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Chpater1 Episode16 秘密。

「す、凄い……ッ!」

「レナ、魔法使いじゃなかったのか!?」

「あの剣術? いや、体術はまさか……」


 一瞬にしてゴブリン五体を処理したレナを見て、三人が驚きの声を上げた。そして、狭い空間に入り込んでは邪魔じゃまになるだろうとレナとシャーマンとの一騎いっき打ちを見守る。

 いや、助けに入ろうと思うひまがないほどに、レナの迷いない動きに魅了みりょうされていた。


 ギギャアアァッ!!


 シャーマン。それは、ゴブリンの上位種。たまに現れる人並み程度の知恵を持つゴブリンで、体躯たいくこそ変化はないが他とは比べ物にならないほどに策士だ。もし誕生すればその一体を中心に何百体ものゴブリンが指揮下に入って群れを築く。そうして作られたゴブリンの群れは普通のゴブリンたちの群れの何十倍も厄介になる。

 そのうえ中には魔法を扱えるものもおり、基礎魔法や初級魔法、確認されている中には中級魔法をも使うシャーマンが現れたという。極めて厄介な魔物だ。


 レナと対峙するシャーマンを見れば、肌は薄緑色で、襲った人間から奪ったのか装飾品などを身に着けており、これまたうばったのであろう杖を抱えていた。

 動きこそ俊敏しゅんびんではないが、レナの動きを追って魔法を放つ。ただ、高が人並み程度のゴブリンの知能で、レナの動きに対応するのは不可能だった。


 レナは目と鼻の先まで迫った拳大の石を半身になってかわす。一歩を踏み込み、連続して放たれた石を身を屈めることで避け、シャーマンの目の前まで迫ったところでシャーマンが振り下ろした杖を、ダガーを振り上げることで切り裂いた。


『これで、終わりです!』


 振り上げたダガーを、下に返す。たったそれだけでキールとブラインを苦しめたシャーマンは、血を滴らせながら地にすのだった。


「レナちゃん、格好いい!」

「おいおい、想像以上にやばいな!」

「ああ、助かったよ。ありがとう」


 ゴブリンを切り裂き、静かに佇んでいたレナに三人が声をかける。しかし、皆の賞賛を受けてなお、レナは静かに立っているだけ。


「レナちゃん? どうかした?」


 ニーナが回り込んでレナの正面へと回り、その顔を覗き込む。すると、瞳はそっと伏せられていて、頬は赤く染まっていた。そして、ふらっ、と前のめりになるレナの体。


「レナちゃん!?」


 とっさにニーナが受け止め、キールとブラインも急いで駆け寄る。レナは、荒い息を吐いて苦しそうにしていた。


「っ!? 無理しすぎたんだ! ここは空気が薄いし、突然あれだけ動いたらそりゃあ負荷がかかる。おい! ブラインは万全じゃないだろうし、レナは俺が担ぐ。ニーナは《収音(サーチ)》で案内してくれ。視界が悪いが、壁沿いに進んでいけば大丈夫だろう。こんなところで火を焚いたら命とりだからな」

「分かった。集中するから、あんまり声はかけないでね」

「ああ、頼んだぞ」

「荷物は俺が持つ。さあ、急ごう」

 

 キールがニーナからレナを預かり、ブラインがレナの杖やキールの荷物を抱えたのを確認して、ニーナは元来た道を戻って行く。幸いなことに洞窟どうくつには発光性の苔が所々に生えており、真っ暗闇ではなかった。

 僅かな明かりとニーナの耳を頼りにして、三人が急いで洞窟を抜け出す頃には、日は遠くの山に沈みかけていた。


「クソッ! 暗くなる前に帰るぞ! 今の俺たちじゃあ、夜行性の獣に襲われただけで全滅だ! それに、早くレナを休ませないと」

「分かってるよ! ブライン、ほら荷物貸して。手伝うから、走るよ!」

「ああ、助かる。よし、行こう」


 三人はペグアへと急いだ。キールはレナを背負っており、背中を気にしながらであったが剣士として鍛えた体感のおかげが、かなり早く走ることが出来た。おかげで、行きの半分ほどの時間でペグアに辿り着けた。

 その頃には、日は完全に沈んでおり、街は魔道具で作られた街灯の明かりに照らされていた。


「とりあえず、レナが働いていた宿に連れて行こう。そこなら、寝かせられるだろう」

「うん。ギルドへの報告は、後回しかな」

「まさか、こんな小さな子を巻き込んで危険に晒したなんて知れたらギルドマスターにさんざん怒られそうだが……仕方ないな」

「その時は俺が責任を取るさ。急ごう」


 僅かに頬を緩ませながらも、キールたちは宿への道を急ぐ。十分ほどでたどり着き、中に入った。着いた頃には、皆息を切らしていた。


「あ、お帰りなさいませ。えっと、そちらのお二人は?」


 そんな三人を出迎えたのはエプロン姿のペルナ。丁寧口調でペルナが質問をしたのはキールだ。ニーナとブラインは別の宿なので、客としての認識はないのだろう。


「あ、ああ、ちょっとな。そ、それより、この子の部屋はどこだ?」

「この子? ……って、レナさん!? ど、どうしたんですか!?」


 キールが半身になってペルナにぐったりした様子でキールに負ぶさるレナを見せた。ペルナは驚きの声を上げ、半ば怒りをあらわにした表情でキールに問いただす。


「その、突然激しい運動をしたもんだから、この調子でな。寝かせて休ませれば、すぐに良くなるだろう。部屋に案内してもらえるかい? 運ぶから」

「……こちらです。お二人は、そこでお待ちください」

「う、うん」

「分かった」


 キールに言われ、姿勢こそいつも通りに戻ったが不安そうな表情を浮かべたままのペルナは、ニーナとブラインに待機を命じ、キールを連れてレナの部屋へと向かった。

 部屋の扉を開けて、ペルナの案内に従ってキールがレナをベッドに降ろす。


「その、すまなかった。レナの力を借りたいと思って頼ったが、こんなことになるとは思わなく――」

「いいです。これは、レナが決めたことです」


 申し訳なさそうに言うキールの言葉をさえぎり、ペルナは強い口調で、真っすぐな瞳でキールを見ながら、にらみながら言う。


「でも、覚えておいてください。もしレナに何かあったら、その時の責任はあなたに取ってもらいます。この子は、行く先の当てもなくこの街を訪れ、私たちを頼ってくれた、優しい人です。確かに魔法が使えるのは凄いです。きっと、頭もいいんでしょう。それでも、あなた方が頼り、負担をかけたのが、幼い少女だということは、しっかりと覚えておいてください。そのことを責めるつもりはありません。きっと、この子は謝罪も受け付けないでしょう。でも、だからこそ忘れてはいけませんよ」

「……ああ、分かった。肝に銘じるよ」


 はっきりと告げられたその言葉を、キールは真摯しんしに受け止めた。

 それを見届けて、満足そうに頷いたペルナは僅かに頬を緩めてキールに言う。


「レナさんのことはお任せください。お客様は、お休みになられてください」

「ああ、助かるよ。また明日、様子を見に来る」

「はい、そうしてくださいね」

「それじゃあ」


 キールはそう言って、静かに部屋を出て行った。後ろ手に扉を閉める。


 それを見届けた後で、ペルナは静かにレナが寝そべるベッドに腰掛け、レナの顔を見る。横になったからだろうか。すでに息は整っており、心地よさそうな寝息を立てている。目元にかかった前髪を、ペルナがそっとどけてやる。


「レナ、よく頑張ったね。本当は、私が一緒に冒険者のお手伝いをしてあげたいくらいなんだけど、そうもいかないからね。でも、一人で頑張って、大人の人に頼りにされて。必死になって努力して、へとへとになるまで全力を出して。まだ出会ってほとんど経ってないし、お話もしてないけど、私はレナが一番のお友達だと思ってるよ」


 静かに、誰に伝えるでもなく紡がれたその言葉は、月明りに照らされたレナの顔に、そっと触れた。


『私にとっても、ペルナさんは大切なお友達ですよ』

「え?」


 微かに、レナの声が部屋に響いたように聞こえた。曖昧あいまいで、消える寸前のような音だったため、ペルナはレナが言葉を発したようには思えなかった。見てみれば、レナはぐっすりと眠っている。寝言にしても、口が動いている様子は見受けられなかった。


「……うん、嬉しい」


 それでも、ペルナはそう言うのだ。

 

 レナに布団を優しくかけてやり、静かに部屋を出る。


「おやすみなさい、レナ」

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