地底怪獣
「洞窟探検しようぜ」
ケンちゃんがそう言って、僕たちはそれに賛成した。
「ねえ、危ないからやめようよ」
紅一点のミサキちゃんが反対した。
「女は意気地がないなー」
男の子たちは笑った。ミサキちゃんは、黙ってついてきた。
大きな洞窟だった。入り口は立ち入り禁止の立て看板と有刺鉄線があったが、僕らはそのわずかな隙間をかいくぐり、中へ侵入した。
懐中電灯で照らすと、でこぼこした大岩が四方を囲んでいた。
「しめ縄が祀ってある」
「その先へ進もうぜ」
押し黙ったままのミサキちゃんは、顔面蒼白だった。
「ミサキ、無理すんなよ?帰ってもいいぜ」
ミサキちゃんは首を横に振った。
男の子の中でやっていけてるのは、この負けん気の強さによると思われる。
岩の隙間に通る細い道を進んだ。曲がりくねり、下へ向かっていた。道はやがて足元に水がチョロチョロ流れ始めた。
ざあああ。
水の流れる音が反響していた。どこかに川が流れているらしかった。
「あっち、明るいぞ」
誰ともなくそう言って、進んで行くと、蛍光する苔が生えている場所に出た。
「すげー、ボアボアしてる」
靴で苔の塊を踏みしめて先へ進んだ。
ガクン。
うわあああ!
誰ともなしに叫んだ。洞窟の、底が抜けたのだ。
苔の塊と一緒に僕らは落下した。
バシャバシャ。
水の中へ落ちた。幸い浅かった。苔の塊がクッションの役目になってみんな怪我しなかった。
「ここどこだろう?」
「ずいぶん落ちたなぁ」
蛍光する苔のおかげで辺りは薄明るい。壁を伝って水が流れ落ちているのが見えた。
きゃー!
ミサキちゃんの叫び声がした。僕らはギョッとして振り向く。
大人の背の高さほどもあるオオトカゲが直立して、獲物を捕食中だった。
獲物ーミサキちゃん!
ごぶごぶ、とオオトカゲはミサキちゃんを頭から丸呑みした。
「おい、どうする?!」
「助けないと!」
「急げ」
腰のポーチからサバイバルナイフを取り出すと、みんな、オオトカゲの腹を切り裂いた。
オオトカゲは抵抗して暴れていたが、やがておとなしくなった。僕らはミサキちゃんを引きずり出した。
「大丈夫か!」
ほっぺたを軽く叩くと、ミサキちゃんが目を開き、ゴホゴホと咳き込んだ。
「早く、ここから逃げないと」
オオトカゲはまだまだいるようだった。奴らは普段、魚を食べているらしかったけど、いつ僕たちを食べる気になるかわからない。
「上に行ける道を探そう」
横道をためしてみたが、行き止まりだった。だが、他にも道はあった。僕たちは諦めずにそれらを一つずつ試していった。
川が流れている方向に逆行している道を選んだら、道の先が上に向かっていた。
「ミサキちゃん、大丈夫だよ。僕ら運が良いから助かるよ」
「うん」
僕たちはミサキちゃんを守るような隊列を組んで進んで行った。
きいきいきい。
「今度は何?」
「コウモリだ!」
広い空間に無数のコウモリがいた。天井から逆さにぶら下がり、飛び交う者もいる。
「あれなんだろう?」
誰かが天井の方向を目を凝らして見た。
小さな光が無数に輝いていた。
「外だよ。あれは星だ!」
いつのまにか夜になっていた。
僕らは森の奥地に出た。木々が邪魔だったが、切り株の年輪の偏った方向を見たりして進む方向を決めた。
アスファルトの道路に出て、通りすがりの車に助けを呼んでもらった。
「ミサキ、ごめんな」ケンちゃんがそう言った。
「気にしてないよ。それより、すごい冒険だったね」とミサキちゃんは興奮していた。
「本当。滅多にこんな経験できないよ」
みんな興奮しているようだった。