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Chapter1 Episode17 心在。

 翌朝、レナはわずかにこぼれる朝日を浴びて、重いまぶたをゆっくり上げた。揺らぐ視線を無理やり上げて、それと同時に気怠けだるい体を起き上がらせる。

 欠伸あくびをかみ殺しながら目をこする。木漏こもれ日のようにカーテンをって差し込む光が浮き上がらせたのは、一人の少女の輪郭りんかくだった。


「レナ、おはよう」

『……』


 レナは、その声を聴いて一瞬固まり、目を丸くして少女を見つめる。腕をついてベッドにから起き上がり、足を床に降ろす。


「レナ?」


 少女が首を傾げて名を呼ぶと、レナは丸くしていた目を濡らして、少女に抱き着いた。


「レ、レナ!? ど、どうしたの!?」

『……』

 

 ペルナに言われたレナは、それでもぎゅっとペルナを抱きしめる。涙を流しながら、思わず零れたような笑顔を浮かべて。心底安心するような安堵あんどの表情は苦しみや悲しみ、恐怖と言う名の壁を、砕いた――


「レナ、頑張ったんだね」

『……ッ!』


 ペルナが優しく背を撫でた。レナはハッ、と息を漏らし、ただただ涙を流した。言葉にならない、声を上げて。受け止めてくれる、存在に包まれて。レナは静かに泣いていた。ペルナはただ、何も聞かずにレナを優しく抱き返していた。


 そんな時間が、一体どれだけ続いただろうか。レナが再び顔を開けた頃には差し込む光は二人を優しく包み込んでいた。


『……ありがとう、ございました』

「ううん。でも、まだ敬語かー。せっかく胸を貸してあげたんだし、もっと気軽に喋ってくれていいんだよ?」


 レナが頬を赤く染めているのは涙のせいか、それとも羞恥しゅうちのせいか。俯きながら礼を述べたレナに、ペルナは自身の胸元に手のひらを重ねながらニッ、と笑って言った。


「レナ、お疲れ様だったね。昨日はいろいろあったみたいだけど、もう大丈夫?」

『はい、おかげさまで。私も、何があったかよく覚えていませんが……こうしてもう一度会えて、嬉しいです』

「何それ、なんだか、私の知らないところで本当に大変なことがあったみたいだね?」


 生死の狭間を乗り越えたような物言いのレナに、ペルナはクスクス笑いながら返すのだ。


『はい。もしかしたら、生と死の瀬戸際を歩いていたのかもしれません。でも、こうしてペルナさんの前に立っている自分がいると分かって、安心してしまいました』

「うんうん。ただでさえ知り合いもいないようなところに来て、不安なんだから、もっと頼っていいんだよ? レナはきっとすごい人。魔法がそんなに使えて、やりたいことのために必死になって。私と同じくらいなのに、冒険者なんて言い出すんだもん。でも、レナも私と同じ子ども。だから、さ。誰かに頼っても、甘えてもいい。だから、頑張ってね」


 ペルナの物言いは、とても子どものそれとは思えない。それでも、ペルナの浮かべる純粋無垢じゅんすいむくなその笑みは、レナを優しくふんわりと包み込む。


 レナは、そっと微笑んだ。


『ありがとう、ペルナ……さん』

「ちょっとー!? なんでそこで付け足しちゃうの!?」

『い、いえ、その……こんなありがたい言葉を受け取って置いて、敬意を払わないというのも、何と言うか、その……』

「まったくもう。いいんだよ、そう言うのは。友達っていうのは、そういうのじゃないの!」

『友、達?』


 軽く頬をふくらませながら抗議するペルナの言葉に、レナは思わず、と言った感じで反応してしまう。


「そう、友達。私たちは友達、でしょ?」

『……はい。友達、です』

「だから、いつだって呼び捨てでいいし、敬語じゃなくていい。困ったときは頼ってくれいい。私も頼る。ね? 素敵だと思わない?」


 ペルナの悪戯っぽい笑みは、レナの微笑みを。心からの喜びを、引き出せたのかもしれない。


『うん!』


 朝日に照らされた小さな部屋の中、お互いに笑顔を浮かべ合い、見つめ合った二人は自然と笑い出した。


「あはは!」

『ふふっ、なんだか、面白いですね』

「うん、楽しいよ! さあ、早く支度して! 今日もお仕事が始まるよ!」

『はい!』


 ペルナに手を引かれ、杖を抱えたペルナは一つ扉をくぐって、外へと飛び出した。


「やあ、レナ。調子はいいのか?」

『あ、キールさん。おはようございます。はい、元気ですよ。朝食ですか?』

「ああ、チキンライスを頼むよ」

『かしこまりました!』


 お盆片手に食堂を行ったり来たりしていたレナの下に、防具や武器を外した状態のキールがやって来た。元気そうに働くレナを見たその顔には、安堵の表情が浮かんでいた。

 しばらくすると、チキンライスを持ったレナがキールのところにやって来た。


『お待たせしました』

「ああ、ありがとう。後で、少し話を出来るかい?」

『はい。もう少し待っていてくださいね』

「分かった」


 それだけの会話を交わし、レナは仕事に戻る。先日働き始めたばかりのはずのレナが、てきぱきと仕事をこなすのを見て微笑みを浮かべながら、キールは食事を始めた。


 それから一時間もすれば食堂に残っているのは後片付けをするレナと、キールだけになった。レナは一通りの仕事を終えたのか、一度厨房(ちゅうぼう)に戻ってからキールの元へ向かった。


『お待たせしました。許可を頂いてきましたので。それで、お話って?』

「ああ、ちょっと昨日のことについて。まあ、とりあえず座ってくれ」

『はい』


 キールに勧められて席に着いたレナは、改めてキールに問う。


『それで、どんな要件でしょうか?』

「とりあえず、昨日はすまなかった。謝罪させてほしい」

『えっ!? ど、どうしてですか!?』

「俺たちの不注意で、君を危険な目に合わせてしまった。これは、冒険者としてあるまじきことだと、理解しているつもりだ。本当にすまなかった」


 突然に頭を深く下げたキールの様子にレナは慌てふためいたが、キールの言葉を聞いて納得したように頬を撫で下ろす。


『そのことなら、お気になさらず。私は、その、あまり記憶がはっきりしていませんが、皆さん、無事に帰れた、んですよね?』

「ああ、君のおかげで全員無事だよ」

『それは良かったです。……私は、同行すると決めた時から、危険が伴うことは覚悟していました。それに、皆さんのお役に立てたのなら、それだけで嬉しいです』

「そう言ってくれて良かった。……じゃあ、今度は報酬の話かな」


 笑みを浮かべたレナに、キールも安心したのか頬を緩ませる。


「今回の報酬はかなりの額のベルと、俺たちの昇格だった。昇格は、レナの件があるから何とも言えないな。俺たちの責任だし、気に病むことはないが、子どもを危険なことに巻き込んだとなっては、ギルドマスターも黙ってないかもしれない。でも、約束通り報酬は払わせてもらおう。全報酬の、四割でどうだ?」

『そ、そんなにですか!? い、いえ、私はもっと少なくても……っ!』

「今回の功労者は間違いなく君だし、迷惑料と言うか、慰謝料と言うか。受け取ってもらえると助かる」

『そう言うことなら、ありがたいですが……』


 キールの言葉に、納得しかけるものの何とも言えない表情を浮かべていたレナの横から、突然声が聞こえてきた。


「レナ、貰っておきなさい。と言うか、それくらい貰って置かないと損してるわよ?」

『ペ、ペルナさん!?』

「君は昨日の……まあ、そうだね。彼女の言う通り、これくらいは貰っておいてくれ。そうじゃないと示しが付かないし……何なら、もっと貰ってほしいところだけど、レナなら断ると思ったからね」

『わ、分かりました。お二人がそう言うのなら、ありがたく、貰いたいと思います』


 二人の勢いに流されて、レナは曖昧ながらも頷いた。それを見て、キールは満足そうに笑った。


「よし! それじゃあさっそくギルドに行ってくるよ! 昼頃には帰ると思うから、待っていてくれ!」

『は、はぁ……』

「それじゃあまた!」


 明るい笑顔で去って行ったキールの背中を、レナとペルナは静かに見送った。レナは困り顔を、ペルナは意地悪い笑みを浮かべて、だったが。

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