私はペルナさんとお友達でいたいです。ただ、もしペルナさんがついてきてくれるというのならそれはとても嬉しいことです。ただ、危険かもしれません。苦労するかもしれません』
「うん、分かってる。だからこそ、なってみたい、って思えたんだ」
『え?』
吹き込んでくる風を浴びながら、レナは月を見上げた。
「私はずっと、たぶんこのお店を次いで働くんだと思ってたけど、レナが来てから、一緒に過ごし始めてからちょっと羨ましいって思えて。魔法が使えて、しかも一人旅を、私と同い年で、なんて凄すぎるもん。でも、そんなレナでも謙遜ばっかだし、悩んじゃうこともある。辛くて、泣いちゃうときもある。そんなレナを見てたらさ、世界って、私が知っているよりもずっと大きくて、凄くて広くいんだなって思えた」
ペルナの瞳に宿るその光は、月光にも負けないほどに輝いていて――
月明りに照らされたからだろうか。ペルナの髪が一瞬金色に光った。
「そんな世界を少しでも知るために、旅に出たい。どうせなら、レナと一緒に旅をしたい。だから、冒険者になりたい、って思った。どう?」
『どう、と言われましても。でも、はい。とても格好いい夢だと思います。まあ、私が夢の理由、と言うのは気恥ずかしいですが』
「なんでよー、自信持ってくれていいんだよ?」
『ちょっと、抱き着かないでください!』
本気で嫌がるでもなく、じゃれる調子で引きはがそうとするレナと、それをわかって面白そうにレナに抱き着くペルナ。
二人の小さな笑い声が、風に吹かれて夜空へと流れて行った。




