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Chpater1 Episode10 街散。

「おはようございます、レナさん」

『おはようございます、ペルナさん。まずは何をしましょうか?』


 翌朝。レナはペルナに呼ばれて厨房ちゅうぼうに来ていた。


「朝はほとんどやることがないので、食堂で接客をお願いします。お客様方が出掛けたら、部屋のお掃除です。食器洗いは私たちがやるので、よろしくお願いしますね」

『分かりました。それじゃあ、まずは注文を取ってくればいいんですよね?』

「はい、お願いします」


 そんなペルナのはげましを受けて、レナは食堂へと歩み出した。


『ご注文おうかがいします』

「ん? ああ、それじゃあチキンライスを」

『かしこまりました。少々お待ちください』


 席に座っていた男性客に優雅ゆうがにお辞儀じぎをして、レナは厨房へと引っ込んで行く。そして、それを見ていたペルナはやはり驚きの声を上げる。


「えっと、ペルナさん、どこで礼儀作法を習ったんですか?」

『え? 父から習いました。あ、チキンライスお願いします』

「あ、はい。了解です。お母さん、チキンライスだって!」

「分かったよ!」


 ペルナの声を聴いてヘランが調理をはじめ、レナは再び食堂へと出かけた。


「レナさん、本当にハイスペックだなぁ……」


 そんな風に呟いたペルナは、ヘランの手伝いのために食材を取って切り始めた。


「よし、お客さんは一通り出掛けたし、部屋の掃除をお願いしますね」

『了解です。行ってきますね』


 そう言って杖を片手に各部屋を回るレナ。置かれている荷物には触れないように、それでも魔法でそれらを持ち上げながら床や壁、寝具や数の掃除を進めていく。しばらくしてほとんどの部屋の掃除を終え、レナが食堂に向かうとペルナが声をかけた。


「あ、レナさん。休憩していいですよ。お疲れ様でした。十一時くらいまで自由時間にしてください」

『分かりました。それでは、少しお出かけしてきますね』

「はーい、行ってらっしゃい!」


 レナが言うと、ペルナはそう言って見送った。厨房の中では、二人が食材を加工していた。きっと、昼食の支度をしているのだろう。レナはそんな二人を尻目に宿屋を出た。

 杖を抱え、ダガーを携えたレナは涼しくなってきた街を散策する。


『あったかい服装で来て良かったです。一応、魔法で服の洗濯もすぐにできるので一着あれば生活していけますが、寒さ暑さだけは一着では調整できませんからね。夏服はお金をためて買えばいいですし、いい判断でしたね。さて、休憩時間は二時間くらい。どこに行きましょうか』


 レナは独り言ちりながら街並みを見て回る。どこか目的を持って歩かずとも、新鮮な景色を眺めているだけで十分楽しそうだ。

 

 ペルナが言っていた帝都で行われる武闘大会のせいか、それともいつも通りなのか人通りはかなり多い。大通りへ出たレナは人波をかわしつつ、何とか進んでいく。どうやらレナは街の真ん中の方へと向かっているようだ。


 そのまま屋台や雑貨屋からの誘惑に耐えつつ、レナがたどり着いたのは一つの大きな教会のようなものだった。


『これは……ああ、掲示板にあったアテネ教の教会ですね。私は宗教についてはよくわかりませんが、かなりの規模の宗教なんですね。ペグアの真ん中に、こんな大きな建物を構えるのですから』


 そんな風に感嘆の声を上げていると、レナの肩を誰かが叩いた。レナがそれに反応して振り返ると、そこには聖職者風の柄の純白の鎧を着た男性が立っていた。かなり大柄で、首元から十字架をぶら下げているのを見るに、神アテネに仕える聖騎士か何かだろう。


「お嬢ちゃん、教会に何か用かい? よかったら、案内するよ」

『いえ、ちょっと見てみようと思っただけなので、遠慮しておきます。中を詳しく見たくなったら、お願いします』

「はは、そうだったか。いや、俺はここに勤めているわけではないんだ。久しぶりに寄ったら教会を見ている君を見かけたからね。いや、悪かったね」

『そうだったんですね。それじゃあ、私はこれで』

「ああ。君にアテネ様の祝福がありますように」


 レナが背を向けて歩き出すと、その男は十字架を握ってそう言った。


 見送られたレナは今度は裏路地を通って冒険者ギルドの方、と言うよりは宿屋に戻るべく進んでいく。片道一時間かからない程度の距離なので、ちょうどいい時間で帰ることが出来そうだ。


『裏路地も裏路地で、迷路のようと言うか、怪しい雰囲気と言うか。なんだか新鮮でいいですね。背の高い建物に挟まれた人の少ない道、と言うのも悪くないものですね』

 

 などと空を見上げながらレナは自身の方向感覚に頼ってもと来た方へと戻っていく。たまに真っすぐだけではない道があるが、道は続いているはずだと勘に従って進んでいく。順調に宿の方に近づいていき、そろそろかとレナが考えていた時、近くから女性の悲鳴のようなものが聞こえた。


『ん? 今のは……?』


 レナが声のしたほうに小走りで向かうと、二十代後半のように見える女性を三人の男が囲んでいた。


「なあ、俺たちと遊んでいかねぇか?」

「断ってくれても構わねぇが、俺たち今金がねえんだ」

「少し貸してくれねぇか?」


 ガラの悪そうな男たちは女性を壁に追い込みつつにやけた面で言っていた。


「や、やめてください! このお金がないと、家族が!」

「いやいや、ちょっと遊んでくれるだけでもいいんだって!」


 明らかに困っている様子の女性と、詰め寄る男たち。そんな構図を見て、レナは一人呟く。


『困っている人を助けるのは、大切なことです。善行を積めばいいことがあると、お母さんも言っていました。……よし、あの女の人を助けましょう』


 言いながら、抱えていた杖を地面に置く。


『と言ってもこんなところで魔法を使ったら周りに被害が出るかもしれませんし、今回はこっちの出番ですね』


 左手で逆手にダガーを構えたレナは、路地裏の角から出て女性と男たちのもとへと向かう。男たちに気付かれないように足音を消して。ふと、女性の視線がレナに向いたが、レナは口元に人差し指を立てて微笑んだ。


 そして、一人の男の真後ろに立った。レナがその男の服の裾を引っ張る。


「なあ、姉ちゃん聞いて――ん? 誰だ?」


 などと呆けた声を出す男が振り返ると、その男の目の前にレナの膝が迫っていた。


「え――」


 狭い路地裏の反対側の壁を蹴り、高く飛んだレナは男の顔に膝蹴りをかました。


「ふごぉっ!?」

「ダイズ!? お、お前何者だ!」

「が、ガキだからって許さないぞ!?」


 レナの膝蹴りを食らった男はそのまま壁に後頭部を打ち、気を失ってか力なく壁に寄りかかった。レナはその場に音を立てずに着地する。


 仲間の一人がやられて取り乱したのか、レナの右側の男がレナに飛び掛かる。

 レナは身を屈めてそれを躱し、背後に回って肘で後頭部を打つ。男はバランスを崩して地面に倒れた。


「レオまで!? も、もう容赦しねぇぞ!」


 そう言って最後の男がナイフを取り出し、レナに切りかかる。それに対抗するようにダガーを掲げたレナは軽くそれを受け流し、男の勢いを逸らす。レナはすぐに体を低くし、重心がずれた男の体に足払いをかける。


「ふがっ!?」


 あごから地面に落ちた男は悲痛な声を上げながらも起き上がろうとし――


『それ以上動かないでください。切れちゃいますよ?』


 ――首に突き付けられたレナのダガーを見て、動きを止めた。


「うっ……な、何だお前、子どもじゃないだろ……」


 男が悔しそうにそう呟いたすぐ後、何者かの足音が近づいてきた。レナが警戒するように足音のしたほうを見ていると、その道の角から長身の男が現れた。


「今悲鳴が聞こえ、って、何事だ!?」


 緊迫感のある表情で登場したその男は、レナと女性、その後に倒れ伏す三人の男たちを見て驚きの声を上げた。

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