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いのちの詩(仮題)

仕舞うことから

作者: 浮き雲

ひとつの主題のもと短歌の形式で詩を作ってみました。



共箱(ともばこ)に仕舞う



代えがたき茶盌を割った哀しさを包んで仕舞う共箱の中



共箱に仕舞うつもりの志野焼に野花を入れてしばし楽しむ






レコードを仕舞う



あの人が幾度も聴いたアルバムの指紋を消せずそっと仕舞いて



レコードの奏でる曲は仕舞われた「時間」を我にくれただろうか






店仕舞いが増える



またひとつ店の仕舞いてゆくらしい コロナの前に馴染む店なり



駄菓子屋の()かぬ扉に仕舞われた幼き頃の楽しき思ひ出






仕舞われたままの又は仕舞えないままの季節



仕舞われた蒸籠(せいろ)(うす)(きね)をみて皆まだ若き時を思いぬ



色づいた金柑きんかんの実よ 仕舞う母なき庭先は冬も華やぐ






仕舞えぬままの想い



読み終えて仕舞う書棚に白秋の詩集がきみを思い出させる



恋ならば仕舞えるものを仕舞えずに想う片身はきみの他なく
















共箱:陶磁器などで、製作者から作品を譲り受ける際に、製作者が署名押印をして添えてくださる箱のことです。


志野焼:岐阜県美濃地方で、古くは安土桃山の頃に焼かれたもぐさ土を手回し轆轤で成形して長石釉をかけた、日本のやきものらしいやきものです。


レコード:CDやDVDなどのデジタルパッケージメディア以前の塩化ビニールの円盤に音楽情報をプレスした媒体です。音楽情報が刻まれた溝の深さや左右の振幅として記録されており、針でその情報を振動として取り出し、モーターと逆の発想で電気信号に変えて、それを増幅して音楽を再生する仕組みです。最近、ファッションと音の良さの両面から、ちょっとしたブームのようです。


蒸籠:中華点心を蒸す蒸籠は丸いものが多いですが、私が覚えているのは、積み上げて使う四角い木製容器です。底は縦横に木組がされていて、大きなすき間が開いています。ですので、使うときはむしろやあじろのようなものを敷きます。

記憶にあるのは、なんといっても餅つきで、もち米を蒸すのに使っていました。下の蒸籠が焦げないように、湯を沸かす金属容器と蒸籠の間には濡らしたタオルがぐるりと張り巡らせています。


金柑:小さな柑橘類です。皮は甘く良い香りがしますが、実のほうは生で食べると強い酸味と苦みがあります。ものの本には甘みと酸味のバランスが良いと書いてあったりしますが、実際には甘露煮にして皮ごと食べることが多いような気がします。


白秋:言わずもがなの北原白秋氏です。福岡県柳川市の商家のご子息で、明治期から戦前まで活躍した詩人で歌人、童話作家で童謡作家さんです。中国の五行思想の五時五色ではありません。





茶盌は本当に割りました。かなりショックでした。預かりものという気持ちで所有していましたので、経済的損失のほうではなく、残るべきものを残せなかったことのほうに、いまもじくじたるものがあります。我ながら青くなって破片を拾いました。破片ととも共布に包んで仕服に入れて仕舞ったのですが、実は、いまでも尾を引いていて、共箱を開けることができません。いつか受容できる日がきたら、金継に出そうと思っています。また違った生命が宿れば、せめても納得ができそうな気がします。

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