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Chapter1 Episode18 仕事。

「あ、そうだ。レナ、お昼ご飯の支度を手伝ってくれる?」

『分かりました。今行きますね』


 宿の客は皆出かけ、お昼時に差し掛かる少し前、レナはペルナに呼ばれて厨房ちゅうぼうに向かった。そこにはエプロン姿のペルナとヘランがいた。ヘランが窯を見て、ペルナが包丁片手に食材を持っていた。


「じゃあ、こっちの鍋お願いね。渡すものをでてくれればいいから」

『分かりました』


 レナは長い髪を髪留めで結んで垂らし、調理の邪魔にならないようにしてからペルナに言われた鍋の前に立つ。


「あ、お水はあっちから――」

『《水付球術(すいふきゅうじゅつ)》……あ、これじゃダメでしたっけ?』

「い、いや……だ、大丈夫、うん……」


 慣れた様子で魔法を使い鍋に水を注いだレナを見て、ペルナは釈然しゃくぜんとしないような表情を浮かべながらも、小さく頷いた。そして、念を押すように言う。


「えっと、火は……」

『《火付球術(かふきゅうじゅつ)》、で良いですかね?』

「そ、それでいいよ……」


 今度は魔法で鍋の下に火を灯したレナを見て、ペルナは再び苦笑い。ガスコンロさえ開けていればレナが自分で火力を調整することが出来る。そんな調子でペルナが切った食材を鍋に放り込んではでていたレナは、ふとペルナの手元を見た。


 そこには、包丁をまるで体の一部のように操って食材を切り裂く、匠の技が繰り広げられていて。レナは思わず、見とれていた。しばらく眺めていると、ペルナが顔を上げてレナに聞いてきた。


「レナはいつも魔法を使った生活をしていたの?」

『え? あ、はい? いや、えっと……お料理とかはしたことありませんでしたけど、使える時には、使ってましたね。まあ、私じゃなくて、スラナ村のみんなが、ですけど』

「へー、レナは使ってなかったんだ?」

『私はスラナ村を出るちょっと前まで、魔法を使えませんでしたからね』

「そうなの!?」


 レナの言葉を聞いて、ペルナが驚きの声を上げる。しかし、レナの顔を見つめるペルナの手元は、食材を確かに切り分け続けている。


「ずっと魔法を使ってきたから、そんなに手馴れてるのかと思ってた」

『そんなことはありませんよ? それに、私みたいにいちいち掃除や料理で魔法を使うようなことは、普通はしませんしね。重い荷物を運ぶときや、お風呂を沸かすと言ったちょっとした重労働には使うかもしれませんが』

「それは、どうして? 魔法を使ったほうが楽じゃない?」

『そんなことあるごとに魔法を使っていては、魔力が持ちませんから。連続して使い続けると、しばらく魔法が使えなくなってしまうんです』

「へー、そうなんだ」


 興味深そうに頷くペルナの手元は、尚も動いている。


「それじゃあ、どうしてレナはいつも魔法を使ってるの?」

『私はネイトですからね。人より多くの魔力を保有できるネイチャー、《魔力増幅(マナタンク)》を持っているんです』

「え!? レナ、ネイトなの!? 私と同じじゃん!」


 そこでようやく、ペルナが包丁から手を放して体ごとレナの方を向いた。

 興奮気味に言ったペルナは、レナに駆け寄る。その間に、レナは問いを口にする。


『私も? と言うことは、ペルナさんもネイトなんですか?』

「うん、そうだよ。名前は覚えてないんだけど、物を切るのが上手になるネイチャー、だったかな? そのおかげで、包丁なんかもうまく扱えるし。ちなみに代償は髪の色なんだって。お父さんもお母さんも金髪なのに、私だけ茶髪だから」

『そうだったんですか。だからそんなに包丁の扱いが上手だったんですね』

「うん!」


 二人はお互いの共通点を見つけて嬉しくなったのだろう。作業の手を止めて楽しそうに話をしていたが、ヘランが二人に声をかける。


「二人とも、お仕事はちゃんとやってね! 休憩時間にお話ししていいから!」

「あ、ごめんね! すぐやっちゃうから!」

『すみませんでした!』


 などと二人は謝りながら、各々の持ち場に戻って作業を再開した。しばらくして、お昼時。まばらに帰って来たお客さんたちに昼食を振る舞い、後片付けをしているころ。宿の呼び鈴が鳴らされた。


「あ、レナさんお願いします!」

『分かりました!』


 食堂で後片付け、と言う公務中だったためにさん付けをされたレナは、しかし反応が遅れることなく対応する。入口の方へと向かい、お客に向かって頭を下げる。


『いらっしゃいませ! 本日はいかがしまし――』

「お、ちょうどいた。レナちゃん、で合ってるよな?」

『え? ……ああ、リルスさん、こんにちは。私に用ですか?』


 客かと思われた男性は、レナにとって見覚えのある男。長身で茶髪。どこか盗賊風の格好をした男、リルス。恐らく、シーフかそれに似た職に付いている、冒険者だ。なんでもこの街には用事があって立ち寄ったらしく、レナは成り行きでここで自分が寝泊まりしていると伝えていたことを思い出した。


「ああ、ちょっと冒険者ギルドの方へ来てくれないか? 時間があったらでいいんだが」

『ギルド、ですか? どうしてでしょう?』

「ここのギルドマスターが、お前さんに会いたいんだとよ」


 軽く言って見せるリルスに、レナは困り顔。そんなところに、ペルナが現れた。


「レナ、どうかした?」


 長引いている様子だったレナとリルスとの会話を見て、気遣ってやって来たようだ。そんなペルナに、レナは困り顔を浮かべながら話をする。


『なんでも、私に冒険者ギルドに来て欲しい、とのことでして……』

「えっと、数時間ほどでしたら、お貸しできますけど?」


 レナの言葉を聞いたペルナは、そうリルスに言った。


「ああ、三時間くらいで済むはずだ。借りて行ってもいいかな?」

「はい、どうぞ」

『え、えぇ? ま、まあ別に、私もいいですけど……』


 行くことを拒むわけでもないが、自分の意見を聞かれずに進んでいく会話に釈然としない様子のレナ。しかし、ペルナが良いというのなら、やはり断る理由もなく――


『そ、それじゃあ、行ってきます』

「行ってらっしゃい!」


 ペルナに見送られたレナは、リルスに連れられて冒険者ギルドへと向かった。


 宿を出て、ギルド前の広場に入る。そこには相も変わらず冒険者風の人たちや、観光客のような人たちがたくさん集まっていた。そんな人波をかき分けながら進んでいくリルスの背のすぐ後をレナはついて行く。

 道中、リルスがレナに話を振った。


「俺はお前さんが呼ばれている理由を知らないんだが、心当たりはあるかい?」

『知らないんですか? まあ、心当たりを言うと、先日、冒険者の方に誘われて一緒に依頼を受けたこと、とかでしょうかね?』

「それは本当か? 冒険者でもないお嬢ちゃんに依頼を手伝ってもらうとは、大胆なことするやつもいたもんだ……あ、待った。そいつ、キールって名前のやつじゃないか?」

『そうですけど……ご存じなんですか?』


 呆れたような表情を浮かべた後、何かに気付くようにして放たれたのはレナが今朝も顔を合わせたキールの名だった。


「いやぁ、キールから昨日の冒険の話を聞いてな。その後、何かギルマスに怒られてるなぁ、って思ってたら、まさかそんなことしてたのか……じゃあ、間違いなくお嬢ちゃんもキールのせいでギルマスに呼ばれたんだな。まあ、嬢ちゃんは怒られないだろうから、安心してくれ」

『やっぱり、付いて行くのはいけないことだったんでしょうか?』

「いや、誘うやつが悪いさ。一般人が出来ないような仕事を引き受けるのが冒険者なのに、一般人を巻き込むのは普通に考えてタブーだ。まあ、俺はお前さんが一般人とは、到底思えないがな」


 心底愉快(ゆかい)そうに言ったリルスは、レナに振り返った。


「たぶん、ギルマスに気に入られるよ、嬢ちゃんは」

『は、はぁ……?』


 尚も笑みを浮かべるリルスの言葉を理解しかねて、レナは小首を傾げるばかりだった。

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