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Chapter1 Episode12 迷索。

『ダンジョンって、確か死者の怨念おんねん邪悪じゃあくな魔力がコアになって、地霊ちれい融合ゆうごうすることですることで生まれる地下施設、ですよね?』

「そうそう、そんな感じ。今回は採取依頼で、ダンジョンに出てくるゴブリンの角を十個集めるの。なんでも、魔道具に使うんだとか」

「まあ相手はゴブリンだし、そんなに時間はかかんないと思うけど、遅くなっても日が暮れるまでには帰れるから、安心してくれ」


 ペグアの南門から出発し、街道を外れて東の方へ。森の中の獣道を進みながらレナとニーナが話をしていると、キールがそう言ってきた。


『それは安心ですね。……そろそろ見えてきますかね?』


 キールの話では、もうそろそろダンジョンの入り口が見えてくるはずだ。

 レナが道の先を見ていると、洞窟のような横穴が切り立った崖に開いていた。


「お、あれがダンジョンだな」

「楽しみだね!」

「真面目にやれよ?」


 などと言うキールたちの言葉を聞きながら、レナはどこか嫌な予感を覚えていた。

 しかしそれは初めてのダンジョンに緊張しているのだろうと考え、頭を振って振り払う。その後、続々と中に入っていく三人に続いてレナもダンジョンの中へと入っていく。


「本当に凄いね、魔法がこんなに上手に使えるなんて」

『そう、ですかね? お役に立てているのなら幸いです』


 中に入ってからはレナの魔法、《火付照術(かふしょうじゅつ)》の明かりを頼りに暗がりを進んでいく。杖の上に長時間、小さいながらも明かりを保持し続けるレナを見て、ニーナが感嘆の声を上げた。


「でも、キールもよく見つけたね、レナちゃんを」

「たまたまだけどな。それでも、こんな幼いのに生活魔法を当然のように扱えるなら噂にもなるさ。本当に助かってるよ」

「ああ。俺たちだけじゃあ、荷物も数倍に増えて、進行速度もずっと遅かっただろう」

『それは良かったです。このまま進めばいいですか?』

「ああ、頼む」


 キールに言われて、レナは明かりをかざして奥へと進んでいく。このダンジョンと言う名の迷宮は、かなり入り乱れているようだ。四方八方へ伸びるいくつもの道。洞窟のようだがどこか人工的に作られた迷路のようだ。岩肌を伝って進んでいけば人二人が通れるかどうかの横幅と、二メートル程度の高さの道が続いている。

 ただでさえ狭い通路で、重装甲のブラインは特に動きにくそうだ。


『ちなみに、道のりはこちらであっているんでしょうか?』

「ん? ああ、ゴブリンはこの洞窟の至る所に湧いてくる。適当に歩いていれば、いつか巣が見つかるって話だ」

『……それ、大丈夫ですか?』

「どういうことだ?」


 ここまで適当に歩いてきたのに何も言われなかったことに違和感を覚えたレナがキールに問うと、キールは何でもない風に返したが、レナは冷や汗を流した。


『もしかしたら挟み撃ちにされたりするってことですよ、それ』

「え? いやいや、ゴブリンって小鬼だろ? そんな知能あるわけ――」

「待って! 近くに何かいるよ!」


 レナとキールが話していると、ニーナが声を上げた。その表情は先程までの明るいものではなく、緊張感をまとっていた。


「前に、小さいのが三人、いや、三匹くらい。ゴブリンかもよ」

「お、やっと来たか。それじゃあ、レナ、下がっていてくれ。ここは俺たちがやるから」

『い、いえですから……と言うか、どうしてニーナさんは気付けたんですか? 足音も何もしないんですけど』


 キールがレナのわきを通って進んでいく中、レナはニーナに疑問をぶつける。


「ああ、これは《収音(サーチ)》って言う特技術とくぎじゅつだよ。シーフやってる人は大体使えるかな。簡単に言えば耳が凄くよくなる、ってもの」

『特技術と言えば魔力を使った特別な技術でしたっけ。魔法、武技ぶぎ、特技術。確かこの三つが人の魔力の主な使い道のはず』

「うん、そうだね。この特技術はギルドの人に教えてもらったんだけど、簡単だし、レナちゃんでもできるようなものなの。ただ、あんまり覚えようとする人はいなくてね。地味だし、簡単と言ってもそれなりに時間がかかるから。良かったら教えてあげるけど」

『そうですね。使えて損はないでしょうし、また今度お願いします。でも、今はゴブリンです』

「そうだね。お喋りはまた今度にしよう」


 二人は話を区切り、先を行くキールとブラインを追って狭い通路を進んでいく。そしてすぐにニーナの言う通りゴブリンと遭遇そうぐうした。


 ギギギィ!

「お! ゴブリンがいた! ブライン、やるぞ!」

「おう!」


 そんな二人の声が聞こえて、レナも前の方を覗き込む。すると、ペグアに来る最中にも見た、薄緑色の体の小さな体躯の小鬼がいた。片手でこん棒を持つ個体が二つ、さびた剣のようなものを持つ個体が一つ。

 ニーナが事前に言っていた通り三匹いるようだ。


 そのうちの一体とキールの間で早速戦闘が始まった。


「この!」


 キールは狭い通路でも剣を扱えるよう、ゴブリンに向かって垂直に剣を突き刺した。ほんの子ども程度の背丈しかないゴブリンはその一撃だけで心臓を貫かれ、絶命する。その後は流れるように勢い任せでキールが残りの二体も仕留めてしまった。


 あたりに、生臭い臭いが充満じゅうまんする。


「よし、あと七体だな。ニーナ、角を回収しておいてくれるか?」

「うん、分かった!」


 ニーナはゴブリンの死体に駆け寄り、ゴブリンの頭に付いていた角だけをダガーで切り取って腰に付けていた袋に入れた。三つ回収し終わったのを確認して、キールがレナに言う。


「レナ、明かりを頼む」

『分かりました』


 再び、レナを先頭にして暗がりを進んでいく。心なしか通路はさらに狭くなっている。

 しばらく進むと少し開けた空間の後に分かれ道があった。


「ここらでいったん休憩しておくか。腹も減ったし、息も詰るだろ」

「賛成ー、もうくたくただよ」

「まあ、腹が減ってはなんとやらともいうしな」

『それじゃあ、お水だしますね』


 適当なところに腰を掛け、壁に背を預けた四人は用意していた保存食を食べ、レナが魔法で出した水でのどをうるした。それから三十分ほど交代で見張りをしながら休憩を取る。

 そしてみんなが休憩を終えたところで、誰からともなく立ち上がり再び進んでいく。


「レナ、もう少しだけ頼む」

『はい、心得ました』


 レナを先頭にして、分かれ道を右へと進んでいく四人。洞窟のかなり奥まで進んできたこともあり、終わりが近いと肌で感じているのだろうか。今までのような無駄口はなく、真剣な表情を浮かべている。

 通路は、さらに狭くなっていく。


『……これ、やっぱり嫌な予感がします。いったん戻りませんか?』

「大丈夫だと思いたいが……そうだな。こんな狭い場所で奇襲でもかけられたらたまったもんじゃない。その勘を信じて、いったん戻ろうか。ニーナ、下がってく――」

「待って」


 キールがニーナに戻るように指示を出そうとして、ニーナがそれを小さな声でさえった。ニーナの様子を見て、キールやレナ、ブラインも声を潜めて話をする。


「ニーナ、何かいたか?」

「たぶん、この先にゴブリンがいる。さっき聞いた足音と似たようなのが聞こえてくるの。五、六……ううん、もうちょっといるかも」

「そんなにか? だったらそれこそ、いったん下がったほうが」


 ニーナの言葉に、ブラインがそう提案するがキールが否定する。


「いや、一方通行の通路ならブラインが前に立てばゴブリンにやられることはないだろう。数がそろっているのなら、倒してしまおう。依頼も達成できるし、それでいいだろう?」

「で、でも、流石に多くない?」


 キールが言うと、ニーナが心配そうにそう言った。しかし、ブラインもキールに賛成する。


「いや、やろう。依頼をしっかりこなして、D級パーティとして認められる。その目標を達成するためには、これくらいの危険は冒していかなければ」

「……う、うん、そうだね。レナちゃん、もしかしたらここから先は危ないかもしれない。いざってときは、先に逃げて良いからね」

『いえ。ここまで来たからには、しっかり最後までお供しますよ』


 そうして四人はさらに奥へと進んでいく。

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